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意志は燃え盛って

「ていうか何で私がやってるって分かったの?」

「そういう能力っていうか、そこら辺は企業秘密だよ」

危機感や緊張感が少しずつ萎んでいく中、究は一瞬柳菜を見ながら戸惑ったように応える。

「ふーん」

「まさか、警護して欲しいって、冗談だったのか?」

「そんな訳ないでしょ、さすがに。ミナの事じゃなくて、付きまとわれてるのはホントだよ。このライブハウスでライブして半年くらいになるんだけど、1ヶ月前から、スポンサーになってやるっておじさんにSNSで声をかけられてさ」

「すごい事なんじゃないの?」

「分かってないねぇ。事務所じゃなくて個人だよ?この前だってテレビでやってたよ。個人で地下アイドルを運営する人はほぼ下心があるって。そういうの信用出来ないじゃん。無名の女子高生にそういう声かけるって、危ないに決まってるって」

「そっか。まさか、付きまとわれてるって、断ったから?」

「うん、そう。結局そういう人だったって事」

確かに、これでも警察は動けないか。

「じゃあとりあえず駅まで送ろうか?」

事情を聞いたからか、すぐに持ち前の明るさを見せて究がそう言うと、いつもサバサバしている加賀美も事情を話したからか大人しく頷き、そんな態度がふと可愛く思えてしまう。それから警護してるというより、普通に一緒に歩いてるだけみたいな感じでライブハウスから少し離れた時、加賀美を下の名前で呼ぶ声が聞こえてきて、何となく振り返る。するとそこに居たのは20代後半くらいの、ちょっと不気味な笑みの男性だった。

「出た」

「人を幽霊みたいに。それより乃愛ちゃん、今日はやけに大人数だね」

その直後に背中を指でつつかれ、振り返ると加賀美が嫌そうな顔色を見せてきたので、とりあえず1歩前に出る。

「付きまとってるって聞いたけど」

「当たり前だろ?1度断られただけじゃ諦めないよ。光る原石を発掘するっていうのはそういう事だ」

「どうせ下心なんでしょ?」

加賀美がストレートにそう言うが、その男性は悪びれるどころか不気味な笑みを崩さない。

「自惚れるなよ。大した実力もないのに、スポンサーを選ぶ権利があると思うなよ?オレみたいな人間が居ないと有名になんてなれねえぞ。金貰ってるんだろ?仕事として金貰ってやってるんだよな?この業界甘く見てんじゃねえよ。お前らくらいじゃスカウトなんかされねえよ」

男性は去っていったが、こっちから手を出す訳にはいかないのでただただ胸焼けのような怒りが込み上げてくる中、ふと振り返って加賀美の顔色を伺うと、加賀美は脇本の顔色を伺っていた。

戦える力しか無いし、こんな時どうすれば。でもミントさんやシンジ君だったら。

「あ~あ、すげぇ逆恨みだな。気にしないでいいよ?あんなの」

「分かってるけど、実際面と向かって言われるとさ」

やっぱ究だな。

「あ、加賀美さん、SNSで今日の事とか俺達がクラスメイトだとか書いた方がいいよ?ああいうのは騒がれると近付いて来なくなるしな」

「・・・いいの?」

そう言うと加賀美は僕を見てきて、その真っ直ぐ見つめてくる表情がまたふと可愛く思えてしまう。

「うん、全然いいよ」

実際に歌聴いた事ないしな。励まそうにも励ませないし。どうしよ。

家に帰り、聞こえてくる母さんのお帰りを聞き流しながら洗面所で手を洗い、それからリビングのソファーに座って宿題をやりながらテレビを見る。

「続いてはこちらのニュースです。オーストラリアのキャンベラで大規模なテロが発生し、建物が全壊、負傷者も20人を超えましたが、負傷者は能力者によって治療が行われ、死者は5人に留まりました。テロの発生場所である建物は、世界的に活動する能力者組織デュナンズ・ナイツの拠点となっていて、当局は現在テロの発生原因を捜査しているようです」

・・・・・まじか。



「どうだ」

「もうこれ以上は。何しろ壊滅的過ぎる」

「そうか」

壊れたものを直す能力者達がそう言って溜め息を吐き、すでにその場全体に諦めの空気が充満している中、まるで災害によって崩壊した建物から出てきて立ち尽くしているような人達を通り過ぎ、救助活動を終えてペガサスを撫でているテレサに歩み寄る。

「そろそろ戻ろう、講義に遅れるぞ」

「うん。ウルフも出るの?」

「いや、この事調べないと」

「そっか」

シールキーでテレサと大学に行き、そして門の前で手を振りながら去っていくテレサを見送っていると、携帯電話が鳴り出したのでポケットから取り出す。

ブリュンヒルデ・・・。

「はい」

「今どこ?キャンベラ?」

「ミュンヘンだ。キャンベラにはさっきまで居た。テレサと救助活動していた」

「そう、じゃあ犯人見たの?」

「見てない。行った時には破壊された後だった」

「あなた達はドレイク達の動向を調べて」

「分かった」

あなた達・・・。ヨハンとカミーユとセシルもという事か。一先ず、本部で集まるか。

カミーユとセシルを電話で呼び出しながら、一足先にデュナンズ・ナイツ本部の教会に入ると2階にはすでにヨハンが居て新しく買ったパソコンを触っていて、家具類も元通りかのように新しく置かれている事に、ふとヨハンが死んだ事さえ懐かしく思えた。

「キャンベラはどうだった?」

「壊滅だ。能力で直せないくらいに」

「あ、ヨハン。いつから来てたの?」

やって来たセシルの明るい問いかけ、同時にパソコンの手を止めて飲み物を飲みながらセシルに応えるヨハンの余裕の態度、そして最後にやって来たカミーユともいつものように言葉を交わすそんな空気に、むしろドレイクの表情から見えた孤独のようなものを思い出した。

「ヨハン、さっきブリュンヒルデからドレイク達の動向を調べて欲しいと言われた」

「あぁ、あれからドレイクとなら連絡を取っているが、そういう計画は聞いてない。今日本は夜の・・・7時頃か」

「ちょっとヨハン、連絡取ってるって、ドレイクがヨハンとメールしてる姿、全然想像出来ないんだけど」

セシルの言葉に、カミーユが笑いを吹き出す。

あのドレイクが、律儀に・・・。

「確かにドレイクがメールを打っているかは分からないが、ドレイクのパソコンにメールを送れば普通に返ってくる。では一先ずドレイク達のところへ向かおう」

「場所分かるの?」

「あぁ、今メールで聞いたら、返信が来た」

「そんなあっさり?大丈夫かな」

「そもそも我々は仲間だ。それにこのパソコンのアドレスは本部のアドレスだ。私の個人アドレスじゃない」

分かったところでどうしようもないので、正確にどこかなど最早関係なく、ヨハンのシールキーで繋げたマンションの上層階に直接やって来ると、それからヨハンはすぐ隣の扉のインターホンを押した。

「何で外から?」

「日本の家は靴を脱ぐからね」

セシルにそうヨハンが応えた時に扉が開けられると、そこに居たのはナディアだったが、ナディアは何も言わず部屋に招き入れた。靴を脱ぎながら廊下、そしてその向こうのリビングを見てみるが、感じた雰囲気は本当に人の家に入ったかのように静かなもので、その静けさのままリビングに入るが、そこにはナディアの他にジョアンしか居なかった。

「ドレイク達は?」

ヨハンがそう聞く間にもナディアは寛ぎ直すようにソファーに座る。

「キャンベラの事、ドレイク達は関係ない。今は韓国でテロ鎮圧してる。だからそんな事してる暇はなかった」

「2人は何してるの?」

「私は事務みたいな感じ。ジョアンも待機中」

「もしかして、ヨハンとメールしてたの、ナディア?」

「うん。ドレイクは上司気取りだから、そういうのは私に押し付けてる」

何かやけに不満そうな言い方だな。それよりドレイクは関係ないか。

「ドレイクに電話するか」

「最初からそうすればいいのに。わざわざ今来なくたって」

「今来られては困る理由でもあるのか?」

するとヨハンの言葉にナディアは一瞬ジョアンを見てから子供っぽく首を横に振る。ソファーの近くで立ったままヨハンが電話をかけ始め、会話は無いが特に気まずくはない空気の中で、何となく家具やキッチンに目を向けていく中、カミーユが静かに歩き、ジョアンの隣に座った。

「あの赤い奴らとまた何か計画してるのか?」

「紅蓮会だ。紅蓮会は神王会に固執してる。そっちに関しては俺達はただの援軍でしかないから、計画があっても詳しくは知らされない」

「ああドレイク。今ナディア達の所だ。キャンベラが襲撃され、壊滅した。・・・まあ、可能性はあると見てる。今やヤロスラフもジャックもディゼルダには懐疑的だ。他のディゼルダ派から何か聞いてないのか?・・・そうか」

ヨハンが電話を終えた時にセシルの携帯電話が鳴り出す。

「本部に戻ろう」

「・・・ヨハン!大変、リクジからメールで、デュナンズ・ナイツのシンガポール支部が襲撃されてるって」

「何だって!?」

シンガポール支部が。キャンベラ支部に続いて、一体誰に・・・。

「すぐに行こう」

そしてシンガポール支部の近くに扉を繋ぎ、行ってみると広い道路を跨いだ先のシンガポール支部となっている小さなビルはすでに燃えていて、サイレンがけたたましく耳を突く中で直後に爆発と共にビルから“真っ赤に光輝く炎の人影”が飛び出してきて地面に着地した。

・・・あいつが襲撃犯?

「誰?」

「分からない」

セシルの呟くような言葉にヨハンがそう応えたのですぐに5つのリングを出現させ、炎の人影に向けて飛ばしていく。直後に炎の人影は高く飛び上がり、リングを殴り飛ばしながら俺の方に向かって来たので全身とリングもカーボンで覆い、1つのリングを足場にして飛び上がる。そして両者共に同じタイミングで拳を振るったものの、俺だけが殴り飛ばされ、地面を転がってしまう。

やるな・・・。

立ち上がった時にはカミーユとセシルが交戦していたが、セシルの衝撃波を食らって吹き飛び、カミーユの盾剣で勢いよく叩かれてもすぐに立ち上がり、振るうように両手を広げて全方位に向かって、衝撃波のように炎を放った。

くっ・・・この炎で、キャンベラ支部も・・・。

ふとヨハンの横顔を見ると、闘志は伺えても実際に動こうとはせず、しかしそれはいつもの事なので3つのリングを引き寄せ、縦に列べて光の弾を撃ち出す。2つのリングを通ったその威力に炎の人影は激しく靡いて飛んでいったが、やはり炎そのものではなく人間なのか、ダメージを伺わせるようにゆっくり立ち上がってみせた。

「お前は誰だ!」

カミーユが問いかけるが炎の人影は燃え盛るだけで何も言わず、飛び掛かって来ようというように身構えた瞬間、消防車がやって来て、なんと炎の人影に向けて放水した。それこそレーザービームかのような強い水圧に炎の人影は流され、能力で燃えているがやはり水をかけられたからか、火力は弱まり、炎からはびしょ濡れの男の姿が垣間見えた。

「ディゼルダ」

え・・・。こいつが・・・。

ヨハンの呟きに、水をかけられただけなのに何となく疲労感が伺えるディゼルダは濡れた髪を掻き上げ、黙ってヨハンを睨みつける。しかし水蒸気と共に炎は燃え上がって再び炎の人影となると、直後に両手を前に振り出して前方に炎を放った。衝撃波のような瞬間的な熱波と圧力にリングを呼び寄せる間もなく、ただ身構えて堪える事しか出来なかったが、その一瞬の間にも“すでにヨハンはその場から離れていて”、そして無傷のヨハンはいつの間にか持っていた“未来的なデザインの銀色のピストル”の銃口をディゼルダに向けていた。

「ディゼルダ、君がキャンベラ支部を破壊したのか?」

その瞬間にも消防隊の消火活動も虚しく、シンガポール支部のビルの天井は無惨にも焼け落ちていく。

「だったら、貴様はデュナンズ・ナイツを破壊した。ワールド・クロスも堕ちたものだ。スパイを送り込み、内部破壊を企てるとは。何が理念だ」

「事情は聞いた。異世界から来た君は、能力者を生み出した国を陥れようとしているんだってね。しかし分からないのは」

「何故この世界に来たか」

「・・・あぁ。君の知ってる国にだって能力者は居るんだろ?つまりここを選ばなくても良い訳だ」

「デュナンズ・ナイツは、この世界にとっては迷惑だと?」

「いや、それは、そうとは言い切れないね。ただ君は少なくとも利己的にしか動いていない。それは当然だ。だって君はこの世界には何も思い入れが無いんだから」

「確かに。だがどこの世界にもワールド・クロスがある訳じゃない。この世界を選んだのは、少なくともワールド・クロスという存在があったからだ」

「せっかく会えたんだ。はっきり言っておく。これから私はデュナンズ・ナイツを率いて、君を排除する」

燃えているので表情は分からないが、直ちに攻撃を仕掛けて来ないというその沈黙に、何となく炎の向こうにはヨハンを睨みつける顔が伺えた気がした。

暴走し始めたディゼルダとの戦いが遂に始まりました。彼らの戦いにとってのクライマックスですね。


ありがとうございました

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