姫は食らう
「聖、よくやったぞ。さすが聖じゃ」
みんなの前だというのに、人間に戻った途端にチエヒメはそう言って僕にキスしてくる。
「何でそんなに嬉しそうなんですか」
「これほどの力を食ったのは初めてじゃ。妾は長年眠っていて、人間に掘り出されたと思ったら閉じ込められておったからな。シンリュウセキは言わば腹が減っておったのじゃ」
シンリュウセキって全てを食らうんだよな。石に意思があるのかな。
「あるぞ。だから妾が生まれたのじゃ」
あれ?また心読まれてるし。あれ、何だか僕もチエヒメさんの心の中が分かる気がしてきた。
「今シンリュウセキは聖の中じゃ。そうなってもおかしくはないぞ」
「そうなんだ」
こんなテンション高いチエヒメさん初めてだな。
「あれ!?」
ふと気が付けば景色は砂漠ではなくめちゃくちゃな森に戻っていて、何となく少しだけまた進んでみると視界はまた砂漠になった。
やっぱり幻覚だったんだ。うお、ここが、境目か。
「あ、また紫の奴来た」
頭だけ砂漠の景色に入っていて、紫の奴が見えたので森に戻るとノブやシンジ達は闘志は見せたが疲労も伺わせていて、そんな時に何やらチエヒメが僕の手を引いて砂漠に入っていった。
「危ないですよ」
「問題ない。試すのじゃ」
試す?・・・え、まさか。この力の、本当の意味って。
「おい」
ノブ達みんなも僕達を追いかけてきて、とりあえずまた紫の機械巨人と戦う空気になった時、突如チエヒメから黒い冷気が噴出し、黒い氷の両腕となった。
「お前、それ」
「先の氷はシンリュウセキが食ったのじゃ。だからこの力はもう妾のものじゃ」
吸収だけじゃなく、吸収したものを自由に使えるようになる。それがシンリュウセキの力・・・。
直後に更にチエヒメの足元から黒い氷のフィールドも現れ、砂漠に広がっていく。
「ここは妾に任せるのじゃ」
すごいなシンリュウセキ。臨界覚醒の力を、簡単に奪うなんて。
「お、おう」
チエヒメはずっと僕と手を繋いでいるが、人間の体でも僕には黒い氷の影響はなく、瞬く間に黒い氷は地面に広がっていき、紫の機械巨人が衝撃波とミサイルで攻撃してきても氷のフィールドで打ち消され、そして氷の両腕の攻撃で氷漬けにされて紫の機械巨人が動かなくなると、チエヒメはまた嬉しそうに笑顔を見せてきた。
「何で黒いんですか?」
「それは聖の力と混ざってるからじゃ」
そうなのか。
「もしかして、この幻覚も、吸収出来たりして」
「ふむ、良い案じゃな」
「え、出来るんですか?」
「シンリュウセキは全てを食らうからのう」
もし、シンリュウセキが異世界の軍隊に渡ったら、地球上の全ての能力者が、能力を奪われる・・・。そんな、絶望だ。
「ほら、早くするのじゃ」
「え、はい」
んー!・・・・・・・あっ!・・・人間のままだ。
しかしすでに僕とチエヒメは光の渦巻きの中に居て、普通にチエヒメが手を繋いでいられる事が不思議に思ったが、一瞬の内に光は僕の中に入り、景色は森に戻った。
「んん、偉いぞ、聖」
するとチエヒメは凄く嬉しそうに僕にキスをしてきて、何か恥ずかしいというより、感情が高ぶらせる事が出来るようになった成長感がどこか嬉しく思えた。
「ほう、これはまた面白い感覚じゃ」
「おい聖、また、能力を吸収したのか?」
「はい。幻を見せる能力を」
応えるとノブは頷きながらも神妙な態度を見せ、するとシンジ達も純粋にすごいと思うよりシンリュウセキの力を警戒するような大人しさを伺わせる。
「いや聖、幻じゃなくて能力を封じるフィールド吸収してくれないとさ」
「あ、だよね」
「でも、吸収してもまた新しく妨害してくるんじゃない?あっちも多分能力者の鉱石くらい持ってるだろうし。いたちごっこだよ」
究に向かって柳菜がそう言うが、究はすぐに何やら良い案があるような表情を浮かべる。
「能力を封じるフィールドを吸収すれば、もうそれだけで大丈夫じゃないか?」
「あ、そっか、確かに」
なるほど。
チエヒメが期待を込めたような眼差しで見つめてきたので体の底に力を込め、何となく栓を抜くような感覚でシンリュウセキを解放し、能力を封じるフィールドの力を吸収する。するとまたまるで快感でも覚えるような表情でチエヒメは抱きしめてきて、人目もはばからずにキスしてくる。
「妾の中にエネルギーが巡るのじゃ。それが何とも心地よい」
「そうなんですか」
「もっとじゃ。もっと食いたいとシンリュウセキが鳴いておる」
もっとって・・・ちょっと危ないかも。
「あっ」
柳菜と柳花が同時に指を差したので何となく見ると、電波塔方面の空には異次元のホールが発生し、そこから大量のマイセルとまた数機の飛行物体が出てきた。
ん、何だろう、何か違うような・・・。
「模様が違うのじゃ」
模様・・・。
「ああ、国章っていうか、軍章っていうか。確かに今までのとは違う。別の国の飛行物体かなぁ」
確か、神王会のリリコって人はトランバースって国から来たって言ってたな。同盟国だからその内来るかもって、じゃああれは、トランバースの国の飛行物体。ていうか、どんどん飛行物体が増えてくる。このままグランドキャニオン全体が占拠されちゃったりしないかな。アメリカって広いし、異世界の人達が住めるくらいの場所はあっちゃうよな。
「皆、妨害するフィールドがない内に行くぞ」
ノブの指示でみんなが歩き出し、柳菜と柳花が先導して一気に電波塔まで距離を詰めていくと、森の中に隠れるようにして遂に建物が見えてきた。
うわ、紫の奴に青い奴、さすがに守りを固めてるか。でも白い奴が居ないなら、楽勝だよな。
結構近付いてるのにマイセルの巨人たちはまるで銃口を見せつけてくる軍人のように、衝撃波を撃ち出してくるような姿勢を見せるだけで向かってくる事はなく、でもまた白いマイセルがどこから何かをしてくるか分からないので警戒していると、マイセルの巨人の足元から普通の軍人が姿を現した。
うわ、マナライザーかも。どうしよう。
一応変身は解かずにいる中、なんとチエヒメが僕を通り過ぎて前に出たのでとっさに制止する。
「何じゃ。妾はもう戦えるぞ」
「でも、どんな攻撃してくるか分かりませんから」
「ここで怖じ気付いてどうするのじゃ。一気に滅ぼす好機じゃろう」
滅ぼす・・・。
「シンリュウセキ!それ以上近付いてみろ。すべての国のすべての核ミサイルを一斉に撃ち出す」
・・・な。
「聖、彼奴の言う事はどういう事じゃ」
「すごいヤバイ事です。この世界で1番強い殺戮兵器で脅して来てるんです」
でも、いつかこうなる事は予測出来たよな。相手はマナライザーだし。
「能力者で何とか出来るじゃろ」
「いやあ、今いきなり核ミサイルを撃たれたら、さすがに対処出来ないと思いますけど」
気が付けば10機ほどのトランバース艦隊はどこかに行っていてふと不安になるが、目の前の事から目を逸らす訳にはいかないのでノブの顔色を伺ってみる。
「放っておく訳にはいかぬ、このままでは彼奴らが増える一方じゃ、その内、彼奴も・・・」
あやつ?・・・・・。
黒い氷の両腕と黒い氷のフィールドを発動させながら、チエヒメはまた歩き出そうとしたので、とりあえず人間に戻ってチエヒメの手を掴む。
「すぐ片付ければ済む」
「準備した方がいいですよ」
「シンリュウセキの力があればいける。妾は彼奴らの居ない世界で暮らしたいから逃げてきたのじゃ。これでは意味がない」
「それは分かりますけど。慎重にならないとこの世界が滅ぼされちゃいますよ。核ミサイルなんて撃たれたら、簡単にみんな死んじゃう」
「そんな、臆病な男だとは思わなかったぞ、聖。怖いなら黙って妾の側にいるがいい」
そのままチエヒメは手を繋いできたが、その表情は初めて見る冷たいもので、すでに黒い氷のフィールドで近くのマイセルは動きを止める寸前だった。更に黒い氷のフィールドは瞬間的に速度を上げ、逃げ出したその軍人もすぐに氷漬けにしてしまった。
「ほら見ろ、簡単じゃ」
臆病、か。確かにそうかもだけど。
「けど何じゃ」
「え、っと。何かチエヒメさん、急に・・・何か」
怖く、なった・・・。
「怖くなったじゃと?妾だって、聖の役に立ちたいのじゃ。だめなのか?」
「だめじゃないですよ。でももう、僕より強いし」
「そうじゃなぁ。これからは妾が聖を守るのじゃ」
そう言うとチエヒメは抱きしめてきて、僕の耳元に何やら口を寄せてきた。
「その為に聖にシンリュウセキを忍ばせたのだからのう」
・・・・・え?
「それって・・・」
直後にチエヒメはキスしてきて、その少し強めの抱きしめ方とキス、そしてその後の色っぽい笑顔に、何だかチエヒメの知らない部分を垣間見た気がした。チエヒメが歩き出し、手を繋いでいるので一緒に歩くしかないので僕も歩き出す中、何となくまた最初のキスを思い出す。
シンリュウセキを僕の中に忍ばせたって、あの最初のキスでだよな?・・・。
「そうじゃ」
「あの、チエヒメさん自身は、力を吸収する事は出来ないって事ですか?」
「出来る。しかしその為には体から直接シンリュウセキを取り出さねばならん。この体はシンリュウセキを運ぶ大事な器じゃ。シンリュウセキを取り出した時にもし奪われでもしたら元も子もない。なるべくシンリュウセキを表に出す事はしたくなかった」
「そうですか。でももう今なら・・・あの、チエヒメさんの体に戻しても」
「嫌じゃ。そしたら聖の側に居らんでもよくなるではないか」
歩きながら黒い氷のフィールドも出ているので周りには誰も居なくて、だからこそ2人きりの会話みたいで周りを気にしなくていいが、チエヒメのわがままがこれから増えていくのかと思うと少し不安になってしまう。
「聖、またデートしたいのじゃ」
「はい。日本はまだ安全なので、この戦いが一段落ついたら行きましょう」
「一段落?まだそんな甘い事言っておるのか。徹底的に叩きのめせばよいではないか」
「いやでも、戦うだけがすべてじゃないっていうか」
あれ、何か、電波塔が全然見えない。おかしいな。
「ん、何故じゃ、さっきまで見えておったのに」
「また鉱石の能力で何かしたんだと思います」
でも森は森か・・・。幻じゃないなら・・・。
「聖ぉお!」
あ、究かな。
「チエヒメさん、氷のフィールド避けて下さい」
「せっかく2人きりなのにのう、仕方ない」
意思のある氷魔法なので、チエヒメがそう考えただけで黒い氷のフィールドは割れていき、やがてその向こうから究と柳菜がやって来た。
「大変だぞ。さっきの艦隊が、アメリカの首都を攻撃してるって、しかも核ミサイルも1発打ち上げられたって」
うわ・・・。
「チエヒメさん。だから言ったのに」
「何じゃ聖。妾が悪いのか?」
「それは・・・」
「でも核ミサイルは空中で能力者が爆発させたけど、爆風だけでも結構な被害だって」
「核ミサイルって1発だけ?」
「あぁ、ノブさんは警告だろうって」
「そっか。ていうか電波塔は?」
「それが無くなったみたい」
「え」
「意識だけ過去に飛ばすっていうのやったんだけど、建物ごとワープしたみたい」
やっぱり、幻じゃないなら、ワープか。
「だからノブさんが一旦戻れって」
チエヒメを見ると、反省はしてないが僕の戻った方がいいという気持ちを共有してか、大人しく僕を見つめ返した。
「何か、すごい事になってるよ」
「戦争って怖いね」
ハイミとプラーハが並んで立ち、マナライズでパソコンの画面にアメリカの状況を映しているので、それを横目にしながら、自分の膝の上で寝ているメイルをゆっくり撫でる。
「トランバース来たね」
そう言うと自分の隣に座るリリコは落ち着いた笑みを返してくる。
「リークされたかは分からないけど、あんな状況じゃ援軍が来て当然だしね。コロネ、大丈夫?」
「(まぁ、大丈夫っちゃ大丈夫かな。それより、あっちの世界に行った自分、圏外になっちゃった)」
圏外って・・・。
「どこ行ったかな、電波塔」
「うーん、でもグランドキャニオンも広いし、どこかにあるんじゃない?人工衛星に入ったら分かるかな」
楽しそうにアメリカを監視する2匹の後ろ姿を見てるだけで自分も何だか楽しくなる中、ふと赤荻聖とチエヒメの事を脳裏に過らせる。
結局、こうなる事は決まってたんだな。でもだからって戦争をただ眺めるのは、いくら観察が仕事でもだめだよな。ヨハンさんにちょっと聞いてみるか。
「・・・・・もしもしヨハンさん?」
「やあ、君達もアメリカの状況くらい把握しているんだろうね」
「はい。核ミサイルの事もあるし、自分なりに何か出来る事やろうと思って。でもその前に、デュナンズ・ナイツにも機械系統を操れる人とか居るんですか」
「勿論、しかしいくらパスワードを変えてもすり抜けられ、遂には核ミサイルが発射されてしまった。だがそれに関しては対処済みだ」
「対処って」
「電源を落とす。単純明快さ。それにそもそも戦闘機関連もマナライズによって操作を妨害され出撃する事すら出来ない。だからいっその事、アメリカ政府は機械系統を凍結させたんだ」
「そうなんですか」
「せっかくだ。リクジ達に頼みたい事がある」
「あ、はい」
「電波塔の所在を突き止めて欲しい」
核兵器を人質に取られてしまい、軍隊まで封じられてしまった世界で、能力者はどう戦っていくのか。
ありがとうございました




