クラブ・アクティビティーズ
僕の黒炎まで・・・。こりゃもしかして、最強になれるかも・・・。
「それって1つだけ?」
「え、うん」
「じゃあもっと力出しちゃってよ。早く戦力になりたいから」
「レベルは?まだ1なんじゃないの?」
「そうだけど、それが?」
「僕もそうだしさ、いくら力をダウンロードしても、能力のレベルに応じて補正がかかっちゃうから。まぁ、そんなに焦んなくてもっていうか」
「だからこうやって戦ってるんでしょ」
「あ、うん」
ですよね。・・・先輩面って案外難しいな。
ワシゴリラを発動し、背中から火が燃え上がるような破裂音を鳴らして飛んできたリュウナの蹴りを受け流し、ちょっと怖がらせるつもりで手に燃え上がらせた黒炎を振り回す。黒炎が風を切る音が響いたところでリュウナは地面に落っこちるが、素早く転がって立ち上がると今度は足の裏から破裂音を鳴らし、生身の人間ではあり得ない高さまでジャンプした。
見た目が丸腰なだけに、ちょっとカッコイイかも。
そして空中で拳を振りかぶると、背中から大きな破裂音を幾つも引き連れて、まるでロケットのように落っこちてきて殴りかかってきた。その瞬発さにかわすのが間に合わず、思わず顔に直撃を受けてしまう。
「いいね、今の。名前、メテオアタックにしよっと」
・・・ふう。
自分と同じくらいの筋肉量の人に殴られたような衝撃に一瞬だけ変身している事を忘れたが、リュウナが満足げにシャドーボクシングしているのを見ると何故か気持ちが落ち着いてしまう。
「相手の力をコピーし過ぎたら、体に副作用とか無いかな」
「コピーしてる訳じゃないよ。ダウンロードっていうより、順応って感じで、別に相手と同じ技を使える訳じゃないし」
「そうなんだ」
「聖先輩、暴走した事あんの?」
「まあね、ダウンロードが終わったらしなくなったけど」
「へぇ」
それからシロロンも発動して少しの間戦っていると、始めはちゃんと順応していたリュウナだがやはり能力のレベルに応じての補正がかかったのか、次第に動きに差が出始める。そしてメテオアタックからの蹴りを受け止めてから放った僕の黒炎を受けて吹き飛んだ後、リュウナは初めて立ったまま動かなくなった。
「スタミナ切れ?」
腰も曲がり、息も荒いその姿勢でリュウナは黙って頷く。
「リュウナっ」
観客席の縁に手をかけ、同じように疲れたような感じの本物のリュウナがセコンドのように声をかけると、直後に2人のリュウナが同時にほんのりとした光に包まれた。
来た来た、そういえば、鳥井さんって覚醒したのかな。
「ふう、覚醒するとスタミナ回復するんだね、何でかな」
「いやそれは僕にも」
「あたし、次はミントさんとやりたい」
観客席に戻るとさっきまで戦っていたリュウナが目の前に居て一瞬混乱しそうにはなったが、観客席に居るリュウナの僕を見る目には闘志と笑みはないので、とりあえず安心しながら究の隣に座る。
究と僕とミントさんの力まで使えるようになったら、もうその時点で結構な戦力だよな。
リュウナはすでに順応しているのだろうが、ミントとリュウナの動きにはっきりとした差が見える中、何となく凉蘭の隣に移動する。
「鳥井さん、覚醒した?」
「してない、けど翼の力で全然戦えるし」
「そうなんだ」
「多分もう、レベル2.7くらい」
「へぇ」
リュウナ達が1人になる瞬間を垣間見ながらそして闘技場を出ていくと、まるで僕達が来るのを待っていたかのようにノブとシンジ、オカモトヒロヤの3人が目の前に居た。
「お前達のリーダーは聖なのか?」
「え、いや僕は班長っていうか連絡係っていうか」
「じゃあリーダーじゃん」
ノブに応えた僕に、シンジは薄ら笑いを浮かべてそうツッコミを入れるが、その力の抜けたような眼差しに何となく反論する言葉を失う。
「どうかしたの?」
そんな時に親しげにミントがノブに問いかける。
「それが結構な事態でな。まだ決まってはないんだが、アメリカの指定自警団みたいな組織が真っ二つになって、独立を主張した方がロシアと中国と連携して、もしかしたらその内部抗争が大規模な能力者抗争に発展するかも知れなくてな」
アメリカの指定自警団みたいな組織、か。どこにでもあるんだな、そういうのって。
「空母戦争なの?」
するとまるで記者みたいにすかさず凉蘭が問いかける。
「可能性は低いな。空母の損傷はそれぞれの国にとってマイナスだから、それぞれの国の政府が主導になって空母戦争は実質冷戦状態になったんだからな。もう政府は能力者が空母を使う事は許可しないだろう。てことは代わりに次は何を使うかって事だ。アメリカの奴らはこのままじゃ街が戦場になるって言ってる」
うわ、何だ、一気に空気が重たくなった。
「今のところ連絡事項はこんなところだ」
「あの、俺達も、戦争になったらいかなきゃいけないのかな」
「もし戦場が自分家の近くだったらって考えたら、どんな奴も戦うだろ。戦争ってのはそういうもんだ。けどまぁ指定自警団として外国でも戦いに行くかってのは自由だからな?そのスタンスは変わらないぞ」
究が静かに頷いたところでノブ達は闘技場に入っていったが、ふと目に留まったのはミントの心配そうな顔色だった。
空母戦争か・・・能力者が生まれてから初めての世界大戦。やんわりとフェードアウトするように停戦したのはニュースで見たけど。何か変にそわそわしてきた。今度は観る側じゃなくて、戦う側なのかな。さすがに母さん達は反対だろうな。
「リュウナもグループメールのメンバー入ったからな」
何となくスマホを取り出し、グループメールを開いてみる。
ん、リュウナって、柳菜か。ドラゴンじゃなかったのか。
「もしかして一緒に登校してきたとか」
「さすがにそこまでしないよ」
こんなに世の中が変わってもいつもの朝だと思えるような、缶コーヒー片手にホームルームが始まる前のベランダという時間の中、声をかけられたので究と共に振り返る。
「ん?」
「2人共聞いたことある?この学校でヒーロー部出来たの」
「え、出来たんだ。作られるらしいってのは聞いたよ。まさか2人も入ってるの?」
すぐに理解したのは神田と相沢の、まるで能力者になったばかりの自分でも見てるかのような、常にナイフを持っているかのような緊張と、そのナイフの所有権は自分だと自覚しているような自信が伺える顔色だった。
「うんまあ作ったのオレ達。因みに部長はオレね。でさ、2人はもうこの学校でも割りと有名だしさ、2人もヒーロー部に入ってくれたらヒーロー部ももっとこう、箔がつくっていうかさ、どうかな」
ヒーロー部、か。
「入るのはいいけど、俺ら学校終わったら即指定自警団の活動だし、名前だけってなったらむしろ、どうせ名前だけだろってなっちゃうんじゃないかな」
「でも放課後に限らず、学校に居る間はヒーロー部って事でも全然いいし」
神田がそう言うと、究は「じゃあいいんじゃない」と言うような顔を向けてくる。
「僕もそれならいいよ」
「お、まじか」
「てかヒーロー部って何人居るの?」
「部活って5人集まらないと作れないじゃん?出来たばっかりだし、まだ5人」
「じゃあ、C組の不良能力者とか、どうしてる?」
缶コーヒーを啜った時に究がそう問いかけるが、2人はヒーロー部のくせにただ顔を見合わせただけだった。
「どうしてるって?」
「え、ほら、最近何かやったとか、不良同士誰と誰がつるんでるとか、そういう情報」
「そういうのまだ、全然。部活も作ったばかりだし」
「そっか、じゃあ先ずは情報収集からだなぁ」
昼休みの時にヒーロー部の部員を紹介するからと、柳菜も連れて神田と相沢についていき、1階の理科室の隣である使われてなかった一室に入る。そこに居たのは2人の女子と1人の男子で、直後に3人はまるでちょっとだけ有名人が来たかのようなテンションになった。
「2人も入ってくれるんだ、ってそっちは」
女子の1人の言葉に柳菜が注目されるが、ふと感じたのは小動物感の無さだった。
「俺の彼女だよ。柳菜も指定自警団だから」
制服だし、ワッペン見せられないか。
「確か、A組じゃなかった?私B組のミナモト」
「うん」
体育の授業は2つの組が合同でやってるし、まさかの顔見知りか。でも距離感あるな。
机が幾つも合わせられ、そしてテーブルクロスがかけられて10人掛けの長テーブルと化したそこには各々のお昼御飯が広げられていて、何となく空気的にテーブルに着いていく。
「能力者だったんだ」
「昨日なったばかり」
「え・・・」
「オレてっきり指定自警団ってエリート集団だと思ってた」
2人の女子と共に居た男子が明るい口調で口を開く。
「いやエリートっていうか、ヒーロー集団だよ」
「それに俺らそもそも自分達でチーム組んでヒーローやってて、たまたまシンジ君とノブさんに知り合って、それで成り行きでチームで指定自警団に入ったって感じだし」
僕に続いていった究の、経験者だからこそのヒーローオーラが醸されるような言葉に、5人のヒーロー部員達は真剣な表情で頷いたり、ニヤけ顔を溢したりしていく。
「それに、例え昨日なったばかりでもデザインセンスがいいからさ、柳菜はもう即戦力だよ」
何となく恥ずかしそうにしながらお弁当を食べる柳菜だが、究の持ち前の明るさになのか場の空気はむしろ“親しさのある神妙さ”に包まれる。
「あれじゃあ、柳菜ちゃんもヒーロー部入ってくれるんだよね?」
ミナモトに柳菜は静かに頷き、ふと部室と言っていいのかと思うほど、まるで引っ越ししたてで片付いてない状態のようなこの場を見渡す。
ホワイトボードか。普通の教室の半分くらいだし。黒板は無いよな。
「そういえば、顧問は?」
神田と相沢に向かって問いかけてみる。
「ウチらの担任。とりあえず名前だけって言って頼んでみたらオーケーしてくれた」
市川先生か。でも何となく分かる気がする。
「でさ、とりあえずこれ貰ったから、書かないと」
そう言って神田は机の中から先生が持つようなファイルを出し、テーブルの上に置いてみせた。
活動日誌・・・そりゃそうか。
「はい、こういうの女子でしょ」
「もーしょうがないなあ」
とりあえず1年達の軽い自己紹介が済んでからホワイトボードに部員の名前を書き、そしてそれらしく今後の活動方針だったり、やることを書いていく。
「やっぱ指定自警団が居ると捗るなぁ。こういうのオレら素人だもん」
「神田君達、どうやって能力者になったの?」
「たまたま見つけたんだよ、鉱石。川辺で。それを砕いて、5人で分けた」
「そうなんだ」
ヒーロー部か。何となくヒーロー、始まりは僕達と同じだし、負けたら挫折して僕達みたいにバラバラになるなんて事、ならなきゃいいけど。特訓、させてあげたら、いいかも知れないけど。
昼休み時間が割りと残っていて微妙に暇の中、扉が開けられたので顔を向ける。
「え?何すか」
「何って、顧問なんだから、ちゃんとやってるかなって」
先生来ちゃったよ。
「部員増えたの?」
「まぁ」
「良かったじゃん」
そう言っていつもポニーテールで、キリッとした表情で全然笑わない、でも20代にしては大人の女性っぽくて評判は悪くない市川先生はいつものように冷淡に頷く。
「ちゃんと書いてね?入部届け。そっちにあるから」
「はーい」
市川先生が置いたのか、やけに用意良く置かれている入部届け入れから3枚の入部届けを取り、活動日誌に紐で繋がれてるボールペンで名前を書いていく。
「神田君。活動方針はいいけど、ルールはあった方がいいよ。ヒーロー部3ヶ条みたいな」
「ルール」
そうおうむ返しすると神田は相沢を見て、相沢は僕を見る。
ヒーロー部3ヶ条・・・確かにあったらカッコイイな。
「じゃあ、学年関係なく、裁きは平等に、的な」
「まぁ、ベタだけど逆にそういうのベタじゃないとね」
1年の女子部員、大塚が親しげに相沢に相槌を打つ。
「情報収集したいなら、ポスター作って宣伝すれば?」
「あー、はい。そうっすね」
先生、協力的だな。ヒーローとか好きなのかな。
「紙・・・演劇部とかポスターの紙余ってるかな」
「1枚でいいから。後はコピーすればいいんだし」
「あ、はい」
神田が部室を出ていってそれから入部届けを市川先生に渡すと、先生は3枚の入部届けを確認すると流れるような動きでスーツのジャケットの内ポケットに忍ばせる。
「埃っぽかったら換気しなよ?」
「先生、結構協力的なんですね」
「そりゃあ、応援したいって思ったから。こういうヒーロー部みたいなの、本来は学校らしい事なんだよ。教師が生徒を叱るより、生徒同士で問題解決を図るって事の方が、よっぽど学校らしいからね」
果たして聖達がヒーロー部として活動する日は来るんでしょうか。
ありがとうございました




