ジェントル・ダイアログ
ハンダーが居なくなったんだし、探せるのは恐竜たちだけか。
「みんな、お願いね」
オッケー。
「ルース、赤い巨人は?」
「え、どこ行ったんだ」
「森の中に消えていった」
別の男性がそう応えると、ふとルースは顔色を変える。
「赤い巨人の後を追った方がいいかも知れない」
「でも恐竜たち、こっちって言ってるけど」
「もしかしたら、また別の基地があるんじゃないの?」
女性がそう言うとチームの雰囲気にどこか緊張感が流れるが、恐竜たちは止まらず歩いているので私は歩き続き、何となく振り返る。
「仕方ない。今はこっちを優先させよう」
・・・何か見えてきた。
アルバがそう言ってきたので顔を見上げた時、向かっている先とは別の方から異世界の飛行物体がゆっくりと近付いてくる。
ど、どうしよう。
「皆、警戒しろ」
ルース達がもう戦う姿勢を伺わせてしまっている中、空中で停まると飛行物体から1体の緑の塊が落ちてくる。すると瞬く間に緑は赤となり、赤い巨人となった。
あ・・・ハンダー達のチームはもう居ないし、ここにはもう対話をしようとする人達は居ない。
「来るぞ!」
わー、逃げなきゃ、テレサも早く。
赤い巨人が右腕を振り上げた瞬間、1人の男性が一瞬で右腕を“巨大なドラゴンのような顔”に変化させ、更にテレポートして赤い巨人の腕に噛みついた。すると直後、噛み砕かれた右腕と共に赤色の細胞が周囲に飛び散った。
うわ、すごい・・・。
機械の一部と混ざっている大きな赤い細胞が私の近くに落ちてきたので何となく眺めていると、ふとアルバと目が合う。
「食べたらもっと強くなるかな」
するとアルバよりも早くバーム達5体がやってきて、まるで獰猛な動物がお肉を前にしたかのようにかぶりついた。白い肌、黒い鱗、そしてその上に赤い体毛という要素を加えた姿になった5体は嬉しそうに跳び跳ねたりする中、アルバを見ると頷いたアルバは残りの赤い細胞の塊を一口で食べた。
・・・もっと食べたい。
そう呟くとアルバは他の落ちている赤い細胞を拾うように食べていく。バームを撫でてみると、鱗の隙間を補うように生えた赤い体毛は鉄のように硬く、体毛のようにしなやかな不思議な感触だった。ふと見ればもう赤い巨人は食い散らかされていてボロボロだったが、飛行物体から細胞の補充がされると赤い巨人はなんと“細胞感の無い、宝石の鎧を纏ったかのような7メートル級の青い騎士巨人”になった。
そんな、あっちもパワーアップしちゃった。
直後にすかさず男性がドラゴンの顔のような右腕で噛みつくが、鈍い金属音が響き、その歯は青い鎧に浅く食い込んだ。
硬いんだ・・・。
右腕だけ大きいとかそういう訳ではなくバランスの取れた体型だが、その特徴はなんと言っても硬さで、ドラゴン顔の右腕を始め、灼熱の魔法攻撃や、刃渡り2メートルの大剣など、その場に居る全ての能力者の攻撃を受けても軽傷しか負わない。するとまるでわざと攻撃を受けた後のお返しと言わんばかりに、青い騎士巨人は腰を落として姿勢を安定させ、全方位に重低音と衝撃波を放った。
きゃあ!・・・。
私は何も出来ずに倒れてしまうが、攻撃能力のある能力者達はみんなそれぞれ持ちこたえ、果敢に反撃していく。
みんな、この戦いで強くなったのかな。
あーあ、せっかく赤いのも食べたのに。
そう言って落ち込んだバームを抱き上げ、他の4体と共に少しだけ青い騎士巨人から離れていく。
「コロネ、お願い出来るかな?」
「(しょうがないな)」
そういえばどう戦うのかと思った矢先、コロネはなんと2メートルくらいに大きくなり、尻尾が9本になり、シカのような角を生やし、そして周囲に9つの黒い光球を出現させた。
うわあ、でも何か、キレイだな。纏ってる光とか。という事は、魔法系の戦い方なのかな。
バーム達よりも地肌が赤みを帯び、見るからに筋肉が増強されたような姿でアルバが戻ってくると、その鼻息と眼差しから自信を伺わせてきた。
「大丈夫?」
うん。
「コロネもいるから、無理しないでね」
走っていくと、背中全体の鱗から熱気を洩らしたアルバは直後、その大きな口に見合った火球を吐き出した。まるで隕石みたいな強烈な火球は青い騎士巨人を真っ直ぐ襲ったが、目を見張るほどのダメージはなく、青い騎士巨人は掌から撃ち出す衝撃波で反撃する。
あっ。
踏ん張ったものの倒れてしまったアルバに治療の光を当てる中、コロネの3つの黒い光球から黒い火球が作られて放たれると、それは今までの能力者の誰よりもダメージを伺わせ、能力者の数人から小さく歓喜が湧く。それから5つの黒い光球が青い騎士巨人を取り囲み、光球がお互いを黒い光で繋ぐと、青い騎士巨人は拘束された。しかし直後に青い騎士巨人が全身から重低音と衝撃波を放つと光球は無残にも弾かれてしまい、どこかコロネも苦しそうな身震いを伺わせる。
コロネ・・・。
そんな時にアルバが飛び掛かり、青い騎士巨人はバランスを崩す。そこにドラゴン顔の右腕が突き上げられるように噛みついていき、青い騎士巨人という巨体はようやく尻餅を着く。
「ハンダー達が何かをもたらす保証もないが、それまで持ちこたえるぞ!」
ルース・・・。
能力者達が怒濤の攻撃していくも大きなダメージは与えられず、青い騎士巨人は立ち上がり、掌から衝撃波を撃ち出す。数人が吹き飛んでしまったので治療の光を当てる中、コロネの黒い光球が美しい大爆発を引き起こして青い騎士巨人を押し倒す。しかしすぐに立ち上がると全方位に重低音と衝撃波を轟かせながら、青い騎士巨人は何やら両腕を合わせ1つの砲身のようなものに変化させる。
明らかに、強烈な攻撃・・・。しかもこっちに向けて・・・。
青い騎士巨人の背中から背後に向けて排熱されるような湯気が見えた瞬間、アルバが砲身に飛び掛かり、地面をも巻き上げる凄まじい衝撃波は間一髪で私の横を通り過ぎていったが、しかしその凄まじい風圧で私の体は簡単に浮き上がり、盛大に転んでしまう。
テレサ!・・・大丈夫?
バーム達が一斉に寄り添ってきてくれる中、ふと青い騎士巨人を見るとターンしながら流れるように衝撃波を払い出し、アルバを盛大に吹き飛ばした。
アルバ・・・。
やばくない?ヴィレッジまで逃げた方がいいよ。
「ノブ、代々木公園の異世界の人達が動いたっていうか、何人か降りてきてるみたいよ?」
「あぁ、メールが来た。異世界の奴らから」
「どうやって?それもマナライズで?」
「だろうな。誰かのパソコンでも操ったんだろう。取引をしようって事だが、念の為何人か連れていく」
するとミントと話していたノブは周りを見渡すと、なんと僕を見た。
「聖、あいつらからの指名だ。チエヒメとお前を連れてこいって」
「え、それ、決裂したら戦うんですか?」
「まぁ、その可能性は高い。ただお前らだけっていう指示はないからな。シンジとショウタとセイシロウ、あと聖のチームの、なんて言ったか、万渉術の」
「柳菜ですか、柳花ですか」
「え?」
「分身も新しい名前にしたんです」
「そうか、まぁどっちでもいい。でミント達は計画通りアメリカに」
「うん分かった。気を付けてね」
僕と柳花だけ、代々木公園か。元々チエヒメさんは狙われてる訳だしな。アメリカの部隊と一緒に動き始めたって事なのかな。
「何だ、聖は残るのか、俺の魔王の力見せたかったんだけどな」
「まぁまた今度って事で」
「あぁ」
ミント達とシールキーの扉に向かっていく究や凉蘭達を見送ってから、そしてノブ達と代々木公園にとりあえずやって来る。
戦闘は・・・してないみたいだな。アメリカの事を見て知らない能力者が潰しに来るかもとか思ってたけど。
ノブ達が歩き出し、ふとチエヒメを見ると緊張したような顔を見せてきた。
「大丈夫?」
「妾は大丈夫じゃ。しかし・・・」
「・・・ん?」
「いや、何でもない」
道路を渡って中央広場のある方に入っていくとすぐに目に入ったのはマスコミで、他の人達が居る事に何となく安心しながらもまたふと目に入ったのはなんとオオモリユキトとウシクだった。
何しに来たんだ・・・。
こっちには気付いてないと思いきや、マスコミの人達がノブ達に気付くと2人もこっちに気が付き僕と目が合ってしまう。だからといって別に話すような仲じゃないので近寄らないでいると、ウシク達はまるでやじ馬に紛れるように指定自警団を追うマスコミを追ってくる。
・・・暇なのかな。
地面に停まってる飛行物体の前にもマスコミが居て、異世界の人達がすでに何やら平和的に取材を受けているようで、そこにノブが声をかけてマスコミの人達が道を開けると、ふと僕の胸には一気に緊張感が充満してきた。
「取引は、マスコミの中でやるのか?」
「いや、中で」
男性がそう言って飛行物体を目で差すとすんなり背中を向けて歩き出したので、何となくマスコミやウシク達を横目にしながら、飛行物体から出てきたタラップを上っていく。そして飛行物体に入るとそこは何やら木造かと思ってしまうほどの初めて感じる感覚だった。
うおお、異世界の飛行機。コンクリートでも木造でもないっぽい、何だこりゃ。
SF映画で見るような白くて円いテーブルの前に案内される中、ふと感じたのは何となく敵意とか闘志とかそういう雰囲気がないという事だった。間もなくその飛行物体に乗っていた異世界の人達が全員集まってくる。
あれ、まさか、このままヤバイ事になったりして。マスコミの中じゃ話せないけど、ここ、逃げられないよな。
「そう警戒しなくていい。我々の要求は当初より変わらない。シンリュウセキであるその女だ。その女は、見た目は女だが人間じゃない。シンリュウセキが自らのエネルギーで作った器だ」
「でも、あの、普通に食べたり、寝たりしてますけど」
「・・・まぁ細胞から人間を再現しているからな。生物的には人間だ。しかしシンリュウセキを取り出せば、生体機能を維持出来ないだろう」
え、だから、チエヒメさんは命を狙われてるって。
「分かってるだろうが、今アメリカでは大規模な戦闘が行われてる。何故なら我々はシンリュウセキを手に入れるまで定住に近い待機をしようとしてるからだ。だから簡単に言えばシンリュウセキを渡せば、即刻アメリカでの戦闘は終わる」
「この世界には来ないと約束するのか?」
ノブがそう聞くと、まるで立ち飲みでもしてるかのような雰囲気でその男性は敵意の無い表情で目線を流していく。
「オレにそこまでの決定権は無いが、これほどの戦闘力がある人間が居る世界では本来の目的を果たす為の活動がままならないからな。その可能性はあるだろう」
「でも、本来の目的って、大虐殺ですよね?」
勇気を振り絞ってそう聞いてみると、僕を見たその男性の眼差しにちょっとした諦めを感じた。
「オレ達は一軍人だ、上層部の指令に文句を言う立場じゃない」
「じゃあ、やっぱり・・・」
「渡せない、か」
あれ、あそっか、心読まれちゃうんだっけ。うわ。
「それならそれで、仕方ない」
アメリカが人質って事だよな。でも、能力者が集まれば、負けないし。
しかし脅しっぽくそう言ったものの、男性は何やら考え込むようにノブや僕達から体を横に向ける。
でも、異世界からどんどん軍隊が来たら、負けなくても世界は大変な事になっちゃう。どうしよう。
「意外だな。てっきり好戦的な交渉をしてくるかと思ったが、1つ聞くが、あんたらはアメリカの部隊とは違う部隊なんじゃないか?」
「違う部隊、という事はない。目的は同じだ。ただやり方が違うだけだ。味方に出来るかなんて事は思わない方がいい」
「そうか。でもあんたらは大規模な戦闘をしてまで奪おうとは思わないんだよな?」
「まるで、オレ達が引き起こしたような言い方だな」
「え?違うのか?」
「お前達も同じだったはずだ。そしてそれは我々も同じ。異世界とかは関係ない。お前達だって最初、初めてマイセルがこの国に投下された時、真っ先に戦闘して迎撃したはずだ。我々だって逆の立場ならそうする。アメリカの者達だって、危険を感じたから防衛の為に先制攻撃をしたに過ぎない。だが我々は安全で広大な待機場所を探している。簡単には退けない」
「だからって、このままじゃ戦いが長引くだけだ。お互いを敵だと認識したままこんな風に交渉すら出来ない」
「大きな問題は無い。能力者がどんなに集まっても我々には敵わない。すでに基地建設はほぼ完了しているし、マイセルの限りない増強に戦況はやがて膠着する」
「シンリュウセキが手に入るまで、本当に定住する気か」
「今のところ、それが上層部の決定事項だ」
異世界の人達が、この地球で暮らすのか・・・。
ユキトとウシクは、カメオ出演ってやつですかね。
ありがとうございました




