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魔王の目覚め3

「けど、この世界でシンリュウセキを使う可能性があるなら、こっちもシンリュウセキを渡さない姿勢は変えられないな」

「だろうな。なら膠着するのを待つしかない」

余裕だなぁ。ノブさんも冷静だし。

するとそんな時いかにも通信が入ったかのような音が操縦席の方から聞こえてきて、異世界の女性が向かっていく。何となく驚くような印象が見えるその女性が僕達と話している男性に声をかけると、異世界の言葉だけどその驚きが伝染していくのは何となく分かった。

「アメリカの方で何かあったのか?」

「・・・・・あぁ。こっちが極めて劣勢だと。しかしオレ達の世界から援軍を寄越しマイセルを補填する。必ずいつかは膠着する。改めて交渉は平行線なのが理解出来た。もう戻って貰って構わない」

平行線かぁ。でもチエヒメさんと結婚とかしたら、もう永遠に平行線だよな。じゃあ、アメリカでの攻防も、永遠に膠着か。

「何だお前。その女と結婚するのか」

へっ・・・読まれた・・・。

その瞬間ふと思ったのは、異世界の男性の敵意のない、まるで小バカにするような人間らしい表情だった。

「そうじゃ。妾は女の幸せを求めるのじゃ。牢の番が言った、女に生まれたなら、女の幸せを求めろと」

「その為に逃亡したのか」

「そうじゃ」

タラップを下って公園に戻ると真っ先にマスコミの人達が群がってきて、船の中はどんなだったかとかノブが困ったように応える中、ふとチエヒメを見ると、チエヒメは微笑んできた。

「柳花だっけか、分身がどこに居るかは分かるのか?」

「分かるよ?だからその近くにワープする事も出来るよ」

「よし、じゃあ──」

「おい!何だ」

やじ馬の誰かがそう言うと瞬く間に悲鳴が広がり、やじ馬もマスコミも逃げ始める中、すでに“5メートル級の狼男”は飛行物体に向かって拳を振り下ろそうとしていて、あまりの素早さに呆然とするしかなかったが、瞬く間にノブが上空に飛び出していて、巨大な狼男はアゴをかち上げられていた。

「いってぇ・・・・・何でだよ、何でお前ら指定自警団が異世界の侵略者を守るんだ」

「守ってる訳じゃない、交渉中だ、邪魔するな」

「交渉?アメリカでもう何人も能力者が殺されてんだぞ!敵だろうが」

「気持ちは分かるが、同じ国の全ての軍人が同じ考えな訳はない。こっちの動き方によっては被害状況は変わるかも知れないだろ。落ち着けって。こっちでも戦いになるのは避けるべきだ。それとも、ここに居る奴らを殺せばアメリカの戦いが有利になる証拠でもあるのか?」

「それは・・・じゃあ、どうしろってんだよ」

「今は、耐えるしかないんじゃないか?」

「いや、だから、犠牲が増える一方だって」

「分かってる。だからって日本でも戦闘が始まったらそれこそ大勢が死ぬんじゃないのか?」

「くそっどうすりゃいいんだよ」

「今はなるべく強い奴だけで前線を固めるしかない。お前はアメリカには行かないのか?」

「オレは行かない。いつ日本が襲われるか分からないから」

「そうか。オレ達はこれからアメリカに行く。何かあったら頼んだぞ」

「・・・・・あぁ」

「あ、今後お前みたいな奴が来ても、オレが言ってたと説明してくれ」

「え、あぁ・・・分かった」

膠着かぁ、むしろそうなるなら早めにそうなった方がいいよなぁ。

「悪いな柳花、ワープ頼んでいいか」

「うん」

すると柳花は目の前に手をかざし、人によって違うテレポートデバイスとかいう宙に浮く楕円形の全身鏡を作り出したので、1人ずつ入っていくと、そこはかなり木々が薙ぎ倒された森だった。

うわ、何だあれ。赤い巨人じゃなくなってる。青くなってる。しかも騎士みたい。でも何か、結構人少ないかも。

「ミントから聞いた。交渉の要請があったそうだね。何を話したか聞かせてくれないか」

待っていたのか、真っ先にヨハンがそう問いかけてくる瞬間、ふとノブの横顔を見つめる。

チエヒメさんの事、言っちゃうのかな。

「異世界の軍隊は、あるものを探してる。そしてそれはオレ達が持ってる。だからそれを渡せばアメリカでの戦いは終わるだろうと言ってきた。けどオレ達はそれを渡すつもりはない。異世界の軍隊は、欲しい物が手に入るまでこの世界に定住するつもりだ」

「何だそれ。指定自警団のせいでこうなったって事か」

カミーユが口走るとウルフやセシル、テレサの雰囲気も少しだけ重くなってしまったように感じてしまうが、ふと見たヨハンの表情は大人としての器を感じさせるような冷静なものだった。

「そう言われるとそうだが、あいつらがそれを手に入れたら、あいつらはそれを殺戮兵器としてこの世界で使う。そもそもあいつらがここに来たのは、殺戮兵器の被害が自分達の世界に及ばない為だ。あいつらにとって、この世界は単なる殺戮兵器の実験場でしかない。だからオレ達は、それをあいつらには渡せない」

「そう、だったのか。ていうか、殺戮兵器ってどういうものだよ」

「詳しくは分からない。ただ、シンリュウセキと呼ばれるそれは、チエヒメだ」

「え?どういう意味だよ」

「まぁオレ達も実際にシンリュウセキを見たことはないからなぁ」

するとそう言いながら、ノブはまるで自分で説明して欲しいと言うかのような表情をチエヒメに見せてきて、カミーユやヨハン達もチエヒメの顔色をふと伺う。

「シンリュウセキは、妾の中にあるのじゃ」

「どんな形してるの?」

特に皆からはあからさまに変なものを見るような眼差しは伺えない中、セシルがすぐに聞いてくる。

「見た目は、ただの石じゃ」

やっぱり石なのか。異世界にも能力者の鉱石みたいな特殊な石があるんだな。

「しかしシンリュウセキには破滅の力があると言われておる」

「破滅の力。抽象的だね。けど危険なものだという事は何となく分かった。何より異世界に来て、ここまで抵抗し、定住まで考えるのは、余程シンリュウセキに価値があるからだろうね。指定自警団がチエヒメを守るというなら、我々デュナンズ・ナイツも支持しよう」

「そうか。助かる」

ヨハンが何か意見を聞こうとするようにカミーユ達に振り返るが、リーダーがそう決めたなら別に反論はしないと言わんばかりにカミーユ達は小さく頷いた。

「ただそうなると、我々の目的は変わる。相手の目的があくまで侵略ではなく定住なら、無用な争いは避けるべきだ」

「いや、もう十分侵略だろ」

すぐさまカミーユが反論するが、ヨハンは“大人の余裕感”をまったく崩さない。

「よく考えろ。先に手を出したのは我々だ。恐竜を模したマイセルとやらを防衛の為に倒し続けた」

「何でだよ。恐竜なんか作って違う世界に出してる時点で侵略だろ。侵略じゃなかったら、犬とか猫でいいはずだ」

するとカミーユのその言葉にはさすがのヨハンも納得したように表情を落ち着かせる中、青い騎士巨人がこっちの方に向かってくる。それでもすぐに究が向かっていくと、ゼロニアは3メートル級のドラゴンに変身した。

リインフォースか。あれが秘密の特訓・・・。

青い騎士巨人の方が大きいのでゼロニアが不利に思えたものの、ゲームのセランベル・ファンタジーの魔王と同じように究は浮遊し、スランバーを「天槍(てんそう)レゼンバー」に、ベーグを「真鎧(しんがい)ジグラーグ」に、シバーを「劫楯(ごうじゅん)アンセリバー」に変化させて装備した。

出た!『果ての魔王』・・・。すごいな。レベルいくつだ。

ゼロニアが光属性のブレスを吐き出すと、青い騎士巨人は倒れる事はないが押されて身動きが取れなくなる。それでもその瞬間に究が天槍レゼンバーから氷の槍をロケットのように撃ち放つと、見た感じ時速何百キロという凄まじい氷の槍に青い騎士巨人は氷の爆発と共に吹き飛んだ。

うほお、強烈・・・。

すると追撃はせず、究は満足げに僕に振り返った。

「どうよ、俺の果て」

「レベルが上がっただけにしては、何か変わり過ぎじゃない?」

「柳菜にさ、能力をアップデートして貰ったんだよ」

「そんな事も出来るんだ。さすが。レベルは?4?」

「あぁ」

まだ上があるのか。楽しみだな。

「とにかく、これ以上の領土拡大は許せない。これはその為の戦いだ」

カミーユさんの言う事ももっともだよな。やっぱり戦うしかないのかな。んっ・・・え!

「究!あれ、般若のグリフォン」

「あぁ。何か一緒に戦ってるんだって」

「何で?」

「コロネが呼んだから」

するとテレサが当然かのようにそう言ってくる。

「コロネって」

「絶対に倒せないモンスターの同類。黒いキツネ」

絶対に倒せないモンスター、黒いキツネ・・・何じゃそれ。そんなのも居たんだ。

「やっぱりすごいよ最強生物。もう能力者なんか要らないくらい」

「そうなの?」

「あぁ、せっかく強くなったのに、ちょっと退屈。能力者が世界中から来てるしな」

「そっか」

異世界の人は必ず膠着するって言ってたけど。最強生物も居るし、さっきも劣勢だって。

「あ、コロネ。戦況はどう?」

いつの間に。これが、最強生物・・・。

「(退屈。能力者達も覚醒してるし)」

「あ、あの」

声をかけると黒いキツネのコロネは神々しくも普通に可愛く振り向いてくる。

「グリフォンに、前に自分は人間じゃないって言われたんだけど。コロネも、能力者が生み出したものとかじゃないの?」

「(違うけど)」

「でも動物じゃないんでしょ?僕の能力は動物に反応するのにしなかった」

「(動物だよ。地球で生まれた立派な動物。でも人間の力なんてブロック出来るし)」

ブロック・・・。何だそれ。

「じゃあ動物の能力者って事?」

「(自分達は能力者じゃないよ。でもまぁ人間からしたら能力があるって思われるような事出来るし、単に動物の能力者って言えるかな)」

「そうなんだ」

「(でも、ていうか、人間だって動物の能力者でしょ)」

ん・・・哲学的だな。でも確かに。地球で生まれた立派な動物か。能力者とか鉱石とか関係なく、“本物”って事・・・かな。

張り切っていた割りには力を使う機会はなく、異世界の電波塔とやらがある1番大規模な戦場とは違う場所への援軍要請もすぐに人手が足りて、僕達は何もせずしばらくした時、異世界の電波塔があると思われる場所の上空に異世界のホールが発生し、マイセルが大量に落ちてきた。

異世界の電波塔を壊さない限り、ホールは作り放題だもんな。マイセルを倒し続けたとしてもキリがない。しかもマイセル自体がどんどん強くなってる。やっぱり本当に、膠着するかも。

「うわ、また出た。なあ聖、いっそ向こうの世界に行って戦ったらどうかな」

「えっ。どうやって行くの?ていうか戻る方が無理そう」

「能力者が居れば何だって出来るだろ。飛行船を操るとか」

「さっき、何人か能力者があっちの世界に行ったよ?」

するとテレサがそう言ってきて、ふと感じたのはヨーロッパの人らしいのか、さも自分の功績かのような自信ありげな表情だった。

「マジで?この世界の能力者があっちの世界に、どうやって?」

「どんな軍隊でも考え方が違う人は居るでしょ?その人が飛行船を操縦して連れてってくれたの」

連れてってくれた・・・。

「能力者の人達は何で向こうの世界に行ったのかな」

「それは対話する為だよ」

「すごいな」

対話か。

「じゃあ、上手くいったら戦いは・・・ていうか、目的はシンリュウセキだし、話し合いとか応じるのか?」

「うーん。ていうか、相手のリーダーは?そこを叩けばいいんじゃない?」

「それが俺らもヨハンさん達も、その大将が誰かまだ分からないんだよね」

「え、世界中から能力者が来てるのに?」

「うん。何か、まだ誰も届いてない領域があるんだって」

ん、急にゲームみたい。

「コロネ達も?」

「(行こうと思えば行けるけど、行かないよ)」

「何で?」

「(自分達は地球の生態系を守りたいだけ。人間の戦争に手を貸すつもりはないよ)」

そ、そんな・・・何か本物らしいな。

「やっぱり凄まじく強いボスが居るのかな。でも観察系の能力なら分かるんじゃないかな」

「いや、そういう能力はブロックされているらしいよ。私は、相手も能力者になれる鉱石を利用したのではないかという考えを支持する」

するとヨハンが大人の余裕が満ちている表情でそう言ってくる。

「マナライズの力で、この世界がどういう世界か分かってるからって事ですか?」

「あぁ」

あり得るな、いやむしろ利用しない手はないよな。何でも出来る力なんだし。目には目をか。

「鉱石を使って能力者の力をブロックする能力を得たみたいな感じか」

「うん。そうかも」

「でもそれなら、やっぱり強行突破しかないんじゃないか?聖、行ってみようぜ?」

果ての魔王、強烈ですね。聖と究のどっちが強いかを考えてみるのも楽しみの1つという事で。


ありがとうございました

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