シースルー・ダイアログ
しかしすでに拳銃は蹴り飛ばされ、拳銃が転がってようやくミントの隣に居るのはノブの残像だと理解出来た。男性は痛そうに蹴られた腕を軽く擦るが、蹴られた事なんかよりも“すでに蹴られていた事”や“残像が見えるほどの動き”、そしてノブの両脚を覆う“時計っぽさがあしらわれた西洋の甲冑のような、白くくすんだブーツ”に驚くように固まる。
「何だ、お前」
「あんたこそ何だ、いきなり銃を向けやがって、まさか端っから交渉するつもりなかったのか?」
まるで作戦でも失敗したかのように男性は途端に黙り、別の戦闘スーツの人達と顔を見合わせる。
「ふう・・・・・ハハッ交渉だと?元々我らの物だぞ、交渉する必要などあるか」
「それがあんたらの本性か。言っとくけどな、この世界の人間を甘く見ない方がいい。いくら人間じゃないっつったってな、こうやって話が出来て、しかも助けを求めてる奴をオレらは見捨てない」
「・・・だったら、仕方ない」
「あ?」
その瞬間に他の戦闘スーツの人達も背中に手を回したが、拳銃を取る間もなくといった具合に戦闘スーツの人達は見えない衝撃波に突き倒された。
やっぱりすごい、ノブさん。タイムジャンプだっけ。時間を跳んで、絶対にかわせない攻撃・・・。
「ハハッ」
「何笑ってる」
「飛空挺の者達の目にはどう映ったか」
「え?」
「あいつらには、我らが一方的にやられたと思うだろう」
「・・・わざと攻撃させただと」
ふと関節が動くような聞き慣れた機械音が聞こえてくると、飛行物体の脇腹辺りからなんとガトリング砲が出てきて、そして直後にガトリング砲は射撃を始めた。すべてのDNA情報を発動してとりあえずチエヒメの前に立ちはだかる瞬間から、砲弾はビルの屋上をけたたましく叩いてくる。
うわあ・・・・・。
「止めさせて!」
ミントが呼びかけるも、戦闘スーツの人達は一目散にバイクに戻り、逃げるように飛んでいく。
そんな、ノブさんが最初に攻撃した事にされちゃったなんて・・・。
更に飛行物体はミサイルを撃つが、直後にミサイルは屋上に落ちる寸前で爆発した。
ノブさん・・・。
それでもその爆撃は凄まじく、爆音、衝撃、熱波は体を襲い、屋上の表面であるヘリポートの一部が破壊されてしまう。
くっこのままじゃ・・・。あれ?ここは・・・。
気が付けば熱さなど感じなくて、真っ先に理解したのは飛行物体が攻撃しているのは別のビルだという事。
隣のビル・・・。
「とりあえずみんなをワープさせた」
柳菜か。
「そうか」
ホッとするようにノブが応えると、まるで対岸の出来事かのように飛行物体を眺めていく。間もなくして飛行物体の方もそこに僕達が居ない事が分かったのか、ゆっくりとどこかへ向かい始めた。
「しまったな。うまく乗せられちまった」
「ノブ、どうするの?」
・・・戦争、なのかな。
「どうしたもんかな。建物に危害を加えたからな、こっちも対処しなくちゃならなくなった」
「戦争するの?」
究がそう聞くと、振り返ったノブは困ったように言葉を詰まらせる。
でも能力者の力があれば、負ける事はないのかな。
組織に戻り、監視するようにホールのテレビに釘付けになっていると、やがて飛行物体の1つは群馬県上空へと進み、もう1つは目的が無いように代々木公園上空を滞空していく。
部屋の扉がノックされたので開けると、そこに居たのは政晴だった。
「もう解析済みだよ。それがさ、あれリリコの世界から来たみたいでね、リリコが居た国の隣の国の飛空挺だってさ」
「ビルを破壊したよな?あれは」
「指定自警団がね、向こうの世界から来た人を保護して、それで引き渡しの交渉が行われたけど、決裂っていうか、相手は元々力ずくで奪い返すつもりだったみたいでさ。でも異世界に来た事自体はどうやら侵略っぽいよ」
「なるほど。じゃあ行ってみるか」
「行くんだ」
「警告しないとな。それが神王会だろ」
政晴、恭助、無日と共にシールキーを使って代々木公園まで行き、それから3人揃ってホワイトアーマーを身に纏うが、ふと目に留まったのは自分達と同じように飛空挺を見上げる、2人の指定自警団員だった。
「みんな、指定自警団」
「え?いや別に構う事ない。おい来たぞ」
そう言いながら恭助が指を差した方を見ると、2人の戦闘スーツの男性が降りてきて、まるで神王会と指定自警団をまとめて相手にするように超低空で滞空した。
「我々は神王会だ。神王会の使命は街や人を守る事だ。お前らはビルを攻撃した。理由によってはお前らを排除する。これは警告だ」
うわ、この人、まさかマナライザー?
政晴の言葉に、2人からは白い鎧で揃った自分達を警戒するような態度が見える。しかし神王会の使命感は疑いようはないと判断したようで、マナライザーの人からはただ面倒臭く思う気持ちが見えた。そして2人が地面に降りて直後、マナライザーの人は自分に向けてだけ敵意を放った。
「お前は、何だ」
「・・・分かってるでしょ?同じだって」
くう、入って来るな。ブロック、ブロック。ディスミスゲーム・・・。ふっ。
何とか頭から追い出し、同時にマナライザーであるザルネクの頭の中から撤退する中、政晴達はただ驚くように自分とザルネクを見つめてくる。
「お前、まさかトランバースの人間か?」
「違うよ。紛れもなくこの世界の人間。たまたま同じなだけ」
「・・・・・そうか」
ふう。
「同じって何だよ」
そう聞いてきた無日は、何故か自分とザルネクを親戚かと疑った。
「えっと、この人も、見ただけで人や物を解析出来るんだよ」
「は?」
「だからどんな能力とかバレちゃってるよ」
「マジかよ」
「それで、何故建物に危害を加えたか話して貰おう」
ふう、マナライズ出来ないな。入ったら自分も見られちゃうし。仕方ないか。
「お前達に話す義務はないだろ」
「それはつまり、自分達がプライドも信念も無いただの犯罪者だと認めるという事か?怪我人は出てないから悪くないって、本気で子供みたいな主張をする気か?」
するとマナライザーじゃない方の男性ブローツは怒りを込み上げ、背中に手を回して拳銃を取った。
マサ、こういう時ちょっと厳しすぎるんだよなぁ。
「やった事を説明出来ないなら、お前らは排除される為だけのクズだぞ」
「黙れ!」
うわ。
ブローツが遂に怒ってしまい、政晴に向かって発砲するも、やはり普通の銃弾だからなのか政晴は無傷で、ザルネクが手を挙げるとブローツは拳銃と共に怒りを吐き下ろした。
「人に優しく、悪人に厳しくか──」
うお、マサの部屋の壁に貼ってあるスローガン。
「立派だな。しかし我らが悪がどうか、それは世界が判断する」
世界・・・うー、マナライズしたい。
「いいだろう。我らがあのビルに攻撃したのは、落とし物を拾う為だ。だがそれは失敗した」
落とし物、えっと。
「チエヒメって人?」
「・・・・・何故それを」
「あのビルの事、見てただけだよ」
「・・・・・お前達は指定自警団とやらと関係があるのか?」
「敵ではないが味方でもない、そんなところだ」
するとザルネクは指定自警団の2人に顔を向ける。
「我らがこの街を破壊するかどうかは、お前達次第だ。そうシマザキノブカツに伝えておけ」
案の定その2人は名前を言われた事に内心で驚くが、しかし同時にザルネク達に敵意を抱いていく。
「それは、脅し?」
「でもビルの屋上の人達は元々奪い返すつもりだったみたいだけど」
指定自警団の1人、大橋とザルネクが共に振り向いてくると、表情は見えないがザルネクからは余計な事を言うなというような雰囲気が醸し出される。
「奪い返す、ではない。元々我らの物だ」
「でも侵略はまた違う目的でしょ?結局この世界の事は敵として見てるって事でしょ」
「神王会、余計な詮索はするな。お前達も、リリコ・エイベリーを匿っている事を詮索されたくないだろう」
な、く、自分じゃなくて政晴達から・・・。
「お前達の事をトランバースの者に話せば、トランバースは無条件でお前達を襲う。リリコ・エイベリーは王子の婚約者だ。お前達の主張など関係なく、お前達は盗賊扱いだ。お前達が下手な詮索などしなければ、一国の主力部隊がこの世界に押し寄せる事はないだろう」
そんな・・・。
すると政晴でさえ言葉が出ない状況を鼻で笑い、ザルネクはブローツにアイコンタクトをして帰ろうとする。
「ザルネクさんちょっと待ってよ」
「・・・何だ」
「それって言うか言わないか考えるって事?てっきりすぐに告げ口するくらいの関係だと思ってた、トランバースとダコステイダって。上下関係じゃないの?」
「上下関係ではないが、何が言いたい」
「だから、じゃあ黙っててよ」
「それはお前達次第だ」
「あの飛空挺ってどっちの国の技術?」
「え?・・・何故そんな事を」
「だってカッコイイから」
「無駄話をする為に来たんじゃない」
そう言うと2人は飛び去っていき、政晴達を見るとその雰囲気にはちょっとした敗北感が漂っていた。
手強いな、マナライザー。
マンションに帰り自分の部屋に戻ると、すぐにリリコはこれまでの事を見てきて、同じようにちょっとした敗北感で落ち込んだ。
「すごいでしょ?マナライザー」
しかしそうかと思いきやリリコは微笑み、心の中で「お帰り」と言った。
「うん、自分と王子の決闘は大丈夫だろうけど、そのせいで軍隊が来て街に迷惑がかかるのは嫌だなぁ。何とかならないかなぁ」
「次はネコにしようかと思うんだけど、新しい家族」
ネコ・・・。
「野良猫なら、そういう島に行けばすぐだけど」
「じゃあ行こうよ」
スマホで調べてみれば若洲海浜公園に野良猫が居るというので、ハイミ、プラーハ、コロネも一緒にリリコの万渉術で公園にテレポートする。
「潮風~」
プラーハがはしゃぎ出すとハイミもはしゃぎ出し、何となく野良猫たちの注目を浴びてる気がする中、1匹の茶色いネコがコロネに近付いてきた。
「(自分達が気になるんだね。自分はネコじゃないよ、キツネだよ。あれはね、鉱石で力を得たんだよ)」
1歳ちょっとのネコかぁ。可愛いなぁ。仲間に能力者のネコが居るのか。どんな能力だろ。
「(へえ、守ってくれたんだ)」
能力者の野良猫が群れを守ってるんじゃ、連れてっちゃ可哀想かな。
「ノブさん」
指定自警団の知らない男性が2人やって来て、何やら少し慌てた様子に、その場の目が男性達に向けられる。
「オオハシ、どうした」
「代々木公園に様子見に行ったんだよ。そしたら神王会が居て、何かあいつらの世界の人間を神王会が匿ってるとか、そんな話をしてた。で僕達には、我らが街を破壊するかどうかはお前達次第って、そうシマザキノブカツに伝えろって。ノブさん、自己紹介したの?」
「いや、してない。何で、名前知ってるんだ?」
「神王会の人が言ってただろ。見ただけで人を解析して能力が分かる力って、それじゃないか?」
うわ、見ただけで、名前も能力も全部見透かされる。それが異世界の力・・・。
「戦闘したのか?」
「してない」
「そうか」
テレビを見ると代々木公園上空を飛んでいた飛行物体はそのままぴったりとそこに滞空し、もう1機は群馬県上空から北海道方面に進路を変えて宮城県上空を進んでいく。
一体、どこに向かってるんだろ。偵察かな。
「チエヒメさん、向こうの世界にも鉱石とか能力者とか、そういう世界なんですか?」
「外の事はよく知らない。しかし聖のように変身する者は見た事はない。鉱石とは何じゃ」
「能力者になる石です」
「ふむ、知らんのう。そんなものがあるなら、きっとそもそも妾の力など狙われておらんじゃろう」
能力者じゃない力か。アマカゼ君と同じか。
「とりあえず、警察に伝えておくか。あいつらは侵略の為に来たと世間的に知れ渡らせてプレッシャーをかけよう」
「え、あいつらテレビなんか観るかな」
「いや、見ただけで色々分かるんだろ?そういう相手の時は、逆に情報を与えてこっちの思い通りに動かすんだ」
普通に話してるだけなのに何となくすごい説得力を感じさせるノブに、究は何故か嬉しそうに頷く。
「私達からは何もしないの?」
ミントがそう聞くと、ノブは落ち着いて悩むような表情を見せながら頷く。
「様子を見よう。今この時にでも手当たり次第に攻撃して来ないって事は、やっぱりシンリュウセキの力を使って異世界侵略しようとしてるって事だろう。それなら痺れを切らした時、あっちから何らかのコンタクトがあるかも知れない」
おお、つまり駆け引きってやつか。
ノブが舞台に向かって去っていく中、テレビではビルを攻撃したという報道と共に代々木公園上空の飛空挺が生中継されていて、警察とマスコミ、そしてやじ馬に揃って見上げられている異世界から来た飛空挺という状況に、何だか言い様のない煙のような不安感が込み上げてくる。
タイトル通り、見透かされた対話。手強いですね、マナライザー。
ありがとうございました




