フォーミダブル・ラブリー
家に帰るとリビングのソファーには兄ちゃんと姉ちゃんが居たが、姉ちゃんは僕を見てもすぐにテレビに目線を戻したので、僕も特に声はかけず、ただソファーの自分の場所に座り、テレビを見る。
「兄ちゃん、ヌシって知ってる?アメリカ発祥の情報らしいけど」
「ヌシ?富士の樹海のヌシなら聞いた事あるけど。てかそういうの、どこでもあるよな」
言われてみればそうか・・・。
するとそんな時、姉ちゃんが不審な挙動でダイニングの方を見たり、僕を見たりする。
「何だよ」
「いや、聖、あの般若のモンスターと、普通に戦えたの?この世のものとは思えない感じだったけど」
「苦戦はしたけど、まぁミントさん達居たし」
「そっか。でも聖、そんな強かったんだね」
「瑠歌、聖の動画見てないのか」
「そういうのそんなに興味ないし」
「ふーん」
休日は指定自警団の活動という事にはもう慣れ、翌朝になっても朝ご飯を食べ終えれば何は無くとも組織のホールに向かうと、その人気の少なさに何故かそわそわしてしまう。
知らない人ばっかりだな・・・。こういう空気苦手だ。シノダさん居ないか、指定自警団のホールかな。ん、メールだ。んおっ、究・・・。
「2人共悪い、今日用事があるから。重要な話題ならメールしてね」
そんな文面と共に、何やらお墓の前でキャラクターが手を合わせてるスタンプが送られてくる。
お墓?・・・お墓参りでも行くのかな。
指定自警団のホールに入ると飲み物片手にテレビを観ているミントとライムが見え、1人が僕に気付くともう1人も顔を向けてきて手を振ってきたので、何となく緊張と安心感を同時に感じながら歩み寄る。
「おはよ」
「おはようございます。あのさっき究から連絡がきて、これから用事があるって」
「そっか」
鳥井さんまだみたいだな。鳥井さん来たら、ホワイトボードの仕事かな。何かゲームのクエストボードみたいな。
僕もドリンクバーから飲み物を持ってきて椅子に座り、何もないこの時間こそに日常を感じながら、やがてやって来た凉蘭がミント達と顔を合わせるのを黙って眺める。
「ねぇミントさん、私達の当面の担当がデュナンズ・ナイツなら、他の事は気にしないでいいの?」
「んー、そうだね、すごく暇っていう訳じゃないなら、気にしないでいいと思うよ?」
「そういえばタツヒロ君はどんな感じかな。仲間集まったかな」
「じゃあ聖聞いてよ。私その間デュナンズ・ナイツの出現情報見てみる」
「うん分かった・・・って連絡先聞いてない。シノダさん来てるかな、ちょっと見てくる」
僕が来てから少し時間が経ってるので、少しの期待を抱きながらオーナーの部屋を経由して一般人のホールに入るがそこにはヒカルコの姿は無く、肩を落とす気持ちで凉蘭達の下に戻る。
「居なかった」
「じゃあオトナリのところ行こうよ」
ミントがそう提案してくれた事にちょっとだけ救われた感を感じながら、ミントと共にアリサカのアジトのビルの壁にシールキーの扉を作っていく。
「聖のお姉ちゃん大丈夫だった?」
「あ、はい。姉ちゃんは回復の能力も持ってるのでそこら辺は大丈夫です」
「そうなんだぁ」
1度場所を知られてしまったらマズイんじゃないかと思ってしまいながら、非常階段から鍵のかかってない扉を開けると、常に扉に気を向けているのか、ソファーに座りながらも扉から響く錆び付いた音にオトナリは素早く顔を向けてきた。
「え」
「状況をね、聞きに来たっていうか、タツヒロ君の仲間集めがどんな感じか聞こうかなって思ったんだけど見つからなかったから、直接オトナリ君に聞こうかと思って」
「そっか。探してるは探してるみたいだけど、今のところ聖君達居るし、今後のデュナンズ・ナイツの動きを見ながらって言ってたよ」
「そうなんだ。あれからデュナンズ・ナイツと戦ったりした?」
「あれからはないよ。でも僕はそろそろ援軍が来るんじゃないかって思うよ、色んなとこで戦っては負けてるみたいだし」
「そうなんだ」
スマホが鳴ったので画面を見ると、それは凉蘭からのメールだった。
「新宿御苑にデュナンズ・ナイツの人居るみたい。テロリストを挑発する書き込みして、新宿御苑のど真ん中で陣取ってるって。私とライムさんも行くから」
「オトナリ君、そろそろっていうか、もう来てるみたい」
「え?・・・」
ネットでテロリストを誘うって、何だそれ。
新宿御苑の端っこで凉蘭達と合流する頃には、まるでイベントでも催されてるんじゃないかというほど“静寂なる熱気”が感じられるようになっていた。
「究にメールしといた?」
「うん一応」
凉蘭がそう応え、そして避難したいけど観たいという“形なき人だかり”が何やら一様に注目する3人が見えてきたところで、まるでそよ風が草木を揺らすようにやじ馬がざわめき出した。
うお、両手に武器の女の人と、背中ドクロだ・・・。
「オトナリじゃないか?あれ」
「やっと来たか、さすがアリサカ組」
けどあの腕を組んで銅像みたいに突っ立ってる男の人、あれだけでも何となく強そう・・・。
「ていうか指定自警団いるぞ」
「ミント達は分かるけど、あの2人は知らないな。新人か?」
「あれだろ、ほら、あの、バグモンスター」
思わず立ち止まり、やじ馬の人達にちょっとだけ近付く。
「ボスモンスターだから」
普段は長閑な広い草原に、見せ物のように立っている3人の男女がやじ馬のざわめきに気が付いたのか、やがて3人が僕達の方に顔を向けて来ると、近付いてこいと言わんばかりの自信やら敵意を醸し出してきたので、オトナリと頷き合い、3人に近付いていく。
「指定自警団は来るな!これは、テロリストへの宣戦布告だっ」
背中ドクロ・・・。
「邪魔をするなら我々が容赦しない」
んー。
「そういう事みたいだし、下がっててよ」
余裕しかないような微笑みでそう言ったオトナリがそのまま向かっていくと、同時に背中ドクロがオトナリと擦れ違って何故か僕達に近付いてきたので、いつでもDNA情報を発動出来るように警戒していくが背中ドクロも警戒はしているが闘志は見せず、静かに僕達と向かい合った。
「私達、この前ワールド・クロスに行って、あなた達の事聞いたよ?」
ミントがそう言うと背中ドクロは明らかに戸惑うような表情と、その戸惑いを抑えるような態度を見せる。
「あなた達も元々はワールド・クロスの理念に共感してたんじゃないの?」
その直後に仁王立ちしていた、何となく30歳前後に見える大柄の男性が英語で、しかもまるで周りに聞こえるように大声で口を開き、背中ドクロも振り返っていく。
「デュナンズ・ナイツ!ナイツナンバースリー!ガブリエル!これよりデュナンの名においてテロリストを駆逐する!」
通訳するように女性がこれまた周りに聞こえるように大声で話すと直後、ガブリエルと名乗った男性は全身から赤い光を洩らしながら“全身ではない赤いプレートアーマー”を纏い、見た目からして豪快な赤い装飾の付いた“両刃の大斧が団子のように5つも連なったもの”を出現させ、槍でも扱うように地面に突き立てて見せる。
大丈夫かな、オトナリ君。
それから深呼吸するようにオトナリの肩が下がった瞬間、ガブリエルは何やら警戒するように5連の大斧を両手に持ち、“ただ立ってるだけなのに空気感が威圧的なオトナリ”を前に身構えた。
何か、すごい、何なんだ?あの空気感。
ガブリエルが5連の大斧を軽々と振り下ろし、普通の人なら確実に死に至るというぐらいの強烈さを見せるものの、オトナリは体を反らすと同時に大斧の柄を掴み、そこにはオトナリを通り過ぎていく風圧だけが響いた。
「やっちまえー」
「いけいけぇ」
やじ馬からオトナリを応援する声が上がり始め、このまま5連の大斧の綱引きが続くかと思った矢先、女性が左手から砲身を出し、オトナリに向けて緑光の砲撃を放った。しかし直後、ガブリエルは5連の大斧ごと振り回され、ガブリエルは緑光の砲撃と衝突した。更にオトナリは片手でガブリエルごと5連の大斧をぶん投げ、ガブリエルと5連の大斧は小石のように転がった。そして直後、やじ馬から歓声が上がる。
「まさか、これほどだとは」
ガブリエルはすんなりと立ち上がるも、背中ドクロがそう呟くと何となく実力の差を推測出来る気がしてきたが、5連の大斧を拾い上げるとガブリエルはプレートアーマーの隙間という隙間から燃え上がるように“蛍光灯のように光る青いオーラ”を溢れさせ、更には背中から蛍光色の青いオーラを吹き出してロケットのように飛び出した。眩いオーラを纏って大男が飛びかかってくるというだけでも十分恐ろしいのだが、ガブリエルが5連の大斧を振り上げるそのタイミングを見計らったようにオトナリは跳び上がり、胸元を蹴りつけるという先制攻撃を見せつけるとガブリエルは勢いが削がれる程度に跳ね返される。それからガブリエルが正に豪快に何度も斬りかかっていくも、オトナリはすべての攻撃を尽く弾いていき、そして最後にはオトナリの蹴りが決まり、ガブリエルは再び吹き飛んでいく。
こりゃ、勝負は見えてるな・・・。
それでもガブリエルはすんなり立ち上がると、今度は5連の大斧の先端に燃え上がるような蛍光色の青いオーラと赤い鎧に合わせたかのような“赤い雷光”を混ぜ込んだエネルギーボールを作り出し、オトナリに向けて放った。
うわぁ・・・。
両手で払い落とすような動作を見せた時にはオトナリは青い爆炎と迸る赤雷に覆われて見えなくなっていて、固唾を飲むようにやじ馬さえ黙り込んだ中、オトナリからなのか扇いだように吹き込んだ風に炎と雷光が流れていくと、そこには服がボロつきながらも確りと立っているオトナリの姿があり、また直後にやじ馬から歓声が上がる。するとやはり苛立ちがピークに達したのか、5連の大斧を地面に勢いよく突き立てると雄叫びを上げ、プレートアーマーから溢れさせる青いオーラの火力を増して見せ、同時に全身から迸らせる赤い雷光を喚くように散り広げて見せる。
明らかに本気って感じ、大丈夫かなオトナリ君。
その時、ガブリエルの足元に空から何か小さな白い球体が落ちてきたように見えた瞬間、そこは“真っ白な爆風”に雑音も眼差しも支配された。
・・・・・・何が──。
間欠泉のように高く上がりながら真っ白な爆風は瞬く間に背中ドクロを呑み込み、僕達にもその手を伸ばしてきて、やじ馬の悲鳴さえも聞こえる中、その爆風から感じたのは強烈な熱気と、熱湯のように圧迫感のある臭いに満ちた水気だった。
・・・これ、水蒸気?・・・。水蒸気爆発?。
「聖っ、吹き飛ばしてよ」
「え」
凉蘭の声が聞こえたのでワシゴリラと黒炎の怪鳥を発動し、とりあえず目一杯の力で翼をはためかせる。僕1人の力では到底払い切れない爆風だが、それでも翼をはためかせていた時、突然台風のような突風が吹き出し、真っ白なモヤは逃げるように消えていった。
「やっぱりリアさんか」
その突風はどうやらいつの間にかオトナリの傍に立っていたリアからで、大人しく人間に戻りながらふと見ると、ガブリエルはまるで立ち上がるのが苦しそうに膝を着いていた。
「もう、またディフェンスばっかりなの?」
「手加減し切れなくて」
オトナリ君、ずっと手加減を・・・。
「いいじゃん、瞬殺しちゃえば」
「まぁそうなんですけど」
「瞬殺だと?いい気になるな!」
右手に鉄爪とピストル、左手に砲身と脇差しを携えて女性が走り出した時にはすでにリアは電気を纏う風を引き起こしていて、塊とかではなく風そのものが凶器となっているその攻撃に女性は逃げる事も叶わず、全身を電撃に噛みつかれて体を波打たせていく。しかし緑光のオーラを体から滲ませながら、女性はまるで倒れない事を見せつけるような強気な微笑みを浮かべる。
「へぇ」
「リアさんだって手加減してるじゃないですか」
「私のは手加減じゃなくて、殺さないようにしてるだけ。ほら、あっち」
「あはい」
ガブリエルに向かってオトナリが歩き出した瞬間にも、リアは恐ろしいほどの迷いの無さで人差し指から落雷音を響かせ、閃光のような速度で炎の球を撃ち放つ。炎と電気が混ざった爆発が女性を襲うが、女性は両腕から滲ませた緑光のオーラでダメージを軽減させたのか一瞬硬直しただけですぐにリアに向かって走り込んでいく。そして女性が緑光を纏った脇差しで斬りかかった瞬間、リアは女性の背後に瞬間移動し、しかも3発もの閃光の炎球を迷いなく撃ち込んだ。そんな時に背中ドクロがリアに向かって歩き出すが、ふと目に留まったのは背中が焼けてうつ伏せのまま動かない女性の姿と、すでに背中ドクロに体を向けているリアだった。
こ、怖い・・・リアさん。
デュナンズ・ナイツも正義で動いてる側の組織ですから、正義
対正義も見所の1つですね。
ありがとうございました




