頂きに立つ者
突如究を助けに来た翼の女性を中心にして何だか能力者達に一体感が生まれたように見えるが、蔦の白いマイセルが作り出した巨木からの無数の蔦攻撃が見た目からして厄介で、次々と能力者が餌食になり、能力者達の動きが乱れていく。
あの巨木・・・。周囲の地面も蔦だし、頭上からは雨のように蔦が降ってくる。かわしながら進んでいくなんて無理だ。でも木だしな、弱点はシンプルか。
しかし究は蔦の白いマイセルどころじゃなく、雷撃の白いマイセルの砲撃に耐えながらも光氷の槍で応戦していき、辛うじてといった感じで白いマイセルを押し退けていく。
恐竜たちがアルバの周りを飛んで何やら賑やかなので、ふと見てみると、直後にアルバの体が光に包まれ、なんと人型の機械騎士へと変身を遂げた。
・・・体のムズムズ、治った。
わーい、変身したー。
「ハッやっぱりトランスフォームした」
全く驚く事なく、ウルフはそう笑ってサンドイッチにかぶりつく。
少し自分の体を見回すとアルバは恐竜に戻り、満足げに座って私を見た。
「良かったね」
・・・うん。
そんな時にナディアの携帯電話が鳴り出し、ナディアは少し驚いたような表情で電話に出た。
「何?・・・うん、分かった。見てみる」
「誰だ」
「ドレイク。中国の砂漠にも空間の歪みが出来て、異世界の軍隊が来たって。ここみたいにマイセルの要塞が作られてる」
中国にも・・・。
「アメリカでさえこの状況なのに、要塞が2つも出来たら、ほぼ迎撃は不可能だな」
「まじか。分かった。すぐ行く」
「どうしたの?」
ミントがそう聞くと、見るからに真剣そうな表情のノブはゆっくり立ち上がった。
「中国にもあの要塞が作られてる。とりあえず、様子を見に行くぞ」
チエヒメを見ると特に無表情だが、僕の気持ちを理解しているのは分かったので一緒に立ち上がる。
「僕達も行きます」
「あぁ。だが戦わないぞ」
「え」
「アメリカでもあの状況だからな、戦っても無駄に消耗するだけだ」
「妾が居ればすぐに滅ぼせる」
「まだあっちは戦うつもりかどうか分からないだろ」
「どういう意味じゃ」
「アメリカに居る奴らと、中国の奴らが味方同士だとはまだ分からない。それを確かめるまでは、闇雲に戦う訳にはいかないって事だ」
「同じ世界から来たなら、どうせ、同じじゃ」
「チエヒメさん、そうとは限らないよ?」
優しい表情でミントにそう言われるとチエヒメも言葉を返す事をしなくなったので、それから柳花のテレポーテーション・デバイスで中国の砂漠地帯にやって来ると、すでにそこでは青い騎士巨人と能力者が戦っていた。
これじゃ、相手は、僕達全員を敵視しちゃう。
「ん、あれ。アメリカの要塞とマークが違うよ?」
国章か・・・。確か・・・。
「トランバースじゃ。アメリカのはダコステイダ」
そうだった。違う国だけど、2つの国は同盟国だし、僕達の味方にはならなそうだな。
「ノブ、どうする?」
「先ずは、いかに相手に敵意がないかを知って貰うかだな。このまま向かっても、戦ってる能力者の援軍だと思われる。けど1つ簡単な方法がある」
するとノブはチエヒメに顔を向けた。
「先ずはここらの全ての能力を封印する。それで柳花はマイセルの巨人達の動きを止める。これで話が出来る状況になるだろう」
僕とずっと手を繋いだまま、チエヒメがそこに居るだけで能力者達の能力が消えていき、能力者達がパニックを起こしていく。少し可哀想だと思ってしまうが、同時に柳花が青い騎士巨人たちの動きを止めると、その戦場はまるで本当に時が止まったかのように静まり返った。
「どうなってる、敵が止まって、オレ達の力が・・・」
「誰だ!何をした!」
ふとノブの横顔を見るとその表情はまるで怖い軍人みたいで、パニックになってる能力者達を無視して歩いていく中、すると他の能力者達も僕達を見て要塞に向かい始めた。
「チエヒメさん。他の人が要塞に近付けないようにした方が」
「あぁ」
僕の目には至って普通の砂漠に要塞が立つ風景だが、要塞に近付いた途端、他の人は本当に幻覚を見ているように動けなくなる。
何か妙な感じだな・・・。
するとそんな時、まるで僕達を要塞に入れないようにと異世界の軍人が武器も持たずに要塞から出てくる。
何だろう。やっぱりあっちも話し合いにせざるを得ないって思ったのかな。
武器は無いが10人くらいの異世界人が出てきた事に、何だかまた違った緊張感が胸の中をどよめく中、ノブが前に出ると、同じように前に出た1人がヘルメットを脱いだ。
「シンリュウセキの力か。恐ろしいな」
「それだけじゃない。ここともあんた達の世界とも違う異世界の力もな。この世界には訳あって数えきれないほどの異世界との繋がりが出来てな。まぁ、マナライズで分かると思うが」
「で、シンリュウセキを渡しに来た訳じゃなさそうだな」
「あんた達はトランバースという国の人間って事で合ってるのか?」
「そうだが」
ん、この人はマナライズはしないのかな。
「アメリカに居る奴らはダコステイダという国の人間って事で合ってるのか?」
「あぁ。因みに2つの国は同盟国だが?」
「何故ここに来た。違う大陸に拠点を置いて世界の掌握をしやすくする為なのか、それとも独自の行動理念があるのか」
「・・・後者の方なら、交渉でもしようと?」
「いや。敵意が無いなら戦わない。その確認の為に来た」
「敵意か。そもそも、ダコスの方に敵意はあるのか?防衛と敵意は違うものだ」
「でも、防衛だけならあそこまですることないんじゃない?」
ミントがそう言うと、素顔を出している男の後ろに立つ人がヘルメットを外す。するとその女性は男性に耳打ちした。
あの人は、マナライズする人かな。ミントさん達の事を告げ口したのかな。
「人間とは、住む世界が違っても本質は変わらないものだ。我々はあくまで防衛の為に戦っていた」
「我々は?」
「あぁ。ダコスはどうか知らん。シンリュウセキを手に入れる事に躍起になってるからな。防衛が攻撃に変わっても不思議じゃないだろう」
「そこは他人事なんだな」
「同盟と言ってもただの不可侵条約。友好的なものじゃない」
「あくまでこの人の意見」
直後に女性が素早く、けれど呆れたようにそう口を挟むと、男性はそんな風に言われても気にも留めないような顔で一瞬だけ女性に振り返る。
「あんたらの目的は何だ?シンリュウセキじゃないんだよな?」
「それは話す理由がない。ただ、侵略ではないという事は言っておく」
何となくふと思い出したのは神王会のヤマザキという男性とリリコという女性に会った事で、その記憶が会話内容の記憶も一緒に連れてきた。
話した方がいいのかな・・・。
ふとマナライズするかも知れない女性の、僕には向いてない顔を見ると急に焦ってしまう。
僕から話した方が、こっちの情報として武器に出来る・・・言った方が・・・言っちゃうか。
「もしかして、リリコさんの事ですか?」
すると僕を見た男性の表情が一瞬だけ困惑したようになり、更には女性も微かに驚いたような表情を見せ、そしてさっきみたいに男性に何かを耳打ちした。
「お前達には関係ない。リリコ・エイベリーとお前達は関係ないだろ」
「でも知り合いなので、ないって事はないです。リリコさんは王子の婚約者なんですよね?もしかして、連れ戻しにきたとか」
「お前達に話す理由はない」
遂に来たか、トランバース。でも何で中国なんだろう。もしダコスの人から聞いたなら、リリコは日本に居るって分かってるはずなのに。
ついでに観光もしたいんじゃない?
リリコがそう言ってくると笑顔で優しく抱きついてくる。
「そうだね。異世界だしね。ナウレトさん来ないかなぁ」
「誰?ナウレトって」
すると部屋中を歩いていたと思ったらメイルが急にそう聞いてくる。
「メイルと同じネコ科の、人みたいな生き物だって」
「よく分かんないけど」
「見れたら分かるよ」
「にゃーん。ねー、屋上行きたい」
みんなで屋上にやって来ると陽気が気持ちよく、ハイミとプラーハは空を散歩し、メイルとコロネは日向ぼっこしていく。リリコが万渉術で砂浜にあるようなリクライニングチェアを1つ作ったので、重なりあうように一緒に寝転ぶ。
「トランバースが来たけど、何か全然お構いなしって感じ。やっぱり無意識に自信があるの?」
「うん。だって神だもん」
「あはは。だね」
「何か、純粋にどんな人かなぁって思う。きっとボディーガードいっぱい引き連れてくるんだろうな」
「10人は来るね」
「そっか。もしかしたらトランバースの王子もこの世界に住んじゃうかも」
「えー、そんなのやだよぉ」
「異世界のゲートも常駐する感じになっちゃって、移住者もいっぱい来てさ。もう世界が変わっちゃって」
「そしたら、別の異世界に移住する」
ヤマザキさん達に伝えたいけど、連絡手段がないよな。あの時会っただけだし。仕方ないか。
トランバースの人達が要塞に戻っていったので、僕達も戻るからとチエヒメに幻覚の力を解除して貰うと、向こうから僕達が見えた途端、何だかすごい注目を浴び始めた。新しいマイセルの巨人も出てないし、能力を封じる力はまだ解除してないので、砂漠に集まる能力者達はまるで僕達を特別な存在を見るように見つめてくる。
「柳花、先にテレポートのやつ作ってよ。僕とチエヒメさんは最後に行くから」
「うん」
「私達が戻ったら、また戦いが始まっちゃうよね?」
不安そうにミントがノブに問いかける。
「まぁ、大丈夫だろう。能力者が集まっても、この要塞は攻略出来ないんだ。オレらが心配する必要はない」
組織のホールにみんなが戻っていき、そして最後に僕とチエヒメが戻る時に能力を封じる力を解除する。ホールに戻れば中国ではどうなってるかは分からないので、それからノブが“モニタリング専門能力者”に頼んで、別のテレビに中国にあるマイセルの要塞の様子を映し出して貰う。
もうみんな変身したり、能力発動させてる。やっぱり、排除しなきゃ気が済まないのか。青い騎士巨人も出てるし、紫の奴も。あれかな、マイセルと戦えば覚醒出来るからかな。
アメリカにあるマイセルの要塞を映し出しているテレビを見ると、相変わらず戦いは続いていて、3体の白いマイセルに対して究と翼の女性、意識を回復させた赤い竜人の男性、他には“輝く青いオーラを纏った戦国武将風な男性”や、“3本の大剣と2つの大盾と4つの光球を浮かせて操る、まるで派手な不動明王像のような人”が前線に立っていた。
すごいなぁ、派手な不動明王。何かのゲームのキャラみたいなアレンジ感。自分は動かずに、浮かせた武器で戦うスタイル。つまり鉄壁系ってやつか。でも結局、柳菜次第なんだよな。マイセルなんて万渉術で簡単に止められるしなぁ。ノブさんも、そういう意味で絶対の安心感があるんだろうな。
そんなところでわりと1人で頑張っていた赤い竜人が蔦に絡め取られ、そのまま振り回されてしまい、見てるこっちが不安になってしまう中、それから地面に叩きつけられて転がり、また気絶してしまったかと思った時、治療役と思われる人が駆け寄って間もなくして、赤い竜人の体がほんのりと光った。
んっ・・・あれは・・・。
周りの能力者も注目する静寂が流れる中、ゆっくりと赤い竜人が立ち上がると、それから雄叫びを上げて右腕と一体になっている大剣を更にパワーアップさせた。
おお、何か、右肩全体が剣になってるくらい、すごい剣だ。何か、剣を背負ってるみたい。
そして直後、赤い竜人は背中から爆発させたような光で推進力を得て飛び出し、蔦の白いマイセルに向かっていった。自分が独楽みたいに1回転して大きく右腕の大剣を振り上げると、大剣からは何か見えない力が働いたのか、それだけで衝撃波が生まれ、空気が振るえ、直線上の蔦が一瞬にして砕け散った。
あれが、あの人の臨界覚醒。
今まで蔦に阻まれて、中心の巨木に誰も届かなかったが、赤い竜人がロケットのように飛び出しながら振り出す大剣によって蔦の弾幕は激しく切り開かれ、遂にその剣は巨木を突き抜けた。
うわあ・・・。
無数の枝からも蔦による攻撃が為される巨木の幹が砕かれ、ゆっくりと崩れ落ちたその情景に誰もが息を飲んでいると、赤い竜人は更に追撃し、そのまま隕石が落ちるように白いマイセルに向かって突撃し、そこにはミサイルでも落ちたかのような土煙が突き上がった。
すごい・・・。
それでも漂う土煙から最初に見えたのは無数の蔦で、ただテレビを見ているホールの人達も固唾を飲む中、そこに炎を操る能力者が土煙の中に飛び込んでいく。
遂に誕生した臨界覚醒者。でも能力者という存在がどれだけちっぽけかというほど、異世界との戦いは続いていきます。
ありがとうございました




