戦場の聖女
ん、電話だ。無日だ。
「はいはい」
「今政晴から連絡があった。何かマズイ事になったってよ。例の幹部が、政晴を神王会を陥れた首謀者だって言い出したそうだ」
「えー、何で?」
「何でって、どっか詰めが甘かったんだろうな。ただ証拠を突きつけただけじゃ落ちなかったって事だろ」
「まさか自分達が計画した事だってバレたとか?」
「そこら辺は、幹部の、何だ、例えば専属の情報収集係とか居るんじゃないか?そんで逆に俺達が探られた」
「そんなぁ。でも、マスコミには情報は流れたし、成功はしたよね?」
「どうだかな。マスコミに関しては神王会の圧力が効いちまう。すでに他の週刊誌がデュナンズ・ナイツを悪く書いて、世間的にはデュナンズ・ナイツの信用度が帳消しになったとか言われてる」
「そこまでするんだ」
「で、紅蓮会に情報をリークした首謀者が政晴だと、例の幹部が言い出したって事だ」
そんな、上手くいくと思ったのに。
「マサ、捕まっちゃってるの?」
「あぁ、あれだ、別に留置場とかじゃないが、本部から出られないってよ。で、悪いニュースだ。本部から、こっちに臨時で新しいリーダーが来る」
「どんな人?」
「さあな、政晴がさっき電話でもうすぐ行くだろうって言ってた・・・ん?おお来たぞ、とりあえず帰ってこい」
「うん」
すぐにリリコに自分達の部屋まで帰して貰い、動物達は残してリビングに出る。リビングの真ん中ではすでに東京防衛チームのみんなが寛ぐように集まっていて、みんなの前には明らかにここに敵意を持つ中年男性が立っていた。
「全員か?」
「まぁ」
うわあ、この人、例の幹部の直部下じゃん。うええ。
「私は米原。今日からここのリーダーだ」
「は?臨時だろ?」
無日がそう言うと、米原は冷たい表情で胸中に怒りを募らせる。
「何だその態度は」
「は?こっちは知ってるんだぞ。例の幹部が、武器を違法売買してる事、お前らそれを揉み消してんだぞ?」
「やはり、ここが情報源だったのか」
「おい」
恭助が無日を宥めるように声をかけたがすでに遅く、無日も眼差しから怒りを収めず、無日と睨み合う米原も確信を持ってしまう。
「あいつはもう戻って来ないだろう」
「は?」
「神王会の機密情報を紅蓮会に売ったんだぞ。もう神王会には居られないだろ」
「機密情報って、犯罪だろ」
「犯罪じゃない」
「は?」
「オーストラリアやシンガポールの自警組織は犯罪組織じゃない。神王会とも同盟に近い関係だ。その間で何を取引しようが犯罪じゃない。実際、シンガポールの自警組織は日本から武器を仕入れている事を公言しているし」
「だからって国の法律ってのがある。神王会は国じゃない。隠れてやってるって事は法律違反だって分かってるからだろ」
恭助が反論するが米原は全く悪びれる様子はなく、早々に空気が悪くなっていく。
「世界は能力者で溢れてる。普通の人間が能力者に対抗出来る方法は武器しかない。特にシンガポールや中東、アフリカは、毎日能力者によって凶悪犯罪が起こっている。神王会は日本以外に拠点はないが、だからって放っておけない。これの何がいけないんだ?」
「正しい事をしてるって言うなら、政晴が捕まるのはおかしいじゃん」
今度は凪紗が怒りはないが強気な態度で反論すると、真っ当な意見だからかちょっとした沈黙が流れる。
「確かに国の法律には違反しているんだろう。だからといって救済を求めている者を放ってはおけない。しかしあいつはそれを台無しにした。その罪は大きい」
神王会には神王会のやり方、か。確かにそれをマサは・・・。
「でも、やっぱり、法律違反はダメだと思うけど」
「なら、東京防衛チームは解体だな」
「は?何でそうなるんだ?」
「神王会の方針に従えないなら除隊になるのは当たり前だろう」
「違うでしょ」
そう言うと米原は鋭い目つきで自分を見てくる。
「全部幹部の斉藤さんが考えてる事じゃん。神王の指示じゃないでしょ?結局斉藤さんが指揮を取ってるから、大事な情報は神王に上げないで、マサが不利になる情報だけを報告してるんでしょ?」
「ドラマじゃねえかよ。まさか神王会にも悪徳幹部が居たとはな」
「お前ら、大概にしろよ。お前らこそ反乱分子だ。この事は報告させて貰う」
すると米原は玄関の方に歩き出し、頭の中ではもうすでに東京防衛チームの解体の進言の文言を考え始めた。そんな時にリリコも米原の頭の中に入ると、更に脳に細工したので、思わず振り返ってしまう。
「みんな」
みんながリリコに振り返るとリリコは黙って微笑み、いたずらが終わったから、もう構わなくていいというそんな気持ちと態度を悟ったのか、それからみんなはそのまま黙って米原を見送っていく。
「いいか。こちらから指示を出すまで、勝手な活動はするな。さもなければ前リーダーの立場が危うくなる」
リリコ、やっちゃったんだ。
まぁ、結局こういうやり方が一番手っ取り早いでしょ?
そうだね。
「何かしたのか?」
そして玄関が閉められると、すぐに恭助が聞いてくる。
「心を叩き直したって感じかな。脳の中に直接、正義感を植え付けた」
「植え付けた?」
「正義感に溢れてるから、幹部の斉藤って人の方がやっぱりおかしいって思い始めて、政晴を助けたり、神王に直談判したり、まぁ簡単に言えばこっち側になったってだけだよ」
「そうなのか」
「いやそれ、直接斉藤にもやりゃあいいんじゃないか?」
半笑いで甚一郎がそう言うと、リリコは確かにといったように笑いを吹き出す。
「悪い奴が悪い奴として裁かれないと意味ないでしょ?」
「まぁ確かにな」
「これでその内、政晴帰ってくるよ」
まぁいっか。
ウルフがピンチになった時はアルバが手から熱線を放って青い騎士巨人の気を引き、アルバがピンチになった時はウルフがリングを飛ばして隙を作る。そんな連携を、何だか見てる私の方が胸が熱くなってくる。
行けっ。そこっ。やった。
わーい。
嬉しそうに跳ねる恐竜たちと同じように、周りのギャラリーも応援する中、要塞の方からは紫の機械巨人が現れる。
うわ、テレサ、出た。
「うん。あれが、巨人の中で、一番強い種類」
ウルフじゃ、まだ力不足かなぁ。青い巨人だって倒せてないんだし。ウルフ、頑張れ。
両手に剣の女性がトドメを差し、ウルフ達が戦っていた青い騎士巨人は倒れたが、すぐにまたやって来た青い騎士巨人が全方位に重低音と衝撃波を放ち、ウルフも私も、みんなが一旦吹き飛ばされてしまう。
きゃあ・・・・・この衝撃波、本当に手強い。
うえー、あれホントやだっ。耳痛いっ。
ふう・・・。
「レオン、体宝石なのに」
体は平気だよっ。でもあれは体の中に響いてくるからさっ。
「そうなんだ」
ぼくは全然平気だよ。
そう言って浮いているバームは体がほぼ雲になっていて、ふと風が吹けば体がバラバラになって流されてしまう。しかしゆっくり元の体に戻ると何事も無かったように私の下に歩いてきた。人間達が吹き飛ばされた中、ただ1人アルバだけは吹き飛ばされてなくて、殴って青い騎士巨人をよろめかせると更に手から衝撃波を放ち、そのまま押し倒した。
何か、少しずつ動きが良くなってるような。
アルバ、あの姿に慣れてきたんじゃない?ぼくも何だか戦いたくなった。
ヴォーデはそう言って体の中に引っ込めていた砲身を出し、照準でも合わすように小刻みに動かしていく。
ぼくでも、赤い奴ならやっつけられるよ。
「そうかもね」
ウルフがリングをぶつけ、両手に剣の女性が追撃すると青い騎士巨人の右肘が破壊され、右腕が地面に落ちる。当然痛みは無いので青い騎士巨人は素早く左手から衝撃波を放ってくるが、物を操る男性がそれを脚に向かって跳ね返し、青い騎士巨人は片膝を地面に落とす。アルバが左腕を固め、その間にウルフと両手に剣の女性が攻撃すると、やがて青い騎士巨人の頭が地面に落ちる音がそこには響いた。
チームプレーって感じだね。
「うん」
クレイに応えながら、何となく生き生きしているウルフの動きを見つめてしまう。
クレイ、いい匂い。
そう言ってモートがクレイの体から咲いてる花を嗅いでいく。
セシルとカミーユ、どうしてるかな。ウルフがレベルを上げる為に戦ってるって言ったら、ここに来るかな。
「・・・セシル?今どうしてる?」
「ちょっと、仮眠取ってた」
「起こしちゃった?ごめん」
「いいけど、どうかしたの?」
「今、ウルフと一緒に中国の要塞の前に居るの。ウルフが強くなる為に戦いたいって言うから」
「そうなの?ヨハンには言ったの?」
「うん。様子を見る為に行くって言ったけど、来たら急にウルフが戦うって。テロの為にレベルを上げようとしてる人もいるかも知れないからって」
「ああ、確かに」
「それで、セシルとカミーユも、どうかなって」
「そうだね。カミーユに聞いてみる」
「うん」
「おい、何だあれ!」
誰かが叫んだその声にふと顔を向けてみる。すると別のグループが戦っていた紫の機械巨人とは別にもう1体の紫の機械巨人が要塞から出てきて、更にその隣には初めて見るタイプの巨人が現れた。
あれは・・・黄色い、戦車?
幾つものキャタピラがドーナツ状に並んだ下半身に、剣になっている両腕、そして翼のようなものが着いた巨人にギャラリーも警戒するようにざわついていると、黄色い戦車巨人は翼を水平に広げ、両方合わせて10本ある風切羽の部分から無数のレーザーを放った。
うわ、また手強そうな巨人が・・・。紫のは腕が6本だし、手数で言ったら黄色いのが1番強いのかな。
「そんな、まだ強くなるのか」
ウルフの呟きが妙に耳に入ってきて、ふとウルフを見ると、その横顔はただ不安げだった。
黄色い戦車巨人のキャタピラは見た目通り、全方位に急発進出来るようで、8メートルの巨体に見合わない素早さに能力者達が次々と後退していく。しかも黄色い戦車巨人は私達の方に少しずつ近付いてきて、真っ先にギャラリーが逃げ始める。
ぼくたちも離れようよ、テレサっ。
「うん。でも離れすぎると、怪我人を回復出来ない」
私も、能力をグレードアップさせなきゃ・・・。
「行くぞ!」
物を操る男性が、黄色い戦車巨人の方に親指を差すと、両手に剣の女性はウルフを見る。
「あぁ。テレサ、ギリギリまで離れていてくれ」
「うん。3人共、何かあれば私が治療するから」
私は大丈夫でも、ウルフ、本当に大丈夫かな。
「行こう」
ウルフの決意の表情に、両手に剣の女性もより一層真剣な表情を見せ、そして物を操る男性と共に3人が黄色い戦車巨人に向かって歩き出す。その背中に私の心も決意で固くなったその瞬間、3人の体がほんのりと光を帯びた。
頑張って、みんな。
機械音と鳥の鳴き声が混ざったような唸りが恐怖を掻き立てる中、黄色い戦車巨人は風切り羽の部分から一斉にレーザーを放つ。カーブして10本のレーザーが3人に襲った瞬間、それらはまるで時間が止まったように宙で止まる。更に物を操る男性が手を振り払うと、その動きに合わせるように10本のレーザーは空に方向を変え、頭上から戦車巨人を逆に襲った。足元から土埃が上がり、戦車巨人の動きが少し鈍る中、両手に剣の女性が飛び上がり、宙を蹴って戦車巨人に向かっていく。同時にウルフは2つのリングを飛ばしていき、その衝撃でキャタピラの1つと片方の翼に大きな切れ目を入れた。
テレサ、あの人。
ん?・・・。
モートの呟きにふと目を向けると、別のグループの1人が青い騎士巨人の衝撃波に倒れたので駆け寄り、治療の光を当てる。するとその男性は起き上がってキョロキョロし、手を振る私を見ると手を上げ返した。
あっちもっ。
今度はレオンがそう言ってジャンプしたので走っていく中、アルバが戦車巨人の放ったレーザーに撃ち抜かれて倒れてしまい、すぐに治療の光を当てる。別のグループの人達を治療して戻った頃には両手に剣の女性が負傷していたのでまた治療する。
「ありがとう。死ぬかと思った」
「私が全部治すから、安心して」
笑顔で頷いた女性はピンクの光を足に纏わせ走っていき、宙を飛んでピンクの斬撃を飛ばしていく。
ふう。いきなり走ったら疲れちゃった。運動不足かな。あ、そうだ。
それにしても、さっき偶然組まれたチームなのに、すごいなぁ。
「うん。きっとそれぞれの個性の相性が良いんだね」
相性かぁ。
バームに応えながらペガサスを出し、ペガサスの背中に跨がる。するとすぐに5体の恐竜たちもペガサスに乗ってきた。
わーい、楽々だぁ。
テレサ、あそこ怪我人。
「うん」
お腹を蹴ってペガサスを飛ばせ、思うままに方向転換させて、通り過ぎながら頭上から怪我人を治す。
私にも、私の仕事があるんだ。みんなと一緒に頑張らなくちゃ。
テレサだけに聖女ですかね。治療能力者という主人公ですが、色々とアクティブなので、彼女にしか出来ない活躍のしかたがあるんでしょう。
ありがとうございました




