幻の世、騎士の現2
「戦う為の組織なら、力で示せよ」
そう言った直後、杉内は先制攻撃を仕掛けるようにヨハン達に向かって炎と光の球を連続的に3発撃ち出した。自分もとっさに光を放ち、杉内を吹き飛ばしたものの、ダメージは大きくないのか倒れる事なく立ち堪える。反撃して来ようと杉内が赤い盾の砲口を自分に向けてきた瞬間、炎と光の爆風から1つの円盤っぽい輪っかが飛んできて、その鋭利そうな縁で赤い盾を弾いた。
ん・・・。
続けてもう1つの輪っかが出てきて、輪っかの真ん中から光の弾を撃ち出すと、弾の爆発で杉内を硬直させる。そこで炎と光の爆風が空気に消え、黒光りしたスマートな戦闘スーツで全身を包んだ人が前に出てくる。
ああ、ウルフさんか。おじさん、全然戦わないな。ナンバーワンなのに。
「戦いにおいて、時には撤退も1つの作戦だ。ドレイクを見る限り、ドレイクは負けるだろう。今の内に撤退の準備をした方がいいと思うがね」
「そんな言葉に惑わされるかよ」
戦いは部下に任せても警告はするんだ・・・。
すると杉内は左腕にも砲身の付いた赤い盾を出現させ、両腕から炎と光の球を撃ち出していく。しかしすべての球は5つの輪っかたちにすべて阻まれ、直後に杉内は“盾を変形させた”。前方に突き出していた砲身が引っ込んで、代わりに2本の砲身になって後方に突き出したような形になると、今度はその砲身から噴射させた炎と光を推進力にしてロケットのように飛び出した。遠距離攻撃型から近接攻撃型に戦闘スタイルを変え、素早い身のこなしで輪っかたちを殴り飛ばしていき、そして瞬く間にウルフに詰め寄っていくが、そこにサーフボードのような大きな剣が割り込み、ウルフを守った。
ん、カミーユって人のか。
それでも杉内は大きな剣を殴り飛ばすが、すでに輪っかが飛んできていて杉内は後ろから激突してきた輪っかに吹き飛んだ。
ウルフ達は個々で手分けしないみたいだし、さすがに杉内だけじゃ無理だよな。
「チッ・・・くそぉ」
「君も諦めた方がいい」
「諦める理由が無い。・・・だって、オレ達は、悪じゃないからだ!」
その瞬間、杉内の体がほんのりと光を帯び、それから立ち上がった後にまるで宇宙全体の至るところから何かが集まるように、2つの赤い盾は大きくなり、ゴツくなり、砲身が増え、進化した。
何だ、今の・・・。これが、覚醒した瞬間の、脳の中。・・・びっくりした。すごいもの見ちゃった。
轟音を響かせ、一瞬で10メートルくらい飛び上がった直後、杉内は瞬時に戦闘スタイルを変え、そして真下に砲口を向けた。
「はあっ!」
うわヤバイっ・・・。
とっさに恭助の腕を掴みながら離れたものの、まるで空爆でもされたんじゃないかという炎と光の大爆発などかわす事など出来ず、熱と衝撃に吹き飛ばされてしまう。
・・・つう、いてて、結構すごいな、レベル4。
アスファルトの破片やら、舞い上がる砂煙やらでヨハン達が見えないので途端に心配になるが、そんな中で何かが何かを叩くような音が数回聞こえてくると、直後に杉内が砂煙から飛び出してきて地面を転がった。
お、覚醒したのに、誰だろ。
それから扇がれるように砂煙が激しく吹き飛び、そこからカミーユの大きな剣を持ったヨハンが現れる。
おじさん・・・。
しかし大きな剣を手放すとヨハンは手をはたき、再びウルフとカミーユが前に出ていく。
おじさんもレベル4だしな。戦えば有利になるのに。
「おじさん、戦わないの?」
「何となくね、ワールド・クロスの人間として、本当に必要な時にしか力を使いたくないんだ」
遠くから聞こえてきた爆音の方にふと顔を向け、同時に悲鳴や救急車のサイレンが醸す緊迫感を肌で感じていく。
んー、結構な状況だけど。・・・あ。
「ジョアン」
しかし神王会はみんな同じ白だからか、ジョアンは自分に顔を向けてもただ警戒した表情を向けてきて、そして自分の事などどうでもいいといったようにそのままヨハンに歩み寄る。
「ガブリエルから聞いた。蘇ったと。そしてヨハンを殺したのはディゼルダだと」
「ジョアンはドレイクに従うんだろ?ディゼルダがどんな人間か関係ないんじゃないのか?」
俺がそう言うと、ジョアンは日本刀を手に持ってはいるがその表情には小さな迷いを伺わせた。
「それは、そうだが」
「あの武器をいっぱい持ってる女の人は?ナディアって人」
リクジの問いの緊張感の無さになのか、ジョアンは何故か素直にとある方へと顎を差した。
「別にお前と話しに来た訳じゃない、神王会」
「でも、迷ってるような顔してるじゃん。まさかフィクサーがヨハンをって」
「・・・俺はディゼルダとは実際に会った事はない。だからどんな奴かなどむしろ気にしない。だがだからこそ、何となく不穏さを感じた。デュナンズ・ナイツを作ったものが、デュナンズ・ナイツの調和を乱すような事をしたと。だから教えてくれ、ディゼルダはどんな奴だ」
「え、ドレイクに聞けばい──」
「うるさい」
ドレイクに聞くのは気が引けるのか。何でだ?
「私も他のナンバーワンと同じような態度でディゼルダと話した事はないが、一言で言えば、まるで革命を口実にしたテロリストだな」
「テロリスト?根拠は」
紅蓮会の人間もジョアンの問いを邪魔しないようにと空気を読んだのか大人しくなり、紅蓮会の人間に警戒はしながらもふとヨハンに振り返る。
「私を殺そうとした時、ディゼルダのその顔は、憎しみや怒りに満ちていた。まるで利己的に世界そのものを憎む、過激派テロリストのようにね」
テロリスト・・・しかし異世界から来た人間が、何故この世界を憎むんだ。
「しかしドレイクはそれでも、ディゼルダは正しいと」
「ねえジョアン。正しいから従ってる訳じゃないよ」
ん?何だ、まるでドレイクを知っているような言い方だ。
「どういう意味だよ」
「共感してるだけだよ、テロリズムに。自分はね、人の記憶とか感情とか視れるから分かるんだよ。それでドレイクがどんな思いでディゼルダに共感してるかも分かってるよ」
リクジにはそういう力が。いや、なのに今まで黙ってた。
「何で黙ってたの」
「お台場で言おうかなって思ってたけど、タイミング逃しちゃって」
まるで世間話のようなテンションでリクジはセシルに応えるが、その前のリクジの言葉が醸す重大さはジョアンも紅蓮会の人間をも神妙にさせていく。しかしリクジは話を進めて欲しいという空気に鈍感なのか、そこでふとした沈黙が流れる。
「ドレイクの思いって何だ」
「ドレイクはね、赤十字時代、イラクで支援活動してたんだけど、何がって訳じゃなくて、そういう雰囲気全体に怒りがあるんだよ。それで、テロを憎む気持ちが一周回って、テロリストと言われてもテロリストを殲滅するっていう考えになったんだって」
だって、って・・・。
「人から聞いたみたいな言い方だな」
そう言うと俺を見たリクジは目線を泳がせる。
「リリコが、言った。で、ディゼルダの方は、そもそも鉱石で能力者を作ったのは戦争をさせる為で、そんな国を陥れようとデュナンズ・ナイツを作ったんだって。だからドレイクも共感してるんだって」
その瞬間、リクジは誰かに声でもかけられたかのようにとある建物の上の方へと顔を向ける。
能力者は、戦争の為?・・・。
ふと脳裏に浮かんだのは、ドレイクがディゼルダから真実を聞いたと話した時の事だった。
ドレイクはバカバカしくなったと、元々この世界に調和などないと言ってた。つまりそれは、そもそも能力者は、戦争の為に作られたから・・・。
「しかし、ディゼルダは異世界から来たんだろう?つまり能力者組織そのものや、ワープ装置であるシールキーなんかも異世界の技術だという事だ。なのに何故、この世界にディゼルダはやって来たんだい?」
紅蓮会の人間やジョアンも含めて、突然に聞かされた真実とやらに言葉も出ない中、ヨハンが冷静に問いかけると、再びリクジは建物の上の方に顔を向ける。
「何かね、ディゼルダから見て、異世界で軍隊を作ってから、自分の世界に乗り込むって計画だって。この世界の能力者組織を乗っ取れば簡単だろうから」
「ちょっと待てよ。そもそも能力者は戦争の為に作られたって、じゃあ指定自警団とか、ワールド・クロスとか、何でヒーローが居るんだよ」
「それは・・・」
「戦争の為に作られたという事実を知らないから。そうは思えないかい?」
紅蓮会の人間の言葉にヨハンが応え、ある意味一体感のある静けさにその場は包まれていく。
「きっと、この地球に能力者という存在をもたらした異世界の者達は、選定をしているんだろう」
「何を?」
するとすぐにセシルが問いかける。
「本当の意味での、覚醒者」
本当の意味・・・。
「何の為にそんな事」
再び紅蓮会の人間が問いかけるが、最早その言葉に敵意などなく、そして皆も会議に参加している1人を見るように顔を向ける。
「何となくそう思っただけさ。気になるなら、君がその異世界に行ってみればいい」
「・・・えオレ?何でオレだよ。ていうか、話を聞く限りじゃ、ディゼルダってのは巨悪に立ち向かうレジスタンスだろ」
「それはどうかなぁ」
「あ?」
「おじさんの言う通り、レジスタンスを口実にするテロリストだと自分は思うけど」
「分かってないな神王会。世間はいつもそうだ。どんなにグレーな事をしても、マジョリティーであれば正しいと思ってる。本当に正しいならレジスタンスなんて生まれないだろ」
「君達の事情に口を挟むつもりはないが、今のデュナンズ・ナイツと君達とは少々事情が違うんだ。すまないが、今は退いてくれ」
杉内の敵意が収まってる態度に目を付けてか、ヨハンがまるで交渉人のように敵意の無い口調で言葉を投げかけると、杉内はこのまま戦う事が得かどうかを頭に過らせながら何故か自分を見る。
「ドレイクが退くと言ったら退いてやる」
「諦めるのか?」
怒ってる訳ではないがジョアンが突っ掛かり、仲間というほどの仲じゃない2人は微妙な雰囲気を流す。
「そんな訳ないだろ。オレ達は、オレ達なりの正義で動いてる。別に助けがなければ正義を貫けないほど弱くない。だけど、思ってたよりデュナンズ・ナイツは面倒臭そうだしな。お前らだって神王会とか、関係ない奴巻き込みたくないだろ」
杉内が去っていき、ヨハン達も去っていった後、ふと1人になったジョアンの下にナディアがやって来る。
「何してるの」
「ディゼルダが何故デュナンズ・ナイツを作ったか聞いた」
「そうなの?」
すると直後にジョアンは自分を見る。
あれれ。
「しかしお前が言った事が本当かどうか証明は出来ない」
「だってそりゃあ、能力なんて証明出来ないでしょ」
溜め息をついたジョアンからは確かにそうだという諦めを感じ、それからジョアンは去っていったので、建物の屋上に居るリリコ達に向かって手を挙げる。
終わったっぽいよ。
うん。
「ったく、リリコ、結構大事な事だろ。そういう情報」
ハイミとコロネと一緒にリリコが来た途端、恭助は割りと真剣なテンションで口を開く。
「私達が分かったところで、解決しなきゃいけないのはデュナンズ・ナイツの人達だし。そういうの、あんまり部外者が口を出さない方がいいでしょ?」
「じゃあ何で喋らせたんだよ」
「理解すら出来てないのは、可哀想だし」
「まあ、そうか」
リリコ、ちょろいなとか言っちゃだめだよ。
言ってはないよー。
「まあデュナンズ・ナイツの方はそれとしてだ。能力者は戦争の為にって、本当なのかよ」
「人の記憶は、嘘つかないよ。もし本当か確かめたいなら、能力者組織のオーナーって言われてる人達に聞けばいいんじゃない?」
「そしたら、本部か。支部は基本普通のマンションだしな」
異世界の人が、戦争の為に関係ないこの地球に、か。んー。能力者組織の人は戦争の為って知ってるのかな。知ってたら指定自警団作ってないのかな。あ、おじさん達どうなったかな。
リリコ達とおじさん達が去った先に向かってみるが、そこにはドレイクの姿はおろかヨハン達の姿も無かった。
「デュナンズ・ナイツは?」
すると両腕が大きくて、ロングコートみたいな白い鎧の、広島支部のリーダーの女性、優実は変身を解き、疲労感を伺わせた。
「もう逃げたよ」
「そっか」
「援軍?どっから来たん」
「東京防衛チーム」
「まぁ、援軍には感謝するけど。逃げたのは勝負がついたからやから」
「そっか」
後でメールでも来るかな。
「でもヨハンってのが言っとった。紅蓮会との繋がりはこっちの方で対処するって、どうなってるか知ってたら教えてくれる?」
「うん」
恭助も本部に行くとか言ってるし。デュナンズ・ナイツがどういう組織か、そろそろ神王会全体に広まる頃合い的な感じなのかな。
恋人が自称神で、人が抱える真実を色々と知ってしまう主人公、六事。言うなればスターゲイザー的な立ち位置ですね。
ありがとうございました




