隣人の決闘
お昼ご飯の時間になったのでいつものようにヒーロー部の部室に入り、弁当箱を開いていく。
「柳菜、柳花とテラちゃんってどうしてるの?」
「どっちも自由だから、ホールだよ」
「そっか」
「なぁ、ちょっと聖達に頼みがあるんだけど」
「ん?」
部室に入って来て早々、神田が何やら素の表情でそう言ってくる。
「不良グループが、不良能力者チームを作る話、あれを何とかしようとさ、昨日の放課後、リーダーっぽい例のC組のヤマダの所行ったんだよ。そしたらあいつら、ヒーロー部とオレらのチームで決闘だって言い出してさ。今日の放課後、近くの公園で決闘なんだ」
神田は神妙な表情だが、そう言うと究は余裕という言葉が見えるような笑い方で軽く笑った。
「それが、指定自警団は抜きで」
「え」
「まぁそうなるか。ていうかそんなハンデ貰ってあいつら自身はいいのか?」
究の言葉に、相沢も同意するような相槌は打つが、その表情は不安げだった。
「C組のヤマダ、聞いた話じゃレベル3なんだよ。でもオレら、最高でまだレベル2だし。勝てる気がしないんだよ」
「あぁ、じゃあ弁当食べ終わったら、5人分の鉱石すぐ取ってきてあげるよ」
「お!まじか、うん助かる。ありがとう」
「ていうか面白そうだな。戦わないって言ったら、ヤマダ、見学許してくれるかな」
「どうだろ。多分良いんじゃないかな」
「テレサ!」
あ、セシルとカミーユ。
ペガサスを急降下させて2人の下に降り立つ。
「来てくれたんだ」
「オレ達だってチームだろ?チーム内の戦力に差が出るのは良くないからな」
「2人は新しく鉱石は使ったの?」
「うん」
「そうなんだ。・・・・・はい」
するとセシルはポケットから何かを取り出し、カミーユに手渡す。
「おう、そうだな」
「2人共、もうアイデア持ってるの?」
「私はさっき考えた」
「オレはもう前から決めてたものがある」
そして2人は鉱石を持って目を閉じ、ほのかな光に包まれた。
「どんな力?」
「私の波動魔法の新しい特性、“波動の硬化”」
コウカ・・・。日本語って難しいな。
「硬くするって事?」
「うん。私は波動の速度とか向きとかを操れるけど、性質はコントロール出来ないから。前から、性質もコントロールしたいって思ってた」
「そっか。カミーユは?」
「オレの剣はすでにこの世で最も硬い元素配列で出来てるんだが──」
「剣?盾じゃなくて?」
「盾になる剣だ。更に生身で受けたダメージは剣に移るってのがオレのスタイルだが、それとは関係なく、“蓄積と反射”の力も候補だったんだ。けどそれも剣と連携させて、剣に蓄積したダメージを攻撃力として放出するようにした」
「どうやって?レーザービームとか?」
「いや、剣で」
「そっか。いいね」
ペガサスに乗ってウルフの下へ行き、ウルフに私が来たのを気付かせてからセシル達の方に指を差す。
「来たのか」
すると一旦ウルフは離脱し、セシル達の下に降り立った。
「抜け駆けは良くないな」
「悪い。忘れていた」
「まぁそういう時のテレサだしな。あの2人は?」
「知らないが、戦友だ」
「おいおい、名乗らないのかよ」
「そんな暇は無い」
「何言ってんだ。大事な事だろ」
セシルにアイコンタクトし、共に戦友の2人に向かっていくと、直後にカミーユは大声で声をかけた。
「リングの男はウルフ、ペガサスに乗ってるのはテレサ。オレはカミーユで、こっちはセシルだ。よろしくな!」
「ディエゴ!」
すると物を操る男性がそう叫び返し、黄色い戦車巨人のレーザーを跳ね返す。同時に両手に剣の女性は宙を跳んでやって来て、わざわざ近くに降り立って来てくれた。
「私はジウ。加勢に感謝します」
言葉からすると、韓国人か。やっぱり肌キレイだな。
「はい。持ってきたよ」
ホールから持ってきた10個の鉱石をテーブルに転がすと、神田や相沢達は正に財宝でも見るように表情を一変させる。
「こんなに?」
「だって能力って3つまで持てるから」
「おお、そこまで考えてくれるなんて」
「どうしよう。何の能力にしよう」
1年の女子、大塚がそう呟く中、1年で神田と仲の良い男子、茂田が神妙な表情で2つの鉱石を取る。
「もう決めてるの?」
そう聞くと、僕を見た茂田は困ったような笑みを返した。
「1つは決めたけど」
「よし、じゃあ早速、ぼちぼち使っちゃおう」
みんなが鉱石を使っているそんな時にふと扉がノックされたので、先生かと思いながら扉を開けると、そこには知らない女子が居た。
「はい」
「その、頼みがあるんだけど」
おお、依頼か。
「はい、どうぞ」
僕の顔を見てか、その女子の表情から驚きやら緊張が伺える中、すると神田がすぐに席を立ち歩み寄って来た。
「これに、学年と名前、依頼内容を書いて下さい」
そう言って神田は依頼用紙を女子に渡しながら、扉の近くに置いてある、応接席と呼んでいる机と椅子に女子を案内する。
「えっと、3年っすか。最近能力者になったB組のアンノって人の素行調査。はい、わっかりましたー」
2日振りの依頼か。思ったより依頼ってドカドカ来るもんじゃないんだよな。
「どこか、試す場所ない?」
茂田がそう言うも、神田はパッと答えが出ないような頼りない表情を浮かべる。
「ここじゃ出来ない感じ?」
僕がそう聞くと、茂田は何故か半笑いで頷く。
「どんな力?」
「まぁその、究先輩見てたら、オレは『シャスタ』みたいになりたいと思って」
「シャスタって?何のやつ?」
「スマホゲームの『トゥルー・エンド・ゲーム』っていう」
ああ、あれか。美麗アクション系か。
「やった事ないの?」
「まぁオレはセラファン一筋なんで」
「そっか」
「僕はあるよ。少しだけ。シャスタ・デイジーの事でしょ?」
「そう。時間が立つほどステータスが上がっていくやつ」
「何か、何とかモードってなかったっけ?一発逆転の」
「スターモード。ステータスは上がらなくなるけど、ダメージを溜めて次の1回の攻撃力を凄まじく上げるやつ」
「サポート系なんだな。そういえば1つ目の力ってなんだよ」
「まぁ見えないからね。かまいたちだよ」
「かまいたちって、要は風と斬撃の自由自在系って事か」
「ちょっと違うっていうか、結構違う。妖怪だよ。こいつ」
すると茂田の目の前にパッと“白くて気品のあるイタチ”が現れ、しかしモンスターというより普通に可愛いので、まるでペットがいるみたいに空気が和やかになる。
「お、初めてみた。かまいたちってのは聞いたけどそういう系だったんだ。じゃあ、茂田っち自身は生身か」
「いや、オレの写し身で、身代わりだから、こいつのHPが無くなるまでは、生身へのダメージは全部こいつに移る」
「へー。すごいな。まぁベタっちゃベタだよな」
「じゃあそういう神ちゃんは」
「オレはもうベタだよ。1つ目は体も炎になる感じで炎を操って、2つ目は体も光になる感じで光を操って、そして3つ目は体を鉄みたいにする。そうすれば、オレはもう隕石そのものになる」
「迫力が凄そう」
凉蘭がそう言うが表情が半笑いで、すると神田も何故かつられるように笑う。
それから放課後になり、いよいよ決闘という時間、神田達と学校近くの公園に向かう中、ふと神田の後ろ姿が自分と重なった。
僕も今や指定自警団のメンバーだし、あの時のノブさん達みたいに、まさか僕がなれるなんて、感慨深い。
「おい、指定自警団は無しって」
「見学したいって。本当に手は出さないからさ」
「見学・・・」
そして野球場に着き、ヤマダや名前も知らない不良達が顔を見合わせると、ヤマダは何やら野球場の端に指を差した。
「いいよ、そっちに立ってろ」
究と柳菜と3人で空き地の端に向かう中、僕達が居るからか、何となく不良達の態度が大人しく見える気がした。
「柳菜、殺意とか無ければ、本当に何もしなくていいよな?」
「うん。今のところは大丈夫。むしろ、不良達はヒーロー部を負かした事実が欲しいだけみたい。それを自慢して、学校で目立ちたいみたい」
「ふーん。まぁテロリストじゃないなら、安心か」
「先ずは誰だ」
ヤマダの言葉と同時にヤマダ側からは1人の男子が前に出ていき、直後に2メートル級の灰色の狼男を召喚する。
「ぶっつけ本番だけど、召喚系ならオレだよな」
両腕を回したり、深呼吸する態度からは緊張が伺えるが、茂田が自分から前に行くと、直後に不良男子の狼男は恐怖を掻き立てるホラー映画のような雄叫びを上げる。
「行くぞ」
不良なのに、何か変に律儀だな。
「オッケー」
きっと普通の生身の人間だったら確実に死んでしまうだろうモンスターが二足歩行から四足になって走り出し、そして飛び上がって茂田に襲いかかる。教科書みたいな飛び掛かりを見せたが、やはり狼男は茂田の見えないかまいたちに跳ね返される。
始まったなぁ、決闘。僕達の出番は本当に無さそうだけど。
カミーユとセシルが加勢したお陰で、黄色い戦車巨人が相手でも勢いで勝てるようになり、ペガサスの上でレオン達が退屈だと言い始める。そんな時でも別のグループの人が負傷したのですぐに飛んでいく。そして無事に治療を終えた時──。
あっ。
「ん、何?」
あれ、何か・・・。
今光ったっ。テレサ、覚醒したっ。
わーい。
本当だ。何か、疲れが取れた。しかも空間把握と干渉の距離、80メートルになってる。
すると嬉しそうにペガサスも鳴き出す中、急に目の前が目映くなる。
うう・・・・・ん、おおっ。私のペガサスが、変わった。
純白だけだったペガサスのたてがみ、翼の毛先が控えめに金色に染まる中、今度は恐竜たちが光に包まれていく。
うわーって、あれ、ぼくたち、何も変わってない。
変わったよ?大きくなったじゃん。
「そうだね。確かに、ポメラニアンからウェルシュテリアくらいになったね」
ちょっと抱っこするの大変になっちゃった。という事は、アルバも。
戦ってるアルバを見ると、大きさが変わったというより、陸上選手からアメフト選手になったかのような体型の変化を遂げた。すると思った通り攻撃力が増し、新しくやって来た紫の機械巨人を軽々と殴り倒した。
「アルバ」
・・・テレサ、ぼくも強くなった。
「うん」
「おい、また紫と黄色だ」
カミーユが周りに聞こえるように独り言を発したので目を向けると、要塞からは紫と黄色の巨人たちが肩を並べ、私達の方に進んできていた。
何か、明らかにぼくたち見てる。
ぼくたちっていうか、ウルフ達だよね。
すると直後、黄色い戦車巨人がまるで映画のように変形し始め、なんと紫の機械巨人と合体した。6本の腕に加えて大きな翼を携え、今までで最大級の約15メートルくらいの巨人と化した相手に、ウルフ達は何も言葉を話す事なくただ紫と黄色の飛行巨人を見つめる。
何だか、日本のアニメみたいなロボットだなぁ。
翼から炎を吹き出して浮き上がりながら、飛行巨人は上段の腕を砲身に変形させ、2本の極太レーザービームを放ってきた。能力者達は素早く対応し、それの犠牲になる事はなかったが、地面が大きく抉られたその威力は思わず釘付けになるほどの脅威と恐怖そのものだった。
「なぁ、何で、アメリカに出てきた、白い奴は出てこないんだ?能力者をコピーした奴」
「そんなの分かる訳ないでしょ」
カミーユの問いに応えながらセシルがタクトを振り、飛行巨人が撃ち放ってきた衝撃波を衝撃波で相殺していく。しかし力の差があるのかセシルは木葉のように吹き飛んでしまう。
セシル!・・・。
治療の光を出そうとしたが、その前にセシルは何でもないように立ち上がり、タクトを振ってレーザーの軌道を歪めていく。
「セシル」
「大丈夫。衝撃波の膜で体を覆ってるから、例えミサイルでも私は死なない」
確かに見た目は全くの無傷だけど。
直後に飛行巨人がまた極太レーザービームを放ってきて、瞬く間にその軌道がセシルに近付いていく。
「逃げて!」
しかしセシルはタクトを振り、衝撃波を放ってレーザービームを弱めていくが、まるで為す術もない津波でも相手にするかのようにレーザービームはセシルを呑み込んだ。
「セシル!」
その瞬間にカミーユの剣がレーザービームに飛び込み、その軌道を寸断したが、倒れているセシルは右腕と右足を失っていた。
「セシル」
目を開けたセシルはゆっくりと起き上がり、完全に治癒した自身の体を確認していく。
「私、本当に雑魚だね」
「良かった。ギリギリで助かって」
「はは・・・ははは」
力無く笑い出すと、遠くのウルフ達を見た後にセシルは溜め息を吐いた。
「セシル。私達はチームでしょ?誰がどんなレベルでも、私のやる事は変わらない。セシルが強くなるまで、いくらでも治すから」
「うん。分かってる。でも、体は治ったけど心は折れた」
真面目な表情でそう言ったセシルにすぐに言葉を返せず、とりあえずペガサスから下りると、立ち上がったセシルは遠くのウルフ達に背を向けた。
「ちょっと、一旦、休んでくる」
「・・・うん」
大丈夫だよね。セシルは、必ず戻ってくるよね・・・。
おさらいですが、テレサの恐竜たちは元はペガサスなので、ペガサス召喚という能力がレベルアップすれば、恐竜たちも強くなります。
ありがとうございました




