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笑顔の味、心のレシピ 〜不器用なバツイチシェフは恋心に気づかないフリをする〜  作者: タルトタタン
東京本大会パティシエコンクール編

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103/105

103 コンクール開始

 コンクール開始15分前。

出場者は全国から集まった二十名。


 会場は、スタッフが静かにライブ配信を始めていた。

「それでは、ルールの説明を行います」

司会の声が、張りつめた空気に響く。


「制限時間内に、『フードロス』をテーマにしたケーキを三台制作していただきます」


「審査基準は――書類審査での再現性、衛生面、デザイン・オリジナル性」

「さらに、見た目・味・食感、そしてテーマに沿っているかを総合的に採点いたします」

「なお、特別加点についてはスポンサー様、特別審査員のみ付与可能です」

「加点基準は、審査後に発表されます」


「では出場者の方は指定の場所に移動お願い致します」


 マナは移動してからステンレス台の前で深呼吸をゆっくりする。

ステンレス台は触るとヒヤリと冷たく感じた。


「後1分間です」


その瞬間――

視線を感じた。


 顔を上げると、

雅ホテルの吉村シェフが、じっとこちらを睨んでいた。


(……っ)

心臓が、強く打つ。



――ピーッ!!。

開始のブザーが鳴り響いた。 


 マナはすぐに作業へ入る。

(大丈夫……イメージ通りに……)


 計量。

手順通りに、正確に。

なんとか、指は動いている。


だが――

「……」

気づけば、審査員がすぐ近くに立っていた。


 手元を覗き込みながら、バインダーに挟まれた採点用紙へとペンを走らせている。

(見られてる……)

視線が、重い。 


 思わず、ちらりと横を見る。

安藤のテーブル。


 カメラが向いていない一瞬、

雅ホテルのシェフが、口元だけを動かして何かを伝えていた。

(……え)

(アドバイス……?)

胸の奥がざわつく。


(自分に集中しないと……)

マナは、視線を戻した。


 改めて周囲を見る。

 審査員は十名。

シェフコートを着た者、スーツ姿の男女――スポンサーも混じっている。


その中の一人。


シェフコートの男性審査員が、

じっとマナの手元――

ステンレス台の上に置かれた、松永のパレットを見つめていた。


そして、手元の資料をめくる。

「パティスリーマツナガ?」

小さく、呟く。

「まっちゃんのとこの子か……」


(……?)

意味がわからず、動きが一瞬止まる。

その審査員は、ふっと表情を緩めた。


去り際、ほんの一瞬だけ――

ニコッと笑う。

「頑張って」

「……ありがとうございます」

思わず、声が漏れた。


名札が、視界に入る。

――『レストランシェフ 桂』


(誰だろう……?)



続く


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