最強の影武者
「はいアマカゼ」
「これ・・・」
ミントから指定自警団のワッペンを受け取りながら、アマカゼはキョロキョロするように僕や究の服に付けたワッペンを見てくる。
「そういえばみんな、いつの間に?」
「アマカゼが帰った後でね、テロリストをやっつける為に、そのテロリストの仲間が刑務所に居るからそいつの輸送を囮にしようって事にしてさ、でも警察はそのテロリストの仲間がどの刑務所に居るか指定自警団じゃないと教えられないっていうから、成り行きで」
「へえ・・・いいの?俺も」
「だって仲間じゃん」
すぐさま究が応えると、その持ち前の明るさにアマカゼは余計な事を考えないように頷き、ワッペンを見下ろした。
「坊や、付けてあげるわ」
「うん、裁縫も出来るの?」
「出来るわよ。ほら脱ぎなさい」
ミリタリー調のグレーのジャケットを受け取ると、プロメテウスは何も無いところからすでに糸が通った針を出現させ、ジャケットにワッペンを縫い付け始める。
「あ、紹介するよ。俺の彼女の柳菜。柳菜と、ライムさんとミントさんもレッドライトニングに入ってくれたから」
「へえそうなんや」
「柳菜、アマカゼとプロメさん。プロメさんはね、アマカゼの能力で作ったガルジャンで、ガルジャンっていうのはアマカゼの世界ではみんなが出来る万渉術で作れる・・・何だっけ」
「召喚獣。でも想像したものを形にするから獣じゃなくても全然ええけど。ユキトなんてあれやし」
「万渉術って?」
「簡単に言えば、想像した事を実現させる事やな」
「何でも?」
「うん」
「プロメさんみたいな、人間も作れるんだ」
「まあね。でもプロメテウスは、ちょっと特別で、半分は俺の母親のガルジャンが元になった精霊でね」
あれ、プロメさん、言ったんだ。精霊って事は秘密にって言ってたけど。
「精霊・・・」
「出来たわよ」
母親のガルジャン・・・だから、坊や・・・。
「プロメさん、ずっと聞きたかったんだけど」
「何かしら」
「アマカゼに教えて貰ったのに、全然ガルジャン出来ないんだ」
「そりゃあ教えただけじゃだめよ。『インプラント』しないと」
「え?」
究がアマカゼを見るとプロメテウスもさも当たり前かのようにアマカゼを見るが、アマカゼはプロメテウスの言葉に戸惑ったような顔色を見せる。
「だって」
「そうね。万渉術で動物に能力を寄与するのは法律違反。でもそうじゃなかったらコクエンもウシクも、どうしてガルジャン使えるのかしら」
「それは、そうやけど」
「この世界じゃ、あたし達の世界の法律なんて関係ない。だからユキトはガルジャンを使えるようにしたのよ」
法律違反・・・。
「それじゃあ、あれだな、しょうがないか」
究・・・。
「あら、いいの?」
「だってやっちゃいけないんでしょ?」
「自由に何でもかんでも遺伝子に干渉して変な風になったらその子が可哀想だからだめって事になったのよ。でもたった1つチャンネルを植え付けるくらい、何て事ないわよ。そんなにやって欲しいなら、あたしやってあげてもいいわよ?」
「ちょっとプロメテウス」
インプラントか。こっちの世界の意味合いとは全然違うんだなぁ。
「え、ど、どうしよう」
「もしかしたら坊やより、あたしの方が上手くやれるかもね。坊やはまだまだ坊やだし」
さらっとそんな事を言われてもアマカゼは特に言い返す事なく、正に母親に未熟さを指摘されたように大人しくしている中、何故か究も大人しくなってる事にふと目が留まる。
「究、やって貰えば?ガルジャンやりたがってたじゃん」
「ガブリエル、何故止めたんだ」
「ヨハンの、劣勢だから退いた方がいいという意見に同意しただけだ。あの騎士の巨人が出なければ私だって退く事はしなかった」
見たところガブリエルと互角だったし、その上神王会も相手にするとなると、撤退は賢明だな。だが、だからこそ、自分達の未熟さに腹ただしくなるという気持ちは分かる。
さすがのドレイクも唸り、ドレイク達の空気全体もあの騎士の巨人を思い浮かべるような多少の怒りや敗北感を臭わせる。しかし直後にドレイクはその苛立ちをぶつけるような眼差しをヨハンに向けてきた。
「何故勝手に撤退を提案した」
「お前だったら見殺しにしたというのか?」
「私ならバルドを行かせた。それをお前がぶち壊した」
何故ヨハンのせいになる・・・。
「ヨハンのどこが悪いって言うんだ!」
すぐさまヨハンが俺の肩に手を乗せてきて、ドレイクに詰め寄りたい気持ちを何とか抑えるが、ドレイクの方は誰も手を出してくれる人は居ないので、するとドレイクの方からヨハンに詰め寄ってきた。
「私のやり方に手を出すな」
「仲間だろ。助けようと思って何が悪い、ドレイク。お前、最近おかしいぞ。何を焦ってる」
「焦ってる?」
「たかが日本の小さなレジスタンスだ」
「焦ってなどいない。それより、ブリュンヒルデ達がアメリカの大きな能力者組織を傘下に加えた。人手が欲しければ寄越してくれるそうだ」
「人手を増やして、一気に日本のテロリストを掃討するとでも?そんなものは単なる戦争行為だ。デュナンズ・ナイツの原点とかけ離れてる」
「戦争などではない。これが、デュナンズ・ナイツだ」
「何話してるんだろうねー、気になっちゃうなー」
「リリコ、音まで拾ったらさすがにマズイんじゃないかな」
自分の部屋でコーヒーを飲みながら、パソコンでまたデュナンズ・ナイツの本拠地を覗いてるリリコを横目にしながら、窓から外を眺める。
・・・・・お?戻ってきた。
「私みたいな事してるの、世界中に居るよ。りっくんとか」
うえっ、それ言われちゃうと。
パソコンの椅子に座るリリコは椅子を回して自分に笑みを向けてきて、おもむろに立ち上がり、歩み寄ってくるとそのまま抱きしめてキスをしてきた。そんな時にベランダの柵にハイミが降り立ったので窓を開ける。
「お帰り」
「ただいまー」
「何見てきたの?」
コーヒー片手に、正に散歩から帰ってきた子供に話しかけるように、リリコは帰ってきて止まり木に止まったハイミに声をかける。
「森とか、オッシーとか。あと川で魚食べた、ちっちゃいの。でもまだお腹空いてるから、お肉食べに帰ってきたの」
「そっか」
「リリコ、また魔法使ってる人間見たよ。キレイな色がボーンってなってた」
「ああ、それはテロリストだね。目を付けられたら襲って来るから気を付けてね」
「うん。ハイミも早くそうやって記憶を見たいなぁ」
リリコが買ってきたままの発泡スチロールの皿で小間切れ肉を差し出すと、テーブルに降りたハイミは肉をつまんでいく。
闘技場で究がアマカゼと向かい合うのを観客席から見下ろしていくと、そして究の目の前にはポニーくらいの大きさの“白い鱗に覆われ、翼を生やし、頭から2本の捻れた角を生やしたドラゴン”が現れた。
おおっ。セラファンの魔王の右腕である中ボスの相棒じゃん。
「おほっ出来た。ゼロニアだ、うお、本物だ」
少しの自我はあるみたいで、ゼロニアは首を上げて闘技場を見渡したり、究やアマカゼを見たりするのが何となくカッコ良くも可愛らしい感じがする中、アマカゼの腰にあるカードホルダーから勝手にカーバンクルが出てきてゼロニアを見上げた。
「カーバンクル、また勝手に。・・・そ、そうなんや」
「みんな、ゼロニアだよ」
究に呼ばれるように戦闘魔晶たちが出てきて、ただのクリスタルなだけなのにゼロニアの周りを飛んだり頭に乗ったりするのが何となくゼロニアより可愛らしく見える中、究はゼロニアの背中に乗った。
いいなぁ・・・。
そしてゼロニアは翼をはためかせると飛び上がり、見せつけたいのかそのまま僕達のところまで飛んできた。
「グワオーン」
おお、ちっちゃいけど、ドラゴン。
「いいだろ」
近付いてゼロニアの頬に触ってみると、それはどことなくヘビみたいな感触で、それから究が戻っていくとアマカゼは1枚のカードを優しく投げ、ラストエンペラーペンギンを召喚した。
「使えるようになったんだスーパーレア」
「まあね」
あれからアマカゼ君も成長したんだなぁ。
「実際見てるから説明だけするけど、ガルジャンのチャンネルには、ガルジャンを強化するリインフォースと、ガルジャンと合体するジョイニングがあるから。とりあえずラスティ相手にガルジャンを戦わせてみてよ。コツは常に冷静に、やから」
「よーし」
「聖先輩」
「ん?」
「聖先輩はガルジャンやらないの?」
「僕の力の1つはガルジャンからラーニングしたやつだし、別にいいかな」
「ふーん」
おもむろに柳菜は立ち上がり、観客席の柵に肘を落とす。
ガルジャンを強化するリインフォース、か。僕、自分自身に出来るのかな。
直後にその後ろ姿からもう1人の柳菜が静かに出てきて、僕の隣に座った。
「聖先輩、あのペンギン可愛い」
もう1人の柳菜が口を開くと、柳菜は一瞬だけ振り返る。
「うん、ね。しかも強いよ。スーパーレアだし」
「スーパーレアプラスよ。リインフォースしたんだから」
へー。プラスか。それっぽいな。
「プロメさん、僕ってリインフォース出来るのかな」
「出来るわよ?ガルジャンっていうチャンネルは厳密に言うと召喚じゃなくて創造なのよ。遺伝子的にちゃんと成立した生き物だから、その遺伝子をラーニングしたなら、ガルジャンを作る事は出来なくても、ガルジャンのチャンネル内のジョイニングとリインフォースは出来るはずよ。そもそもあなたがあの鳥の姿を取り込んで能力を使えるのはそれ自体ジョイニングだからよ」
「聖先輩分かった?私ちんぷん&かんぷんなんだけど」
「僕は分かったよ。だって柳菜はアマカゼ君達と会ったばかりだしさ。これから分かるよ」
すると立ち上がったもう1人の柳菜は僕の前を通り過ぎていき、プロメテウスの隣に座った。
「プロメさん」
「何かしら」
「プロメさんの事スキャンしたらどうなるかな」
「あら、そんなになってどうするのよ」
「理由は無いよ。私は最強になりたいだけだし。理由を持ってるのはそっちの柳菜だし」
ラストエンペラーペンギンの機動力にゼロニアが翻弄されてるところで、すると柳菜は振り返る。
「私は聖先輩みたいな、吸収型がいいなぁって思っただけだし」
え・・・。
「YouTubeで究の事カッコイイって言ってたんじゃなかったっけ」
「タイプなのは究だよ。でもスペックとか実用性は聖先輩が上じゃん」
実用性・・・。究、グッサリだな。
「万渉術だっけ。コツは?」
「集中力かしらね」
まさか。
「プロメさん、スキャンしちゃったの?」
するともう1人の柳菜は笑顔で頷き、その横でプロメテウスが困った娘でも見るような表情を浮かべたのが余計にその笑顔を信じさせた。
「ていうかもう、レッドライトニングの中でも最強なんじゃ」
「究には言わないでよね。結構繊細だから」
「うん、でもいつかバレるし」
「言ってもほら、まだレベル2だし。期待し過ぎだよ」
「まぁそうなんだけど」
「私もちょっと行こっと」
もう1人の柳菜が観客席から飛び降りていっても柳菜は柵に肘を落としたままで、何となくその背中にふと哀愁を感じた。
カーボンでコーティングした、直径50センチのリングを宙に浮かしたまま、それから倒れているテロリストに警官達が駆け寄ってそしてテロリストが“処理”されていく。宙に浮いているリングが自分で回転して血を払い、青いランプを光らせて救急車が死傷者達を運んでいく中、ふと建物の壁にもたれ掛かっている少年に目を留める。
「大丈夫か」
「・・・母さん、撃たれて、死んじゃったかな」
「どこだ」
「もう運ばれた」
「一緒に乗って行かなかったのか」
「オレは無傷だし、他にも怪我人居たから、乗らなかった」
「病院には行かないのか」
「どうせ後で家に連絡が来る。それより、やらなきゃいけない事、あるから。母さんを撃った奴を殺すんだ」
「もう死んだ。俺が殺したよ。銃乱射テロだからな、猶予なんてない」
「・・・そっか」
「お前は家に帰れ。連絡来るんだろ?」
「うん。お兄さん、デュナンズ・ナイツ?」
「あぁ」
腰が抜けているのか、それでも立ち上がらない少年に手を差し出したがその瞬間、少年は両腕に顔を埋め、震え始めた。
「ウルフ」
顔を向けるとテレサが駆け寄ってきて、テレサはそのまま少年を抱き締めるように肩を抱いた。
「もう大丈夫。ワールド・クロスがついてる。ウルフ、後は任せて」
テレサと少年を後にして、記者達の群れを通り過ぎてミュンヘンの街を歩き、そして何となく目に付いた店でホットドッグを買う。
「おう、デュナンズ・ナイツぅ」
店先に並ぶ簡易なテーブル席に着いて昼間から酔っ払っている知らないおじさんに声をかけられながら、とりあえずホットドッグを一口。
「ビール飲まないのかぁ?」
「そんな気分じゃない」
人を殺したばかりで飲めるか。
適当なベンチに座り、再びホットドッグをかじっていく。
ドレイクはどれくらいアメリカ勢を日本に向かわせる気なんだ。ディゼルダもわざわざ、日本で1番大きな組織であるジンオウカイを敵に回すような真似をするなんて。テロリストを殲滅する為には、ジンオウカイは味方にしないまでも、敵にするのは得策じゃない。一体何を考えてるんだ。
主人公プロフィール
ウルフ・グライリッヒ (22)
ドイツ出身。大学生。専攻は心理学。デュナンズ・ナイツに所属し、ヨハンの下で活動している。普段は冷静に物事を見ているが、意外と怒りの沸点が低いところもある。
持っている能力「ファイブリング」「カーボンアーマー」




