竜達は食らう
「アメジスト出してやってくれ」
「ウガァ」
すると宝石のドラゴンは何も無い空間に光を集め、まるでどこからかワープさせたかのようにアメジストの原石を落とした。地面に落ちた衝撃で原石は割れたが、レオンはただ嬉しそうに飛びついてアメジストをかじっていく。
「どこから持ってきたの?」
ドレッサがそう聞くと、宝石のドラゴンは言葉にならない鳴き声で応える。
「どこからなんて気にしないとさ。適当に土の中からだ」
い、いいんだ・・・。でも誰も分からないし、いいのかな。
「それより、ニュースすごいぞ。テレビもネットも全部異世界の要塞だ」
「能力者が集まっても追い返せないし、噂じゃこれから全世界を侵略するらしいよ」
「ドレッサ、誰から聞いたの?」
「友達。でも友達はネットの情報だって。でも情報は支配されて、核兵器が使えないのは本当でしょ?」
「うん。もしかしたら、時間が経てば解決するかも」
「何故だ」
するとアントニオがそう聞いてくる。
「対話を目的として、能力者達が何人か、異世界の軍隊の世界に行ったの。軍隊の中にも協力してくれる人達がいたから。軍隊の飛行船でワープしていった」
「対話か。可能性はどうなんだ」
コロネも居るし・・・。
「んー、可能性は、低くないと思う」
「どれくらいの時間がかかる」
「それは、分からない」
テレサ、食べたっ。
レオンを見下ろすと、レオンの全身の鱗は黒い鉄からアメジストになっていて、抱き上げてみると吸い込まれそうなくらいキレイな紫だった。
「アントニオ、ありがとう」
「これくらいなんて事ない」
「ドレッサもありがとう」
「うん。テレサ、1つ聞くけど、もしかして治療系?」
「うん。そうだよ」
「見た目からして戦わなそうだもんね。グループは?」
「デュナンズ・ナイツ」
「え!?」
あは、そりゃ、驚くよね。
「そうだったんだ。じゃあ2人はアメリカでずっと戦ってたの?」
「うん」
その瞬間から2人の眼差しに小さな尊敬の念が伺えるようになったが、だからこそ要塞の存在感はそれだけで敗北感を連れてきてしまう。
モート、食べたいもの決めた?
ううん、まだかなぁ。クレイは?
決めてるよ。でもここにはないみたい。
「クレイ、何が食べたいの?」
ふわーってして、ヒラヒラしてるかな。
「んー」
「何だって?」
「抽象的で分からない。でもここにはないみたい」
「次はその子なんだね」
ドレッサが興味がありそうな微笑みを見せてきたので、クレイを抱き上げる。
「ドレッサはどういう能力なの?」
「人工精霊」
そう言ってドレッサが自身の周りに4体の“蝶のような光る生き物”を出現させると、光る蝶は本物の蝶みたいにヒラヒラと羽ばたき、ドレッサの人差し指に留まった。
「虫が好きなの?」
「蝶は好き」
ふーん、でもぼくが食べたいものじゃないね。
「クレイの食べたいものじゃないって」
「あはは、食べたいって言ったってあげる訳ないでしょ」
「だよね」
突然の爆発音が耳を突き、思わず顔を向けると、草木の生えてないキャニオンだからこそ立ち上る砂煙がはっきりと見えた。
「何だ」
ウルフが呟く中、どこからかテロだという声が聞こえてきて、何となくウルフと向かってみると、再び爆発が起こり、そこには砂煙が立ち上ぼり、風圧が広がり、そしてキャニオンの破片が飛び散った。
炎じゃない。何だろう、何が爆発したのかな。
「お前らはもう終わりだ!」
砂煙が風に流されると、見えてきたのは白人の男性だった。
英語を喋ってるし、アメリカ人かな。
「あいつらに降伏するしかない。オレに従わないなら、力で従わせてやる!」
「・・・何だあいつ」
冷めた目でウルフがそう呟く中、白人の男性は周りが見えていないような強張った表情をしていて、そんな時に落ち着かせようと1人の男性が白人の男性に声をかける。
「早まるな、いつか地球人が勝つに決まってるだろ」
「そんな確証がどこにある!情報が支配され、核兵器だって使えない。能力者が束になっても勝てなかったんだぞ!それがこの現状だろ!もう降伏するしかない!今すぐこんなキャンプは解体しろ!」
「確かに1回負けた。だからって諦めるのか?こんなに能力者が集まってるのに」
「お前はヒステリックになってるだけだ」
また別の男性がやって来てそう言うが、白人の男性の堅い表情は変わらず、まるで聞く耳を持たないかのようにワープゲートに向かって歩き出した。
ヒステリックか。そうなる人が居てもおかしくないよね。あんな要塞が出来ちゃって、沈黙が不気味だし。でも、そういえば何で沈黙しているんだろう。チエヒメの事はまだ世間には知られてないし、本当は秘密裏に指定自警団と交渉してるのかな。
テレサ、早いとこぼく達に食べたいもの頂戴。
「あ、うんそうだよね。ねえウルフ、ヨハンに聞いてきて欲しいんだけど。もしかしたら今、水面下でチエヒメの事で交渉されてないか。私、この子達に食べたいものあげたいから」
「・・・分かった。確かに、この沈黙は妙だな」
「テレサ、私達ローマに戻るから頑張ってね」
「ありがとうドレッサ。アントニオもありがとう」
「あぁ」
ウルフもドレッサ達も去っていって、私1人になったところで屈んでクレイを見つめる。
「もっとヒントないの?」
んー、あっそれ。
私自身がヒラヒラしているものを思い浮かべていくと、クレイが反応したものはなんと花だった。
花・・・・・確かにキャニオンには無いよね。近くの街に花屋があるかも分からないし・・・・・・うん、能力者に頼もう。
「花を出せる能力者を捜してるんだけど、知らない?」
日本語で雑談している3人組の男女に話しかけると、3人は私が抱えているクレイを見たり、アルバを見上げたり各々警戒する。
「花を出せる・・・そいつに食べさせる為に?」
「え、うん」
「ああオレ、心が読めるから」
「そうなんだ・・・。ここ、キャニオンでしょ?野花だってないし、近くの街に行くより能力者に頼んだ方が効率がいいから。花を出せる能力者を捜してるの」
「それなら、恐竜に鉱石使わせればいいんじゃない?」
すると心を読める男性がさも当たり前かのようにそう言ってくる。
「恐竜を強化したいならむしろその方がいいでしょ」
「私が強くしたい訳じゃないから。私はただこの子達が食べたいものを食べさせたいだけだし」
「ふーん。花、出せる人居たっけ」
「知り合いみんなに聞いてみるから、ちょっと待っててくれる?」
「うん、ありがとう」
2人の男性よりかは柔らかい印象の女性がスマートフォンで調べてくれてる間、ふとマイセルの要塞を眺める。
「あんた、デュナンズ・ナイツなのか」
「えっそうだけど、それも心を読んだら分かるの?」
「いや、それ」
心を読める男性が指を差したのは私の背中だった。
「赤十字。この戦いの主な指揮組織はデュナンズ・ナイツだ。でもワールド・クロスならそんな恐竜は作らない」
「詳しいんだね」
「戦場において大切な事は情報収集と状況の理解。オレ達のリーダーの信条」
「でも私、元々はワールド・クロスで治療専門だったんだけど、今はデュナンズ・ナイツも両方やってるの。でも私自身は戦えないよ?戦うのはこの子達だし」
「ふーん。・・・ん」
男性の足元にはヴォーデが歩み寄っていて、可愛らしく男性を見上げていたが、男性は心を読んでいるのかふとした沈黙が流れる。
「ていうか、何で恐竜なんだ?」
そんな時にもう1人の男性がそう口を開く。
「モチーフがあるって事は異世界にも恐竜が居たって事なのかな」
「そうかもね」
スマートな見かけによらず、ユニークな考え方の男性に相槌を打つと、その男性はスマートな無表情のまま私から目を逸らしていく。
「リーダー戻ってきた」
スマートな男性が呟くと心を読める男性もすぐに振り返る中、そこに2人の男女がやって来る。
「作戦は30分後。あなたは」
「デュナンズ・ナイツだと」
リーダーの女性が私に聞くが、すぐにスマートな男性がそう応える。
「ああ、悪いけど、これはデュナンズ・ナイツには許可は取ってない、あくまで有志の集まりが決めた事だから」
有志・・・。
「何するの?まさか、要塞に突撃するの?」
「責任は有志の集まりがちゃんと取るから。デュナンズ・ナイツには関係ない」
「そっか」
一応ヨハンに報告した方がいいかな。
「・・・・・うん。じゃあお願いね。ねえ、知り合いの花を出せる能力者が今から来るから」
「ありがとう」
程なくして有志の集まりなのか、リーダーの女性の元に人が集まってきて、柔らかい印象の女性の知り合いが来てるかどうかも分からない中、柔らかい印象の女性が誰かに手を上げて見せたので見失わないように近寄る。
「どう、調子は」
男の人かぁ。
「相変わらず。この人がさっき言ってた・・・」
「私テレサ」
「あぁ、僕は、ヨシカワ。じゃあ早速、花咲かせるから」
「うん」
そう言うとヨシカワは足元を眺めていく。
まさか、キャニオンに・・・土は無いけど、出来るのかな。
「出来るの?土無いじゃん」
柔らかい印象の女性が気さくに聞くと、ヨシカワは片膝をゆっくり落としながら落ち着いた微笑みを返す。
「出来るよ?栄養は僕が送るし、根が張れば後は水があればいい」
そしてヨシカワが地面に手を置くと、直後に手から蔦が生えてきて地面に広がっていく。すると瞬く間に蔦はヨシカワの周囲に広がり、キャニオンの荒れた地面はそこだけ緑に覆われた。
こういう能力者が居れば、砂漠も緑化出来るよね。あ、でもどんな花が咲くのかな。
花なら何でもいいよ。
花が咲く前に、もう周囲10メートルくらいが緑に覆われて、周りの人から注目されてる中、そこに1人の白人男性が英語で声を発しながらヨシカワに近付いてきた。
「このキャニオンは公園なんだ。勝手な事はするな」
しかしヨシカワに通訳してあげる前に別の白人男性がまたやって来て、怒っている白人男性を制止する。
「キャニオンは広いんだ。これくらい問題無い。お前にはユーモアが無いのか」
いきなりやって来て、しかも英語で口論している男性達にヨシカワは呆然とする。
「大丈夫、続けて」
私の言葉にヨシカワは頷くと、それから草原の中から別の種類の葉が生えてきて、やがて蕾が生えた。
どんな花だろう。何かワクワクする。
そう言って私を見上げてきたクレイを撫でる中、2人の白人男性が少しヒートアップしてるので仕方なく近寄る。
「私が頼んだの。花を咲かせて欲しいって」
「花なんてどこでも見れるだろ」
「でも、野花を探すより、能力者が沢山居るから、つい頼んじゃって」
「ハハハ、ここはもう以前の地球じゃない。能力者の世界だ。能力で何とかしようと思うのが普通だろ?」
ユーモアのある白人男性がそう言うと、怒っている白人男性は呆れたように溜め息をつき、肩をすくませた。
「もしかして、2人は有志の集まり?」
「あぁ、そうだ。お前もか」
「私は違うよ。私はデュナンズ・ナイツだから」
案の定2人は驚くが、私が抱いてるクレイを見ると、私が戦いそうにないと思ったのか、妙に大人しく納得した。
「咲いたよ」
ん、あ、咲いてる。
そこはまるで野花の草原みたいに色々な種類の花がランダムに咲いていて、何だか私自身の気持ちが穏やかになる。クレイが私の腕の中から飛び立つと、真っ先に赤い花に近付き、可愛らしく匂いを嗅いだ。
「それはバラだよ」
ふーん。これもいいなぁ。じゃあ、こっちは?
「これはガーベラかな。こっちはラベンダー」
うわあ、これいい匂いだな。んー、どうしよう。
こんなに花が沢山なの、考えてみたら初めてだなぁ。全然知らない名前の花がこんなに・・・。
そんな時にクレイはバラをまるごと一口で食べた。どんな風に体が変化するのか見ていると、直後にクレイはラベンダーを食べ、更にガーベラ、ダリアなど、一気に何種類もの花を食べていく。
「いいのか?お前のペット、花食ってるぞ」
そう言ってユーモアのある白人男性が笑う。
「ペットじゃないよ」
「生き物を召喚する能力って、ペットが欲しいからなんじゃないのか?」
「そうとは限らないよ」
「そうか」
ようやく花を食べるのを止めたクレイが飛び上がって戻ってくると、私の目の前に戻ってくる頃には鱗という鱗がすべて様々な花びらになり、更には頭から蔦のような触角が生えた。
「まさかそういう事になるなんてな」
「ありがとう、ヨシカワくん」
花畑を満足そうに眺めながらヨシカワは頷いたので、クレイを抱きながらキャニオンを歩いていくと、遠くにウルフが見えたので手を上げて歩み寄っていく。
今後、果たして竜達がどんな活躍をするのか、しないのか(笑)
ありがとうございました




