デュナンズ・ナイツ・フォー・フーム
「ウルフ!」
すでにブリュンヒルデの側にはセシルが居たので近付いていくが、ふと見渡してみてもヨハンやカミーユの姿は見えない。
「ヨハンはまだ来てないのか?」
「もう行っちゃったよ。他の治療役の人達がみんな試してもブリュンヒルデが起きなくて、そしたらヨハンが他の仲間が危ないかも知れないって」
「まさか、ディゼルダが言っていた、どれだけ独りで抗えるかって」
「あ、そっか、これからクリスティーナ達も襲われるって事?」
「・・・ヨハ・・・」
ん、寝言か?
「ブリュンヒルデ」
肩を揺らして見るが、それは怪我というよりまるでただ寝ているだけかのような感じで、直後にブリュンヒルデは小さく唸った。
「怪我は治ったけど、どうしても起きないの。寝てるだけだから治療の能力も役に立たなくて」
「眠らせる能力か」
確かに怪我じゃない。しかしそれならどうすれば。
「とりあえずブリュンヒルデはキャリー達に任せて私達もヨハンを追いかけようよ」
「そうだな。ヨハンはどこに行くって?」
「言ってない。ウルフと合流してって。でも最初からヨハン側についてるナンバーワンはブリュンヒルデとクリスティーナだよね」
「ならクリスティーナのところへ」
「うん」
シールキーでロンドン支部に入っていくと、すでにダーツバーのような賑やかで静かな雰囲気は変わり果てていて、真っ先に目に付いたのはクリスティーナの力での戦闘跡なのか、所々に出来ている氷の山だった。
最後にブリュンヒルデと電話してすぐにブリュンヒルデが襲われたなら、ヨハンがドレイクのところに行って俺がロサンゼルスに行ってる間に、クリスティーナも襲われてしまっている可能性はある。戦闘はあったがディゼルダによって建物自体は燃やされていないか。
「あ、ヨハンっ」
氷の山の他にも壁に穴が空いていたり、幾つものビリヤード台がひっくり返っていたりと悲惨な状況の中、セシルの呼びかけに、ワールド・クロスの人間のそばに居たヨハンは振り返り、静かに頷いた。
「クリスティーナは」
しかしそう聞くとヨハンは珍しく真剣な表情で小さく首を横に振った。
「眠らされた。他にも眠らされた人が何人もいるよ」
「ディゼルダが来たのか?」
「いや。もしかしたらロサンゼルス支部のように、ナンバーワンを拐ってから破壊するつもりだったのだろう。拐われる直前に私達が到着し、拐われる事は免れたが逃げられてしまった」
ブリュンヒルデにクリスティーナまで・・・ディゼルダは本気でヨハンを孤立させる気か。
「またリリコにお願いする?」
「もしすぐにブリュンヒルデとクリスティーナを目覚めさせたとして、リリコが狙われてしまうんじゃないのか」
「バレなきゃ大丈夫だよ」
バレなきゃ・・・まあいいか。
「そうだな、セシル、連絡してくれ。私はここに残る。離れている最中にディゼルダがやって来ては元も子もない。先ずはブリュンヒルデを目覚めさせてからここに来て、皆まとめて処置を施せばいいだろう」
セシルと共にロサンゼルスに向かうと、ロサンゼルス支部の建物はすでに完全に復元されていて、それから3階に上がってブリュンヒルデの部屋に入ると、そこにはベッドで眠っているブリュンヒルデと共に、まるでお見舞いにでも来ているかのように集まっているキャリー達が居た。
「みんな、もしかしたらブリュンヒルデを起こせるかも知れない」
「ホント?」
そう言って振り返ったキャリーは期待を寄せるような表情を見せたが、ふと目に留まったのは、話を真に受けてないのか信じていないように力無く笑った人達。
「もうちょっとくらい寝かせてやれば?」
しかしキャリーが立ち上がるとその人達は冗談だとまた笑うが、場の空気を和ませようという気持ちも届かないくらいどうやらキャリーは落ち込んでいて、セシルが黙って笑顔でキャリーの肩を擦ると、キャリーは安心し過ぎたのか逆に涙を拭った。
「セシル、早速リリコを」
「そうだね。すぐにメールする」
「おいおい、メールって。大丈夫かよ」
再び冗談混じりなテンションの男性が口を開くと、セシルは少し不貞腐れるような表情を返す。
「キャンベラ支部じゃメールアドレスしか調べなかったから。でも大丈夫だよ。リリコ達優しいからすぐに来てくれるよ」
「そうか」
日本じゃまだ寝るような時間じゃないよな。
それから1分くらいしか経ってないような中、気が付けば扉の開く小さな音が聞こえ、そこからリリコとリクジ、そして鳥とキツネがやって来た。
そういえば何でいつも動物と一緒なんだ。こんな色合いの動物なんか見た事ないし、テレサのような想像で作ったものか。
「違うよー。ハイミはね、元々カラスだったんだよ。それをリリコがアレンジしたんだよ」
そう言いながらハイミと名乗る鳥は、まるで俺に応えるように歩いて近付いてきた。
「そ、そうなのか。ていうか、まさか心を読んだのか?」
「そうだよ」
アレンジ。なるほど、そういう感じか。
「その黒いキツネもか?」
「ううん、コロネはヌシだから」
「何だよヌシって」
冗談混じりなテンションの男性が問いかける中、ふと見るとすでにリリコはブリュンヒルデの額に手を当てていた。
「(最初はアメリカで話が広まったんでしょ?絶対倒せない生物)」
「え?まさか、それってただのファンタジーだろ」
「(ま、信じるかどうかは自由だよ)」
「ブリュンヒルデっ」
ん、起きたか。
「ふあ~。何か変な夢見ちゃ・・・あ!あれ?ここは、みんなどうしたのよ。リリコまで」
「呑気だね。敵に眠らされたんでしょ?でも怪我じゃないから治療の能力じゃ治せないからって私を呼んだの」
「そうなのね。リリコにまた助けて貰っちゃったのね。ありがとね」
「いいよ。簡単だし」
「ブリュンヒルデ、実はクリスティーナ達も眠らされて、今ヨハンもロンドンに居るから合流しよう」
「ヨハン居るの?すぐ行くわ」
セシルの言葉になのか、眠っていたから疲労が解消出来ていたからか、ブリュンヒルデは元気にベッドから飛び下りる。
「じゃあみんな、私ロンドンに行くから。キャリー、何かあったら連絡してね」
「分かった」
ロンドン支部に戻るとワールド・クロスの人間達のお陰か、氷の山も切り崩され、壁の穴も元通りになっている中、ふとヨハンの隣に居るハンナに目が留まる。
「ハンナ、何でここに」
「ワールド・クロスに救援要請があったから来てみれば、要請したのがヨハンだったなんて、ヨハンが生き返っていた事、ヨハンから聞くって、どういう事?」
「いや、忘れてた訳じゃないって。忙しかったんだ」
カミーユが弁解するが、明らかに誤魔化してる態度を分かっているのか、ハンナは冷たい表情を崩さない。
「定期報告だって催促しなきゃしてこないし、組織の人間としての自覚が足らないんじゃないの?」
「ハンナ。君こそ彼らの個性を分かってない。確かに彼らは組織の人間としての素質は欠けているだろう。だからこそ私が彼らを束ねるものとして、情報管理も一貫してやっているんだ」
「ヨハンもそう思ってたなんて」
セシルが呟くが、振り返ったヨハンはむしろ微笑む。
「私が彼らを選んだのは組織の人間としての仕事じゃなく、フレキシブルな活動力を望んでいるからだ。ワールド・クロスの人間として戦えるからこそこの仕事が出来るからね」
「フレキシブルな活動力?まあいいわ。そもそもヨハンが作ったチームを違う誰かが管理したって、上手くいく訳ない。生き返ったんなら私は元の立場に戻るから」
「あぁ、短い間だったが引き継いでくれてありがとう。これからまた、退屈な事務仕事の毎日だろう」
「いいの。私はヨハンみたいに飽きっぽくないから、こっちの方が向いてる」
2人、親しいんだな。そりゃそうか、幹部同士だし。
「ヨハン」
ブリュンヒルデがヨハンに抱きつくと、ハンナはヨハンと頷き合ってから去っていき、他のワールド・クロスの人間達に指示を出したりしていく。
「リリコ呼んで来たわよ」
ブリュンヒルデが呼んだ訳じゃ・・・。
「あぁ、リリコ、来てくれて助かるよ。眠っている者達はそっちに並んでいる」
「うん」
それからリリコが横たわるクリスティーナに歩み寄る中、ふと気になったのは立ち尽くすリクジ、キョロキョロしているハイミ、そして犬のように姿勢よく腰を落としているコロネだった。
「リクジは何しに来たんだ?」
「リリコとはいつも一緒に居るから」
「そうか」
程なくしてまるでロボットのように姿勢よくクリスティーナが立ち上がったので何となく目を向けていくと、クリスティーナは駆け寄ったブリュンヒルデに首を傾げた。
「ヨハン、ディゼルダは来たのか?」
「いや。まだ来てない。警戒は解かないでいる方がいいだろう」
ディゼルダがまだブリュンヒルデもクリスティーナも封じたと思っているなら、何か別の方法で仕掛けてくるのだろうか。何か先手を打てないものか。
「ヨハン、いくら怪我や建物を元に戻せるって言っても、やられるだけじゃ進まない」
ブリュンヒルデからの情報共有が済んだのか、近付いてくるとクリスティーナがそう口を開く。
「キャンベラ支部の人達はもうそろそろ新しい支部を作って活動も再開させてるだろうから、私はそっちへ行く」
起きたばっかりですぐに、さすがクリスティーナだな。
「そうか。ディゼルダの動向が分かったらすぐに連絡してくれ」
「分かった」
「ヨハン、次に狙われるなら、やっぱりモスクワなんじゃないか?」
「そうだな。一先ず合流しよう」
カミーユの意見にヨハンが同調し、すぐにモスクワ支部に向かうがそこではまったく襲撃などは受けていない平穏な雰囲気で、むしろヨハンやブリュンヒルデが来たという事にこちらの方が変な注目を浴びてしまう。
ヤロスラフは・・・。これからディゼルダが来るというなら、上手く先回り出来たのか。
「どうしたんだ。そんな物騒な顔で」
「君は確かセルゲイ。ナンバースリー。君は危機感を抱いていないのかい?ディゼルダの動向に」
「クリスティーナに説得されて、ヤロスラフは今やディゼルダ派ではないからな。けど例え粛清しに来たって負けるようなヤロスラフじゃない。それにここは能力者組織だから、デュナンズ・ナイツ以外にも協力者達が居る」
ディゼルダが異世界から来てる事を知らないんだな。ヤロスラフもまだ知らないのか?
「ヤロスラフはどこだ?」
「今はシャワーを浴びてるんじゃないか?闘技場で体を動かした後はいつもそうだ」
まったく、ヤロスラフは呑気だな。
「誰か!」
ん?・・・。
そんな声を上げた男性に皆が注目されると、その緊張感はすぐに胸騒ぎを覚えさせる。
「不審者だ!1階に不審者が居る!」
不審者?ディゼルダ、じゃないよな。
セルゲイが冷静に歩み寄っていくとその男性と扉の向こうへ去っていってしまい、何となく取り残されたような気がしてしまう。
「ヨハン、まさか異世界からの能力者かな。ヤロスラフを狙って来たのかも」
「私はヤロスラフの様子を見に行く。皆は下に行ってみてくれ」
また1人で、いや、仕方ないか。
何となくヨハンの背中を気にしながらも、何事だと数人が向かっていくのと同じように扉を抜けるとそこは高級ホテルのエントランスロビーのような空間で、戦闘は勃発してはないが、階段の下で“全身に騎士っぽい戦闘スーツと光を纏った人”を取り囲む状況はそれだけで緊張感を生んでいた。
不審者か、ここに居る誰もが知らない人間という事なら確かに不審者だが。
「何で喋らないんだ?こいつ」
「ロシア人じゃないんじゃないか?」
不審者が歩き出そうとすると周りの数人が制止するように両手を出したり、声をかけていくが、変身しているからか不用意に近付く事が出来ず、そこにはキレイな人の円が出来ていく。
「ブリュンヒルデ、眠らされたのって、あいつにか?」
「んー、違うわね」
ブリュンヒルデがカミーユに応える間にも、不審者は声をかけられている事を無視して誰かを捜すように周りを見渡していく。しかし直後、埒が明かないと苛立ったのか不審者は拳を突き上げ、勢いよく自身の足元を殴りつけた。発生した光の風圧、思わず倒れそうになる凄まじい地響きに近くに居た人達は吹き飛んでいく中、数人は素早く変身したり武器を出したりして、そこは一瞬にして戦場と化してしまった。
やはり、ヤロスラフや建物の破壊を狙って・・・。
1人対大人数なので、それでもすぐに戦闘など終わるだろうと思っていた矢先、不審者は更にパワーアップするように派手に変身し、全方位に光を放ち、大人数を一斉に吹き飛ばした。
・・・まずいな。
「ウルフ」
「あぁ」
──デュナンズ・ナイツは誰の為のものなのか。
ありがとうございました




