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人間の限界

「それで、今日は何でここに?しかもこんなタイミングで」

セシルが自然に日本語で問いかけたからか、リクジが一瞬だけヨハンを見たり、隣の女性を見たりと、戸惑った態度を見せる。

「それは、リリコの力で、今ここにおじさん達が居るのを見て。何時間か前にここに来て、事件を見たから。おじさんの仲間が来るの待ってたっていうか」

「事件を見たって?」

「空間の時間を巻き戻したんだよ」

時間を・・・なるほど、その手があったか。最初からリクジ達に来て貰っていたら・・・。

「それ、過去を変えられるの?」

ブリュンヒルデが期待を込めたように聞くが、リリコと呼ばれた女性は首を傾げて上を向いた。

「分かんない。でももしそれが出来るなら、ヨハンを生き返らせた方が手っ取り早いかな」

「あなたもまさか、ネクロマンサー出来るの?」

ブリュンヒルデが少しずつ距離感を詰めていくからか、リリコはふと迷惑そうで、しかし仕方がないから面倒を見てあげようかというような柔らかい態度を見せる。

「ネクロマンサー・・・って、死霊使いの事?」



「そうよ?」

リリコ、ネクロマンサー知ってるの?

うん、私の世界にもあるよ?

「そっか」

あ・・・。

相槌だけ声に出してしまい、ブリュンヒルデがふと顔を向けてくる。

名前だけでもと思ってマナライズしたけど、ブリュンヒルデって人、おじさんの事大好きなんだなぁ。おじさんの彼女かな。年の差カップルかな。ていうか、万渉術なら・・・。

「その、ヨハンは、生き返りたいと思ってるの?」

リリコが聞いたのでヨハンの顔を伺う。

「あり得ない事だから諦めていたが、もし生き返れるなら・・・生き返りたい」

「お願いリリコ、私ヨハンが居ないと生きていけないの」

「分かったよ、落ち着いて。あなたからはもうヨハンへの愛が滲み出てる。だから生き返らせてあげる」

「ありがとう!」

ブリュンヒルデはリリコを抱き締めるが、自分を見てきたリリコは若干の暑苦しさを訴えてきて、でもその中の嬉しさに思わず笑みを溢してしまう。

「本当に出来るの?」

そんなところでビアンカという、何となく占い師っぽい雰囲気の女性が口を開き、疑わしい空気を“悪意無く”ぶつけてくる。

「聞いた事があるの。どんなデザインの能力でも、出来ない事があるって。それは永遠に時間を止めたり、遠い過去にタイムトラベルしたり、そして死者を蘇らせたりする事。そういう事を試して、今まで出来た人を私は聞いた事が無い。私だって、死者との会話は永遠にやらせてあげられるけど、肉体を与える事が出来るのはその人にとって“24時間だけ”。それが限界なの」

大守幸与の世界じゃ、どうなのかな。あるのかな、“人間の限界”。

「人間には、踏み入れてはならない領域がある」

「そんなの・・・嫌よ!」

「ブリュンヒルデ、それが現実」

「でも私、異世界から来たし、力も異世界のものだし、もしかしたらこの世界の理を越えられるかも」

あれ、結構みんな普通だな・・・。

「そうなのか」

ヨハンが呟き、デュナンズ・ナイツの人達やビアンカがやけに冷静な中、何となくこの場を黙って見ている警察官達に目を向けてみる。

日本語だし、理解出来ないか。

「やるだけやってみてよ」

「うん、やってみるから」

ブリュンヒルデの暑苦しさを早めに宥めたリリコはそれからヨハンの前に立ち、幽霊という存在をマナライズするようにヨハンをまじまじと見つめる。

大丈夫かな・・・。

すると次にリリコは腕を組み、まるで美術館に展示されている彫刻でも観察するようにヨハンを眺め、ヨハンの周りをゆっくりと一周する。

リリコ、おじさんの記憶見てる。何でかな・・・あ、探してるのか。再現方法・・・んー。

窓から入り込む日光が埃を優しく照らし、その暖かい匂いさえ感じる事が出来る静寂の中、ブリュンヒルデは祈るように手を組み、ハイミはウトウトし、コロネは後ろ足で首を掻く。それから何となく3分くらい経ったような気がしてきた時、よく見ないと分からないくらいヨハンの色が濃くなり始め、そして派手に光とか出ないまま、ヨハンはブリュンヒルデにも気付かれる事なく“復元”された。

「ふう・・・」

安堵したようにリリコが溜め息を吐き、ヨハンが自分の手を見下ろしてようやく、ブリュンヒルデはよく分かってないような顔で歩き出す。

「ヨハン?」

「生き返ってしまったか」

「ヨハン!」

すると目の前に居るのにブリュンヒルデは走り出し、ヨハンに抱きつき、強めにキスをした。

うわわ。でも良かった。

「っ・・・ヨハっ・・・っ」

ブリュンヒルデが泣き出し、ヨハンが優しく肩を叩いたりするが、警察官の人達も含めてみんながみんな“落ち着き払った喜び”を噛み締めているそんな雰囲気に、何となくリリコと顔を見合わせる。

「あれ、ていうかおじさん。生き返ってしまったって」

「私の墓だってあるし、生き返ったところで、私にはもう戸籍が無い、結婚も出来ない」

げ、現実的・・・。

「大丈夫よ、お墓なんて蹴って壊すし、戸籍なんて新しく取ればいいのよ」

「自分の墓を蹴られるのは気分がいいものではないな。それに、その下には私の遺体が埋まってるぞ。それはどうする」

げ、現実的・・・。

「まぁ、違う人間として生きていくのが自然の流れか」

それからヨハンは自分を見ると歩み寄ってきて、冷静かと思いきやリリコに向けて我慢しきれないように笑みを溢した。

「ありがとう」

「うん」

万渉術、すごいな。

「おじさん、そしたら殺人事件はどうなるの?無くなるの?」

「遺体が無くなった訳ではないからな。事件が無くなるという訳ではないだろう?」

振り返ってヨハンがドイツ語でそう聞くと、警察官の人達はどよめきながらも肯定的な雰囲気を見せる。

「それはそうだ。我々はあくまで被害を基にした捜査をするだけだ。それで、犯人はディゼルダという事で間違いないんだな?」

「あぁ」

マナライズしてると、言葉の意味が分からなくても感情が分かるし、結果的に言いたい事が分かる。なるほど。

「そうか。しかし、そうなると地球上に戸籍が無い人間を逮捕する事は出来たとして、異世界から来た人間を裁判にかけられる法律が無い」

異世界の人に対する法律なんて無いし。しょうがないか。

「ならここからは私達デュナンズ・ナイツが対処するわ」

デュナンズ・ナイツの人達が警察官の人達と顔を見合わせてる時、リリコに腕を掴まれる。

ヨハン生き返ったし、もう帰ろうよ。

「おじさん。自分達、日本に戻るよ。犯人も分かったしおじさん生き返ったし」

「そうか」

「待って。リリコ、ディゼルダの居場所、もし分かるなら教えて欲しいの。その代わり、何か力になれる事があったら何でもするわ」

「まあ、いいけど」



「ブリュンヒルデ、これはデュナンズ・ナイツの問題だ。ディゼルダを捜すくらい、難しくない」

カミーユがそう言った時に携帯電話が鳴ったので取り出してみる。

・・・メールか。テレサ。

「ディゼルダは、基本的に自分の居場所を話さない。もしかしたら今までずっと異世界に居たのかも」

これから最後の講義。今の状況が知りたい、か。

「それじゃあ、突き止めようがない。まさか、異世界まで追いかける気か」

「違うわよ、この世界に居ない事が分かるだけでも、動き方が変わるでしょ?」

テレサには悪いが、もう問題は解決されたしな。とりあえず合流して、カルロスと一緒に話すか。

「それはそうだが、捜すくらいオレ達だって」

「何よ!」

「いや怒るなって」

「いいじゃないか。彼女もいいと言ってくれてる」

「デュナンズ・ナイツの諸君、我々は引き上げる。規制線も解くから、このままここを使いたいなら居てもいいぞ」

「分かった」

1番年上だからか、証拠品を持ち出してくれた中年警官が指示を出すと、そして警察官達はさっさと去っていった。それからふとリリコを見ると、リリコは何をしているのかというくらい、黙って一点を見つめる。

それにしても、鳥とキツネ、ペットか?神王会は戦闘部隊かと思ってたけど、そうじゃないのか。

すると直後、リリコがリクジに振り返り、リクジが何やらリリコの体を支えるように肩を抱くと、そのままリリコは脱力するようにリクジにもたれ掛かった。

「大丈夫?」

ブリュンヒルデが心配そうに問いかける。

「何か、すごく眠い。ディゼルダ・・・また明日で・・・」

まさか、寝たのか?

「日本じゃ自分達もう寝る時間だし、結構力使っちゃったし、また明日でいいかな」

「んー、まあしょうがないわね。分かったわ」

リクジがリリコを抱き上げると同時に、黒いキツネが小さな黒い光球を出現させ、それを使ってシールキーの扉のドアノブを回して扉を開ける。

何だこのキツネ、能力者か?

飼い主に指示される訳でも、紐で繋がれてる訳でもなく、まるで自分の意思で考えて動いているかのように鳥が歩いて去っていき、そしてキツネも去って扉が閉められ、扉が消える。

「ヨハン、今は身を隠した方が良い。ディゼルダ派のナンバーワンを味方にするまでは」

「いや、私がディゼルダに殺された事を自分で証言する。それ以上の説得力は無い」

「証言だけじゃ説得力にはならない。そんな事言ったって、物的証拠は無いと言われるだけ」

「疑惑が生まれるだけでも、ディゼルダ派とディゼルダの結束を弱める効果はある」

しかしクリスティーナは納得するような表情も、不服そうな表情も見せず、冷たい顔のまま小さく首を横に振る。

「反対はしないけど、作戦なんて言う割りには綱渡りみたい」

「そうか?」

「もしディゼルダ派が、ヨハンの暗殺をすでに理解していたら?」

「能力で洗脳でもされていない限り、そこまでディゼルダに心酔するなんて事はないと思う。我々は、それぞれ理念と意思がある。デュナンズ・ナイツは、過激なテロ組織じゃない。先ずはそうだな、ドレイクの下へ行こうか」

「えぇ!」

セシルは驚くものの、俺を見たカミーユはセシルが驚いたからこその冷静な表情を見せる。

「いや、本部所属から固めるのはむしろ基本だろ」

「なら私はヤロスラフを説得する」

さっきも行ってたけど。

「クリスティーナ、ヤロスラフと親しいの?」

セシルがそう聞くが、案の定クリスティーナは表情を変えない。

「ヤロスラフはディゼルダ派ではあるけどディゼルダに心酔している訳じゃない。フィクサーに従うのが当然だと思ってるだけ。さっきだってディゼルダ派のメンバーリストを送ってくれたし、何だかんだ言っても話が通じない相手じゃない。問題は、自分の意思でディゼルダを否定しない人達だけど」

「きっと大丈夫よ。ヨハンの作戦だもん。じゃあ、私は同じロサンゼルス支部のジャックを説得させるわ。結局実際に生き返ったヨハンに会えば信じるだろうし」

「うん、なら2人共頼んだ。ドレイクの居場所は分かるのか?」



「(魂をマナライズして、その情報を基に万渉術で肉体を綿密に復元する。一口に肉体って言っても何十兆もの細胞でヒトは出来てるからね、相当エネルギー使ったはずだよ)」

「そっか」

爆睡しているリリコの頭を撫で、やらないと責められるかも知れないのでキスをしてからベッドの中に入る。

「せっかく外国行ったのに、もっと見たかったな」

「まあいつでも行けるからさ」

「うん」

犬用だけどコロネの寝床になっているソファーの隣にハイミも寝っ転がったので、リモコンで部屋の電気を消す。何となく体に何かが巻きついたような重たさを感じた気がして意識が少しはっきりする。少し意識がはっきりした中でも部屋いっぱいに入り込んだ日光の明るさを感じ、とっさに何となく体に巻きついたものを触ると、それは後ろから抱きついてきているリリコだった。

・・・んん。

「んん、りっくん」

それからリリコと朝食を取っている時、スマホが鳴り、何となく画面を覗いてみる。

メール。知らない人のメールアドレスだ。

「それ、デュナンズ・ナイツのセシルって人だよ」

もう大丈夫そうだな。

一晩寝れば平気だよ。

「そっか。ていうか、何で、自分のスマホに」

「そりゃあ“ゴーストタッチ”出来る人なんて他にも居るよ」

ハッキングされちゃったのかな。自分のスマホ。あれか、おじさんのスマホは使えないからかな。

「これから日本に行くから、落ち合おうだって」

「あは、メール開く前に」

何で日本来るんだろ。日本に何かあるのかな。

お台場の自由の女神の前に行ってみるとすでにヨハンとセシル、カミーユ、ウルフ、カルロス、テレサ、そしてペガサスが居て、人数の多さよりもペガサスが居る事に思わず早歩きになってしまう。

すごいな、テレサって人の召喚獣か。完璧なキレイな白いペガサス、カッコイイ。

「おじさん」

「朝から頼み事をして悪いね。ドレイク達の潜伏先が日本だと分かったので、こうして来たという事だ」

潜伏先・・・。

マナライズと万渉術、2つの異世界の力が合わさったからこそ、限界を越えたんですね。


ありがとうございました

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