ドラゴンテイマー
リビングで集まったみんなの前にリリコと一緒に立つと、何となく自分まで異世界の人間になったみたいな変な緊張感を感じた。
「私、勝手に王子の婚約者にされて、それで逃げて来たの。王子の事は私とりっくんで解決するから、みんなは遠慮しないでダコスの人達と戦っていいよ」
「解決ってどうすんだよ」
「けっとーだよ」
無日の問いに応えたのはハイミで、その可愛らしさなのか、場の雰囲気がちょっと脱力する。
「私はりっくんと結婚したいけど、王子はそれなら決闘だって言うはずだし」
「じゃあすぐしちゃえば?結婚」
「でもそれじゃ、王子から逃げる為に結婚するみたいだし、結婚はちゃんと解決してからしたいの」
「ふーん」
急に恥ずかしくなる中、そんな気持ちなど考えもせずぶっきらぼうな物言いの瑠衣のお陰か、逆にみんなは特に囃し立てるような事はしてこない。
「なあ、そのマナライザーって奴への対処法は無いのか?心を読まれない方法とか」
「簡単に言えばブロック。強く念じて、頭から相手の意識を追い出すって感じ」
仁一郎が納得するように頷き、これからの方針が固まったような空気になると、それから会議は終わって政晴が部屋に戻っていったので自分達も部屋に戻り、新しく仲間になった野良猫のメイルをふと眺める。テレビを見ると1機の飛空挺は北海道上空を飛んでいて、そこに自衛隊の戦闘機が近付いていく。
まさか、攻撃するとか。いやしないか、日本だし。でもあのまま飛んでいくと、ロシアだな。
それから自衛隊の戦闘機が何をする事もなく、飛空挺がついに日本の領空を出たとアナウンサーが話した時、スマホが鳴った。
ん、んー、お、おじさんから?
「もしもし」
「やあ六事」
「どうも。どうしたんですか」
「日本に現れた飛行物体の事、聞きたいと思ってね。デュナンズ・ナイツとして少し気になったんだ」
すごいな、組織のバイキング。ほんとに全部無料だなんて。
「これはすごいのう。沢山あるのう」
そういえば初めてだよな。組織で夕食。チエヒメさんに独りは嫌だって懇願されちゃったし。それに・・・。
「聖、どうしたのじゃ」
「あ、いや」
お皿に盛った料理を持ってテーブルに着き、それでも美味しいものを食べて可愛く笑顔を見せてきたチエヒメにドキッとしてしまう。
「チエヒメさん美味しい?」
ミントが面倒見の良い笑みでそう聞くと、まったく普通の人間なんじゃないかと思うほどチエヒメは笑顔を返す。
どういう意味なんだろう、ビルの上で、異世界の人、チエヒメさんを人間じゃないって・・・。
「ミントは、好きな男はおらぬのか?」
「えっ」
え・・・急に恋バナ?
「居るけど」
え。
ふとミントの顔を見てしまうと、一瞬僕と目を合わせたからかミントは少し恥ずかしがるように表情を緩ませる。
「そうか。結婚しておるのか?」
「ううん」
結婚にこだわってるのかな。人間の生活に憧れてるって、やっぱり人間じゃないからなのかな。
「お、聖じゃん」
あ、シンジ君。
「食ったらちょっと闘技場付き合ってよ」
「あ、うん」
シンジ君、何かすごいな、戦うって事自体にもう慣れきってるって言うか。
「聖」
声をかけてきたチエヒメにふと顔を向けると、その何かを言いたそうな眼差しに固まってしまうが、するとチエヒメは僕のお皿に目を向けた。
「それ、1つくれぬか」
「えっと、こっち?」
「そうじゃ」
酢豚の豚肉を1つ、チエヒメのお皿に移すとチエヒメはそれを箸で持ち、口に入れた。
「これは何じゃ」
食べてから聞くんだ・・・。
「酢豚っていう料理です」
「やっぱり肉は美味いのう」
お肉が好きなのか。
「チエヒメさん、向こうじゃどういうもの食べてたんですか?」
「基本的には、プロテインとかいう、ドロドロした飲み物じゃ。しかしその後で時折、優しい者がこっそりと肉や果物をくれた」
プロテイン・・・何か急に可哀想だな。人として扱われてなかった感が結構あるな。
食事を終えて回収トレーにお皿を戻し、シンジと共に闘技場に入ると、そこにはショウジと外国人っぽい知らない女性が居た。
4人か、何するんだろう。
「こいつは聖で、こっちはショウジさん」
日本語分かるのかな。
「この人はヴァネッサ。アメリカから来たんだ」
「日本語は」
「日本に留学してたから」
話せるのか。
「修業したいって言うから、協力してよ」
それって、僕が修業相手になるって思ってるって事か。何かちょっと嬉しいかも。
「うん」
「レベルは」
「フォー」
「合計でか」
冷静さと気さくさが持ち前のショウジが真顔でそう聞くとヴァネッサも真顔で頷き、それから最初は僕という事になったのでヴァネッサと向かい合うと、ヴァネッサは燕尾服っぽいものを身に纏うと同時に“全身が青く光る3メートル級のドラゴン”を出現させた。
召喚系か。
そうかと思いきや、すべてのDNA情報を発動するとヴァネッサは両手に青い炎の玉を出現させ、青い炎から青い炎球を撃ち出してきた。とりあえず黒炎を振り払って青い炎を打ち消すと、直後にドラゴンが口から青い炎を凄まじい勢いで吐き出してくる。
うわっ。
範囲が広いので仕方なく上へ飛び上がるが、そこに青い炎が飛んできて思わず腕を交差して受け身を取る。衝撃と共に青い炎が僕の体を這っていくが、僕が強いのか思ったよりダメージは全然なくて、直後にドラゴンに尻尾で叩かれてしまうが、やはりレベルの差があるのかすぐに体勢を立て直せた。
・・・はあ!
前面に向けて黒炎を爆発させ、ドラゴンを吹き飛ばすと、地面を転がったドラゴンは青い光になって消えた。
あれ、やり過ぎた?全力じゃなかったけど。
しかしヴァネッサの表情はまったく悔しがるようなものじゃなく、むしろ僕の力を認めたかのような頷きを見せた。
手加減されてたのか、初対面だしな。
するとまたドラゴンが召喚され、ドラゴンは直接飛び掛かってきたので黒炎を振り払って牽制する。それでも負けじとドラゴンは僕にのしかかってきて、ドラゴンと一緒に地面に落ちてしまったので黒炎を強く振り払い、ドラゴンを吹き飛ばすが、立ち上がった時にはヴァネッサが青い炎を撃ち出してきていた。
うっ・・・あれ。
真正面から受けてしまったが踏ん張れないほどの衝撃ではなく、その一瞬、唖然とするヴァネッサと目が合った。
まさか、僕が人の覚醒を手伝う側になるなんて。
しかしそれで逆に火が点いたのか、本当に手加減しなくていいと思ったのか、直後にヴァネッサがドラゴンに手をかざすと、ドラゴンは一瞬にして青い光の粉と化した。そしてまた一瞬の内に別の形のドラゴンに形作られると、2メートルほどに小さくなったドラゴンは雄叫びを上げた。
小さくなったけど、強くなったと思うのが自然だよな。
直後にドラゴンは口から青い炎球を吐くが、それは先程のものとは格段に威力が違って、瞬く間に僕の横を通り過ぎていった。
うおっ。
残り香のように熱風圧が体を擦る間にもドラゴンは突撃してきて、のしかかられたと思ったら首を掴まれて、まるで鷹が獲物をさらうように持ち上げられてしまう。それでも両手から黒炎を衝撃波のように放ってドラゴンを吹き飛ばし、更に逆に僕から突撃してドラゴンを地面に叩き落とすが、やはりタフになってるからかドラゴンはすぐに尻尾を振り回してきて、僕も思わず地面に軽く倒れ込んでしまう。するとその瞬間、ふと目に留まったのはヴァネッサから放たれた、ドラゴンのものと同じ青い炎球だった。
くっ・・・。
為す術もなく直撃してしまいながらも背中から黒炎を吹き出し、衝撃を相殺し、そしてリインフォースする。ヴァネッサが驚くような表情を一瞬見せた直後にドラゴンがやって来て、また掴みかかって来たので足を踏ん張り、ドラゴンの体とその勢いをすべて受け止める。ドラゴンも驚いたように目を見開くそんな仕草にちょっとだけ可愛く思えてしまいながら、全身に力を込めてドラゴンの胸元をぶん殴り、同時に黒炎を大爆発させる。激しく飛んでいったドラゴンは観客席まで飛んでいき、そして階段落ちみたいに転がって闘技場部分に落ちてくるが、ドラゴンは立ち上がろうしても出来ずにそのまま仰向けになった。
やった。でも消えないって事は、倒せてはないのか。
召喚されたくせに休憩しているドラゴンを何となく見ているとヴァネッサが声をかけてきて青い炎球を放ってきたので、とっさに横に跳び、ヴァネッサに黒炎の球を返していく。しかしヴァネッサは手の上に浮かせている青い炎の玉を壁にして防ぎ、また青い炎球を放ってきたので、僕も負けじと飛び回りながら黒炎の球を投げていく。ヴァネッサのスタミナが切れたのか、やがて“青と黒の雪合戦”が止むとヴァネッサは腰に手を当て息を整え始め、ふと静寂が訪れる。
バトンタッチとか、しないのかな。
ふとショウジを見るとショウジはムキムキな青いロボットになり、ロボットのくせに屈伸してから僕の方に近付いてきた。
「オレが暴走したら頼んだぞ」
「あ、はい」
シンジを見るとシンジも頷き、ヴァネッサに近付いていく。
「ヴァネッサ、人数増やすけどオレサポートに回るよ」
「それじゃ、2対2って事?」
そう聞くとシンジは何やら僕を見ながらニヤつく。
「その方が面白いだろ」
しばらくして闘技場を出て、何となくいい運動になったかのように満足げな雰囲気のヴァネッサを見ていると、チエヒメがやって来て何やらカードを見せてきた。
「部屋の鍵じゃ、使い方を教えてくれ」
「あ、はい」
カードキーか。何かすごいホテル感。
「じゃあシンジ君、僕は帰るよ」
「あぁ」
カードキーに刻まれている数字の部屋の前に立ち、差し込み口にカードキーを入れる。
あ、開いた。
「カードを入れるだけだし、簡単ですよ?」
「そうじゃな。それは聖が持っていてくれぬか」
「え、でも、チエヒメさんの家みたいなものだし」
「妾がずっと聖の傍に居ればそれでいいじゃろ?」
そう言うとチエヒメは色気のある笑みを見せる。
えぇ・・・。
扉を開けるとそこはいかにも高級ホテルのスイートルームらしい空気感が広がっていて、リビングまで歩いてきたところでふと目に留まったのは、チエヒメの本当に人間のように感心している表情だった。
「妾の家か。広いのう。聖の家もこれほどのものなのか?」
「いやぁ僕の家はこんなにすごくないですよ。ていうかここは高級ホテルなんで、普通はこんなにすごくないです」
「そうか」
もう夜9時前だな。
「じゃあ僕も家に帰りますから」
振り返り、その一瞬で表情を歪ませた事だけでもうすでに何か小さな罪悪感を感じてしまう。直後にチエヒメは近付いてきて優しく抱きつき、そして目を見つめてきた。
「嫌じゃ、離れたくない」
うわ・・・くっ・・・近い。シールキー、直接僕の部屋、でもいいか・・・。
「シールキーで僕の部屋と繋げば、離れ離れじゃないですよ」
「どういう事じゃ」
一先ず壁にシールキーを貼り、自分の部屋を見せるように扉を大きく開ける。
「すぐ僕の部屋なんで、離れ離れじゃないですよ」
「ほう、ここが聖の部屋か。小さいのう」
「いやこれが普通ですから」
すると納得するように頷いたチエヒメは僕をホテルの部屋に押し込めるようにして自分で扉を閉め、ホテルの部屋のベッドに指を差した。
「ならここで共に夜を過ごしても同じ事じゃ」
えぇ・・・。それはそう、なのか?でも母さん達に何て言うか。
するとその時にスマホが鳴り、画面を見るとそれは母さんからの着信だった。
「ちょっとすいません。もしもし」
「聖、もしかして泊まるの?能力者のホテルなんでしょ?」
「兄ちゃんから聞いたの?」
「うん。泊まるくらい全然いいよ?ちゃんと学校行くならね」
「いや能力者になってからもサボった事ないし、じゃあ今日、泊まっていい?」
「うん分かった」
ふう、いいって言われちゃったらな。
スマホをしまうと、チエヒメはシールキーを剥がして僕の部屋への扉を消し、逃がさないと言わんばかりにシールキーを差し出してきた。
しょうがないか。
「聖、トイレは何処じゃ」
「えっと、僕も初めて来たので・・・あ、これじゃないですか」
何となくソファーに座り、ものすごい高層の部屋から見えるような景色を眺めていく。
あれ、そういえば何で電話出来るんだろ。異空間でも電波入るのかな。
何となく2つのベッドに目を向けた時、急に緊張してきてお腹がチクチクしてきたのでとりあえずテレビをつける。
知らない人と泊まりって、どうしよう。
「聖」
振り返るとチエヒメは隣に座ってきて、期待を寄せるように表情を綻ばせる。
「明日、デートするぞ」
「・・・え」
リリコの世界との対決、そしてチエヒメとは一体何なのか──。
ありがとうございました




