トゥー・ザ・ウォー
「あっちって、照明装置なんて無いだろ。あいつらだって暗闇で何をしようっていうんだ」
「暗闇でって、あっちの世界にも暗視スコープくらいあるんじゃない?」
そう反論すると私を見たカミーユはまた1人で慌ててる事を自覚するように言葉に詰まっていく。
「でも照明装置なんて使ってヴィレッジを侵略してるんだ。ヴィレッジを生活拠点にしようとしてるに違いないだろ」
「それはそうだろう。でも違う作戦を同時に平行してるのかも知れない。例えば暗闇の中で何かを作ってる最中に、陽動としてヴィレッジを侵略する。しかしただの陽動じゃない。侵略自体もまた1つの作戦だ」
カミーユに向かって今度はウルフが冷静に反論すると、カミーユも冷静に頷く。
「1つの作戦を陽動としても併用してるのか。手強いな。だったらその作戦が2つだと限らないんじゃないか?」
「あぁ。暗闇に乗じて、他にまだ何かをしている可能性はある。調査しよう」
「そうだね。でも壁だって作らないと。ウルフはカーボンなんだから壁を作って。調査は私がやる」
セシルがそう言ったそんな時に私の小型恐竜たちが一斉に私に向かって小さくジャンプして訴えかけてくる。
「分かったから落ち着いて。セシル、この子たちも調査チームがいいって」
「うん。鼻が利きそうだし、役に立ちそう」
ふとウルフに振り返ると、私と目が合ったウルフは私が何かアクションを見せるのを待つように見つめてきたので、とりあえず小さく頷くと、ウルフも小さく頷いた。
・・・何で頷いたんだろう。まあいいや。
「正確な距離は分かる?」
「分からない」
男性がそう応えるとセシルは特に残念がる様子もなく頷いてすぐに歩き出す。するとセシルはタクトを出現させ、目の前に向かってタクトをゆっくりと振った。
「どうするの?」
「私の“波動魔法”は攻撃するだけじゃないから。でもほとんど戦闘でしか力を使う機会が無かったからみんなも知らない。本当はね、私の力は衝撃波を操るんじゃなくて、“波を操る”力なの」
「波・・・」
「衝撃波に限らず、あらゆる音波を作れる。エコーロケーションって知ってる?」
「イルカの?」
「そう。・・・・・うん、地形は分かったから、もう暗くても森を歩ける。はい」
直後にセシルがタクトで私の額を優しくノックすると、まるで見えないのに分かるように地形を認識出来るようになった。
「すごい!何で?」
「エコーロケーションは返ってくる超音波で距離感や地形が分かるでしょ?その返ってくる地点をテレサの頭の中にも作ったの。ちょっと進んでみよう」
「うん」
すごい、セシル。そんな事が出来たんだ。これなら私の恐竜たちも歩ける。
ヴィレッジを少し外れればもう真っ暗闇で、普通なら1歩も歩けない場所なのに、まるで見えてるように歩いていく中、恐竜たちは臭いも嗅ぎながら楽しそうに進んでいく。
「みんな、バラバラになっちゃだめだよ?え、うん、そうだけど」
「何て?」
「バラバラになった方が効率が良いって」
「あはは、全然言うこと聞かないんだ」
「元々主従関係じゃないから、心で繋がってるだけだし」
「そっか」
後ろを振り返ると私の大型恐竜はどこか不安そうにしていて、体が大きいからその分足音や葉っぱと擦れ合う音が余計に響いてしまう事がどうやら本人も嫌そうだった。
「空飛んでみたらどうかな」
真っ暗闇なので様子や態度は分からないが、心では大型恐竜は閃いたように頷いたので、翼を羽ばたかせず静かに浮き上がっていくのを感じながら木々を避けて少しずつ進んでいく。
「ちょっと待って」
目では見えないがセシルがそう言ったので立ち止まるが、心で感じる限り、恐竜たちは自由に歩き回っている。
みんな、セシルが止まってって。何かあるんじゃない?
何にも無いよー。まだ人間の臭い感じないし。
あっ見つけた、コードの臭い。
「えっ」
「え何どうしたのテレサ」
「私の恐竜がコードを見つけたって」
「え?」
「えっと、さっきね、照明装置を掘ってたらコードが出てきたの」
「コード?照明装置ってワイヤレスじゃないんだ」
「ふふ、ウルフと同じ事言ってる」
「え、だって、普通そう思わない?」
「そうだね」
ねえ、早く早く。
「待って」
うわ結構遠いところまで行っちゃってる。もーそこで待っててよ?
うん。
コードの臭いを見つけた恐竜の下にようやく追いつくと、その子はまた穴を掘っていて、コードを噛む前に抱き上げる。
もう噛んでも平気だよ?一回食べれば耐性つくから。
「そうなの?でも、照明装置に不具合が出たら怪しまれちゃうよ」
そっか。
「結構歩いてきたけど、変わった臭いは?」
こっちだよー。人間の臭いが強くなってる。
100メートルくらい離れてる別の恐竜が呼んでいるのですぐに追いかけ、そして辿り着いた直後、返ってくる超音波で理解出来たのはまだすごく遠いが何かが動いているという事だった。
「セシル」
「うん。本当に何かやってるみたい」
「そういえばセシル、さっきは何を見つけたの?」
「地面の中のもの。でも考えればそれがきっとコードかも知れない」
「そろそろ戻った方がいいんじゃない?」
「もうちょっと。出来る限り調べた方がいい」
わあ、何か来る。
えっ。
「セシル、何か来るって」
みんな集まって。
「見張りかも。でもあっちだって見えてないと思うよ?私みたいに超音波出してるなら別だけど」
「どうしよう、逃げないと」
「うん、仕方ないね、下がろう」
5体の小型恐竜も集まったので静かにヴィレッジに戻っていく中、返ってくる超音波で感じる限りはこちらの方にゆっくり向かってくるものは人間みたいで、しかし特に私達を目掛けて来てるような感じではないので時々振り返りながら、そしてヴィレッジに戻ってくる。
あ、ヨハンとブリュンヒルデ。
「様子見に来たの?」
「あぁ」
「それで何か見つけたのかい?」
「エコーロケーションで見た限りは建造物らしきものだった。でもそこまで大きくないから、日が昇ってからでも阻止出来ると思う」
セシルの報告に2人は冷静に頷き、それから何十人もの能力者が集まってきて、2つのヴィレッジも壁で囲み終えたところで、リュウナ達は一旦日本に帰っていった。キャニオン側のヴィレッジの基地の前で恐竜たちと休憩を取っていると、そこにヴィレッジに住んでいると思われる子供がやって来た。
「何だその生き物」
すると小型犬ほどの大きさだからか、男の子は恐れる事なく近付き、1体の小型恐竜を持ち上げた。
「私の力が元になって出来たんだよ」
「お姉さんが作ったんじゃないの?」
「私の力はペガサスを作れるの。でもそれを緑の恐竜に食べられちゃって、そしたらこうなったの」
ペガサスを出してみせると男の子は小型恐竜よりも嬉しそうな笑顔を浮かべ、ペガサスに乗せてあげるとまたいい笑顔で笑う。
やっぱりいいな、笑顔って。子供の笑顔が見たくてワールド・クロスに入った時の事、思い出すなあ。ペガサスを見れば大体子供は笑顔になるんだよね。
しばらくすればヴィレッジには100人を超える能力者が集まっていて、ヨハンが指揮を取って簡単な説明や指示を出してる雰囲気に私自身もすごく心強くなる。
「ウルフ、そういえば日本の代々木公園に居る異世界の軍隊はどうしてるのかな。ここみたいに動いてるのかな」
「帰る前に聞けば良かったな。でもリュウナ達からは何も言わなかったし、問題無いんじゃないのか?」
「そうだね」
「それに緊急事態ならリリコ達からも連絡があるだろ」
「うん」
特に何もする事が無い時間が流れているので何となく小型恐竜を1体抱き上げ、夜空を見上げる。
「今の内にやっておくか」
ん?・・・。
ウルフを見ると、握りしめた何かを胸元に置き、目を瞑っているのでそのままほのかな光に包まれるのを見つめる。そして目を開けたウルフは安堵したように息を吐き、自身の手を見下ろした。
「どんな力を願ったの?」
「圧力を操る」
「例えば?」
「空気を圧縮して背中から解き放ち、推進力を得る。リングの光の弾だって圧縮して強化する。カーボンだってより強固になる」
「すごいね。ウルフらしい。私も今の内に使わないと」
小型恐竜を下ろしてポケットから鉱石を取り出す。
「焦らなくてもいいんじゃないか?」
「焦ってないよ。私もアイデア浮かんでるから」
目を瞑って祈り、手の中の鉱石の感触が消えたのを理解して目を開ける。
ふう・・・。
「何を願ったんだ?」
「空間把握と干渉」
「難しいな。何が出来る」
「周囲50メートルの中ならどこに人や動物が居るか分かるの。それが把握。干渉は、同じ範囲内のものをテレポートさせられる。私自身は出来なくて、物や人をテレポートさせる。そうすれば私の治療の光が範囲内のどこでもすぐに届けられる」
「なるほど」
「さっきセシルと一緒に調査してた時に浮かんだアイデアなの」
「そうか」
「ウルフのそばには居たいけど、近すぎたら邪魔だしね」
「え?」
え・・・。
ふとウルフと見つめ合うと、何か変な事を言ってしまったかと何となく焦ってしまう。
「治療役、居なくていいの?」
「いや、居て欲しい」
「うん。でしょ?」
逆に代々木公園の飛空挺は何してるのかなぁ。気になるなぁ。
夕食を食べながら、相変わらず代々木公園に滞空している飛空挺を眺め、恐る恐る中まで覗いてみると、軍人達はいかにもドラマで見るような近未来な空間で、操縦席に座っていたり、中央の会議テーブルで笑顔で歓談していたりと、普通に人間らしくしていた。
りっくん。
「日本じゃ夜ご飯の時間なのに、あの人達夕食中じゃない」
「何か合図とか待ってるんじゃない?」
するとハイミがそう言ってくる。
「合図かぁ。もどかしいなぁ、マナライズ出来ないなんて。あれ、でも逆にこれが普通なのかな。親しくもない人に見られたくないし」
りっくん、すっかりマナライザーだね。
「そう?」
「(リリコの世界にも、何か円柱の電波塔みたいなものあるの?)」
「いっぱいあるよ。それは正に異世界に向けてコンタクトを取るもので、こっちでそれを作れば、もうドアを開けっ放しみたいな事になるのかな」
ドア、開けっ放し・・・。
「ていうか、コロネ、いつから偵察してたの?」
「(さっき。リリコ達が動けないなら、じゃあ自分がやってみようかなってさ)」
「あっちは暗闇だし、コロネが歩いてても気付かれないね」
そう言ってメイルは可愛らしく微笑む。
「ね、黒いもんね」
猫の笑顔、すごいな。可愛い。
「でも気付かれても大丈夫だよ、コロネならマナライズなんてブロック出来るし」
するとプラーハがそう言ってお肉を頬張っていく。
開けっ放しか。
「そうなったらすぐに王子も来るのかな」
「どうかな」
「王子ってどんな人?」
「まぁ・・・王子らしい感じ」
「あは、そっか」
食事しながら軍隊の戦闘力を報告すると、ノブはリーダーらしく深刻そうな表情で頷き、オリジナルブレンドだというお酒を一口飲み込む。
代々木公園の軍隊がいつ動くか分からないのに、お酒・・・。大人だなぁ。
「世界的な組織のデュナンズ・ナイツでも、現時点じゃ敵わないとなると、あいつらが動く時なのかもな」
「あいつらって?」
まるでそう言わせるようなノブの言い方に、究がすぐさま問いかける。するとノブの表情からはどことなく期待が伺えた。
「本当はデュナンズ・ナイツに対抗する為に作ったチームなんだがな、指定自警団の精鋭チームだ。つまり、現時点での日本最強チームって事だ」
うおお、現時点で日本最強。
「メンバーは?」
凉蘭も珍しく期待を寄せるように聞くと、ノブはすぐにミントを見た。
「先ずはミント達が合体したライミだろ?それからシンジとショウタ、セイシロウ、ヒロヤ、シキ、で、オレ。でもどんどん強くなってる奴も沢山居るからな。お前だってそうだ」
ぼ、僕・・・。
「そういう奴もみんなスカウトしてメンバーに組み込めば、異世界の軍隊にも太刀打ち出来るだろう。シンジ達も今は大体暇だしな」
それからノブが緊急招集って言って人を集めると、ホールに集まった実力者達に、この場の空気もガラッと変わる。各々の実力者のチームメイト達も集まってるので結構賑わっている中、ノブが適当にテレビの前に立って最強チームのメンバーを見据える。
「明日、アメリカで異世界の軍隊と戦う。世界で活躍するデュナンズ・ナイツでさえ勝てなかった相手だ。決して深追いはせず、勝つ事ではなく生き残る事を最優先に動いてくれ。向こうじゃ基本的にはデュナンズ・ナイツは味方だ。でももしかしたらアメリカの奴らには敵だった奴も居るかも知れないが、そこは何とか説得して共闘してくれ。敵じゃなきゃそれでいいっていう具合でいい」
結局、大規模な戦争になっちゃうのか・・・。
ウルフとテレサの仲がいつ進展するかもちょっとしたポイントですね。
ありがとうございました




