謎のモンスター
サイゴウの胸元に虚しく叩きつけられ、アイマスクが力無く地面に落ちた事などサイゴウさえ目を向けない中、直後に光球は飛んでいき、まるで拳で殴るようにサイゴウの顔に突撃した。
「ふがっ」
岩人間だからなのか、サイゴウは1歩も退かず仰け反っただけだが、そこにもう1つの光球が飛んでいき、まるでボクサーが怒濤のラッシュを仕掛けるように腹や顔へと立ち代わり入れ代わり突撃していく。サイゴウは1発1発の衝撃に体を波打たせ、そして1つの光球がアッパーのように下から顎に突撃すると、岩人間はゆっくりと倒れ込み、地響きを残した。
・・・あ~。
「・・・・・ハッ・・・ハハッハッハッ」
ん・・・。
見た目通り、そう笑いながらまるでダメージをものともしないようにサイゴウは起き上がり、岩の体を重たく持ち上げてゆっくり立ち上がると、それからサイゴウは余裕を見せつけるように拳を突き鳴らした。
「この体は、すべてのダメージを激減出来るんだ。そんな攻撃、屁でもねえ、ハッ」
しかし直後、真っ黒なキツネは後ろ足で首を掻いた。
「そっか、ありがとう」
また別の渡り鳥がタツヒロから飛び去っていくと、タツヒロは落ち着いてはいるがどことなく満足げに頷いた。
「良い情報貰えた?」
「うん。さっきあっちで見たって」
「あっち、まさかディズニーなんて行かないよね」
「そりゃね。渡り鳥自体が行けないし」
「ちょっとネットでも調べてみたけど、目撃情報拾えなかった」
「そっか。聖君が言うように東京湾全体が縄張りなら結構時間かかるかもな」
「タツヒロ君、例えば動物の探偵とか雇えば?ハトとか」
するとタツヒロは一瞬上を向くと、何かを理解したように笑みを溢した。
「帰巣本能あるから?」
「うん」
「うん、いいねそれ、考えた事もなかった」
「お前、何突っ立ってんだよ」
体力的にサイゴウ以外のみんなが満足に動けない中、真っ黒なキツネが口から吐いた黒い炎を真正面から受け止め、少し後ずさったサイゴウは、“ただ見てる自分”にそう声をかける。
「自分はただヌシが見たかっただけだし」
まるで自分のヌシへの態度が分かってるのか、真っ黒なキツネは近くに居る自分には攻撃して来なく、サイゴウにだけ黒い炎を吐いていく。
「可愛いキツネじゃん」
「化けギツネだろ」
「だったらさ、普通の巨大生物捕まえて、鉱石あげて強化でもすればいいのに。捕まえられない動物に時間費やすなんて、無駄じゃない?」
すると途端にサイゴウは動きを止め、何やら自分を見た。
「・・・・・・・・そうだな」
とりあえず噂のモンスターの目撃情報がある方へと歩きながら、ふと木陰に佇むハトに気が付くと、タツヒロもハトに気が付いたように近付いていく。
「ちょっと頼みたい事があるんだけど、いいかな。・・・探して欲しい動物がいるんだ。・・・変な気配を感じる動物でさ──」
それから歩きながらカラスを見つけると、タツヒロは近付いていき、話しかけていく。
「──うん。見かけたら教えに来て欲しいんだ」
そしてカラスが飛んでいったのを見送った後、タツヒロはふと考え込むように大人しくなる。
「思ったんだけど、見つけてくれても、動物じゃ場所の名前なんか分からないよね」
・・・今更。いや僕も今そう思ったけど。
「んー、なんか偵察が得意な能力者の動物でも居ればいいけど。よくさ、ゲームとかで相棒のワシとか飛ばして情報を集めるキャラとかいるし」
「じゃあ・・・んー、鉱石、使っちゃおうかな」
「タツヒロ君、まだ力2つしか持ってないの?」
「いやぁ僕じゃなくて、能力者の動物、作るんだよ鉱石使って。それで能力者の動物でチーム作ったらいいんじゃないかな」
おほ・・・。あれ?何かアマカゼ君みたい。
「うん、いいんじゃない?」
「とりあえずさ、ハトとカラスが来るまで暇だし、あっちで何か飲み物でも買わない?」
「そうだね」
再び砂浜の方面に行き、近くの商業施設の中の自動販売機で缶コーヒーを買ってから、ハトたちに気を遣って空から見通しの良いところに適当に座って一息つく。
「ちょっと砂浜歩いてくるね」
「うん」
ライムと凉蘭が離れていき、ミントが残ってる事が何となく気になりながらもふと曇り空を見上げてみる。
「タツヒロじゃん」
ん、え!シノダさん。
ばったり出会ったように声を弾ませるヒカルコ、その隣の手を振るレベッカにミントは微笑み、タツヒロも溢すような笑みを見せる。
「何かすごい寛いでるけど、何してんの?」
「ハトとカラスを探偵に雇って、今情報待ち」
するとヒカルコは吹き出すように知的な笑みを見せ、そんな時にレベッカがカーディガンのポケットから何かを取り出し、ミントに差し出した。
「キャンディーあげる」
「ありがとうレベッカ」
確か人間じゃなくて妖精だったっけ。
それからレベッカは僕に顔を向けると歩み寄ってきて、何となく妖精らしく朗らかな雰囲気でキャンディーを1つ差し出してきた。
「どうぞ」
「うんありがとう」
そのまま案の定タツヒロにもキャンディーが配給され、包み紙を開けてキャンディーを口に入れた直後、何となく目には見えない気配を感じたような気がした瞬間、目の前にハトとカラスを頭に乗せた噂のモンスターが現れた。
「んっ!!」
しかも直後、振り返って噂のモンスターを見たレベッカはなんと噂のモンスターに近付いた。
おお、あ、鳥井さんにメールしなきゃ。
「レベッカ危ないよ」
ミントがレベッカの腕を掴むが、レベッカは目を丸くすると何故かそこにはレベッカと噂のモンスターが見つめ合うという静寂が訪れた。そんな時にハトとカラスがタツヒロの下に降りてきて、タツヒロと見つめ合う。
「人間が探してる事を伝えたら、連れてきてくれたって」
「そう、なんだ」
さすが、フレンドリー・・・。ていうか、モンスターの方は、僕達がここに居る事・・・。
「大丈夫だよ?」
レベッカがそう言うと、妖精だからなのか何なのか再び噂のモンスターに歩み寄り、キャンディーを差し出した。
「食べる?」
いやいや・・・。
「何だそっか」
え?・・・。
「喋ったの?」
「うん、人間の食べ物は食べないって」
でも、動物じゃないん、だよな・・・。
「え?あたし?妖精だよ、レベッカっていうの。・・・うん、違う世界から来たの。えっとね、妖精の世界は人間とかの居る世界とちょっと違くて、空が黄緑なの」
へぇ、っていやいや、何なんだこの状況。確かにレベッカ、フレンドリーに喋ってるけど。
「あのさ」
ライムと凉蘭が静かに帰ってきたところでタツヒロが噂のモンスターに近付き、声をかけると噂のモンスターからは何となくピリついた雰囲気を感じたものの、ハトやカラス、レベッカが居るからか、噂のモンスターはまるで暴れるべきかの分別でもついているように大人しくタツヒロを見つめる。
「君は、一体何者なんだ。・・・それは、分からないけど。・・・そう、なんだ。でも何で、人間を襲ったりするの?」
まるでタツヒロの方が言いくるめられて言葉に詰まるような空気が流れ出すと、何故かレベッカは笑顔で噂のモンスターに手を振り、そして噂のモンスターは瞬時に消えた。
話すって目的は果たせたし。
「んー、ねえ、今の、何だったの?」
そう言ってレベッカは笑顔を浮かべる。
何か分からないで話してたんかい。
「それが分からないから探してたんだよ」
「そーなんだぁ。見た目は動物だけど、多分動物じゃないんじゃないかな」
妖精がそう言うなら、そうなのかな。
「タツヒロ何か分かった?」
自分が待ちきれないのか、凉蘭は若干急かすように口を開く。
「お前がハトとカラスを使って情報収集するのと同じような事、だってさ。多分だけど、中身は人間だと思う。テレパシーみたいなものをさ、あのモンスターで中継してる感じ」
中継か。でもモンスター自体、動物じゃない。
「じゃあ、能力者が見た目が動物なだけのものを作って、世界中から情報収集してるのかな」
「そんな感じかな」
にしても、あのモンスター、強すぎるけど。複雑な戦い方、まるでアマカゼ君の世界の力みたい。いや本人の戦い方も中継出来るのかな。謎だな。
「何で人間を襲ったりするのって聞いたら、何て言ったの?」
ミントが問いかけると、何やらタツヒロは難しい顔色を見せる。
「そもそも人間は殺し合うものだろってさ」
んー、テロリストの思想なのか。でも動物にはフレンドリー。
「・・・まるで、自分は人間じゃないって言い方だね」
ヒカルコが鋭い切り口で口を開いたのでふと目を向けると、ヒカルコは何やら楽しむようにニヤついていた。
「動物を守るのが目的のテロリストじゃないかな」
タツヒロがそう言うと、ミントもヒカルコも凉蘭も納得したように各々唸って頷く。
「じゃあ何者って聞いたら何て応えたの?」
微笑みながらミントが問いかけるが、タツヒロは再び腑に落ちない答えを貰ったような顔色を見せる。
「お前は自分が何者か完璧に説明出来るのかって」
そりゃ、分からないか。何となく人間らしい問いかけだけど。でも、大体は分かった気がする。
「あたしには、自分も人間じゃないんだって言ってたけど」
・・・・・えー。なんじゃそりゃ。
「そろそろ帰ろうよ」
ほんわかとした笑顔でのレベッカの言葉にその場の空気の緊張感も薄れていき、そしてみんなで組織の指定自警団のホールに戻るとそこには究とリュウナが居た。
おや・・・。
「究」
「おーう」
ミントとライムという有名人を前にしてか、ふとリュウナの緊張したような小動物感が伺えると、逆にそんな可愛らしさを見てかレベッカが真っ先に近付いていった。
「キャンディーあげる」
「え、うん」
「あたしレベッカだよ」
「あ、ナリタニリュウナ、です」
「究の彼女だよ」
そう言うと凉蘭は「あ~」と頷き、可愛い後輩でも見るように歩み寄っていく。
「同じチームの凉蘭だよ。あと1人、異世界に住んでるアマカゼっていうのもチームだからね。ミントさんライムさん、リュウナも今日から同じチームって事でいいかな」
「うん、よろしくね?」
「はい」
大丈夫かなぁ。
「どんな力なの?」
「あたしは凛子ちゃんのを、ちょっと真似した感じ」
「え!どんなの?」
質問したのは凉蘭だが、リュウナの答えに真っ先に反応したのはヒカルコで、その反応に何となくある事が分かった気がした。
「ドッペルゲンガーは同じだけど、戦闘に特化させたの。常に相手の動きをスキャンして、AIみたいに成長するの」
「ふーん。リュウナもリンリン好きなの?」
「うん」
ドッペルゲンガー、か。那波凛子、フェイスブックで能力を公表して最初は話題になったよな。でも探したら結構SNSで能力を自慢する人いるんだよな。特にアメリカ人は。
「じゃあ、実戦の前にちょっとくらい育てた方がいいんじゃない?」
するとリュウナは黙って頷き、究を見た。
ん?・・・。
「聖超強いからさ、一気にレベル上がるよ」
究と一緒に、リュウナの能力が見たいからと凉蘭、ミントとライムも闘技場に向かうが、僕以外のみんなが観客席に上がっていくとリュウナも観客席に上がっていく。
・・・あれ?
しかしみんなが椅子の無い観客席という名のただの段差に適当に座った時、リュウナの中から出てきたもう1人のリュウナが立ち上がるように出てきて、カッコよく観客席から飛び降りた。そして2回転もしてキレイに着地した、“何となく本人よりキリッとした態度のリュウナ”は直後、それだけで強そうに見えるようなファイティングポーズを見せた。
「世界中の格闘技の動画見て動きはバッチリだから、嘗めない方がいいよ?聖先輩」
「・・・いや全然キャラ違うし」
「戦闘担当だもん、性格から尖らせないとさ」
「那波凛子と同じって事は、ダメージも共有しちゃうの?」
「うん。記憶も感情も、全部」
だよな・・・。那波凛子もフェイスブックでライブ中に宿題やってるとか言ってるし。
とりあえず黒炎の怪鳥だけ発動し、向かってきたリュウナの正に格闘家ばりの鋭い蹴りを受け止める。そして間髪入れずに突き出してきた拳も受け止めた時、拳から冷気が弾けた。
うおっ。
僕の腕が軽く弾かれ、リュウナのニヤつきが目に焼き付いた瞬間、今度は蹴りに炎を纏わせ、受け止めたものの思わず後ずさってしまう。
何だ!この蹴り、さっきと強さが、全然──。
「言ったでしょ?あたしは常に相手をスキャンして成長し続ける。聖先輩の体をスキャンして、筋力をインストールしたの」
「まさか、もう戦闘魔晶たちの力、スキャンしてる?」
「せいか~い」
筋力だけじゃなくて、魔法攻撃も?・・・てことは。
するとまるで僕の考えを見透かしたように、強気な笑顔のリュウナは右手に黒炎を灯してみせた。
リュウナの能力のポテンシャルは、早くも主戦力候補ですね。
ありがとうございました




