闇の中の工作
「柳菜っ」
究が呼び、柳菜がセシルとこっちの方にやって来る最中にも5メートル級の、黒光りする人間と同じような赤い人間が地面を激しく叩き、まるで隕石でも落ちたかのような“凄まじい地響きと重低音の衝撃波”を繰り出してくる。そしてそれは激しい土埃を全方位に突き上げさせたので、とっさにチエヒメを抱き上げて離れていく。
「聖、気を付けるのじゃ、マイセルは万能細胞、いかようにも作れる」
それはつまり、永遠に強化されるって事かな。いやでも、どんな科学力でも、限界はあるはず。
「やっぱりチエヒメさん、1人で組織に戻った方が」
「問題はない、聖なら妾を守れる」
「え?」
「意識するのじゃ。体の奥深く、体の芯を燃やすのじゃ」
「えっと、それは、どういう──」
「聖!来るぞ!」
消え入るような究の声に振り返ったその時にはすでに、赤い巨人は衝撃波を生み出す一際巨大な機械の右腕を振り上げていて、チエヒメを庇う為だけに全ての力を込めようとただ集中する。何だか雑音も遠くなり、振り下ろされようとしている機械の右腕をただ見つめていると、直後に振り下ろされた機械の右腕は上空にある飛行物体を殴った。
ん・・・あ。
地上に立つ赤い巨人の右腕の半分は消えていて、右腕の半分だけ上空にあるというそれは正に空間が歪んでいるという情景で、殴った本人も振り返り驚く中、飛行物体は大爆発と共に隕石のように墜落した。
・・・鳥井さん。
「ライム」
ミントとライムの決意の籠った頷き合いにふと目が留まると、直後に2人は両手を繋ぎ合い、黒い光に包まれた。そして光が消えると、そこには翼を4枚持つ1人の女性だけが居た。
初めて見た・・・。
全身から揺らめく、まるで星の光かのような優しい黒光がすごく神秘的で、その女性が小さく深呼吸し、真っ直ぐ赤い巨人を見つめてファイティングポーズを取った直後、空気を震わす爆音を残して飛び出していった。
すごい、音速・・・かな。
赤い巨人にしたら小動物くらいの大きさだが、その女性のパンチは凄まじく、赤い巨人は激しく頭を揺らし、クリティカルヒットを食らったボクサーのように尻餅を着いた。
あんな切り札があったのか。
それでも素早く立ち上がった赤い巨人は左手のジャブや右腕の裏拳を繰り出していくも、その女性を捉える事は出来ず、そして再びの突撃パンチに倒れ込んだ。
あんなの、僕と究の力を合わせても勝てないのに。
それから赤い巨人は起き上がりながら機械の右腕を地面に突き立て、それで立ち上がるのかと思いきや、直後に機械の右腕から重低音が鳴り響いた。
ぐううっ何だこれ・・・耳が・・・。あ、究!・・・。
見えないのに見えるような錯覚が覚えそうなほどの重低音に雑音が潰される中、最初に見たのは究が気絶する姿で、それから先程よりかは弱い衝撃波に軽く吹き飛んだ柳菜とセシルも倒れたまま動かなくなり、振り返るとチエヒメも気絶していた。
くっ・・・。・・・・・ふう、収まったけど・・・まだ耳がちょっとキーンって。鳥井さんは・・・。
ミント達が合体した女性も無事みたいだが、みんなが気絶している光景に絶句して周りを見渡すその表情に、まるで敗北してしまったかのような雰囲気さえ感じてしまう。
何だったの?今の。
「何かあったのか、急ごう」
「うん」
ウルフに応えると、リングに乗っているウルフは速度を上げて1人で行ってしまう。私もペガサスに急いで貰ってようやくウルフに追いつくと、最初に見えたのは機械の右腕が特徴的な赤い巨人だった。
うわ、またマイセルと合体して、あんなに。
「おいセシル!」
ん?・・・そんな。あ、異世界の人も、リュウナもみんな。これじゃ、ヨハン達だって無事かどうか。
すぐに近くに倒れている異世界の女性、そしてリュウナとセシルに治療の光を当てていくと程なくして3人は意識を取り戻す。
「セシル大丈夫か」
「・・・うん」
赤い巨人を見ると、知らない女性とショウが戦っていたが、ショウは全く歯が立たないといった様子で、でもその女性は何とか赤い巨人の動きを抑えていた。するとその時、赤い巨人はまるでやって来た援軍を見るように顔を向けてくる。
「ねえ、ウルフ。ヨハン達大丈夫かな」
「分からない。先ずはあいつを何とかしないと、捜す事も出来ない」
「うん」
見るからに強そうな機械の右腕から唸りを上げ、赤い巨人は女性を殴るがかわされる。しかし巨体を軽々しく回転させ、赤い巨人はその右腕を思いっきり地面に叩きつけた。凄まじい地響き、一瞬にして通り過ぎていった強烈な重低音に、気が付けば私は倒れていたが、目の前には私の大型恐竜が庇ってくれるように立っていて、ふと周りを見れば今度はウルフが気絶して人間に戻っていた。
「ウルフ!」
治療の光を当てて意識を回復させてる間にもショウと女性が向かっていくが、赤い巨人は何度殴られてもスタミナが無限かのように暴れていて、するとそこにアマカゼが近付いていき、赤い巨人に手をかざした。するとその直後から赤い巨人の動きが鈍くなり、それはどこか子供が作ったロボットのようにぎこちなくなった。
バンショウジュツで何かしたのかな。でもあれならもう、サンドバッグだ。
そして諦めたかのように力を抜き、赤い巨人が立ち尽くしたところに女性が突撃し、そこに凄まじい地響きが轟いた。
やった・・・。・・・・・えぇえ!?ホールが。
さっきリュウナに閉じて貰った異次元のホールが新たに開き、そこから再び大量のマイセルが落っこちてきた。
そんな・・・。
「またホールが、クソ」
「いやだって、あっちは自由に開けるんだろ?」
ウルフにカミーユが応えているところで倒れて動かない赤い巨人がゆっくり溶けていき、普通の戦闘スーツの人間になると、その人は右腕の何かをタッチパネルみたいに操作し、私達から離れていった。
自由にホールを開けるなら、リュウナに閉じて貰っても意味ない。どうしたらいいんだろう。あ、ヨハン。
高速移動でヨハンがやって来るが、その瞬間目に留まったのは初めて見るヨハンの深刻そうな顔色だった。
「ジャックを含め数名が死んでしまった」
「え・・・」
「このままだと犠牲が増える一方だ、一旦退くしかない」
「いや、こっちには万能の超能力者が2人も居る」
すぐにウルフが反論するが、ヨハンは小さく首を横に振る。
「それでも彼らも人間だろう?この生物兵器にはスタミナが無い。私達は永遠に戦い続ける事など出来ない。この戦いは長期的に見なければならない」
「でも」
「考えがあるんだ。今は退いてくれないか」
「・・・クソっ」
「まさか、アメリカを捨てるの?」
「いや、一旦そこのヴィレッジを前線基地にする。大勢で固まれば守れるはずだ」
セシルにヨハンが応える間にもブリュンヒルデや他のデュナンズ・ナイツのメンバーがやって来て、同時にその人達を追いかけるように向こうから赤い巨人がやって来る。
前線基地・・・。
途中でアマカゼが何かしたのか、赤い巨人が動かなくなってそしてみんなでグランドキャニオンヴィレッジまで逃げてくると、ナンバーワンのジャックを失ったからかそこはもうすでに敗北感でいっぱいだった。
「あの生物兵器、生半可な能力者じゃ敵わない。デュナンズ・ナイツでさえ、ここまで負けるなんて」
みんなの傷は治したが、ジャック派のブレイズの絶望したような雰囲気にみんなも傷が癒えた事などどうでもいいかのように落ち込んでいく。
「そいつらは、誰だ」
「日本の政府管轄の能力者軍隊だ」
「ああ、例の」
ブレイズの問いにヨハンが応えると、何か良い考えが浮かんだのか座り込んでいたブレイズは立ち上がり、すでに気持ちを切り替えたように力強い眼差しをヨハンに向ける。
「ジャックは、オレ達を庇って死んだ。休んでる暇は無い。国もグループも関係ない。出来る限り、地球上の全ての戦士を集めるぞ」
「あぁ」
地球上の全ての戦士・・・。
「もうすでにニュースやSNSでこの戦いの事は知れ渡ってる。後は呼び掛けるだけだ」
「だったらキャンベラ支部だよね?私、すぐに行く」
「あぁ。じゃあオレ達は壁を作ろう」
ジャック派の人達がすぐに動き始め、1人が土を操って壁を作ったり、ウルフがそれをカーボンで補強したりして瞬く間に街が壁に囲まれていく中、ふと思ったのは異世界の軍人が攻めて来ないという事だった。そんな時に1体の私の小型恐竜が顔の前に寄ってきた。
「ん?気になるって、さっきの地面の中の照明装置?」
仕方ないので小型恐竜についていくと、先程の掘り返した照明装置を小型恐竜たちがまた掘り出し始めた。するとその照明装置の下からコードが出てきて、小型恐竜たちは嬉しそうに跳び跳ねる。
これは・・・。でも夜の内に埋め込んじゃうなんて。
直後に小型恐竜の1体がコードを噛んでしまい、痙攣して倒れてしまったので治療の光を当てて抱き上げる。
「噛んじゃだめ。え、コードの先?」
別の小型恐竜が地面の臭いを嗅ぎながら、まるで警察犬のように歩いていくのでついていく。
「テレサ、どこに行く」
・・・ウルフ。
「この子達が照明装置のコードを追いかけたいって」
「ワイヤレスじゃないのか、意外だな。でもこの方向は異次元のホールじゃない」
「とりあえず追いかけようよ」
たまに地面を掘ってコードを確認しながら、私の恐竜たちとウルフと一緒にやがて住宅街の外れまでやって来るが、小型恐竜たちは構わずコードを追いかけていく。
「どこまで行くんだ。この方向は何も無いぞ、照明だって行き届かない真っ暗闇だ」
「そうだね。ねえみんな、ここから先は暗いから、朝になったら再開しようよ」
残念そうにリアクションを返してくるが小型恐竜たちは了承してくれたので、ヨハン達が居る方へとみんなで戻る途中、住宅街の住人と思われる男性が私達の方に近付いてくる。
「壁はあんたらが作ってるのか?」
「あぁ。このままじゃヴィレッジが壊滅する。せめてもの処置だ」
ウルフが冷静に応えるが、むしろ男性は不安そうな表情を深める。
「この明かりは一体何なんだ」
「異世界の軍隊の仕業だ」
「何でここなんだ。何故追い払えないんだ」
「いや、これからだ。世界中から能力者を召集する。壁を作ってるのはここが戦いに巻き込まれない為でもある」
「世界中の?・・・そうか」
それでも期待を寄せるような表情は全く見せず、やっぱりここが戦場になる事を不安そうにしながら、男性は家に戻っていく。
「向こう側って大丈夫なのかな」
「向こう側?」
「緑の恐竜だって、こっち側だけに来るはずないよね?向こう側にもヴィレッジや空港があるし、大丈夫かな」
「照明装置が空港まで届いてる情報は無いから、大丈夫なんじゃないか?」
「でも、様子を見に行った方がいいよ」
「そうだな、ヨハンに相談しよう」
適当な平地には誰かが能力で作った建物があり、そこにはヨハン達も居た。
もう基地が・・・。
「ヨハン、向こうの空港やヴィレッジがどうなってるのか見に行った方がいいと思うんだが」
「でも照明は届いてないわよ?」
「全く被害が無いとは言い切れないだろう、例えば緑の恐竜が偵察に行ってるかも知れない」
「そうだな。すでにキャンベラ支部が世界中の能力者に有志軍の呼び掛けを行っている。付近の能力者ならもうすぐに来るだろう。せっかくだから、君達にはあっちのヴィレッジで能力者達にこの戦いの事を説明してくれるかい?それにあっちのヴィレッジでも壁を作るよう提案した方がいい」
「あぁ分かった」
「オレ達も行く」
するとカミーユがセシルと並んでそう言ってきて、頼もしく微笑んでくる。
「でもすごい回り込まなきゃいけないわよ?」
「アマカゼ、テレポーテーション、お願いしていいかな?」
私が期待を込めた顔でそう呼び掛けると、ヨハンやブリュンヒルデをキョロキョロと見た後に、アマカゼは大人しく頷いた。それからアマカゼに一瞬で運んで貰うと、すぐに空港が隣接するそのヴィレッジでも戦闘の跡、そして緑の細胞の残骸が見えた。
照明装置も無いし、こっちほどじゃないな。やっぱり偵察で来てたんだ。建物の明かりがあるし、それで戦えたんだ。
「誰が緑の恐竜を倒したのかな」
「捜そう。味方に出来る」
あ、レストランが並んでる。ここは住宅より、ホテルが多いのかな。あ、誰か来た。
「お前ら、地球人だよな?」
「ほぼそうだ」
すると1軒の建物から出てきた男性がウルフのそんな返答に戸惑いの表情を更に深めてしまう。
「ウルフ、ややこしい言い方しないで。私達はデュナンズ・ナイツ。でも中にはまた違う異世界から来た協力者も居る。それであなたは独りで戦ってるの?」
「いや、2人で。グランドキャニオンヴィレッジから来たのか?」
「そう。今あっちのヴィレッジでは壁を作ってるの、異世界の軍隊に対処する為に。ここにも被害が及んでいるなら、ここにも壁を作らないといけない」
「・・・確かに。このままじゃ、ここら一帯があいつらの根城にされる。今この時だって、建設の真っ只中だ」
「え、どういう事」
「知らないのか?ここから北東の土地で、あいつらは何かを作ってる」
「何だと」
遂に、世界中の能力者VS異世界の軍隊という事になりましたね。
ありがとうございました




