人の眼差し、魔鳥の眼差し
そんな時、軍人の1人が何かに気が付いてどこかに顔を向けたので自分もふとその方を見てみると、100メートル先の草原には何やら“白金色の鳥獣”が立っていた。
何じゃありゃ・・・。鳥、何の鳥?それにしても、ものすごくキレイな鳥。
「おい」
その美しさになのか、トランバースの人達も次々と振り返っていき、そして話は止まり、すべての目がその鳥獣に向けられる。
「何あの鳥、キレイ。あれ、マナライズ出来ない」
ハイミがそう言ってリリコに振り返ると、リリコはハイミからコロネに目線を変えた。
「呼んだの?」
「(呼ばないよ?元々ここが最近の縄張りって言ってたし)」
「え、コロネの仲間なの?」
「(まあね)」
自分に振り返りながらそう言ってコロネはリラックスするように腰を落とす。
グリフォンにキツネ、それで鳥獣か。
「コロネ、そういえばシンプルだね」
「(動きやすいからね)」
「ねー、もしかして追い払うのかな」
「(ううん。今は見てるだけみたい)」
「場所を変えた方が良いんじゃないか?無闇に動物の縄張りを犯す事はない」
中国の軍人が諭すようにそう言うと、トランバースの人達はお互いに顔を見合わせてひそひそ話をしていく。
マナライズ出来ないってあっちも分かってるはずだし、どうするんだろう。
「いや、このままここに拠点を作る。我々は自然を壊す為に来た訳じゃない。あの鳥にも危害は加えない。お前達はお前達のやるべき事を考えた方がいい。我々はここで待ってる」
中国の軍人が軍用機に戻り始めても、白金の鳥獣は黙って人間達を見つめていて、やがて軍用機が飛び立ち、トランバースの人達だけになると、前に立って話していた男性が小さく溜め息をつき、うつむきながらこっちの方に歩いてきた。
わわわ。来るよ。どうしよ。
リリコにテレポートさせて貰って何とかバレずに済んだので、何となくその男性を見ていると、男性は終始うつむき加減でうろうろしていく。
「こんにちはー」
ん。
「あら、こんにちは。喋れるのね。能力者かしら」
あああ、入って来てる。鳥獣さん・・・。
「違うよ、ハイミ達はね、遺伝子をカスタムして貰ったんだよ」
「ふーん。エゴでも満足ならそれでいいけど」
女の子な性格なのか鳥獣さん。
「プラーハはプラーハっていうの。コロネの仲間なの?」
間近で見るとすごいキレイだな。全体的な白金の中に瑠璃色が入ってる。
「コロネ?ぷぷっ。あんたそんな名前付けられたの?まぁ可愛いから良いけど」
ハイミ達と同じくらいの大きさだけど。明らかにカラスとかじゃない。
「名前は?無いならハイミが付けるよ」
「名前くらいあるわよ。あたしはルリ」
何となく、鳳凰っぽいな。
「そうなんだ。ここに住んでるの?」
「ここって、ヒマラヤ?」
「うん。縄張りだからあの人達を見に来たんでしょ?」
「うーん。まぁ、そうね。でもあたし達の縄張りはこの地球よ。ね?コロネ」
「(まあね)」
「あの異世界人を見に来たのは単に気になったからよ。まぁ異世界人っていうかこの世界の人間もまだまだダメダメだけど。あんた達、普通の人間じゃないわね。特にあんた」
分かるのか。リリコだってマナライズされるのブロックしてるはずなのに。
「リリコはね、神なんだって」
「ちょっとハイミ」
「へー。神ねぇ。確かに創造神って言ったらそうかもね。あんた、この地球生まれじゃないでしょ?あの異世界人と同じ遺伝子だもん」
「どうして、分かるの?」
リリコが少し警戒じみた声色で問いかけた直後、その鳥獣は形が変わり、なんと制服姿の人間の女性となった。
「ふう。やっぱ人間が楽ね。あたしの得意技だからよ。その名もジーン・ハック。カッコイイでしょ」
ジーン。遺伝子のハッキングってところかな。意識の中に入る訳じゃないから、ブロック出来なかったんだ。
「君は、能力者じゃないん、だよね?」
「そう。あたし達は魔族。立派な地球生まれの生命体」
魔族・・・。
「それって、鉱石が関係してるの?もしかして鉱石が作り出した存在とか」
「え、全然違うわよ?魔族は紀元前から存在してたわよ」
「そうなんだ」
「あたしは魔族と人間のハーフだけど。仙人、あ、コロネはもう120年くらいは生きてるわね」
「仙人?」
「(まぁ、人間だった頃の呼び名)」
人間だったんだ、コロネ。
「魔族って、どれくらいいるの?」
メイルがそう聞くと、ルリは普通の女子高生みたいに笑みを浮かべ、うずくまってメイルを撫でる。
「4人ね」
「え!?たった4人?」
「まぁ厳密には3人かしらね。あたしのママはもう魔族として生きる事はないし」
3人の魔族・・・それ、族っていうのかな。
「それで、あんた達はあの異世界人達に何したいのかしら?」
「見に来ただけだよ」
「ふーん」
すると立ち上がったルリは再び白金と瑠璃色の鳥獣に変身し、赤い線から出ていき、トランバースの飛空挺に向かって飛んでいった。
行っちゃった。どうするんだろ。
草原に座り込み、寛いでいるトランバース人の男性の、ちょうど手が届かない距離で降り立ったルリだが、男性は特に動かず、ただ沈黙が流れていく。何もリアクションがないからかそれからルリは静かに飛び立ち、飛空挺の近くの人の前に降り立つ。テントを広げているその男性もルリに近付こうとはせず、するとルリはそのまま歩いて飛空挺の入口のタラップに向かい始める。
「おい、お前が入るような場所じゃない」
テントを広げている男性がそう言うと、ルリは立ち止まり、男性を見るが、まるで言葉が分かっててそれを無視してみせるようにタラップを登っていく。
「まったく」
素早く近付き、男性はルリを抱えてタラップを降りてきて、ルリを草原に降ろす。再び男性がテントの設営を再開させたところでタラップを1人の女性が降りてくる。
「何その鳥」
「知るかよ」
可愛いというより、神々しい見た目で雰囲気だからか、その女性も警戒するようにゆっくり近付き、眺めていく。それから少ししてまるでコンテナのような形をした、一見頑丈そうなテントが設営されると、真っ先にルリがテントに入っていき、男性はまた面倒臭そうにルリを抱えてテントから出てくる。
「勝手に入るな」
「じゃあ入っていい?」
「な!お前・・・・・入ってどうする。まだ何も無いだろ」
「何を入れるの?」
「会議室。先ずは通信機器のインフラ整備が基本だろ」
「退屈ね。遊び心が無いわ」
「会議室を囲むようにして食堂と寝室を作り、娯楽系はその後だ」
「トレーニングジムとかも?」
「そうだ」
「インフラ整備が整ったら、あたしもそっちの世界に行けるようにしてくれるのかしら?」
「旅行代理店だと思ったら間違いだぞ?」
「でも、あたしの仲間、前にその飛行機でそっちの世界に行ったわよ?」
「まさか、黒いキツネの事を言ってるのか?」
「そう。行き来させてくれるくらいいいんじゃないかしら」
「それは今後の方針次第だ」
「そっちに行った仲間の話聞かせてよ」
まるで子供がせがむような雰囲気になる中、男性は立ち上がり、タラップへと向かっていく。
「マナライズをブロックする、そしてエイバーも捩じ伏せる、そんな超常現象そのもののような生物に、マスコミもすぐに騒ぎだした──」
ああ、飛空挺に入って行っちゃった。どうしよう。自分も気になる。能力者達もどうしてるかな。
その直後、男性がいなくなったからか、まるでこそこそする事を楽しむようにハイミとプラーハが赤い線を飛び出ていく。
あっ。
「マズイよっ」
ちょっとだけ~。
しかし振り返ったハイミはそう応えると、そのまま四角いテントの中に入ってしまう。
まったくもう。
「(わーい)」
「待ってー」
コロネとメイルまで。いーなー。動物達。
すると背後で急に笑いだしたリリコに振り返ると、2人きりになった事を嬉しがるようにリリコが抱きしめてきて、熱くキスをしてきた。しかもそのまま押し倒してきて、そしてリリコは自分の上に乗って笑顔を溢した。
こういうとこ、私も住みたい。
ヒマラヤじゃなくても、同じような場所ならいいんじゃない?やっぱり万渉術と本物は何か違うよね。
万渉術は知識から引き出す事しか出来ないし。それに本物は楽だから。本当にリラックス出来る。
「おいっ」
え、あ!
もう1人男性が草原に居た事を忘れてしまっていて、ちょうどテントから出てきた動物達が見つかってしまい。一瞬で緊張感が背中を駆け上がった。
「お前、あの黒いキツネか?何でここにいる」
「(1匹だけなんて言った覚えはないけど?)」
「ふん。監視か。勝手にすればいい」
そう言うとその男性は草原に寝転んだ。
え、あの人、思いっきりサボってる・・・。テントだってさっきの人が1人で作ってたし。あの寝てる人は、何なんだろう。
「(何してるの?)」
「お前には関係ないだろ」
「(サボってるように見えるけど)」
「どっか行けよ」
リリコと一緒に寝転んでいるとハイミとプラーハとメイルが戻ってきて、ハイミとメイルは自分の、プラーハはリリコの腕に寄り掛かって寝転んだ。
「メイル、最初は緊張してたけど、どう?」
「もー全然。風とか匂いとか、すごく気持ちいい」
中国もアメリカと変わらないなぁ。
「何かもう、アトラクションみたいなものだと思ってるのかな?」
そう言ってウルフの顔を伺うと、ふと私を見たウルフは何かを考えてるような表情でまたマイセルの要塞下の戦場を見た。
「俺も行ってくる」
「え、あ、うん。レベル上げたいの?」
「考えたんだが、もしあの中に、今後のテロ目的でレベルアップを狙っている者がいるとしたら」
「テロ目的、確かにあり得るかも知れない」
「3つの力を合わせた戦闘はまだ実践してないからな。テレサは待っててくれ」
「・・・・・待って」
歩き出してすぐ、とっさにウルフを呼び止めてしまうと、ウルフも少し驚いたように振り返る。
「私達・・・コンビだよね?」
目が合ったまま、一瞬時間さえ止まったような感覚の後、何だか恥ずかしくなってしまって思わず目を逸らしてしまうと、直後にウルフは照れ臭そうに笑った。
「悪い。そうだな。デュナンズ・ナイツになる前から、いつも2人で行動してたよな」
「その方がウルフの為だから」
「でも、別に、俺の専属治療能力者って訳じゃないだろ」
「ウルフだって、それでも私の事、守ってくれるでしょ?私の3つ目のテレポートは、ウルフの可動範囲も広くなるから、お互いにメリットがある」
「なるほど。だが今は、テレサを守るのは恐竜たちだろ」
「うん。でもアルバはウルフだって守るよ?」
「一緒に戦わせていいのか?」
「全然問題ないよ」
「そうか。俺達、良いコンビだな」
そう言って笑みを見せるとウルフは全身をカーボンで覆い、リングを出して乗っかった。私と小さい恐竜たちはアルバに乗り、そして2人で戦場に降り立つ。
ボクたち、テレサから離れないからね。
うん。その方がいいと思う。
レオンに応えてからアルバを見上げ、心の中で頷き合うとアルバはロボットに変身して自信を伺わせる。
今戦場にいる巨人たちはすべて青い騎士巨人で、ウルフが指を差してみせてきた巨人に早速向かっていったので、離れすぎない距離を保ちながらウルフを追いかける。ウルフが目をつけた青い騎士巨人にはすでに“両手に美しい装飾の剣を持ち、ピンク色の光を纏って宙を駆ける女性”や、“他の能力者の力や巨人が放つ衝撃波、そういうものすべてを止めたり引き寄せたり操ったりする男性”が攻撃を仕掛けていて、ウルフがリングを飛ばしていくが、鈍い音と共にそれは巨人の体を簡単に跳ね返った。それでもウルフはまるでジャブのようにリングをぶつけていき、青い騎士巨人の目線を微かに弾かせる。その直後に両手に剣の女性は空中でステップを踏んで飛び上がり、巨人の右肩の付け根に剣を突き刺した。
わぁ、カッコイイ。
クレイがそう呟く中、肩の動きが微かに鈍くなった青い騎士巨人は直後に両手から衝撃波を撃ち出そうと機械音を唸らせる。
うわ、あれが来る・・・。
とっさに身構えるものの、剣が刺さった肩のせいか、放たれた衝撃波は見るからに弱くなった。するとそんな隙を突こうと物を操る男性が衝撃波を跳ね返し、青い騎士巨人は顔を殴られたようによろめく。両手に剣の女性が巨人の肩に刺さった剣を抜き、剣にピンク色の光を纏わせ、巨人の首に光の斬撃を放つ。光が弾けて更に巨人が大きくよろめいた時、ウルフがカーボンでコーティングしたリングを高速で飛ばし、その衝撃で巨人の側頭部が砕けるように弾けた。
あれが、新しくしたリング。明らかに速度が増したみたい。
ルリ達が何故魔王の姿を伏せているのか、それはまた今後のお話で。
ありがとうございました




