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噂のモンスター

「悪いなウシク、お前を呼んだのは2人のリクエストでな、ヌシと戦う時の人手が欲しいんだと。それが2人を紅蓮会で雇う条件なんでな」

歩き出した坊主と金髪についていくスギウチとウシクの後をしれっとついていきながら、スギウチにそう言われるとウシクは腑に落ちないように大人しく頷くが、むしろその落ち着きが同意の証かのような空気が流れていく。

「てか、箱根にヌシなんて聞いた事ねえぞ」

「知らないのか?」

さっきまでケンカしてたのに、ウシクが聞こえるような独り言を発すると坊主は振り返り、問いかける。

「アメリカから来た絶対に倒せない最強生物だ。噂じゃ巨大生物同士の交配種で突然変異した生物だの、能力者が能力で巨大生物同士を融合させたが暴走して野生化しただの、色々言われてる」

「絶対に倒せないって、お前ら死ぬ気か」

「いやいや倒す必要無えって。てか倒したら意味がねえ、捕まえて操れるようにすんだから」

「・・・ふーん」

「とは言え捕まえる為に体力は削らないといけねえから」

アメリカから来た巨大生物か、何で誰にも気付かれなかったんだろ。見てみたいけど、森は見通せないからなぁ。



凉蘭がライムと闘技場で特訓している間、指定自警団のホールでテレビを見ているとそこにタツヒロがやって来た。

「聖君、さっきオトナリ君達がデュナンズ・ナイツと戦ったって聞いてさ。まぁ大体想像は付くけど、楽勝だったでしょ?」

「それがさ、オトナリ君とガブリエルっていうデュナンズ・ナイツの人の一騎討ちが凄い盛り上がって。オトナリ君が勝ったけど、ガブリエルの何度倒されても諦めないしぶとさみたいな感じが、世間的にデュナンズ・ナイツの人気にちょっと火を点けたっぽいよ」

「へぇー」

「タツヒロどこ言ってたの?オトナリとデュナンズ・ナイツのところ行く前に聖が捜したんだよ?」

責めるという気持ちのまったく無い、満面の笑みでミントがそう問いかける事に、むしろ変に恥ずかしくなる。

「仲の良い動物達に会いに行ってたんです。動物なりに色々情報とか持ってたりするので」

「そうなんだ。じゃあタツヒロにとってはむしろそれが本業なんだね」

「はい、まぁ。それでさっき、千葉まで行って渡り鳥たちから聞いたんですけど、最近になって、変な気配の動物があちこちで生まれてるみたいです。人間みたいに賢くて、でも人間みたいに手当たり次第襲って来たりしないって」

動物の観点・・・斬新だな。

「この国にも居るの?」

「はい、その渡り鳥たちが話したのは、4本足で、翼があって、2本の角を生やしてて、人間の顔の皮を被ったみたいな動物で、とってもフレンドリーだって言ってました。何かあったら助けるって」

フレンドリー・・・。あれ、何かこの前の般若のグリフォンっぽいけど、まさかね。少なくともフレンドリーじゃなかったし。

「でも人間には厳しいらしいから、僕達は気に留めた方がいいかも知れません」

「そうなんだ・・・」

え、動物にはフレンドリーって事か。そっか、動物の観点だもんな。じゃあ、やっぱり・・・。



スギウチ達の後をついていっても、無視されているのか何故か注意される事はなく、それから森を行きそして富士芦ノ湖パノラマパークまでやってくると、隠れるところも無いそこでようやくスギウチは自分を見た。

「何してんだお前・・・」

「え?・・・観察。自分もちょっとヌシ気になるし」

「ったく。サイゴウ、正確な場所は分かってんのか」

スギウチの問いに、サイゴウと呼ばれた坊主の方は気味の悪い不敵な笑みを見せる。

「何で人が居ないか分かるか?警察はさすがに規制線は張れないが、ここら辺に住んでる奴は皆分かってんだ。ここがヌシの縄張りだってな。面白半分で来た奴は絶対に軽く怪我を負わされ、ガキ扱いされる」

・・・今のところ、居ないな。留守かな。

「居ないじゃん」

思わずそう声をかけてしまうと、サイゴウと金髪も、スギウチもウシクもみんな自分を見てくるが、サイゴウはまるで敵意の無い、ただ人の問いに応えるように笑った。

「縄張りは箱根山全体だ。待ってりゃ来る」

どんな奴かな、楽しみ。



「渡り鳥たちが話したそいつ、正確な居場所分からないの?縄張りとか聞いてないのかな」

お台場付近なら、当たりかな。

「縄張りかは分からないけど、渡り鳥が会ったのは大きな橋の下って言ってた。あっちの方って体を向けてくれたけど、大体お台場辺りだと思う」

「大きな橋ってアクアライン?」

「どうかな、アクアラインかゲートブリッジかどっちかかも」

動物だしな、地名なんか知る訳ないか。でも、やっぱり。

「聖、何かこの前戦った大きな生き物に似てないかな」

「はい、僕もそう思ってました」

「戦った事あるの?」

「うん。お台場で。多分戦ったのそいつかも知れない、すごい強かったよ。タツヒロ君聞いた事あるかな、アメリカ発祥の情報で」

「あ、知ってる、絶対倒せないモンスターでしょ?」

「うん。もしかしたら東京湾全体が縄張りだったりして」

「あー、そうなのか。その噂のモンスターが最近出てきた動物なのか」

「ほんとに動物なの?僕の力、動物ならDNA情報取れるのに、取れなかった」

「え、んー」

「じゃあ、また会いに行ってみたらどうかな?」

出たよ、ミントさん。言うと思った。

「タツヒロが居ればきっと戦わずに済むよ」

でも別に会いに行く必要も・・・。

「まぁ僕も直接話してみたいとは思ってたけど」

うーん大丈夫かなぁ。

「じゃあ、万が一戦いになった時を考えたら、僕とミントさんだけじゃ厳しいですよね」

ふとライムと凉蘭が居る闘技場に目を向ける。



変な沈黙のまま何十分か経ったような気分の中、透明な景色ではないが見える限り木々の合間を縫って感覚を伸ばしていく。

居ないなぁ。お、野鳥、なんてやつだっけ。・・・・・そういえば、ヌシがどんなのか知らないよな。・・・でも、もしそうなら、こいつ、かな?キレイだなぁ。

美しく儚い光を帯び、まるで幻を見ているかのような錯覚を感じさせる“真っ黒なキツネ”を間近で見ていた時、真っ黒なキツネは突然顔を上げ、自分と目を合わせた。

お?・・・。いやありえない。

実際にそこに居る訳ではないので目が合うという事はありえないが、それでもその真っ黒なキツネはまるでカメラのレンズでも見ているかのように“自分の視点”を真っ直ぐ見上げていて、しかも直後、真っ黒なキツネは自分の視点を追いかけてきた。

わわわっ何でっ、なんだこいつ。

人工物を透視する視界を強制解除して、ボーッとしたり歩き回ったり各々過ごしているスギウチ達に人知れずため息をつくと、直後に遠くに居るサイゴウが声を上げた。

「ニカイドウっ」

そう呼ばれた金髪が更にスギウチとウシクに手招きしたので、同じように近付いていく。

・・・あ。

全員が集まったのを見計らったのかは分からないが、木の後ろに体半分だけ隠れていた真っ黒なキツネがそしてみんなの前に姿を現すと、ふとそこには沈黙が流れた。

「いや、ただのキツネじゃねえか」

「バカか、普通のキツネじゃない」

ニカイドウにサイゴウがツッコミを入れ、再び“出会ったもののどうすればいいのか分からない的な沈黙”が流れるが、真っ黒なキツネが動き出すと緊張感が一気に張り詰め、サイゴウは両腕を巨大化させる。

「本当にそいつでいいんだよな?ヌシって大概モンスターって聞くけど」

「これから変身するだろどうせ。威嚇射撃しろって」

「あぁ」

ニカイドウがガトリング砲を右肩に出現させ、そして無駄にうるさく激しく射撃していくと、砲弾たちは木片を散らして木を砕き、轟音を率いて1本の木を倒した。しかしまるで動物じゃないんじゃないかと思うほど真っ黒なキツネは微動だにせず、直後にシャボン玉でも弾けるように姿を消した。

消えちゃったけど・・・。

「くそどこ行った」

周りを見渡そうと振り返った矢先、まるで自分達を観察するように数メートル先には2メートル級の、“シカの角を生やし、妖怪の九尾のように尻尾が沢山ある白い瞳の真っ黒なキツネ”が座っていて、何本もの尻尾をわさわさと揺らしてみせていた。

おっきくなった・・・。でも可愛さは変わらない・・・。

「おい、そっちだ!でかくなった、ウシク!」

座ったまま、尻尾を揺らしながら自身の後方に9つの黒い光球を出現させた真っ黒なキツネからふとウシクに目を向けていくと、直後にウシクは黒いレーザービームに襲われ、マントの雷光という盾も虚しく吹き飛ばされてしまう。雷光ヘビがびっくりしたように倒れ込んだウシクに飛んでいく中、ガトリング砲の轟音が響いたので再び真っ黒なキツネに目を戻すと、砲弾はすべて1つの光球が放つレーザービームで弾かれていった。



どうせ暇だし、散歩みたいな感じで行けばいいかな。

日曜日とあってかお台場は賑やかで、凉蘭はライムと仲良く話していて、ミントは都会に慣れていない観光客のように沢山の人通りを眺める中、何となく勝手にタツヒロへの気まずさを感じていく。

・・・何を話せば。

「ちょっと聞きたい事があるんだ」

潮風公園まで来れば砂浜の辺りよりかは人気は少なくなり、そんなところでタツヒロが野鳥に声をかけると、海の上で可愛らしく浮いていた野鳥は飛び上がり、タツヒロの目の前に降り立った。

「変な気配の動物を探してるんだけど、縄張りとか聞いた事ないかな。・・・そっか、分かった、ありがとう」

リアクションを見る限りじゃ、ハズレだな。

「タツヒロ君、やっぱり渡り鳥の方が情報持ってるの?」

「渡り鳥に依るけど、やっぱり渡り鳥は色んなとこに行ってるし」

「そっか。お台場に絞るならオッシーとか、お台場に住んでる動物達の方が知ってるかなって思ったけど」

「一通り渡り鳥に聞いたらオッシー達にも聞きに行こうとは思ってるよ。外堀を埋める感じでね」

ちゃんと考えてる事を主張してくるように微笑んできたタツヒロに改めて頼りがいを感じて、それからまたタツヒロが渡り鳥に声をかけた時にふと振り返ると、まるで独りを感じている事を見透かすようにミントは目を合わせてきて、しかも歩み寄ってきた。

「聖はお台場よく来るの?」

「夏休みは必ず来てます、イベントやってるんで」

「そうなんだ・・・」

か、会話終わっちゃう・・・。



ホワイトアーマーを纏い、光の噴射でかろうじて黒いレーザービームをかわしていく中、サイゴウは永久に射撃していくニカイドウの背後に隠れて隙を伺っていて、スギウチは神王会の証である白い鎧を纏い、その上に神王会の人間として禁止になっている“白以外のデザインの変身”である“赤い鎧”を重ねて纏い、黒いレーザービームを右腕に装着した赤い盾で防いで同じように隙を伺っていく。そこに雷光ヘビが向かっていって3頭から一斉に雷光を吐き出すと、自分達を相手にしている光球以外の残りの6つが雷光に迎え撃っていき、そこに隙が伺える。直後にウシクが自分の背後から、サイゴウがニカイドウの背後から走り出していき、挟み撃ちしていく。しかしサイゴウの拳、ウシクのフェンシングの剣が真っ黒なキツネに届いた瞬間、真っ黒なキツネは煙になって消えた。

うわ・・・。

「チッ」

誰かの舌打ちが妙に響いた直後、9つの光球は円を組み、みんなを囲んだ。考えるより先にホワイトアーマーから光を噴射させ、スライディングで光球の円陣を潜った瞬間、何やら背後がものすごく暗くなり、立ち上がりながら振り返って見ると9つの光球が離れていくそこには倒れているみんなの姿があった。

ふう、危なかった危なかった。

みんながもがいている中、ふと9つの光球の行く先を見ると、真っ黒なキツネは依然として座ったまま、後ろ足で首を掻いていた。

やっぱり可愛いなぁ。

「てめぇ・・・」

最初に立ち上がったのはサイゴウで、するとその直後、サイゴウの体がほんのりと光る。

おや?・・・。

「うおぉああっ」

雄叫びと同時に全身も灰色にゴツく変身し、そして2メートル級の完全な岩人間へと変化を遂げたサイゴウは重たい足取りで走り出し、1つの光球が放ったレーザービームを片腕で振り払った。キレたかのようにそのまま向かっていくサイゴウに、真っ黒なキツネは口から黒い炎を吐いたがなんとサイゴウは岩の体で跳び上がる。そして炎をかわし、そのまま殴りかかるのかと思った矢先、拳も届かないその空中でサイゴウは銀色の細い光を糸のように伸ばし、一瞬にして真っ黒なキツネに“銀色のアイマスク”を着けさせた。それから地面を響かせ降り立ったサイゴウは両拳を天に突き上げる。

「よっしゃああ!」

・・・ん?

「見たかおい、ニカイドウ、見ろよ!」

真っ黒なキツネはお座りしたまま何やら動かずにいて、ようやく立ち上がった他のみんなの方に振り返ってサイゴウは独りで勝手に喜んでいく。

「あんまり似合わないね」

「あ?いいんだよ外見なんて。これでこいつはオレのしもべだぜ」

「え、ただのアイマスクなのに」

「だから関係ねえだろ、外見なんて、それが能力者の能力だろ。いやぁ覚醒も出来たし、ヌシも手に入ったし──」

ふと目を向けると、真っ黒なキツネは前足の爪でひっかけてアイマスクを外した。

「これで箱根だけじゃなく、日本でも最強になれる」

「ねえ」

「あ?」

黙って指を差してあげ、サイゴウが真っ黒なキツネに振り返ったところで、真っ黒なキツネは光球を使ってアイマスクをサイゴウに投げつけた。

「・・・・・は?」

実はこのモンスターとの出会いが六事の人生を大きく変えてしまうのです。


ありがとうございました

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