アクティブ・オブザーバー
「誰か!加勢してくれ!」
「俺が行く」
私とコロネにアイコンタクトしてウルフが飛んでいった時、小型恐竜のバームがちょっと強めに甘えてくる。
コードの先、行こうよ。
「分かってるけど、治療役が居なくなったらみんな困るし。夜が開けたら戦いが始まったし、結局行くタイミング無かったね」
グランドキャニオンって広いんでしょ?もしかしたらこの戦いも陽動かもよ?
「え、まさか、そんな」
「(行ってくれば?治療役なんていっぱい居るよ)」
「そうだけど」
「(自分もテレサについて行こうかな。面白そう)」
「それはさすがに──」
その瞬間、コロネの周りに5匹の同じ黒いキツネが現れ、更にはネットニュースで見覚えのある般若のグリフォンも1体現れた。
「(何か問題ある?)」
「・・・無さそう、だね」
大勢が戦ってる中で1人違う目的を持つ事に少しだけ後ろめたい気持ちはあるが、バームを筆頭にレオン、クレイ、ヴォーデ、モートも嬉しそうに足取りが軽く、ふと見上げると大型恐竜のアルバが宥めるような気持ちを送ってきた。
この広いグランドキャニオンで、もしこの戦いですら陽動だったら、か。・・・あ、ヨハン。
「ヨハンっ」
「ん、どうしたんだい、そのキツネは、確かリリコの」
「うん。リリコ達の代わりに加勢してきてくれたの。それで私達、気になる事があるから、ちょっと戦線を離れる」
「何をするんだい?」
「照明装置のコードを辿るの。電波塔の方角とはまた違う方に伸びてるから、確証は無いけど、また別の目的があったらこの戦いもまた陽動って事になるし」
「そうか。それならさっきそういう事をしようと、何人かヴィレッジを離れていった」
「え、そうなの?」
「透視する能力の持ち主でね。地面に埋まったものを辿ると言っていた。イギリス人だそうだ。追いかければ追いつくだろう」
地球上の全ての能力者を集めるんだもんね、そういう人も沢山いるか。
嬉しそうにテンションが高いバームを先頭に、とりあえず昨日掘り起こした照明装置からコードを辿って歩いていく。グランドキャニオンヴィレッジから南には空港とそれに隣接したヴィレッジがあり、異世界の電波塔はグランドキャニオンヴィレッジから東にあるのだが、コードが続いているのはグランドキャニオンから西の方角で、しばらく歩いているとこの世界の能力者と思われる人達が見えてきた。
「あなた達もコードを辿ってるの?」
アルバの存在にすでにその7人組の人達は振り返っていて、声をかけてもみんな見とれるようにアルバを見上げていた。
「あぁ。すごいな、強そうな恐竜だ。どこのグループだ」
「私はデュナンズ・ナイツ。因みに、最初に照明装置を掘り起こしてコードを見つけたのはこの子だから」
「え?そうなのか。でも関係ないだろ。調査が必要になったら結局人手集めるんだろ?」
「そう、だけど。何か見つけた?」
「こいつは遠くが見えるんだが、例の赤い巨人が居るんだと。その大きな恐竜はやれるのか?」
あの赤い巨人かぁ。
アルバを見上げると、アルバはまるで犬みたいに怯えたような気持ちを見せてくる。
「多分、勝てない。でもコロネなら勝てるかも」
「ハハッそのキツネか?悪いが、オレは援軍を要請する方が賢明だと思う」
「赤い巨人の他には?何を守ってるの?」
「恐らくは基地だと思う。何かの建造物であるのは確かかな。早めに叩いた方がいいと思う。でも・・・」
「何だよ」
「いや、何か、本当にこのままでいいのかなって」
「だから援軍呼ぶんだろ?」
「そうじゃなくて、きっと、能力者には勝ち目なんて無いんじゃないかな。戦争をしない選択肢だってあるんじゃないかな」
「それは無理だ」
「何で、言い切れるんだよ」
「地球は1つしかない。余所者が住める場所なんてない。例え今停戦しても、人口増加と領土の取り合いで必ず争う。今あいつらを追い出さないと、後々大きな問題になる」
リーダー気取りの男性と、少し大人しそうな男性は今日出会ったかのような雰囲気で、やはりそこまでチームワークが整ってないのか、すると大人しそうな男性は意を決したように1人で歩き出す。
「おい」
「オレは話し合ってみる。同じ人間なんだから、話し合えない事はないはずだよ」
「同じ人間かどうか分かんないだろ。おい!待てよ!」
あっ・・・と、ケンカになっちゃうかな。
リーダー気取りの男性が大人しそうな男性の腕を掴んだところで何やらコロネが前に出ていく。
「(あのさ人間さん、地球は1つしかなくても、人口が過密になったらそれはそれで何とかするんじゃないかな。こっちの人間があっちに移住する事も出来るし)」
「あ?人間の戦争に口を出すな」
「(バカじゃないの?)」
「何だと?」
「(自分だって地球で生まれ育った動物なんだけど)」
「それは・・・いやでも、あっちは侵略する気なんだろ?話し合いなんて無駄だろ」
「やってみなくちゃ分からない。だったらオレ、向こうの世界に行ってみる。それで仲間になってくれる人を集める」
「え、それ、むしろもっと難しいだろ」
「そうかな。悪いけど、ルースとはここまでだ。オレはオレの道を行く」
「そうか。どうなっても知らないからな」
「1人で行くの?せめて同調する人を集めたら?」
私がそう言うと、歩き出した大人しそうな男性は振り返り、他の人達を眺める。
「みんなルースに賛成なのか?」
「・・・・私も行く」
1人の女性がそう言うと同じように男女がもう1人ずつ前に出ていき、そしてその4人は歩き出した。
「ハンダー!」
ルースと呼ばれたリーダー気取りの男性が声をかけると、大人しそうな男性が振り返る。
「赤い巨人はお前の考えなんか知らない。どうやって通り抜ける気だ」
「相手はこっちの心が読めるんだ。行けばきっと分かってくれる」
「それじゃ答えになってない」
ルースは、結局ハンダーが心配なのかな。
そんな時にコロネがルースに歩み寄り、顔を見上げた。
「(囮になってあげたいならそう言えば?)」
「は?だ、誰も、そんな事言ってないだろ。オレは無駄が嫌いなだけなんだよ。作戦も無しに行くなんてバカだって言ってるだけだ」
「悪いなルース。囮、頼んでいいかな」
するとルースは人に聞かせるような大きな溜め息を吐くと、ルースに賛同する他の人達を見た。
「赤い巨人と戦うなら、元より援軍が必要だ。援軍が来てオレ達が行ったら、回り込め」
「あぁ」
それから援軍が来て、いよいよ作戦が始まるという時、ふと見たのはルースとハンダーの決意の顔だった。
「オレ達は命を優先する。お前も危ないと思ったらすぐ戻れよ」
「いや、大丈夫なんじゃないかな。話し合えたら赤い巨人を止めるように頼むし」
「ハッそんな上手くいかないだろ」
「やってみなくちゃ分からない」
意見は平行線だがそして2人は頷き合い、ルースのチームが真っ直ぐ向かっていったので、ハンダーのチームと一緒に大きく回り込んでいく。
「助かるよ。君の能力」
「うん。こういう時は助け合いだから」
程なくして赤い巨人は動き出し、ルース達と戦闘を始めたので、どれくらい回り込めばいいかをハンダーに教えながら、そして地面に降りて停まっている飛行物体の前までやって来る。すると飛行物体からは戦闘スーツじゃない男性が3人降りてきた。
「マナライズしてるなら分かるよね?戦う意思は無い。話がしたいんだ」
「あっちは囮か。ん、何だその生き物」
「(悪いけど、自分はマナライズをブロックするから)」
「絶対に倒せない最強生物、名はコロネ。お前からじゃなくても、お前の情報は読み取れる」
「(でも外側だけだけどね)」
するとその男性は私を見てからアルバを見上げ、何やら少しだけ表情をにやけさせた。
「エネルゲイアの力か」
「(何それ)」
「異世界とは言え、同じような言葉がある。自分で調べろ。・・・お前の考えは甘い」
するとそう言って男性はハンダーを見る。
「軍の目的は侵略じゃない」
「え」
「破壊だ。ただ破壊兵器を試す為に来た。元より指揮系統はお前達のような者とは話す気は無いだろう」
「じゃあ、君達は違うの?こうやって話してるし」
「勘違いするな。オレはあくまでアクティブ・オブザーバーだ」
「観察者。でも敵意が無いのも事実だよね?」
「否定はしない」
「でもその破壊兵器を使うような雰囲気が見えないけど、まさかあの万能細胞?」
「いや。少々事情があるだけだ」
「(今は持ってないんでしょ?破壊兵器。だから取り戻すまで軍隊の整備しか出来ない)」
「まさか、お前も人間の心の内が分かると?」
「(まあね)」
「そうか」
話している男性が他の男性に振り返ると何やら1人が去っていくが、話している男性は至って冷静さを崩さない。
「どんな軍だって、派閥や反対派が居るはずだ。ましてや破壊兵器を他の世界で試すだなんて」
「確かに、だからこそのオレのような者が居る。だが今のところそういう色合いは目立ってない。何故なら極秘事項だからな。こんな事が世間に知れ渡ったらそれこそ大問題だ」
その時、突如上空に何かが音速で飛んでくるのが分かると、それは上空でターンし、飛行物体のすぐそばに着陸した。
わぁ、機械とかじゃなくてオーラを纏って飛ぶんだ。アニメみたい。
「あんたらはここで何してるんだ。ていうか言葉通じないか」
「何をしているかと聞かれれば、何もしていない」
「お、通じるのか。何もって、逃げなくていいのか?あっちの方じゃ異世界の軍隊はもうほぼ敗北だぞ」
「何だと」
「(自分みたいなのが1匹だけだなんて言ったかな?)」
「お、ここにも居るのか。能力者が束になっても防戦一方なのに、最強生物が来た途端に一気に優勢になったんだ。あんたが呼んだのか」
「(まあね。異世界だろうと、人間が自分達には敵わないよ)」
2人の異世界の男性達が明らかに焦るような表情で、何やら異世界の言葉で話し合う中、音速の男性は飛行物体を物珍しそうに見上げる。
「あなたは何しに来たの?」
「オレは、まぁ、観察かな」
オブザーバー、か。何か、逆に異世界の人達にちょっと親近感を覚えちゃうかも。
「オレをそっちの世界に連れてってくれないかな」
「極秘事項を世間に言い触らすか。上手くいく訳がない。異世界の人間だと知られても、お前に群衆の心を引き付ける力があるとは思えないな」
「やってみなくちゃ分からない。それがオレのポリシーだ。こんな一方的な侵略は間違ってる事は確かだ。群衆の心を引き付けるなんてそれで十分だ」
「楽観的過ぎるが、まあいい。仲間にはなってやらないが、手は貸してやる」
「ほんと?何で?」
「オブザーバーだからだ。それからどうなるかは知ったことではないが、誰かの進む道を阻むのは本意じゃない」
異世界の男性がもう1人に顔を向けると、その男性はまるで反対するような態度は見せず、ただ小さく頷き、飛行物体に向かって歩き出す。
「オレはハンダー。君は」
「・・・センオズ。ついてこい」
やってみなくちゃ分からない、か。良い事だよね。上手くいくといいけど。
「コロネはどうするの?」
「(異世界?)」
「うん。もしコロネが行ったらすごく役に立てると思うけど」
「(まあそうだね。自分もオブザーバーだし)」
「あはは、そっか」
「面白そうだな」
オーラの男性もしれっと一緒に来て、そしてみんなで飛行物体に入っていくと、その内装はまるで海賊船のような質素なものだった。
わあ。さすがに木造じゃないけど、機械的な感じが無い。でも飛行船なんだから機械だよね。不思議。
「君も来るのか?」
「私は、残る。このまま勝手に行ったらみんなに心配させちゃう」
ハンダーにそう応えた瞬間、何で自分も上がって来ちゃったんだろうとふと我に返る。
「なら、降りてくれ。この船ごとゲートを抜ける」
「うん。あの、ハンダーもみんなも気を付けて」
「あぁ、ありがとう」
たった1人で飛行物体を降りたが、そこにはアルバ達が寂しそうに待っていた。
「ごめんね。何となく入っちゃった。あれ?コロネ」
「(最早どれが分身か分からないっていうんじゃなくて、全部が本物だよ)」
「そうなんだ」
飛行物体が浮き始めたので何となく少し離れ、それから空中に小さなホールが出来てそれに向かって飛行物体が入っていき、そしてホールは消えた。
行っちゃった。・・・コロネも居るし大丈夫だよね。
「おい」
ん、あ、ルース達。
「赤い巨人は?」
「戦意を納めた。ハンダー達は、まさか本当に異世界に行ったのか?」
「うん」
「そうか」
「やっぱり心配なんだ」
「・・・心配はしてない。けどこれで基地の探索がしやすくなった」
果たしてアクティブ・オブザーバー達は戦争を変える事が出来るんでしょうか。
ありがとうございました




