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人間の庭、キツネの庭

学校らしい、か。そう言われると、確かにそんな気がする。

市川先生が部室を出ていったすぐ後に神田が帰ってくると、満足げに抱えていた丸まった紙を広げ、それぞれ色の違うマジック、そして画鋲の入ったケースを置いた。

「ぼちぼちやってみよう。宣伝して、依頼人に来てもらう的な形にする感じでさ」

「探偵みたいだね」

源がそう言って神田が笑みを溢すという、何となくやる気が出てきたような空気の中だが、ふとスマホを見ると時間の無さに勝手にそわそわしてしまう。

「神田君、次の授業体育だしさ。戻った方がいいんじゃないかな」

「えっまじか。じゃあ放課後やろう」

そう言って神田が相沢や1年達にだけ顔を向ける事にちょっとだけ申し訳なさを感じながら、そして放課後になって組織の指定自警団専用ホールに入っていく。

「何かさ、多分アニメとかだったらヒーロー部での活動がメインストーリーになったりするんだろうな」

「あー、ね」

「あ、2人共」

テレビのすぐ前のテーブルの椅子に座り、何やら手を上げてみせてくるミントに、何となくの胸騒ぎを感じながら歩み寄っていく。

「ニュースでね、デュナンズ・ナイツが動き出したって」

「えっ」

「ガブリエル、また公園で待ってるのかな」

「ううん、今はまだ居ないよ?次の土曜日の12時に、えっと明治神宮、外苑、軟式球場に現れるって。しかもちゃんとそれを警察にも直接言ってきて、封鎖して欲しいって」

何か、すごいな。

「うわぁ、目立ちたがり屋だなー。今度は土曜日暇だし、見に行けるわ」

「いやいや僕達、見る側じゃないでしょ」

「あそっか」

「でも、すごく正々堂々だよね。予告して、観客集めて。外国じゃ、こういうパフォーマンスって当たり前なのかな」

「そうなんじゃない?多分。外人だし」

「そういえばミントさん、北村刑事とかから指定自警団に何か言ってきたんですか?」

「ううん、何も。ニュースじゃ警察も、周りに危害が及ぶ可能性のある戦いの1つとして警戒するって言ってたけど」

「封鎖するって事は、デュナンズ・ナイツに協力するって事になるのかな」

「じゃあ聞いてみようよ」

「ですよね」

そう来ると思ってそう応えると、ミントはどことなく嬉しそうな笑顔を浮かべてみせ、思わずドキッとしてしまう。

休日にしたのは、やっぱりその方が人が集まるからだよな。

「あ、もしもし赤荻です」

「うん。どうかしたの?」

「さっき、デュナンズ・ナイツが土曜日に来るって話を聞いたんですけど。封鎖に応じるって、デュナンズ・ナイツに協力するって事ですか?」

「ううん。協力じゃなくて、警戒の為の封鎖だよ。封鎖はあくまで警察主導だから」

「そうなんですか。聞きたかったのはそれだけです、ありがとうございました」

「うん。聖君達も行くの?土曜日」

「はい、僕達のチーム、今デュナンズ・ナイツへの対応を中心に動いてるんで」

「そうなんだね」



振り返ると、そこにはお座りしている黒いキツネが居て、その突拍子もない展開に、立ち上がる事も忘れてしまう。

何で、こここ、こ。

拠点のマンションの屋上でいつものようにのんびりしていたのに、突然現れた小さい方の黒いキツネは音もなく歩き、我が物顔で屋上から街を望んでいく。

何だ、この状況。箱根からシールキーで直接帰ってきて、後をつけられるなんて事、あり得ないのに。

「喋れる?」

すると黒いキツネは自分に顔を向けてくる。

「(喋れるけど?)」

おおお?直接頭に語りかけてきた・・・。どっから来たんだ・・・。

「まさか昨日から自分の事探してたの?あ、食べる?いかさき」

「(人間が作ったものは食べないから)」

「じゃあ何食べてるの?」

「(・・・たまに、茸とか、木に登って果物食べたり夜中に畑から野菜盗っていったり)」

結構、食べるな。

「・・・へぇ」

とりあえずペットボトルのミルクティーを一口飲み、真っ直ぐ見つめてくる黒いキツネを真っ直ぐ見返す。

「(変わった人だねって言われた事ある?)」

何だよ、それ。何で知ってるんだ。

「・・・よく言われる」

「(でもそれはあなたにとっては良いことみたい)」

・・・何なんだ、こいつ。動物?かな。まるで人間と話してるみたい。

「何で昨日は喋らなかったの?」

「(そりゃ、ああいう人間達とは関わりたくないからね。あえて会話する必要は無いよ)」

そう言って黒いキツネは後ろ足で首を掻いた。

「中身、人間なんじゃないの?」

「(人間じゃないよ。そもそも、人間と動物を区別する事自体、無意味じゃないかな)」

・・・随分と哲学的なキツネだな。キツネなのに。でも可愛いな。ん、スマホ鳴った・・・誰かな、ジンイチロウか。

「はいはい」

「デュナンズ・ナイツ動き出したぞ」

「え、土曜日じゃないの?」

「あの3人とはまた違うメンバーだとよ。テロリストを1人殺して、指定自警団とやりあってる。京都で」

「きょきょ京都?何だ。まさか京都支部の人達から援軍要請とか?」

「あぁそうだ。って言ってもとりあえずオレとお前で様子見だけどな。場所は京都駅の真ん前で人通りも多いし警察も規制線を敷いてる。今どこだ」

「上だよ」

「じゃあ降りてこいよ、一緒に行こうぜ」

「うん」

電話を切って黒いキツネを見ると、黒いキツネは自分を見ていた。

「用が出来たから、じゃ」

ゴミをまとめてから立ち上がっても黒いキツネは静かに街を望んでいて、そのまま無言で下のフロアに降りて拠点の玄関の扉を開ける。何となくテレビを見ているリリコを一瞬だけ目に留めてから、そしてすでに壁にシールキーを貼ってスタンバイしていたジンイチロウと共に、京都駅前のホテルの屋上に出る。

うわぁ・・・緊張感。

八条通、西洞院通の交差点は警察によって通行止めにされていて、それでも何とか観戦したいというやじ馬が囲んでいるそこですぐ目に留まったのは、まるでドラゴンそのもののような翼、尻尾をカッコ良く見せつける、3メートル級の青い鱗と白い外皮が特徴的な細身のドラゴンだった。

「京都支部の奴らはどこだ?」

「あそこ。やじ馬の前」

「ん、とりあえず行くぞ」

ジンイチロウと共にホワイトアーマーを纏い、軽やか過ぎるほど素早く炎を吐いたり、拳で殴りかかったりするドラゴンと戦う2人の男女を見ながら、同じくそれぞれデザインの違うホワイトアーマーを纏う2人の下に降り立っていく。

「2人だけか」

ジンイチロウが口を開くと、女性的な体のラインが目立つホワイトアーマーを纏う方がすぐさまとある方に指を差す。

「あっちにもう1人居るから、2人はそっち方面に」

「そうか、分かった」

「いつからこうなの?」

「15分くらい経ってる」

そりゃ神王会は基本的に方針は防衛だけど。うおっ。

飛んできたドラゴンの火の玉をかわすとそれはやじ馬の目の前に落ちて破裂し、悲鳴が立ち上る。幸い直撃した人はいなかったものの驚いて転ぶ人がいて、また緊張感が張り詰める。

んー、危ない。

自身の身長ほどの赤い大剣を振るい、赤い電気と赤い冷気を操る男性、そして宙に浮かせた6つの雪の結晶を操り、雪の結晶からビームを放ったり、盾にしたりして戦う女性を眺めながら、警察の規制線の外に出て、やじ馬達や建物に被害が及ばないように戦いを見張っていく。

「ジンイチロウ、何か互角だね」

「あぁ」

「じゃあ、自分行こっかな」

「おい」

「せっかく2人居るんだしさ、攻撃は最大の防御、防御は最大の攻撃。って事で役割分担」

「しょうがねえな、無理すんなよ?」

「うん」

ホワイトアーマーで飛び上がり、空からドラゴンに近付いていくと、2人に続いて顔を向けてきたドラゴンは真っ先に火の玉を吐いてきた。

おっと。

火の玉をかわした時に赤い大剣の男性が斬りかかり、その剣身はドラゴンの脇の下に当たるものの、鱗が硬いのか外皮が硬いのかそこには衝突音が鳴り、更に剣身から溢れた電気と冷気はドラゴンの体から跳ね返る。それからお返しと言わんばかりにドラゴンが殴りかかるも、それは雪の結晶に防がれ、別の雪の結晶からビームが放たれるがそれもドラゴンの体を跳ね返るように散っていく。

んー、ドラゴン、単に体が丈夫なのか、それか別の力で攻撃を跳ね返してるのか。強敵だな、デュナンズ・ナイツ。

「君のナイツナンバーは?」

しかし日本語が分からないのか、ドラゴンだから喋れないのか。一瞬自分を見ただけでドラゴンは2人に攻撃していく。

「あんた神王会やろ?」

そんな時に雪の結晶を操る女性が問いかけてくる。

「そうだよ?」

「何で来たん、神王会は基本的に傍観でしょ?」

「だって長引きそうだし。この人、このドラゴン日本語分からないのかな?ほんとにデュナンズ・ナイツかな」

「テロリストにそう自己紹介したて、目撃者が言うてはった」

「ふーん」

攻撃が弾かれる能力なら、どうしようかな。

とりあえずドラゴンの背後に回り、ドラゴンが火の玉を吐いてくる前に両手から光を放つ。殴られたように顔を弾いたもののやはり何らかのダメージ軽減能力があるのか、ドラゴンはタフなボクサーみたいにすぐさま殴りかかってくる。とりあえず拳や火の玉、また拳からの尻尾攻撃もすべてかわし、苛立つようにドラゴンが辺り一面に吐き散らした火の玉もかわす。しかしその火の玉の幾つかは建物を襲い、また幾つかはやじ馬の方に飛んでいき、神王会の仲間達がそれぞれやじ馬達は守ったものの、建物の被害はそのままその場を満たす恐怖感となった。

「・・・仕方ない」

赤い大剣の男性がそう呟くと、途端に赤い大剣に今までにないほどの冷気を思わせる赤いオーラを纏わせる。そしてまるで本気を出してなかったのかと思うほど、ドラゴンの足元に叩きつけた大剣から天高く突き上がる氷柱を作り出した。ドラゴンが下半身を氷柱に拘束されたという状況にやじ馬から小さく歓声が上がったが、再び火の玉を吐き散らすドラゴンの暴れようにやじ馬はすぐに怯えるように大人しくなる。

「大人しくせいや!」

再び男性は大剣を叩きつけ、今度は右半身まで氷漬けになったドラゴンはようやく大人しくなる。

「殺さんように手加減しとったがもうやめや。覚悟せい」

今度は大剣に凄まじい電気を思わせる赤いオーラを纏わせ、男性の指定自警団としての実力が垣間見えた直後、大人しくなったと思いきやドラゴンは青い炎に包まれて見えなくなる。

熱い・・・。

その熱気に雪の結晶の女性がたじろぎ、青い炎に焼かれて赤い氷柱から水蒸気が溢れ出す中、男性は大剣を振り下ろし、そこに赤く眩く迸る電気と雷鳴が轟く。

やったかな・・・・・ん。

迸るように眩い赤と燃え上がるように眩い青が反発し合い、近くに居たらとても危ない爆発の後、ドラゴンは高く飛び上がり、青い炎をオーラのように纏ったまま翼を広げてタフという脅威を見せつける。しかし攻撃してくると思いきやドラゴンはそのまま飛び去っていったので、やじ馬達が散り、警察が規制線を解いていくのを見ながら、変身は解いても最後まで元通りの街中になるまで現場に残っている京都支部の仲間達と何となく周りを見渡していく。

「何か新しい情報無いのか?デュナンズ・ナイツの」

「あるよ。神王会がデュナンズ・ナイツの事邪魔した言うて、デュナンズ・ナイツから本部にメッセージが届いたんや。簡単に言うと警告やね。敵と見なすて」

「でも、街や人の被害を省みないのが悪いんじゃん。今だって」

ジンイチロウの問いに女性が応えた時に思わず口を挟むが、2人は自分の言葉にむしろ共感するように頷く。

「ま、オレはその内こうなる思てたけどな。せやかてオレらのやる事は何も変わらへん。デュナンズ・ナイツがケンカ売って来たんやったらこっちも買うだけや」

ケンカ、か。でも、あの女の人が言ってた事、言葉だけは間違ってない・・・。

東京に戻ればドラゴンの事はニュースになってたが、デュナンズ・ナイツが神王会にメッセージを送った事は当然の如くマスコミが知る訳もなく、それから隊長としてマサハルからも東京防衛チームのみんなにその事が伝えられて、何となく紅蓮会に加えてデュナンズ・ナイツの事も観察対象としていく空気になった中、自分の部屋に戻るとリリコがついてきて、とりあえず一緒にソファーに座る。

「あ、そうだ。多分あっちは嫌がると思うけど、リリコに視て欲しい動物がいるんだよね。あでも、また会えるかは分かんないけど」

「どんな動物?」

「黒いキツネ。でも不思議なオーラがあって、人と会話が出来るんだよ」

「不思議なオーラか」

目覚ましアラームでいつものように目が覚めると、自分のベッドには一緒に寝たリリコが居て、歯磨きを終えたところでリリコが起きたので、とりあえず2人でコーヒーを飲む。

人間と黒いキツネじゃ、世界を見る視点が違うって事ですね。


ありがとうございました

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