ヒーローキラー・アンド・オリジン
自分の部屋をコロネが歩き回るのにもすっかり馴れた中、扉がノックされたので開けると、そこにはマサハルが居た。
「紅蓮会が動き出した。今、広島支部の人達と戦闘中だ」
「広島かぁ。乗っ取るつもりかな」
「それもあるだろう。本部襲撃への足掛かりにでもしようという事かもな」
「ウシク居るのかな。ウシクが居たらヒーローキラーも一緒になっちゃう可能性もあるし、そうなったら負けちゃうよね」
「それはないだろう。ウシクは紅蓮会から抜けたらしい」
「へー。じゃあ戦況的には問題無いの?」
「今のところは。まあ何かあれば近くの支部から援軍を出すだろうからな」
そんなちょっとした情報共有を済ませるとマサハルは部屋に戻っていったので、パソコンの前に座るリリコと見つめ合いながらソファーに戻る。
「行かないの?広島」
「うん。それより、たまにはマンションの屋上から東京を観察しないと」
「寒いよ?」
「大丈夫、マサハルに買って貰ったやつがあるし」
「マント」
「もー、すぐ読むんだから。秘密の道具的な感じで出そうとしたのに」
「読んだ訳じゃないよ。押し入れに入ってるの見たし」
押し入れから取り出してビニールを剥がして、商品タグとかも切ってからマントを羽織り、フードを被る。
・・・魔法使いみたい。
「(ホワイトアーマーを防寒着にすれば?)」
「・・・それじゃあ、さ。普通じゃん」
「(ふーん)」
「リリコ行かないの?」
「私はパソコンとスマホで観察するから。早く帰って来てね?」
「うん」
それからいつものようにマンションの屋上から街を観察していき、適当に屋上を一周してから芝公園方面を見る。
どうなってるかな、あれから。・・・アメリカの人達、居なくなってる。結局戦わずに解散か。誰か説得でもしたのかな。
スマホが鳴ったのでポケットから取り出すと、着信はリリコからだった。
まさかもう帰って来てって?・・・。
「はいはい」
「りっくん、何かデュナンズ・ナイツの本部で事件があったみたいよ」
「ジュネーブだよね?」
「うん。あのヨハンっておじさん、殺されちゃったって」
「・・・・・え」
「世間的にもちょっとだけニュースになってるよ」
「そうなんだ」
殺されちゃった・・・。
「犯人は?」
「分かってないよ。パソコンからデュナンズ・ナイツの本部を見ようと思ったけど見れないの。本部で戦闘したみたいだし、壊れちゃったのかな」
「他に調べる方法、無いのかな」
「じゃあ探してみるよ」
シールキーを使ってキャンベラ支部にやって来るとそこは普通のオフィスみたいにパソコンが並んでいた。
そういう系の能力者の集まりだったのか?・・・。
「ダニエル」
カミーユはすぐに手を挙げて名前を呼んで歩いていったのでついていくと、普通にオフィスで働いてるかのようにドリンクサーバーの前で立ち話していた男性が振り返り、陽気にカミーユと挨拶をかわした。
「おおどうした」
「ハッキングで調べて欲しいものがあるんだ」
「珍しい注文だな。どんな仕事なんだ?そんなぞろぞろと」
「オレ達のリーダー、ヨハンが本部で殺された。その犯人を捜してる」
「それは、事件だな。分かった。キャンベラ支部は情報収集のエキスパートの集まりだ。すぐに見つけてやるよ」
おお、頼もしい。なるほどキャンベラ支部はそういう役回りなのか。同じデュナンズ・ナイツとは言え、リーダーによって活動方針が違うとあまり接点が無いもんだな。
紙コップに入ったコーヒーを一口飲み込むとダニエルは急に表情を引き締め、そして自分の席に座ってキーボードを叩き始める。
「まずはデュナンズ・ナイツの全メンバーの事件当時の行動を調べるから、事件の概要を教えてくれ」
カミーユからの説明を聞きながらもダニエルは指を動かし続け、やがて左のディスプレイには開かれたファイルが散乱した。
「遺留品の端末は?ヨハンのものからならヨハンが誰と会おうとしていたとかメールから読み取れるかも知れない」
「押収された」
「何とか手に入れてくれないか?」
「分かった」
「事件の起きた時間、自分達の支部に居た人は割り出せた。つまりそいつらは犯人じゃない」
「もしかしてキャンベラ支部は本部とすべての支部の防犯カメラを見れるのか?」
そう聞くと俺に振り返ったダニエルは悪びれる事なく、むしろ得意げに笑みを浮かべた。
「その為のキャンベラ支部だ」
カミーユを見るとカミーユも俺を見て、当たりクジでも引き当てたように驚いた表情を見せた。
「オレ知らなかったぞ」
「たまたまキャンベラ支部の力を使う機会が無かっただけじゃないか?」
「本部のカメラは?」
「アクセス出来ない。押収されたんだから。オフラインって事だろ」
「何で、メンバーを調べたの?本部で殺されたってだけなら、外部の人間を疑うのが普通なのに」
セシルがそう聞くと、ダニエルはリラックスしたようにコーヒーの入った紙コップを口に運ぶ。
「ナンバーワンを殺せるような奴はそう居ない。しかも現場は本部だ。直感的に、顔見知りの犯行だと」
顔見知り・・・。やはりディゼルダ。でも逆にディゼルダじゃないとしたら、デュナンズ・ナイツを否定する団体とか。
「(ちょっと大変っぽい)」
マンションの屋上にいきなり現れてそう言ってきたコロネに振り返ると、コロネは自分を見上げながらキレイにお座りしていた。
「(ヒーローキラーがね、仲間にいちゃもんつけてる)」
「まずいじゃん。助けに行くの?」
「(助けっていうか話を付けに。付きまとわれたくないからさ)」
そういえばデュナンズ・ナイツの事が無ければヒーローキラーのところに行く予定だったんだよな。でも、おじさんの事も、気になる・・・。
コロネにワープさせて貰って一旦自分の部屋に戻り、パソコンの前に座って固まっているリリコの肩をつつく。
「コロネがヒーローキラーのところ行くからさ、リリコも来てよ」
「ヒーローキラー、デュナンズ・ナイツの事が終わったらまたコロネを追いかけてきたの?」
「コロネの仲間がピンチっぽいよ」
「何だっけ、付きまとわれないように話をつければいいんでしょ?」
「(うん)」
「じゃあ行こっか、気分転換にもなるし」
「何か分かった?」
「スイス警察のデータベースを散歩してたら、押収した遺留品の中におじさんのスマホがあるってところまで分かった」
データベース・・・散歩。遺留品か。
「何かもう、普通の事件って感じ」
「そんなに親しくないのに、そんなに悲しいんだ」
「(行くよ?)」
「あ、うん」
再びコロネにワープさせて貰うとそこは遠くにアクアラインが見える、東京湾が一望出来るというより、東京湾の中に居るといったような島だった。
・・・緑は割りとある、でもここ、人工島、だよな。
見たところ周りにはヒーローキラーは見えないが、迷わず歩き出したコロネについていくと、やがて海岸にヒーローキラー、そしてウシクの姿が見えてきた。
お、えっ、コロネの仲間って・・・。
ヒーローキラー、ウシクと戦っているのはなんと般若のグリフォンで、2人と1頭が自分達に気が付くと動きが止まり、案の定ではあるがそこには変な沈黙が流れる。
「お前・・・神王会」
ウシクが口を開いた時、ふと目に留まったのは般若のグリフォンの右後ろ足に絡み付く地面から生えた鎖。
逃げられないようにはされてるけど、戦況は、やっぱり互角か。
「そのキツネ、神王会のもんやったのか」
「ものじゃないよ、でもまあ、仲間だよ」
「てことはそのグリフォンもか」
「それは──」
「(そうだよ?だからもう付きまとわないでよ)」
変身しているので表情は分からないがコロネがそう言った直後、ヒーローキラーは鼻で笑った。
「嘘やな。少なくともグリフォンは1人で戦ってる気で向かってきた。オレ、もう大体分かってるからな?お前らは、世界の法則から外れてる。お前らは、どっちかと言えば人類の敵なんやろ。けどまだ全部中身見れてないからな」
「(まったく、だからそういうのプライバシーの侵害だよ?)」
「プライバシー?何様やねん」
その一瞬、コロネは自分とリリコに顔を向ける。
ん、頭の中に語りかけてきた。今の内にマナライズ、か。
「(いいのかなぁ)」
「何がやねん」
「(あなたみたいな人間、本気になれば簡単に殺せるけど)」
「上等やないか・・・ん、なっ、ちょっ・・・・・」
大分気は引けるが、ヒーローキラーの頭の中に入ってみると、最初に感じたのは般若のグリフォンへの好奇心だった。しかし同時に“外敵の感知”も感じ、ヒーローキラーの頭の中はまるで嵐の中かのような“押し返そうという気流”に包まれた。
うわ、何だこれ、あれか、ディスミスゲーム・・・。・・・あっ。
自分の意識はヒーローキラーから追い出され、思わず尻餅を着いてしまったがふとリリコを見るとリリコは真っ直ぐヒーローキラーを見つめていた。
「ぐ・・・止め・・・見るな・・・」
まるで勝手に頭痛でも感じているかのようにヒーローキラーは頭を押さえ、そんなヒーローキラーを前にウシクはそわそわする。
いい練習になるって、相手が悪すぎだ・・・。
「うらぁ!」
般若のグリフォンも振り返り、何となくリリコに目線が集まった時、ヒーローキラーがダイヤモンド色の炎を飛ばしてきたのでホワイトアーマーを纏い、リリコの前に出て両手から放った光でダイヤモンド色の炎を打ち消す。するとダイヤモンド色の炎と光の爆発が邪魔になったのか、ヒーローキラーは見えない何かに解放されたように背筋を伸ばした。
「勝手に人の中見んじゃねえよ!」
「(あなたと同じ事しただけだよ)」
「何でやねん、動物でもないのにプライバシーもあるかよ」
「(えー、酷いなぁ。ほんとにボコボコにしちゃうよ?)」
「だから上等やって言ってるやろ」
ヒーローキラー・・・大守幸与。すごいな万渉術、この人こそ、神なんじゃ・・・。いやこの人の世界じゃ普通なのかな。何でも想像した事を実現させる。あ、そうだ。
「ねえ、大守君。1つ頼み聞いてくれない?」
「・・・あ?名前・・・チッそういうのも分かるのか。気安く呼ぶな」
「だから頼み聞いてくれない?」
「何でやねん。聞く義理あるかよ。まあそれやったらそのキツネと交換やな」
コロネの言った通りヤンキーだな。こりゃだめか。
「りっくん大丈夫だよ?」
「ん?」
「万渉術は解明出来たから、私がそれを出来るようにする」
「・・・そっか、分かった」
「おいキツネ、お前も脅すだけか。グリフォンだって全然本気出して来ないし」
「(だから本気出したら死んじゃうよって。あなたに本気を出す理由ないし。異世界から来た関係ない人だし)」
「関係・・・。多分、関係あるぞ」
「(え?)」
コロネは般若のグリフォンと顔を見合わせるが、気になったのは落ち着いた声色でそうは言ったもののどこか自信が無さげな大守幸与の態度だった。
「だってオレとお前ら、同じやないか。この世界とオレは関係ないけど、オレとお前らは関係あるやろ」
「(どこが?)」
コロネがそう聞くと大守幸与は更に自信を無くすように急にそわそわする。
「オレの世界の人間の、起源みたいなもんやろ。授業で、やってた」
「(起源ねぇ)」
「仲間なら苛めちゃだめじゃん」
「別に苛めてねえよ。知る権利やろ」
「(うわ。勉強出来ない人に限ってそういう事言うんだよね)」
「あ?」
「(そういう、力で押さえつけてじゃなくてさ、普通に聞いてくれれば教えたかも知れないのに。だからヤンキーは嫌いなんだよね)」
すると大守幸与は黙り込んだが、鎧で表情が分からず、そこには妙な沈黙が流れる。そんな時にコロネは般若のグリフォンの右後ろ足を縛る鎖に肉球を乗せる。
「(こんな風にされたら、教えたくなくなって当たり前だよね)」
「・・・分かったよ」
渋々ではあるが、大守幸与が少し手を伸ばした直後に鎖は外れ、般若のグリフォンは可愛らしく犬みたいに体をブルブルさせる。
「まったくガキの扱いは面倒だ。手加減してやってる事も理解出来ない」
うわ、普通に喋った、こういうキャラか。
「我がお前を殺さないのは、少なからず異世界に興味があるからだ。お前の世界の事を教えてくれるなら、我らの事も教えてやってもいいが」
直後にウシクの足元から瞬間的に黒いモヤが吹き出し、ウシクの全身に絡みついた。
「何だ、くそ」
「何でやねん、ウシクは関係無いやろ!」
「てっきりこういう事が好きなのかと」
3頭の雷光ヘビが必死に黒いモヤに噛みつくが、次第にウシクは黒いモヤに包まれていき、表情は見えないが大守幸与は明らかにそわそわしていく。
「止めろっ」
しかし呆気ないほど黒いモヤは一瞬で無くなり、ウシクはまるで幻でも見ていたかのように自分自身の体を見下ろしていく。
「我は人間のように愚かでバカバカしい事はしない。しかしまた力で押さえつけるような事をするなら、防衛としてその腕や足を食いちぎってやる」
・・・・・怖い、コロネの仲間、怖い。
「・・・分かったよ」
ついにリリコも万渉術への足掛かりを手に入れてしまいました。
ありがとうございました




