幻の砂漠2
どっちに対しても相性が悪い中、それでも炎の龍の方が見た感じ弱そうに消滅してしまうと、更に氷のフィールドは意思を持つようにショウタに襲いかかっていく。
「うわあ!」
瞬時に体を燃やして炎の壁を作ったものの、すぐに少しずつ炎が凍りついていき、このままでは体も凍りついてしまうと思った直後、上空に空間の歪みが出来ると冷気はそっちに吸い寄せられるようにショウタから離れていった。
「危なかった。オレのドラゴンファイアが、全然効かないなんて」
「ショウタは合計レベル7だしな。少なくともあいつは氷と何か別の力で合計レベル8はあるだろう」
あの腕の力、かな。ていうか紫の奴、全然来ないな。あいつも氷のフィールドに近付けないのか。
「違うよノブさん」
「え?」
ん、柳花、何か見たのかな。
「あの人のレベル、5だよ」
「え?」
「あの人のは、“意思を持った2種類の氷魔法”っていう能力だけだよ」
「でも、明らかに強すぎる。まさか」
「うん。あれが、臨界覚醒」
え・・・臨界覚醒。たった1つの能力なのに、2つの能力を合わせたものより強いなんて。
「じゃあ、レベルって一体・・・」
「まぁ、レベルはあくまで皆が勝手に言ってるものだしな。きっと第三覚醒と臨界覚醒の間にはかなり大きな差があるんだろう。何にしても、あれが、能力っつうものの最大ポテンシャルって事か」
臨界覚醒・・・ヤバイな。
「でも、それをマイセルが操るって、おかしくないですか?」
「あぁ、人間を乗っ取ってれば可能なのかもな」
そうなのか。
「そんな」
セイシロウが呟いたので空間の歪みを見てみると、なんと氷のフィールドは空間の歪みでさえ凍りつかせ、液体窒素で凍った薔薇のようにパラパラと消滅させていった。そんな中でも氷のフィールドは少しずつ広がってきて、僕もチエヒメを庇いながら下がっていく。
どうしたら。全然近付けない。
「聖、行くのじゃ」
「え」
「聖なら行けるぞ」
「あの、体の芯を燃やす、ですか?」
「そうじゃ、今こそ──」
ぐっ・・・。
背中を向けていた隙に衝撃波で攻撃されてしまったみたいで、僕が思わず膝を着いてしまうと同時にチエヒメも尻餅を着いてしまう。振り返ると紫の機械巨人がその場所から動かず衝撃波で攻撃してきて、黒炎で壁を作り難を逃れるが、そこに冷気と氷が這ってきてゆっくりと黒炎の壁を凍らせてくる。
だめだ、離れなきゃ。もっと遠くへ。
「逃げてはならん」
「え」
「ストライク・バーン!」
チエヒメの声が聞こえなくなるほどの3色の大爆発が引き起こされ、思わず黒炎の壁を広げる中、その大爆発は白いマイセルも紫の機械巨人も丸ごと覆い尽くし、最早何も見えなくなる。
果ての魔王のミニマム・バーン・・・これなら・・・。
一瞬にして氷のフィールドが舞い上がっていくのが見えて、黒炎の壁に張り付いてきた氷も砕けていってやがて爆風も空に消えていくと、見えてきた紫の機械巨人はボロボロで倒れていて、白いマイセルは大きな1本の氷柱に覆われていた。砂煙さえ燃え尽きた澄んだ空気の中、大きな氷柱が勝手に形が変わっていくとそれは2本の腕になり、腕の中からは無傷の白いマイセルが立っていた。
「そんな、どんだけ防御力が高いんだよ」
その瞬間から白いマイセルの足元から再び氷のフィールドが広がり始めるものの、すぐに究がそれを阻もうと飛び出し、真鎧ジグラーグから蒼い炎のフィールドを作り出した。しかしやっぱり力に差があるのか、氷と蒼い炎は互角にぶつかり合う事はなく、少しずつ蒼い炎が凍りついていく。それでも究は逃げる事はせず、劫楯アンセリバーから超高出力の電撃光線を放ち、白いマイセルを守る氷の腕を攻撃していく。
よし、僕も。
上空に飛び上がり、氷のフィールドが来ないであろう高さから黒炎の弾を連続して撃ち放っていくと、氷の左腕が体から盾のように氷の壁を広げてそれを難無く防いでいく。白いマイセルを挟み、僕の反対側にはシンジが居て、レベル4形態の右腕で豪快に殴りかかるがこれもせり上がった氷のフィールドに勢いを殺され、氷の右腕で簡単に受け止められてしまう。そんな中、右腕に全力で溜め込んでいた黒炎を持って急降下し、ほぼ真上から白いマイセルに向かって全力の黒炎を振り下ろす。
はああ!・・・。
手応えの衝撃が僕の拳には伝わってきたが、黒炎の爆風が収まる前からもうすでに冷たい感覚が体の前面を襲ってきて、その体を這ってくる冷気は変身している事を忘れてしまうほど鮮明な冷たさで、一瞬、ふと死を予感させた。
うわあっ!・・・。
全身から黒炎を爆発させて体にまとわりつく氷を弾け飛ばし、素早くその場から離れた時、すぐ近くに紫の機械巨人が現れる。
おっと・・・。
しかももうすでに機械の拳を振り下ろそうとしていて、とっさに腕と黒炎を出して受け構えるも、機械の拳の衝撃は凄まじく、瞬く間にチエヒメの下まで吹き飛ばされてしまった。
ふう・・・危なかった。
「聖、大丈夫か?」
「はい、何とか」
「もう分かったじゃろ。あの白い者には半端な力では敵わない。妾が渡したシンリュウセキの力を使うのじゃ」
「え?渡した・・・」
僕以外は皆戦っていて、チエヒメの話を僕しか聞いていない事をふと自覚しながら、ただチエヒメと見つめ合う。
「いつ?ですか」
「最初の口付けじゃ。シンリュウセキは妾の中にあると皆を欺く為に」
あの時から、シンリュウセキが僕の中に。
「でも、マナライズされちゃったら分かるんじゃ」
「それは問題ない。シンリュウセキはマナライズには干渉されない」
「それって、記憶も?この話を聞いた記憶をマナライズされたら」
「記憶もじゃ。だから妾は、聖から離れられないのじゃ」
離れられない・・・。
ふと思い出すのは初めて会った日の夜の事や、何かにつけて一緒に居たいと言うチエヒメの顔。そして異世界の人が言っていた、チエヒメからシンリュウセキを取り除けばチエヒメは死んでしまうという話。
でも、チエヒメさんは生きてる。でもさすがに遠くには離れられない、だから一緒に居たいって。僕は、まさか異世界の人達を欺く為に利用された?・・・。
「シンリュウセキは妾の命そのものじゃ。妾は命を惚れた男に預けたのじゃ。負けて貰っては困るのじゃ。だからしっかりするのじゃ」
あ・・・そう、だよな。こんな時に・・・チエヒメさんを疑うなんて。
「はい」
命を託されたなんて、急に重くなっちゃった。でも、その為に強くなったんだよな。
「でもまだリインフォースしてないので、それでだめだったらシンリュウセキの力を使います」
「そうか」
ふと見つめ合ったチエヒメは今までにないほど必死な眼差しで、でも何だか僕の心は穏やかで、むしろ今までの不安が全て僕の心の原動力になった気がした。ホテルの部屋で2人きりだったら抱き締めてるが、今はそうもいかないので背中を向け、白いマイセルに向かって飛び立ちながらリインフォースを意識する。
うわあ、何だっ意識が、まさか暴走?・・・いや体は普通に動く。あれ何だか、体が変・・・げっ。足が鳥みたいな骨格になってる。
地面に降り立つと同時に氷のフィールドが何やら僕の体を避けるように蠢き、僕が降り立ったところだけ氷が無くなった。ふと体の感覚を確かめてみると、僕の体の骨格はまるで人間のものではなくなっていて、人型のモンスターではなく、どこかドラゴンっぽく思えた。
怪鳥とかオッシーとか、人間の骨格という制限を解放したから、なのかな。それに、すごいな、力が、何かマグマみたいに体中を蠢いてる。
まるで群れた小動物が飛びかかろうにも戦いているように氷のフィールドが蠢いていて、試しに翼をはためかせて黒炎の火の粉を振り撒くと、火の粉が落ちたところから氷のフィールドが少し溶け出した。
「聖、何だそれ、覚醒?」
「いや、リインフォース」
「おお、それかなりイケそうだぞ」
「うん。援護頼むよ」
「あぁ」
よし、何か、イケそうだ。
するとそんな時、氷のフィールドから大量に氷の骸骨が湧いて生まれてきて、明らかにゾンビゲームの敵キャラみたいに向かってきた。
うわ、意思を持つ氷魔法、だっけ。魔力そのものが意思を持ってるって事か。
それでも翼から熱風と火の粉を振り撒けば氷の骸骨は皆動きが悪くなり、僕には近付く事すら出来ずにいたが、そこで氷の腕の数が6本になり、2本は手首から大砲に変化し、2本は海賊みたいな剣を出現させ、そして元々あった2本は白いマイセルのすぐ頭上で留まった。
なるほど、あの2本が術者で本体なのか。じゃああの2本を壊せば・・・。
すぐさま大砲の腕が砲撃してきて、僕とその周囲を氷の爆風が襲ってきたので体から黒炎を爆発させて周囲の氷と冷気を弾け飛ばす。その直後には剣を持つ腕が動き出し、全然距離が空いてると思った矢先、腕が剣を振り下ろせば剣身は瞬時に伸びてきた。
うおっ・・・。
僕も負けじと黒炎を固めたものを両腕に装着し、叩くように氷の剣を弾いていき、それから砲撃と剣の連続攻撃を何とか凌いでいると、そこに究が横からやって来て槍から蒼い炎を撃ち放った。それは風を切り裂いて真っ直ぐ白いマイセルに向かっていったが、本体の氷の腕が手を広げると魔方陣が出現し、蒼い炎の盾となった。
あの氷の腕の魔法って、自由系なのかな。だとしたら1番厄介だよな。
砲撃が究に向いたのでその隙に前に出ていき、固めた黒炎を全身に纏う。当然剣を持つ腕が斬りかかってきたが、簡単に弾き返す事が出来るのでそのまま素早く懐に飛び込み、本体の氷の腕の目の前までやってくる。しかしその直後、氷のフィールドから鋭く氷柱が飛び出てきて、仕方なく本体から離れてしまう。
こうなったら・・・ふう・・・・・はあ!
全方位に向けて黒い熱風と火の粉を吹き荒れさせ、存在感という名のバリアみたいなものを作り出すと、地面から襲ってくる氷柱は正に生きてるようにビビって向かって来なくなる。
よし、氷のフィールド、攻略だ。
白いマイセルは相変わらずただ立って僕を見つめていて、表情が分からないので何となく見つめ合ってしまっていると、直後に本体の氷の腕に向かって氷のフィールドが集まり始めた。
な、何だ・・・。
瞬く間に白いマイセルさえ見えなくなる猛吹雪になったので仕方なく少し退き、どうなるのかと眺めていると、やがて吹雪が集束して球状っぽくなった直後、吹雪は一瞬で全方位に向かって突き抜けていった。
うわあっ・・・。
まるで衝撃波のようなスピードで冷気が駆け抜けていき、僕を守る熱風と火の粉も一瞬で消し飛んでしまう中、ふと後ろを振り返るとみんなは僕よりも離れているのに押し倒されて凍えていた。
くっ・・・まだこんな力を持ってるなんて・・・くぅ、動けない・・・。このままじゃ、みんなが・・・。
ふと気が付くと体を覆う硬い黒炎でさえ白くなり、一気に恐怖が押し寄せてくるが、同時にチエヒメの顔が脳裏に浮かんだ。
負けられない・・・。シンリュウセキ、どうやって使うか分からない、けど、どうにか、力を・・・貸して!
その直後、体の奥底にある何かが口を開けた、そんな感覚が全身を駆け巡った。その瞬間から僕は寒さを感じなくなった。思わず目を開けてみれば、僕は猛吹雪の中に居た。何も感じないけど何も見えないその状況は少し怖いのでじっとしていると、やがて猛吹雪は僕の中に入っていくのが分かり、そして完全に視界が晴れやかになるとそこには氷のフィールドと氷の両腕の姿は無くなっていた。
ふう、一体、何が起こったんだ。氷が消えた・・・。
「聖、何したんだよ」
「僕もよく分からなくて」
氷のフィールドにも氷の両腕にも守られる事がなくなった白いマイセルは何やらキョロキョロしていて、すると直後に白いマイセルから能力者の男性が弾き出され、ノブが素早く迎えにいく。すごい疲労が伺えるが外人の男性には怪我は無いようで、混乱しているようには見えるが普通にノブと会話しているので、とりあえずホッとしながら白いマイセルに目線を戻す。
あれ、居ない。
「白い奴は?」
「消えたよ。逃げたんじゃないか?」
「白い奴、また来たら気を付けないと。能力者を乗っ取るなんて」
「だな」
「みんな逃げて!」
え、柳菜・・・。
「一旦下がって!」
「うわ、何だ!変身が勝手に解けてく」
究の変身が解けたが僕の変身は解けず、何が起こってるか分からない中、更にシンジの腕やショウタの炎も急に萎み始めた。
「どうなってんだよ」
「多分、能力者の能力を封じる能力のフィールドだと思う。電波塔の場所から。この力も臨界覚醒までいってるみたい」
「マジかよ。能力が・・・使えない」
究がそう戸惑う間にも遠くから青い騎士巨人が姿を現し、みんなが一斉に逃げ始めたので僕も変身を解き、チエヒメと手を繋いで走り出す。
ついにシンリュウセキの力を解放させた聖。しかし今度は能力を封じるフィールドが出現してしまい──。
ありがとうございました




