幻の世、人の現3
木々は人工物ではないので透明な街並みでも見通せず、仕方ないのでやじ馬に紛れ込んで“アリサカのグループ対デュナンズ・ナイツというイベント”を間近で観察していると、突如スマホが鳴った。
「はいはい」
「リク、今見てんのか?アリサカのグループとデュナンズ・ナイツの戦い」
「見てるよ、しかも目の前で」
そんな時にガブリエルは青いオーラと赤い雷光を合わせた“紫の雷炎”を5連の大斧に纏わせて地面を叩き、まるで地震でも起きたのかと思うほどの地響きを轟かせる。
「今さっきの話だ、デュナンズ・ナイツな、ネットで正式にアリサカのグループに宣戦布告したぞ。デュナンズ・ナイツはこれより日本に進撃を開始する。手始めはアリサカの一派だ、ってな。その戦いは正に最初の、何だ」
「イベント?」
「はは、そう、それだな。俺達も今テレビでそれ見てるから」
「じゃあ、やじ馬が被害を被ったら来る?」
「あー、んー、まそうだな。この前だって周りの事はお構い無しだったしな、待機はしとくか」
ナカオカリアが猛烈な吹雪を浴びせかけてジョアンを追い詰めるも、ジョアンは黒い右腕だけを盾にして吹雪から逃げていく。そのままではその吹雪がやじ馬まで手を伸ばしてしまうと思った矢先、ナカオカリアは蛇口でも閉めるように吹雪を止め、ガブリエルの方に離れていくジョアンを歩いて追いかけていく。
アリサカのグループも一般人は巻き込まないってのが信条だしな、自分ら神王会が出なくても大丈夫かな。ガブリエルって人、割り込んだら結構怒りそうだし。
どうやら紫の雷炎にはイセヤオトナリも無視出来ないみたいで、体にはダメージはまったく伺えないが、服がボロボロな様子からはどこか攻めきれない心の未熟さのようなものが見て取れた。
能力者しか殺さないのが信条、でも簡単に殺したらヒーローとして人気は下がる。難しいところなんだろうな。
ガブリエルが5連の大斧を豪快に振り出して紫の雷炎を水平に放ち、再びイセヤオトナリがそれを両手で真正面から受け止めたその時、ナカオカリアが広範囲に吹雪を這わせてガブリエルとジョアンの動きを鈍らせる。
「オトナリ、まさかダメージ溜めてレベルアップでもしようとしてんの?」
ナカオカリアの問いに、紫の雷炎を跳ね返すように砕いたイセヤオトナリは直後、恥ずかしそうに笑みを溢した。
「バレました?」
「まあいいけどさ、そろそろ片付けちゃうからね」
「はい」
すでに下半身全体まで霜が降りているジョアンにナカオカリアが人差し指を向けたその時、突如人を隠せるくらいの“赤十字の紋章があしらわれた大盾”が出現し、放たれた閃光の炎球は虚しく阻まれた。
大きな盾を出現させたのは、先程倒されていたデュナンズ・ナイツの女性を瞬間移動で戦場から退場させた男性みたいで、スキンヘッドでミリタリーファッションのその男性は素早く背中ドクロに触れて姿を消させ、ガブリエルに駆け寄るが、ガブリエルが何やら言葉をかけると、その男性は足を止めた。まるで意地になってるようにガブリエルは全身から紫の雷炎を溢れさせると下半身の霜を吹き飛ばし、オトナリに向かって走り出した。するといきなりやる気を出したのか、オトナリは振り下ろされた5連の大斧を弾き飛ばすと素早く腹に拳を叩き込み、そして硬直した瞬間のガブリエルの顔を勢いよくぶん殴った。大男が吹き飛んだ事にやじ馬から歓声が上がるがガブリエルはすぐに立ち上がり、吹き飛んだ5連の大斧になど目もくれずにオトナリの顔を殴り返す。紫の雷炎の威力がそれなりにあるのか、オトナリは少し仰け反り、ガブリエルは間髪入れずに追い打ちをかけていくが、オトナリも負けじと殴り返していき、その戦場はいつの間にかオトナリとガブリエルへの歓声が混じり合うようになっていた。
・・・・・なんだこれ。
ムッカがやって来た頃にはそこは“純粋なコロシアム”になっていて、何となくガブリエルの意地がデュナンズ・ナイツ自体に肯定的な雰囲気を生んでるような気になっていると、スタミナの問題がきたのか、急にガブリエルの動きが重くなった。そこにオトナリは迷いなく殴りにかかり、ガブリエルは何度目かのダウンをやじ馬に見せる。
・・・もう決着かな。何か途中から面白くなっちゃったけど。
まるでセコンドのようにスキンヘッドの男性がため息混じりで歩み寄り、何やらガブリエルに言葉をかける。
ドイツ語っぽいから分からないけど、多分、いい加減にしろ的な感じだろうな。
どうやらガブリエルは意識はあっても起き上がれないみたいで、スキンヘッドの男性と共にそしてガブリエルが姿を消すと、コロシアムと化していたやじ馬は満足げに散り始める。
「面白かったから良かったんじゃない?」
「いや別に面白くはないだろ。本部の奴が直接スイスに行って聞き込みしてきたんだが、どうやらデュナンズ・ナイツってのにはナイツナンバーってのがあって、番号は強い順だとさ」
「じゃあガブリエルは3番目かぁ、あのオトナリにあと1歩っていうぐらいガブリエルが強いなら、これからデュナンズ・ナイツはちゃんと世間に注目されるって事だね」
「だな。日本に進撃とかいって口だけだったって事にはどうやらならなそうだな。ジョアンって奴とあの女だけでも表に上がってる情報だけで5人は殺してる。中途半端なテロリストはもう活動を潜めてるっていうからな」
「本部からの指示は?」
「それはまだだ」
「ふーん」
それでも活動を潜めない名のあるテロリスト、どれくらいだろ。全部やっちゃう気かな。
拠点に戻るとリリコは相変わらず世の中に関心が無いようにリラックスしているが、その傍らでは何やら仲間達はテレビのニュースやパソコン、各々のスマホやタブレットに釘付けになっていた。
「ジンイチロウ、何かニュースなの?」
「ただの情報収集だよ、今んとこマスコミはどちらかと言えば肯定的、ネットじゃ賛否で真っ二つってとこだな」
「まぁ意見は分かれて当然だけどさ」
コンビニで買ったおにぎりを食べ、味噌汁で一息つき、そしていつものように拠点のマンションの屋上からしばらく街を望んでいた時、スマホが鳴ったので画面を見る。
隊長からだ、何だろ。
「はいはい」
「神奈川の箱根でウシクが目撃されてるが見えるか?」
「箱根?ちょっと待ってね」
「ウシクだけか紅蓮会絡みかは分からないが。箱根はギリギリ見えないか」
「うん、だめだ遠すぎるみたい、ちょっと行ってみるよ。正確な場所分かったらまた連絡して」
「あぁ」
とりあえずコンビニにゴミを捨てに行ってから、神奈川県の真ん中辺りの適当な高層ビルの屋上にシールキーで移動していく。
うーん、東京とは全然違うなぁ。箱根は山に囲まれてるし、見通しが悪い。直接箱根行かなきゃだめかなぁ。・・・あ、カラス。・・・・・お、ウシクだ。
再びシールキーで、ウシクに気付かれないギリギリのところまで近付くと、何やらウシクは穏やかじゃない雰囲気で知らない男性達と口論していた。
「だったら今ここでどっちが上か分からせてやるよ!あいつらにはお前はオレらにビビって逃げたって言っとくからな!」
突如2人の知らない男性達の、そう啖呵を切った坊主の方が両腕だけを灰色にしてゴツく巨大化させ、金髪の方が戦闘機に付いているようなガトリング砲を1つ、右肩の上に出現させると、ウシクは髪を雷光色に輝かせ、雷光のマントを羽織って雷光で出来たフェンシングの剣を握り、頭上に3頭の雷光ヘビを召喚した。
ん、いきなり始まった感じ?
そしてガトリング砲が喚き出すが、どこから実弾が永久的に出てくるのかというより、すべての砲弾が雷光ヘビの雷光によって可哀想なほど防がれていくという事にふと気が留まる中、ガトリング砲は砲撃を止め、代わりに坊主の男性が岩石の巨人みたいな腕を振り出していく。しかしウシクは1歩も動かず、雷光ヘビの頭たちが一斉に雷光を吐いていくと、2人は可哀想なほど雷光に全身を打たれていった。
「がはぁっ」
え、もう終わり?
手加減はしたのか、起き上がれなくとも意識はあるように2人は苦しがりながらウシクを見るが、ウシクはただため息を吐くように肩を下げるとフェンシングの剣とマントを消し、雷光ヘビを1頭だけにして肩に乗せ、近くのガードレールに座り込んだ。
「え?お前・・・」
振り返るとそこには紅蓮会のリーダー、スギウチが居て、そのばったり出会った感に言葉を失ってしまう中、コンビニの袋を持つスギウチもまた自分を見たまま黙り込んだ。
「ケンカケンカ」
とっさにそう言ってウシクに指を差すと、顔を向けたスギウチはすぐに自分の事など忘れたようにウシクと倒れている2人の方に駆け寄った。
「おいおい何してんだよ」
「悪いけど、俺抜けるわ、こんな雑魚となんかつるんでらんねえよ」
「何があった」
「こいつらが勝手にケンカ売ってきたんだよ。箱根で1番強いからって粋がりやがって」
「そりゃ仲良くしろとは言わないけど、抜けるのはちょっと待ってくれよ。それにむしろ物理的に強さを分からせた方が後々統率しやすくなるから」
「おい、俺別にグループ活動なんかしねえよ。ただの傭兵活動って言ったよな?」
「統率すんのはこっちだ。けど傭兵同士、力関係が分かってれば仕事中に無駄なケンカもしないだろ?」
「・・・まぁ」
傭兵か、紅蓮会、仲間じゃなくて協力者を集めて戦力増強してるのか。
そんな時にスギウチが素早く振り返り、思わず目を合わせてしまう。
「山崎六事!」
物影には隠れたが意味はなく、スギウチに呼ばれたので仕方なく出ていく。
「何してんだよ、見たところ1人みたいだが」
「うん1人。ウシクの目撃情報が出たって聞いて」
「あ?お前、ストーカーかよ」
「ウシクのストーカーじゃないよ。紅蓮会ってのは神王会の反乱分子だからね。神王会は常に紅蓮会を警戒してるの。あれ、ウシク知らなかったの?」
「おい、聞いてねえぞ」
そうウシクに言葉をぶつけられるも、スギウチは常に頭を巡らせているかのような、どことなく隙の無いような落ち着きを伺わせる。
「いづれ言うつもりだったよ。けど今は何より人手が必要なもんでな。お前も神王会の裏の顔ぐらい聞いた事あるだろ?」
「いや、俺そういうの興味ねえ」
「マジかよ。いやその方がいいか、むしろ。紅蓮会ってのはな、ただの反乱分子じゃない。神王会が裏でやってる事を暴く為の正義の組織だ」
「正義?」
「別にいいんだよ。お前は正義だの考えなくて、それが傭兵ってもんだろ」
「・・・まぁ」
「つーか、山崎六事、お前も分かってんだろ?神王会が武器を買い漁ってる事」
「それって一旦中止になったんじゃ」
「ふっ、まぁ世間的には、ヒョウガに警告されて見直されたってなってるけどな、実際見直されたところで別に買い漁った大量の武器を処分したりはしてない。しかも今となっては中止になって武器庫が閉鎖されたって訳でもなく、武器を集める事を再開させてる。それが分かったからオレは神王会を抜けたんだ」
「でも武器を集める理由って、そもそも世の中の為だし」
「どうだか。武器ってのは相手を威嚇したり攻撃する以外に使い道なんて無い、どんな大義があろうと武器の存在理由は変わらないだろ」
「んー。だから紅蓮会作って、神王会から武器を買い漁り返そうって事?お金大変そう」
「何でだよ、買うかよ。奪うんだ」
「そっか。じゃ、報告しちゃお」
「お前・・・。まあいい、こっちはもう『東京防衛チーム』じゃ太刀打ち出来ないほどの戦力があるからな」
「え、戦力、2人潰れてない?」
「・・・つう」
ようやく立ち上がり始めた2人をスギウチも見下ろす中、ふと目が留まったのはウシクの肩に乗っている雷光ヘビが首を上げ、動物が狙いを定めるかのように目線を2人に固めた仕草だった。
「こいつらはまぁ、まだ能力者になったばかりだから」
「え、戦力って言うかなそれ」
「くそぉ、どいつもこいつも、バカにしやがって。いい気になってられんのも、今の、内だぞ。ヌシが手に入ればお前らなんて全員雑魚に成り下がるんだ」
「ヌシって、どこの地主?」
自分の言葉を聞く余裕も無かったのか、坊主と金髪の2人はそして立ち上がると、それから何やら自分を見た。
「・・・は?何の話だ」
「どこかの地主もまた傭兵として雇って戦力増強するんでしょ?」
「何言ってんだ?ヌシだ、箱根のヌシ」
「箱根の地主?」
「チッ黙ってろ」
「てか、ヌシも手に入れてないのに、ウシクにケンカ売っても勝てる訳ないだろ」
金髪が冷静にそう言うと坊主は黙り、その反省が伺える雰囲気の中、ふと雷光ヘビがリラックスするように首を下ろしたのが目に留まる。
「ったくこんな事してないで、さっさと捕まえに行こうぜ」
「お、おう、そうだな」
六事は性格上、どこか周囲をコメディータッチにしてしまう感じがあります。本人は思ってる事を言ってるだけなんですけど。
ありがとうございました




