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幻の世、騎士の現

それから朝食を作ると言ってキッチンの前に立つリリコを何となく見ていると、直後になんとリリコは念じただけで冷蔵庫を開け、そのまま触らずに食材たちを取り出し、そして包丁を使わずに空中で切断した。

「マンガだ、すごいな」

「それが万渉術なの?」

ハイミがそう聞くとリリコは振り返り、笑顔で頷く。

「(それくらいなら自分だって出来るし)」

「へー、いいなー、ハイミもやりたいな」

出来上がった野菜炒めをリリコと一緒につついていると、リリコはモグモグしながら真っ直ぐ自分を見つめてきた。

万渉術出来るようになったし、デュナンズ・ナイツの事調べてみる。

何か、何だろ。自分の心の中で別人が喋ってるの、何か・・・何だろ。

「ふふっ何だろって」

「だって、そんな経験、普通無いし」

マナライザーじゃ当たり前だよ。

「そうなんだ。多分あれだね。好きな人じゃなかったら、気持ち悪いんだろうね」

「そりゃあね」

解析の力を逆に作用させてアウトプット・・・上級だなぁ。

「マナライズって、級とか段とかあるの?」

「えへ、無いよそんなの」

「そっか」

万渉術、想像した事は何でも出来る、か。

「どう調べるの?」

「そうだねぇ、デュナンズ・ナイツの事よく知らないし、そしたら、現場を見るとか、それで、時間を巻き戻してみたら分かるんじゃないかな」

「そうだね、確実だね」

「現場って外国?ハイミも行きたい」

「うん、みんなで行こうね」



1時間目が終わった後の10分間の休み時間、次の授業がある理科室に向かう為に究と一緒に教室を出た時、2階からでも見下ろせる中庭から変な音が聞こえたので、何となく中庭を見下ろす。

あっ柳菜。ヒーロー部の1年達も。倒れてるのは・・・。

「柳菜?」

究が呼び掛けると柳菜とヒーロー部の1年達も僕達の方を見上げてきた。

「何してるの?」

「不良がさ、ヒーロー部に絡んできたの」

「そうなんだ」

まあ、もし1年生の能力者大会みたいなものがあったら、柳菜はぶっちぎりだしな。心配は他の部員達だけど。怪我は無さそうだ。

「こっちは問題無いから」

「うん」

頼もしく柳菜がそう言ったので理科室に向かい始める中、何となく究の心配そうな横顔に目が留まる。

「そういえば、ヒーロー部のみんなの力って何だろうね。柳菜とか僕達が居なくてもヒーロー出来るのかな」

「うーん」

ん?・・・。

「どうかした?」

「え?ああ、いや、柳菜、何か・・・強くなったなぁって。化粧も始めて可愛くなったし。指定自警団のもっと強い人にナンパとかされたら」

「あはは」



「わあ、ここがデュナンズ・ナイツの本部か」

「(教会って言うんだよ)」

「へー」

「ハイミあんまりはしゃがないでよね、外は警察官が見張ってるんだから」

「翼のバタバタで分かっちゃうのかな」

「(ま、その時は自分が何とかするけど)」

ここじゃ今深夜だし、たまたま忍び込むには良い時間だったけど。本当に誰も居ないかな。作戦会議室であって根城って訳じゃないから、大丈夫なのかな。

「ハイミそっちだめ。ほら2階行くよ」

2階に上がってみるとそこは何となく倉庫部屋みたいな、しかし待機する為に寛ぐには適しているような広い空間だった。事件の後だからなのか、ただでさえ広々とした空間がより寂しげな感じを纏っている中、リリコは部屋の隅っこに立ち、何やら部屋全体を見渡した。

パソコンってどこら辺にあったのかな。

「リリコ、やるの?」

「うん。誰か来る前に」

「やり方分かるの?」

「大守幸与を視た時、記憶辿って使い方も解析したよ」

「そうなんだ」

ハイミとコロネにアイコンタクトを送り、近くに座らせて大人しくさせたところで、そしてリリコは小さく両手を広げた。

・・・・・ん?まさか、他の人は見れないのかな。過去を見るのもあくまで頭の中だけか。

リリコの頭の中にお邪魔してみると、リリコの視覚を通して見るこの空間は埃っぽさがなく、テーブルやソファーが置かれていて、まるで早送りや巻き戻しをしているように窓から入る日光が行ったり来たりしていた。

うわぁ・・・あ、警察。どんどん捜査が巻き戻されて、お、おじさんの遺体が戻されて、ん、ガブリエル達。おじさんが死んじゃう前に・・・・・・・。



「セシル、何か進展はあったか?」

「今から連絡しようと思ってた。ネットで検索したら、ネクロマンサーって呼ばれる能力者がヒットして、今その1人と一緒に居るの」

「ネクロマンサー?その1人って、何人もいるのか」

「そりゃ世界中にいるよ」

「そうか」

「それでヨハンの霊を呼び出して貰おうとしたんだけど、死んだ場所でやった方が確実みたいだから、これから本部に行くの。ウルフも来なよ。カミーユにはもう連絡したから」

「そうか、分かったすぐ行く」

本部・・・入れないだろう。どうするんだ?

「私も行く」

携帯電話をしまった時にクリスティーナがそう言って来たので、ロンドン支部に戻ってきたがすぐにシールキーを壁に貼り直し、ジュネーブ本部の目の前にやって来る。

ブリュンヒルデはどうしてるだろう。

「ウルフ」

手を振るセシルの傍にはカミーユとカルロス、そして知らない女性が居たが、すぐに目に留まったのはやはり見張りとして立っている1人の警察官だった。

「彼女はルーマニアから来たビアンカだよ」

「あぁ、力を貸してくれて礼を言うよ。セシル、ブリュンヒルデも呼んでやった方がいいんじゃないのか?」

するとセシルが何やら驚くように表情を緩ませる。

「ウルフがそんな優しい提案するなんて」

「何だよ。あれだ、情報共有っていうやつ」

何となくクリスティーナを見るが、クリスティーナはまったく表情を作らずに俺を見る。

「私に呼んでって言いたいの?まあいいか。呼んでみる」

クリスティーナが電話をかけている間、本部の前に立っている警察官に歩み寄ると、警察官は当然のように迷惑そうな鋭い眼差しをぶつけてくる。

「悪いが、被害者の関係者とはあまり関わらないように言われてるんだが」

「犯人が分かるのにか?」

「え?」

「だったらデュナンズ・ナイツからの正式な依頼。能力者の能力で事件の検証を行うから中に入れて」

クリスティーナがそう言うと、表情が無いからこその堂々とした態度になのか、警察官はまるで俺達の上司が口を出してきたように鋭い目つきを和らげる。

「何をするんだ」

「ヨハンの霊を呼んで、何があったか本人から聞く」

「まさかお前達だけでじゃないよな?」

「勿論あなた達も一緒に」

それからブリュンヒルデが来て、証拠品を持ち出してくれた中年警官も来てぞろぞろと本部に入っていくと、そしてビアンカはヨハンの遺体があった場所で立ち止まった。

「ヨハン・・・そうあなたがヨハンね」

「ヨハンっ」

ブリュンヒルデが呼び掛けるが、やはりビアンカにしか幽霊は見えないのか、ブリュンヒルデの呼び掛けは宙に浮き、その場には静寂が返ってくる。

「姿が見えるようには出来ないの?」

ふと気にかかったのは、そんなブリュンヒルデの問いかけの後、ビアンカがまるで目の前に居る誰かの顔を伺うような態度を見せた事だった。すると直後にビアンカは手をかざし、“見えない人が居るであろう場所”の足元から人の形をした光を作り上げていった。そして足から出来上がった光が頭まで行くと、その人の形をした光は“幽霊らしく色の薄いヨハン”となった。

「ヨハン!」

すぐさまブリュンヒルデがヨハンに抱きつくが、何となく想像していた通りにブリュンヒルデはヨハンを通り抜け、ブリュンヒルデは勢いよく倒れ込んだ。

「落ち着きなさいブリュンヒルデ。見ての通り私は幽霊だ、ふふっ」

「ヨハン、何笑ってるの」

しかしそう聞いたセシルに応える事なく、ヨハンは自分の体を見下ろしたり、この場を見渡したりしていく。

「初めての感覚だ。まるで、はっきりとした夢の中にいるようだ」

「それでヨハン!ヨハン殺したのは誰?」

幽霊になっても持ち前の余裕に満ちた落ち着き払った態度は忘れていないのか、ヨハンは詰め寄るブリュンヒルデに微笑みを向ける。

「言ったら、すぐに追いかけるだろ?」

「当たり前じゃない、すぐに追いかけて殺すわよ」

「おい、警察の前でそんな事言うなよ」

証拠品を持ち出してくれた中年警官がそう口を挟むも、ブリュンヒルデは悪びれる表情など見せず、むしろ口を挟むなと言わんばかりの強い眼差しを返す。

呼ばない方が良かった・・・のか?

「せっかくこうして話せるんだ。ここは作戦を立てた方がいい」

作戦・・・。

「何でよ、作戦なんて無くても私負けないわよ」

「私が気にかけているのは、デュナンズ・ナイツ全体の事だ」

「どういう事よ」

「このままではデュナンズ・ナイツという理念が崩れてしまう。今こそデュナンズ・ナイツに調和をもたらさなければならない。デュナンズ・ナイツは常に1つでなければならないからな。そういう意味では、先ずは犯人を追いかけるよりすべてのナンバーワン同士で結束を強めるべきだろう」

「それは・・・無理じゃないのか?ディゼルダ派とオレ達が、結束なんて」

「そもそも、1つの理念に派閥なんてあっていい訳がない。それに・・・・・」

「え?」

「いや」

「ヨハン」

カミーユとの会話中に我慢出来ずに声をかけてしまうと、俺の表情に何かを感じたのか、その一瞬、ヨハンの表情にふとした真剣さが伺えた。

「どうして隠すんだ。大体予想出来る。ナンバーワン同士を1つにって、それはやはりヨハンがディゼルダを敵だと思ってるからじゃないのか。どうしていつも、ヨハンは自分の頭の中だけで物事を進めようとするんだ。殺されたのだって、単独行動が原因だろ!」

「ウルフ・・・」

落ち着かせるようにセシルが声をかけてくる中、ヨハンはそれでも再び余裕に満ちた表情を浮かべてみせる。

「君の言う通りだ。しかし、今ディゼルダを追いかけたとしたら、ディゼルダ派の者達と無駄に戦わなくてはならなくなる。先ずはディゼルダ派の者達に、ディゼルダは敵だと理解させるのが先だ」

「ウルフ、いつも最後は私達に頼ってくれてるじゃん。ヨハンの考えは間違ってないよ」

セシル・・・。

「なら、何故ディゼルダと何があったか詳しく話さない。ディゼルダに殺された事実だけ知れればいい訳じゃない」

「分かってる。しかし先ずは作戦の事を話したかったんだ。確かにディゼルダの事を知らなければ、ディゼルダ派を説得する事は出来ない。あの後、本部に行ってディゼルダから真実とやらを聞いた。先ず最初に言うことは、ディゼルダは異世界から来たという事だ」

「・・・確かに、ディゼルダの素性って知らなかったよね。ただフィクサーってだけで、指示はリーダーからだし。ブリュンヒルデとクリスティーナは知ってたの?」

異世界・・・。驚きはしないが、そうだったのか。

セシルの問いに、2人は揃って首を横に振る。

「ディゼルダ派なら知ってたかも知れないわね」

「もしかして、ディゼルダがデュナンズ・ナイツを立ち上げたのは、世界の為ではなかったという事?」

クリスティーナが鋭い考察を聞かせると、その凍りついたような表情になのか、ヨハンは柔らかい表情に真剣さを帯びさせた。

「結果的には、世界に為にはなるんだろう。しかしそれはあくまで独善的な考えの下でだ・・・ん?」

ふとどこかに顔を向けたヨハンの目線の先を追うと、そこにはシールキーで作られた扉があり、デュナンズ・ナイツの誰かが来るのかと思いきや、現れたのは知らない男女と見たことの無い大きな鳥、そして黒いキツネだった。

「おじさん」

「リクジ」

その名前、どこかで・・・。

「お前ら日本人か、何でここに」

「カミーユ、彼らは敵じゃない」

「リクジって、まさかヨハンがメールしていた、神王会?」

セシルの問いにヨハンが静かに頷く中、ふと静かに扉を閉めた女性の、“敵意の無い警戒”が込められた眼差しが気にかかる。

「おじさん、ニュースでおじさんが殺されたって聞いてさ、気になって、調べたっていうか、見に来たんだ」

「そうか」

「おじさん、ホントに幽霊になっちゃったんだね」

「あぁ、残念だよ。ブリュンヒルデにも寂しい思いをさせてしまう」

「ビアンカっネクロマンサーなんでしょ?ゾンビでもいいから生き返らせてよっ」

直後にヨハンは幽霊のくせにリラックスしたような笑いを吹き出した。

「ゾンビは御免だ」

「そもそも神王会って、デュナンズ・ナイツから敵視されてるのに、何で接触してきたの?」

「いや、最初に接触したのは私だ。ディゼルダが神王会を敵視し始めた時、神王会というものがどんなものか知りたくてね」

そう応えるとセシルは普通にヨハンらしい事をしていただけだと安堵するように、静かに頷いた。

幻の世は、六事の視点という意味です。能力を使って見た世界はまるで幻かのようだからです。そして六事の物語は、時に真実を見つめます。


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