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デート

「聖が闘技場に居る時、ミントやユウコ達に教えて貰ったのじゃ。夫婦となる前にやるべき事があると」

期待を募らせるように真っ直ぐ見つめてくるチエヒメを前に、自分でも分かるほど心臓がドキドキしてくる中、ふとその瞳の奥に感じたのは不安や寂しさだった。

「せっかくじゃ、皆の言う順番とやらを踏んでみるのもいい」

「そうですよ、順番は大事ですよ」

「して、デートとは何じゃ」

え・・・。

「僕も、そんなによく知らないですけど。とりあえず、お出かけじゃないですか?あ、でも外に出たらあの人達に狙われちゃうかも」

「そうなったら妾を守るのじゃ」

そうなったら戻ってくればいいかな。でもどこ行こう。この世界自体を知らないんじゃ、どこ行きたいって聞いても分からないだろうし。とりあえず代々木公園に近付かなきゃいいかな。

それからテレビを消して立ち上がると気が付けばチエヒメもついてきて、壁側のベッドに座るとチエヒメも隣に座ってきた。

「こっちに寝るのか?」

「あ、チエヒメさん、どっちがいいですか?」

「妾は聖と共に寝るのじゃ」

「え、でも2つ、あるし」

「2人で寝ても狭くないじゃろう」

確かにシングルサイズよりかは大きいけど。っていやいや。

「さすがに、そんなにずっとくっつかなくてもいいんじゃないんですかね」

「くっつくのが夫婦じゃろ」

「そんなの決まってないですよ」

「そうか。でも・・・傍に居たいのじゃ・・・」

えー、くぅ・・・。こんなに、敵わない相手が居るなんて・・・。色んな意味で、これから強くならないと。

目覚ましのアラームで目を覚ました事を理解した瞬間、目と鼻の先にはチエヒメの顔があり、何となくどう起きていいのか分からなくなってしまう。動いたら起こしてしまうんじゃないかと思いながらも仰向けになり、何となく天井を見つめると、直後にチエヒメが声をかけてきて、顔を向けるとチエヒメは穏やかな笑みを見せてきた。

へ、変に動けない・・・。でもさすが高級ホテルのベッド。寝心地最高だな。

とりあえず起き上がり、掛け布団から出る。

「初めてじゃ、こんなに目覚めがいいのは」

「いつもはどんな場所で寝てたんですか?」

「ベッドはベッドじゃが、こんなに心地よくない」

牢屋みたいなところって、でも本物の刑務所な訳ないだろうし。

ホールに入ると様々な料理の匂いが混ざったような空気が漂っていて、バイキングではなくオーダーで朝食を取っていると、そこにミントとライムがやって来た。

「聖おはよう」

「おはようございます」

「デート楽しんでね」

「あ、はい」

どこ行こうかな。

「チエヒメさん、どういう雰囲気のところに行きたいとかありますか?静かなところがいいとか、賑やかなところがいいとか」

「聖が傍に居るならどこでもいい」

・・・何となくそう言うと思ってたけど。シールキーがあるしな、地球上、どこでも行けるんだよな。



「1機はもうずっと代々木公園に入り浸ってるよ。広いし、ちょうどいいとか思ってるのかな。もう1機は、太平洋上空で、進行方向はアメリカだね。ロシアには行かなかったみたい」

「アメリカか。マナライズという力があればネットの中も見放題なんだよな。もしかしたらもうこの世界の事を把握して、1番強いアメリカをどうにかしようと思ってるのか。分かった」

「うん、じゃ」

政晴の部屋を出ていき、自分の部屋に戻ると、すぐにみんなと一緒にリリコの力で大阪にテレポートする。

「りっくん、どこかでたこ焼き買って食べようよ」

「うん」

「寒いねー」

「そうだねー」

リリコの肩に乗っているプラーハが口を開き、自分の肩に乗っているハイミが応える中、コロネとメイルもリラックスして歩いている姿に何だかそれだけで楽しく思えてくる。

「たこ焼き食べたら、動物も入れる広場とか行く?」

「そうだね」



「どこに行くか決めたの?」

朝食を食べながら何故か自分まで嬉しそうにミントがそう聞いてきて、最早空気が読めないとかそういう考え方すら無いような面倒見の良い笑みに、余計に恥ずかしくなってしまう。

「まだ決めてません。でもなるべく異世界の軍隊からは離れようと思います」

遊びで自分から東京を出た事無いんだよなぁ。でもやっぱり東京からは離れないとなぁ。

そして朝食を食べ終え、ホールの壁にシールキーを貼り、扉を開ける。大阪には来たことはなく、しかもシールキーで旅行感もない事にそこまで気持ちは高ぶらないが、チエヒメが手を繋いできた事の方が妙に緊張してしまう。

「どこに行くのじゃ」

「万博記念公園っていう、すごい広い公園です」

総合案内所の壁から来て、そして中央口の方に歩いていくと、すぐにチエヒメは観覧車に指を差した。

「あれは観覧車か?」

「えっ知ってるんですか?」

「向こうの世界で見た事がある」

「そうなんですか」

遊園地って、どの世界でもあるのかな。

「乗りたいのじゃ」

「はい」



ここが、渋谷・・・。何かすごく変な感じ。この前まで分からなかったのに、能力者の能力で勉強しなくても言語が理解出来るようになるなんて。ずるいけど、いいよね、能力者なんだし。

「意外と寒いね」

「あぁ、ペガサスは出さないのか」

「今はちょっと人が多いから」

「そうか」

何となくウルフの顔を見ていて、気が付くと目の前には標識の柱があり、思わずぶつかりそうになってしまう。すぐに横にずれると今度は人にぶつかりそうになってしまい、一瞬だけウルフを見失ってしまう。

「テレサ?」

ふう。

「大丈夫か?」

「うん、びっくりしただけ」

前を歩いているヨハンとブリュンヒルデが手を繋いでいる事にふと気が付き、何となくウルフの手を意識してしまうが、ウルフと目を合わせてしまうと変に恥ずかしくなってしまい、何となく少しだけ離れてしまう。

「ヨハン、あれ美味しそう」

「終わったら食べるか?」

「うん」

2人っていつから付き合ってるのかな。うわぁ、写真に映えそう。私も食べたい。

それから寄り道もせずに代々木公園に着いたが、やはり異世界からの侵略者を警戒しているのか、物々しい警察車両が道端に停まっていて、更に能力者による巡回なのか単なるやじ馬なのか、それともこれがいつもの渋谷の風景なのか、真っ先に人の数が多い印象を受けた。そして同時に、空に浮かぶ飛行物体が目に留まった。

あれが、異世界からの侵略者。ヨハンがリクジから聞いた限りじゃ、目的はまだ分からないけど、侵略には間違いないだろうって。それにマナライズっていう、人の感情も記憶も見透かす異世界の力。すごく厄介だなぁ。

「ちょっと君達」

そんな時にヨハンに話しかけてきたのはスーツを着た人で、日本の事をよく知らなくても、見せられた二つ折りのそれが警察手帳だという事がすぐに分かった。

「警察の者です。君達はもしかしてデュナンズ・ナイツの人達では」

「そうだが」

「もしかしてその、戦うつもりでは」

「それはあちら次第だ。君達警察と同じように、我々もこの世界を守る為に動いているからね。しかしただ見ているだけでは相手の事は何も分からない。だからこうやって対話しに来たんだ」

「そうですか。あの、これはあくまでお願いなんですけど、戦う事になった場合、周囲への配慮というか、巻き込まないようにして頂きたいんですけど」

「それはわかってる、心配は要らない。今ここには指定自警団はいるのかい?」

「えぇまあ、交代しながら見張ってます」

「そうか、そもそも能力者の世の中だからね、我々が極めて有利だ」

「あの、デュナンズ・ナイツの皆さんは日本にも支部を作ったというのは本当ですか」

「あぁ、そうだが」

「指定自警団のように警察と連携して頂けたり、しないですかね」

「どうするブリュンヒルデ、決めるのは君だ」

「え、そんなの決まってるじゃない。しないわよ」

「そうですか」

即答・・・。ちょっと可哀想かも。でも仕方ないよね。

「デュナンズ・ナイツだって、ワールド・クロスの理念を引き継いでる訳だし、日本とだけ仲良くなんかしないわよ」

「そうですか、すいません」

何で謝ってるんだろ、この人。

「ではお気を付けて」

謝ったと思ったら気遣った。これが、日本人なのかな。

ラインを引いてる訳ではないが、何となくここからは近付かないでおこうという人混みを抜け、途端に緊張してくると、直後に近付いてきた人に応対するように飛行物体から戦闘スーツを着た2人が空飛ぶバイクでゆっくり降りてきた。

「マナライズとやらで分かると思うが、我々はデュナンズ・ナイツだ。我々は世界規模でのテロリスト殲滅を目的としている。無論、異世界からの来訪者でも、それは変わらない。テロリストでなくとも、攻撃してくるならそれには対処する」

「デュナンズ・ナイツ。覚えておこう。つまりアメリカで何か動きを見せても、お前達も動くという事か」

「その通りだよ」

「能力者。不思議な存在だ。正にエネルゲイアといった存在だ。だがお前達の戦力はほぼ把握している。そして我々は、お前達を凌駕する力を持っている。戦争になれば被害は壊滅的だ」

「それは警告かい?それとも予言かい?」

「それは想像に任せる。1つ言える事は、お前達では我々を止められないという事だ」

「随分と好戦的だな。だけど敵を甘く見る者は、いづれ痛い目を見る」

「気に留めて置いてやる」

すると2人はエンジン音を響かせながら浮き上がっていき、そしてブリュンヒルデに振り返ったヨハンは横顔から満足感を伺わせた。

・・・エネルゲイアって、何だろう。



うわぁ、観覧車、何年振りかなぁ。

まだ頂上の折り返しには遠い中、向かいに座っているチエヒメとふと目が合うとチエヒメは笑みを深める。

ふう、普通のデートだ。普通にドキドキする。まさか、僕の人生で、こんなにキレイな人と、付き合えるなんて。あれ、僕、もうチエヒメさんの事、好きになっちゃってる?

「あの、どうして、僕と、結婚しようと思ったんですか?」

「それは聖の体が、すごく気に入ったからじゃ。妾の力は人間にとっては強すぎるのじゃ。少し触っただけですぐに骨が折れる。でも聖はそうではない。だから妾は、聖を見た途端、惚れたのじゃ」

一目惚れかぁ。っていや、どおりで抱き締める力が強かったのか。ん、でもそれっておかしいな。

「聖は、妾が嫌いか?」

「え、全然、そんな事ないです」

「そうか」

人間の状態でも僕の体が潰されないって、僕、まるで人間じゃないみたい。

「そうじゃ、でぃーえぬとは何じゃ」

「DNAですよ。遺伝子の事です。遺伝子は、つまり情報です」

「そうか」

それからちょうど折り返しに入ったところでチエヒメが声を漏らし、嬉しそうに遠くを望み、その横顔はまた僕の心をドキドキさせる。

「いい眺めじゃ」

「そうですね」

観覧車を降りたのでいよいよ万博記念公園に向かおうと思った矢先、チエヒメはまたもや指を差したので、複合型博物館であるニフレルに入ってみる。1階は水族館がベースになったエリアみたいで、チエヒメと手を繋ぎながら、水族館特有の静けさを一緒に歩いていく中、ふとチエヒメの派手な服装に目を向ける人に気が付くが、派手といってもどちらかと言えば日本風の着物なので、周りの人はすぐにチエヒメから目を逸らしていく。

「これはまた奇妙な生き物じゃな」

「そうですね」

異世界から来た人にとっては、こういう場所ってむしろ楽しいよな。来て良かったな。

「あの、指定自警団の人ですよね?ボスモンスターの」

うわ、チエヒメさんより、僕の方が有名か。

「あ、はい、まぁ」

「一緒に写真いいですか?」

「え、あはい」

この人混みだしな、ちょっと不安になってきた。

それから2階に上がると次は動物園をベースにしたエリアになり、奥行きだったり開放感だったりが空気を一気に明るくさせる。

動物、可愛いなぁ。

「世界にはこんなに生き物が居るんじゃな」

「チエヒメさんの世界にもこういう動物園ありますよ、きっと」

「そうかも知れぬな」

いやぁ、動物園や水族館、美術館が一緒になっただけあってすごく洗練されてる。僕も初めてだし、こんなに楽しいなんて。

それからチエヒメと一緒に驚き合ったり、笑い合ったり、チエヒメの派手な服装に目を向けてくる人や僕をちらちら見てくる人が気にならないほど楽しい時間を過ごし、そして休憩がてらカフェで飲み物を飲む。

「これがデートか」

「はい、こうやって一緒に色んなところに行くんです」

「そうか、これが、人間の生活か」

基本的には大人しく全然はしゃがない性格みたいだが、するとチエヒメは行き交うお客さん達をまるで展示されてる生き物たちを見るように眺めた。

主人公プロフィール

テレサ・ウェルナー (22)

ドイツ出身でウルフとは幼馴染。大学生。ワールド・クロス所属。

ボランティア経験をきっかけに治療能力者となる。特に子供の笑顔が好きで、面倒見が良いが、戦いの場に赴く事には不安があったのでワールド・クロスにウルフを誘った。

持っている能力「治療の光」「ペガサス召喚」

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