エンデバー・フォー・フーム
突如上空に形の無い、まるで夕焼けでも凝縮したようなとてつもない光が現れると、ヒーローキラーに向けられていた眼差しは次々と空へ上げられる。
あれは・・・。
すると直後に超局所的な夕焼けは木洩れ日のように光の筋を下ろし、ガブリエルやドレイク、“行動不能に陥ったすべての人”に注がれた。光の筋が注がれた瞬間から動けなくなった人達が元気を取り戻していくという状況の中、空からドレイクの傍にブリュンヒルデが降り立った。赤い差し色が入ったプラチナの重鎧を纏い、プラチナ色に輝く光の翼を広げて、まるで神話の中から出てきたかのような神々しさを見せつけるブリュンヒルデはそして周りを見渡すと何やら俺を見て手を挙げた。
「ヤッホー」
「・・・え?」
「私、ヤッホーって日本語が1番好き、こんなポップな言葉無いわよね」
「ポップ・・・まあ」
「ヨハンは?」
「ディゼルダに会いに行った」
「え!・・・ええー。何でよ、何で居ないの?会いに来たのにっ」
そう言ってブリュンヒルデが地面を踏みつけた瞬間、そのヒールはキレイにアスファルトを陥没させた。
「あ」
「何しに来た」
そんな時に体力がすっかり回復したドレイクがブリュンヒルデに問いかけると、ブリュンヒルデは重鎧の重たさなどまったく感じないように振り返り、肩を竦めた。
「お礼は要らないわ。敗北者を助けるのが天使の役目だもの」
「敗北者だと?」
「そして次に敗北者がやること、それは退場。ほら、さっさと帰りなさい」
肩で深呼吸するドレイクから苛立ちが伺えるが、それでもドレイクは負けた事を認めたのか言葉を返す事なく5連の大斧を消し、変身を解いた。
何かすごい人来たな。いかにも騎士って感じの鎧。
そして前にも現れたスキンヘッドの男性がワープしてやって来るが、ドレイク派なのかガブリエルやジョアン達が集まってくるその沈黙に、何となく現実感を感じてしまう。ドレイク達が消え、アメリカの能力者達もその女性の英語での言葉に納得してか、各々の能力でその場を去っていく中、それでも残ったアメリカ人と思われる数人は英語で抗議していく。
でも回復しちゃったしな、またこんな戦いが何度も繰り返されるのかな。でもドレイクさん負けたし、僕達の言い分を聞いてくれればもう戦わないのかな。
「聖、やったじゃん」
そう言いながら究が柳菜と共に近付いてきて、まるで気持ちよく勝利したように笑みを浮かべる。
「うん」
「凉蘭は?」
あれ?・・・。
「空から狙撃するって言って飛んでったけど、あ、鳥井さんっ」
ビルの上から降りてきた凉蘭をちょうど見つけて手を挙げると凉蘭は手を挙げ返したが、ふとその落ち着き払った表情が気にかかった。
「どうかした?」
「別に。スナイパーって・・・結構孤独だなって」
孤独か、そりゃあ、スナイパーだし。
そんな時にプラチナっぽいすごい鎧の女性と話が決裂したのかアメリカの能力者達が女性を通り過ぎ、オオモリユキトに向かって英語で何かを言いながら近付いてきた。
「何やねん」
そして5人の、明らかに不良っぽい服装の男性達が各々変身したり武器を出していく中、プラチナの鎧の女性は再び肩を竦め、もう相手にしないといった感じでウルフ達の方に近付いていく。
「りっくん帰ろ?あんなのキョウスケ達に任せればいいよ」
「うん」
あの女の人、キョウスケ達も関係なくみんな回復させちゃった。デュナンズ・ナイツにもそういう感じの人が居るんだな。
「(ドレイクって人、負けたんだし、もう来ないよね?)」
「どうかなぁ。デュナンズ・ナイツって他にもいっぱいいるみたいだし、戦いが終わった訳じゃないんじゃない?私そんなに興味ないけど。ていうか、コロネの仲間、スイスにもいるんじゃないの?偵察してみれば?」
「(偵察か・・・)」
「ブリュンヒルデも、ディゼルダから聞いたんだろ?真実を」
「何の?」
「聞いてないのか?ドレイクはディゼルダから真実とやらを聞いたからこんな侵略まがいな事をしたんだ。それを知っててアメリカ勢を取り込んだんじゃないのか?」
「私がアメリカの能力者達を引き入れたのは迷子だったから。デュナンズ・ナイツの思想を広めるのは当然だし、デュナンズ・ナイツの使命を手伝わせるのも当然。なのにドレイクのチームに派遣した人達から日本の事聞いて、ここに来たの。私はドレイクが何考えてるのか知らなかった。多分、ドレイクのせいで、やっぱりデュナンズ・ナイツからは離れようって人達が増える。ほんと迷惑。どうせならヨハンのチームに派遣すれば良かった」
ドレイクと同調していないなら知らないか。ヨハン派がワールド・クロスの人間だと。
「ディゼルダに会いに行ったって、ジュネーブ?」
「・・・多分」
「オレ達も戻ろう。ドレイクは負けたと報告しよう」
ライムに近付いていくとセシルとカミーユもついてきて、するとライムも俺達に気が付き、笑顔で歩み寄ってくる。
「俺達は戻る」
「うん、ありがとね」
デュナンズ・ナイツの人、みんな帰ったし、戦いは終わったのに。
手は出して来ないものの、神王会の人達に監視されてるという、“終わった感の中の疲れの中の緊張感みたいなもの”が吹き込んでくる中、オオモリユキトは何やら振り返り、僕やミントを見た。
「やらないのか?」
んー。
「ならオレ1人で──」
「ユキト、後は私達に任せてよ。説得して帰って貰うから」
「あ?・・・」
こういう後処理も結構な現実感だな。
ミントが僕を見て来たので、究達と一緒にミントについていき、アメリカの能力者と対峙していく。すると1人の男性が英語でちょっと怒ったように言葉を投げ掛けてくる。
どうしよう、英語分からない・・・。デュナンズ・ナイツの人達はもう、日本に住んで何十年ですみたいに話してるのに。この人達は話せないのか。
「ウォーイズオーバー。プリーズ、ゴーホーム。エブリワンレフト」
わあ、ミントさん、喋れるんだ・・・。超日本人英語だけど。
しかし男性が反論してくると、ミントは困ったように表情をしかめる。
「セイムアズテロリスト」
すると男性はそう言ったミントに対してではなく、何やら不満そうに反論してくる。そんな時に神王会の人が比較的ネイティブな発音で口を挟んできて、男性は更に不満を漏らすように話していく。
やっぱり指定自警団だな。ノブさんも喋れるのかな。
ジュネーブのデュナンズ・ナイツ本部に戻ると、真っ先に目に飛び込んだのは、何かがあったと理解させられるほどの散らかりようだった。
・・・ドレイク達。
近付いていくと俺達に気付いたのかドレイク達が振り返ってくるが、そこで次に目に留まったのはドレイク達の固まった表情、そしてドレイク達の足元に倒れているヨハン。
ヨハン!・・・。
「よせ──」
直後にエミリアンが俺を制止する。
「もう死んでる」
「何してるんだ!何故だ!」
「落ち着け。ドレイクでもオレ達でもない。オレ達が来たらこうだった。どうやらここで戦闘したようだ。そしてヨハンは殺された」
「殺された・・・・」
「そんな・・・」
何故かブリュンヒルデを制止する人は誰も居らず、それからブリュンヒルデは啜り泣き、ヨハンの傍で膝を落とした。
「どうして・・・こんな・・・」
一体・・・誰が・・・まさか。
「ドレイク、今ディゼルダはどこに居る。ヨハンはディゼルダに会いに行くと言っていた。最後にヨハンに会ったのはディゼルダだ。だからヨハンを殺したのは──」
「バカを言うな。ディゼルダが何故自分の部下を殺す」
「理由ならあるだろ。ディゼルダにとってもドレイクにとっても、ヨハンは邪魔だ」
「お前だって敵ではないと言った。それはディゼルダだって理解してる」
「どういう事よ・・・ディゼルダにとってヨハンは邪魔だって」
ブリュンヒルデはドレイクを見たが、ドレイクは話す事を眼差しで指示するように俺を見た。
「ヨハン派は、デュナンズ・ナイツに調和をもたらす為に来たワールド・クロスの人間だ。けど、ヨハンはワールド・クロスとしてではなく、デュナンズ・ナイツとしてデュナンズ・ナイツの原点を忘れたくないだけだ。だからドレイクともディゼルダとも意見が合わない」
「もういいわ、先ずはディゼルダに話を聞きに行く。どこなの?」
「分からない。私達ナンバーワンですら、ディゼルダの素行を知らないだろ」
「捜してくる。ドレイク、さっさと警察呼びなさいよ!腰抜かしてる場合じゃないわよ!」
「分かったから落ち着け。別に腰は抜かしてない」
ディゼルダ・・・。いや、ディゼルダだ、ヨハンを、殺したのは!
それから警察が来て、その場に殺人現場としての規制線が敷かれると、やがてシートがかけられたヨハンの遺体が運ばれてきて、そのまま救急車に乗せられていく。
「どうやってディゼルダ捜すんだ?ていうかオレ達、ワールド・クロスに帰属されるのかな」
「それはないと思うよ?私達は来たんじゃなくて送られてるんだし、デュナンズ・ナイツの監視役は必要でしょ?」
どうやって捜す・・・。
「あんた達何突っ立ってんのよ!他のデュナンズ・ナイツの支部にディゼルダ居ないか捜して来てよ!」
「わ、分かった」
「と、とりあえずじゃあ、ロンドン支部に」
仕方がないので一先ずシールキーを使ってロンドン支部までやって来ると、ロンドン支部の人達は案の定突然訪ねてきた俺達に冷静に何事かと顔を向けてくる。
・・・ここにも居なさそうだな。まるで何が起こったかも知らないようだ。
「確か、ジュネーブ本部所属のだよな?悪い、名前までは、覚えてない」
「いや、いいんだ。それよりディゼルダを捜してるんだ、何か知らないか?」
「ディゼルダ?・・・何か、あったのか?」
「ヨハンが何者かに殺された。最後に会っていたのがディゼルダだ」
「おーい、みんな、集まってくれ。聞きたい事があるって本部の奴が来てるんだ」
ちょうど近くに座っていた男性が声をかけると、ダーツとビリヤード台がある、まるでバーのような内装のその場でロンドン支部の人達が集まってくると、酒の入ったグラスを持っていたり、ビリヤードのキューを持っていたりと、その緊張感の無さは改めてヨハンの死が突然だった事を痛感させた。
「ビリヤードのやり方でも教わりに来たのか?」
「本部のナンバーワンが殺されたってよ」
「へー。そいつは強敵だな。どいつだ」
「調べてるってさ。何か分かったら情報くれって事だろ?」
「それはそうなんだが、ヨハンがディゼルダを捜しに行くと言って、それから30分ほど経って俺達も追いかけた。しかしヨハンは本部で死んでいた。戦闘があったようでそこは散らかっていた。ヨハンを殺したのは、恐らくディゼルダだと思う」
「それはあなたの想像でしょ──」
ロンドン支部のナンバーワン、クリスティーナがそう言ってまるでロボットのように冷たい表情を見せてくる。
「ナンバーワンとして共有する情報では、本部の人間は今日本のテロリストを掃討してるはず。そのミッション中に何か問題が発生したの?」
「そういう事になる。けどヨハンはドレイクがアメリカの能力者達を使って侵略まがいな事をするのを反対していた。だから俺達ヨハン派は日本に行き、ドレイクから真意を聞いた。ドレイクはディゼルダからとある話を聞いたから決意を固めたそうだ。だからヨハンはディゼルダに話を聞きに行くと言って1人で向かった。それから日本での戦いが終わって本部に戻ると、ヨハンは死んでいた」
「ディゼルダがやった証拠は?」
「分からない。けど、ヨハンが死んだ事の報告も必要だろ」
「分かった。私達もディゼルダを捜す。けどそれは情報共有の為」
「・・・あぁ」
「これはチーム統括の担当者であるナンバーワンだけが知ってる情報、ディゼルダはデュナンズ・ナイツの方針の更新を指示する時、必ず一斉送信のメールを使う。つまりその端末の位置情報が分かればディゼルダを捕まえられる」
「ヨハンの携帯電話か。警察から取り戻す手はあるだろうが、クリスティーナの携帯電話を使えばいいよな?」
カミーユがそう言うとクリスティーナは冷たい表情のまま目線を落とし、ゆっくりとポケットから携帯電話を取り出した。
「ハッキングスキル持ってる人は?鉱石で手に入れた能力でもいいけど」
しかしその場で手が上がる事はなく、直後にそんな沈黙に対してカミーユが笑いを吹き出した。
「知り合いにはいるから、オレが声をかける。まさか1人も居ないなんてな、デュナンズ・ナイツ自体が戦闘担当だからか」
確かにそういう事はどちらかと言えばデュナンズ・ナイツより、ワールド・クロスか。
「オーストラリアのキャンベラ支部に居るんだ、そっちの専門家が」
・・・デュナンズ・ナイツかよ。
ワールドワイドに物語が展開していきます。
ありがとうございました




