エンデバー・フォー・フーム3
ステーキを一口大に切って口に運び、次にソーセージを切って食べ、それからワインを一口喉に流し込む。よく通っているバーで夕食を取っている中、そこで再びテレサと目が合うが、テレサは何故か先程から思い悩むように表情を曇らせる。
「何でテレサが暗いんだ」
「だって、私、ワールド・クロスなのに、ウルフになんて言ったらいいのか分からなくて」
「何で誘ったんだ」
「ヨハンが死んだってニュースが出たから、1人でディナーは寂しいんじゃないかなって。何でだろう、子供相手なら励ますの得意なのに」
「いつも通りにしてくれ。その方がいい」
「そう?・・・それでどうするの?まさかデュナンズ・ナイツを抜けるの?」
「デュナンズ・ナイツにとってヨハン派は必要なんだよ。ヨハンが居なくたって変わらない」
「どういう事?」
そもそも何故ワールド・クロスは、デュナンズ・ナイツに監視役を送る事を極秘にしているんだ。
「俺達ヨハン派は、そもそもワールド・クロスの人間だ」
「・・・どういう事?」
ワールド・クロスの上層部は何か指示を出すんだろうか。指示を出す必要を無くす為に、ワールド・クロスの人間である事を隠すのか・・・。
「ヨハン派は、デュナンズ・ナイツを監視する為に送られたワールド・クロスの人間って事だ」
「何で、黙ってたの」
「それは俺に言う事じゃない。ワールド・クロスの上層部が極秘事項だと決めたんだ。だがまだ、実際ワールド・クロスに帰属するとか、そういう指示は無い。直接指示を受け取っていたヨハンが居ないからか、俺達に一任しているのかは分からない。まあでも、今は何より、犯人捜しが第一だ」
「そうだけど。何か、騙されてた気分」
「・・・悪かったよ。テレサはそういう事言いふらすような人じゃないし、言ってもよかったかも知れないな」
「私達、チームだったのに、相談もしてくれなかったなんて」
「相談したらどうしてた?それでも一緒に来る事はしなかっただろ?テレサは戦う力は持ってないし。戦う事自体、望まないだろ?」
「そうだけど、でも何かしらサポートは出来たよ。戦いの場に呼んでくれれば怪我人を助けられたし」
「・・・そうだな」
「直接訪ねたら?ワールド・クロスの本部に」
「あぁ、そうしてみる」
夕食を終えて店を出て、ペガサスに乗って去っていくテレサを見送ってから人目に付かない路地の壁にシールキーを貼る。
ワールド・クロスの人間とは言え、テレサをあまり戦いには巻き込みたくないからな・・・。
高級なホテルを模した内装が特徴である、ワールド・クロス本部となっている能力者組織のエントランスホールに入り、バーカウンターと化している受付カウンターを通り過ぎ、階段に向かう。
「ウルフ」
振り返るとテーブル席にはテレサと同じくワールド・クロスで同じチームだったカルロスが居たので、仕方なく近寄る。
「珍しいな、どうしたんだ」
カルロスは口が軽いからな・・・。何て言おう。
「ヨハンの事で、上層部に呼ばれて」
「ああ・・・そうか。まさか暗殺されるなんてな」
暗殺?・・・。
「何か知ってるのか?」
「いや、ワールド・クロスの中じゃそう噂されてる。相手はナンバーワンだし、相当な実力者じゃないかって」
「・・・そうか」
「前にドレイク派からワールド・クロスに戻ってきた奴が居るって言ったろ?そいつらからの情報なんだが、ディゼルダはドレイク以外にも他のナンバーワンを取り込んでて、このままじゃいづれディゼルダの独裁状態になるってよ」
「他のナンバーワン・・・」
ならドレイクが撤退しても、日本はまだ・・・。いやそもそも日本にこだわる理由はないか。
「テレサから聞いたか?」
「何を?」
「ああ、聞いてないのか、はは」
「何笑ってる。さっきもディナーを共にしたが」
「いや、あいつ、そういえばウルフがデュナンズ・ナイツに行って何日か後、自分もデュナンズ・ナイツ行こうかって言ってた」
「え」
「でも後で聞いたら酔っ払ってて覚えてないってよ」
「そうか」
エントランスホールから幹部専用フロアである3階に上がり、司令室に向かって廊下を進んでいた時、遠くの司令室から1人の女性が出てくる。見つかったからといって特に何かされる訳でもないので構わずに歩いていると、もう少しで擦れ違うという時にその女性は立ち止まり、俺を見た。
「ウルフ・グライリッヒ?」
「・・・あぁ」
「今さっきヨハンの後任に就いた、ハンナ・ブライトナー」
後任・・・。
笑みは浮かべないが手は出したので、とりあえず握手を交わす。
「顔を会わせたいから、これから他のヨハン派集めてくれる?」
そう言うと返事を待たずにハンナは歩き出し、まるで“ただのキャリアウーマン”かのような雰囲気を匂わせる。
「何か指示が出たのか?」
「それはみんなを集めてから」
「ハンナは戦えるのか?」
「私達はワールド・クロスの人間でしょ?戦う必要なんてある?」
「それじゃあデュナンズ・ナイツに入り込めない」
するとようやくハンナは振り返り、何故か俺を不思議そうに見た。
「それをやるのはあなた達。私は指揮するだけ」
「・・・そうか」
ドライだな。ヨハンを真似しろとは思わないが、なるほどこういう感じ、か。
カミーユとセシルを電話で呼びつけ、そしてエントランスホールのテーブル席に集まるが、まるでわざとらしく聞き耳を立てるように隣のテーブルにはカルロスがやって来た。
カルロス、まさかさっきから1人で飲んでたのか?
しかしハンナは1人立ったままで、その佇まいには上下関係をはっきりさせたい距離感が伺えた。
「あなた達の顔と名前はもう覚えたから、堅苦しい挨拶は要らない。私はハンナ・ブライトナー。ヨハンの後任。今後はワールド・クロスからの指示は私が中継するから。それで、あなた達は今後もデュナンズ・ナイツの監視を継続して」
「ヨハンの事、調べながらだろ?」
カミーユがそう聞くが、ハンナは俺達を20代の若者だと下に見ているのか、役割上当然なのだろうがまるで子供でも見るような冷たい眼差しを向けてくる。
「それはしなくていい。それよりもディゼルダの動向を監視するのが優先」
「何でだよ」
「ヨハンの事は警察に任せればいい。そもそもあなた達の仕事は最初からデュナンズ・ナイツという組織、そしてディゼルダの動向を監視する事。本来の役割に徹するのは当然」
「そうだけど。ヨハンだったら、ディゼルダに取り込まれてない奴らともっと連携したり」
「デュナンズ・ナイツと連携する必要ある?それに、ヨハンはもう居ない」
「オレ達はヨハン派だぞ。ヨハンの遺志を継ぐ」
「カミーユ、それはあなたが望んでるだけ。ヨハンの幽霊と直接話した訳でもないでしょ」
・・・幽霊。
「あ!」
ん?・・・。
突如笑顔混じりでセシルが何かに閃いたように声を上げ、ハンナもセシルを見て固まる。
「ヨハンの幽霊に聞けばいいんだよ。ヨハンを殺した犯人」
「知り合いに居るのか?スピリチュアルカウンセラー」
「え、居ない」
何だよ・・・。
「だから捜すよ、カウンセラー」
「当てが無いのに捜してどうするの。無駄な事はしないで」
「そんな厳しくしなくたって」
「いつ何が起こるか分からない戦場では、迷いも無駄も、死に直結する。イラクの紛争地帯での救助活動で、私はそれを学んだ。自分がやるべき事を確りやる。それがワールド・クロスでしょ」
・・・堅苦しいな。顔が。紛争地帯を経験した人の顔だ。
「じゃあ、私のやるべき事は、カウンセラー捜しって事で」
「おう、そうだな。仕事はオレ達に任せとけ」
「ちょっと待って」
「ハンナ、頼むよ。オレ達でヨハンを殺した奴を捜すのがヨハンへの手向けなんだ」
上司らしく終始表情は冷たいが、カミーユの訴えに返した溜め息には諦めと同時に納得も伺えた。
「・・・分かった。それじゃ、ディゼルダ派のナンバーワン達の動向、最低でも1時間ごとには報告して。これ私のパソコンのアドレス」
「1時間!?わ、分かった」
そしてハンナが去っていくと、カミーユはビールを飲もうと言ったので、バーカウンターからビールを貰ってくる。
「ウルフ」
そして3人でビールを一口飲んだ時、ようやくカルロスが話しかけてくる。
「カルロス、1人で飲んでたのか?」
「え、ああまあ。ってオレの事はいいんだ。お前ら、つまりスパイって事か?」
「それじゃあデュナンズ・ナイツが敵みたいだろ。ただの監視だよ」
カミーユが応えるとカルロスは納得したように小さく頷き、しれっと同じテーブルの椅子に移った。
「テレサは知ってるのか?」
「さっき話した」
「そうか。オレはカルロス、ウルフとはワールド・クロスで同じチームだった」
カミーユとセシルがただ頷くと、カルロスは2人に何か聞きたそうに神妙な眼差しを向ける。
「2人は、ワールド・クロスの時の仲間にはどう説明してる」
「オレはただ、誘われたから行くって」
「私とカミーユはヨハンに誘われる前までパリ支部に居て、顔見知りだったの。新しいチームに誘われたって言っただけだけど、全然怪しまれてないよ」
「そうなのか。ヨハンに誘われたって、どんな風に」
「内容は聞かされずに、人を集めたいからって」
「よく乗ったな」
「ヨハンはワールド・クロスの幹部だったし、指令だと思って疑わないだろ」
「・・・まあそうか。これから、捜すんだろ?スピリチュアルカウンセラー。オレも手伝うよ」
そう言ってカルロスはセシルを見る。
「え、うん、ありがとう」
何だ?急にそんな・・・。
それからビールを一口飲むとカルロスは俺を見る。
「オレがそうすればテレサだって、手伝い易くなるだろ」
「テレサって、ウルフの、彼女?」
セシルの半笑いでの問いかけに、カルロスは何故かビールグラスの中で笑う。
「違う、幼馴染みだ」
「テレサから聞いたんだが、家も近所だから子供の頃から仲良くなって、同じ大学に入って、テレサがワールド・クロスに誘ったらウルフも入って、頻繁に一緒にディナー食って、こういうの、世間で何て言うんだ」
え?・・・。
ふとセシルと目が合うと、セシルは戸惑ったように、しかし半笑いでカミーユと顔を見合わせる。
「・・・恋人?」
「そんなんじゃない」
「えー、女だったら意識してるはずだけどな」
「そう、なのか?」
「テレサも心の中じゃ手伝いたいって思ってんだから、誘ってやれよ」
それから組織の部屋に帰り、翌日になってエントランスホールのテーブル席で朝食を取っていると携帯電話が鳴った。
ん、テレサ。
「何だよ」
「おはよ。今日は大学行くの?」
「あぁ。でも午後にはこっちの仕事をする」
「そうなんだ、じゃあいつもの場所で」
「あぁ」
大学はミュンヘンにあるのでシールキーを使ってスイスから人知れず国境を越え、そして通っている大学の中庭のベンチで待っていると、やがてそこにテレサがやって来た。
「ウルフ、カルロスからメールが来たよ。ウルフ達の事手伝うって」
「そうか」
「それから・・・その・・・」
他にも何か言われたのか、テレサは途端に口籠り、そこでふとカルロスの言葉を思い出す。
「テレサも何か
私もデュナンズ・ナイツに」
「え?」
「ウルフが先に言ってよ」
「今、デュナンズ・ナイツにって、言ったのか?無理するなよ、戦えないだろ?」
「鉱石使えばいいし」
「いや、もし戦いの場にテレサが居るとしても、回復役の方が俺だって戦い易い」
「・・・そう?」
「それに俺はそもそもワールド・クロスだ。テレサだけデュナンズ・ナイツに行ってどうする」
「あは、そうだった」
・・・女だったら意識してるはず。
ふとセシルのそんな言葉を思い出してしまうと、何となく何て声をかけたらいいか分からなくなり、ただテレサと目が合ったまま沈黙が流れると、セシルはすぐに笑顔を落ち着かせた。
「何?」
「ああ、テレサも手伝いたいって言うなら、全然、俺も助かるし」
「何すればいい?」
「カルロスから聞いてるか?幽霊と話せる人を捜して、ヨハンから直接犯人が誰か聞くって」
「ううん。でも良いアイデアだね。私、そういう知り合い居ないけど。じゃあ私もその人捜すよ」
「あぁ助かるよ」
「どうやって捜すの?」
ふと街灯と一体になっている時計を見上げると講義の時間が迫っているので立ち上がり、共に歩き出す。
「俺はヨハン派の本来の仕事である、デュナンズ・ナイツの監視の方をやるから、テレサはカルロスと一緒に、セシルを手伝ってくれ」
「そうなんだ。分かった。あのさ、もう1つ、お願いがあるんだけど」
「え?」
お願い・・・。
「戦う時、必ず私を呼んで欲しい」
ふとテレサを見ると、その真剣な眼差しに何となく足が止まってしまったが直後、誰かがぶつかってきた。
「あ、ごめん」
おっと。
気が付くとテレサは密着するほど目の前に居て、そんな近い距離で見つめ合った事がないので、思わず少し後ずさってしまう。
「前も、そうだったしな。分かった」
微妙な距離感のウルフとテレサですね。
ありがとうございました




