スリー・ブラック
戦いに出た人達でまるでハイキングから帰ってきたかのようにぞろぞろと拠点に戻っていくと、各々疲れただの何だの言っている中、ふとキッチンカウンター前の椅子に座っていたリリコと目を合わせる。
「お帰り」
「うん」
マサハルの部屋に入ると、入口には横を向きながら、リクライニングチェアに深く背もたれて寛いでいたマサハルはテレビを見ていたので、自分も何となく正に自分達の戦いのニュースを見てみる。すると直後に気配でも感じたのか、振り向いてきたマサハルは自分を見たが、何故かそこには沈黙が流れた。
「・・・・・・・え?」
「えじゃない、報告しろ。待ってんだから」
「あそっか、ニュースやってるから報告要るかなって思った」
「規則は規則だ。そういうのは怠けたら良くないからな。それに六事にしか分からない事とかあるだろ?」
「まあね。とりあえずみんなで整理した情報だと、どうやら紅蓮会はウシクを金で雇って、自分達に本格的に攻め込もうとしてるみたい。でも今回は自分達の勝ちだったし、もしかしたら今後も誰か雇って戦力を増強するかも。で、デュナンズ・ナイツに関しては、分かってる時点で、今ニュースに映った2人だけしか確認出来てない」
「なるほど。紅蓮会の事は取るに足らないが、デュナンズ・ナイツの事は本部にも報告する必要があるな。デュナンズ・ナイツへの対処は一旦本部の指示を待ってくれ」
「うん。じゃ」
リビングに置いてある、連絡ボードととして使っているホワイトボードにデュナンズ・ナイツの対処方針を書き記してから、マンションを出ようとキッチンを横切った時、突然リリコに腕を掴まれる。
「天気良いし、東京タワーでも行かない?」
「いいよ」
「──ネットの中ではすでにデュナンズ・ナイツというグループの情報が寄せられており、その活動に対してヒーローだという声や、またはただの外国版のテロ鎮圧するテロリストだという声が上がっている、という事です」
「はい。今やこういう情報はマスコミよりネットの方が掴みやすいみたいな感じになってますが、しかしながらネットではデマも多いので、閲覧には注意が必要ですね」
「そうですね。では続いてのニュースに参りましょう」
指定自警団専用ホールには舞台上の部屋は無いからと、闘技場の扉の間にそれぞれ4つのテレビが置かれているので、ふとテレビを見ていた時、スマホが鳴ったので画面を見ると、それは珍しく姉ちゃんからの着信だった。
「姉ちゃん?」
「聖、指定自警団なんでしょ?ちょっと助けてよ、チームがピンチで」
え・・・。
「何かあったの?」
「テ─リスト─襲われ──」
「え、今どこ?」
雑音・・・悲鳴っぽい。
「──お台場の船のとこ、早く来て」
「うん」
お台場にテロリストか。
電話を切った時に何かあったのかなぁというような眼差しを凉蘭が見せてくる。
「お台場でテロみたい、しかもテロリストと戦ってるのが僕の姉ちゃんのチームで、ピンチだから助けてって」
「聖のお姉さんも能力者なんだ」
「まあね」
「すぐ行こうぜ?」
「うん」
「人数は?」
凉蘭と究が立ち上がった時にミントが真剣な顔で口を開く。
「あ、聞きませんでした」
「じゃあ私達も」
叱られるかと思いきやミントよりも早くライムがそう言って立ち上がると、ミントも頷き、何となく“強引さのない強引さ”を思わせるほど素早く立ち上がる。
「あ、はい」
あと恐らく1時間もすれば空が赤みを帯びるだろうという中、お台場の船の科学館の外壁に扉を作ってホールを出ていくと、そこには真っ先に爆発音らしきものやら衝撃音らしきものやらが聞こえてきて、緊迫感を臭わせてくる。
姉ちゃん、回復能力あるし、大丈夫だろうけど。どこかな。
湾岸沿いの噴水広場の方面で、木々の向こうに光が見えたので向かってみると、正に噴水広場では赤いマントと豪華な剣が特徴的な男性と、2メートル級の、般若の顔をしたグリフォンっぽい生物が一騎討ちを繰り広げていたが直後、船の科学館駅の方面から雄叫びのような重低音が聞こえてきた。
姉ちゃん達、散らばってんのか。
「あの、赤荻瑠歌どこですか。ピンチだから来てほしいって電話してきたんですけど」
豪華な剣に輝くような黄と燃えるような赤を纏い、そしてそれを解き放って爆発させるという攻撃を仕掛けて般若のグリフォンを飛び退かせると、男性はようやく僕を見た。
「指定自警団に知り合いが居たのか」
「いや僕赤荻聖です、弟です」
「おほ、指定自警団かよ、瑠歌なら駅に隠れてる。駅の向こうにテロリストが居るからな」
そんな時に般若のグリフォンが巨体に似合わず軽やかに動き、まるで駅へ向かうのを邪魔するように漆黒の火炎を吐き、漆黒の炎の壁を作り上げた。
「ゴアァ」
何だよ、もー。
ワシゴリラと黒炎の怪鳥、シロロンを発動するとミント達3人は翼を解放し、究も戦闘魔晶たちを出現させる。
「聖、ここは任せて」
ミントさん・・・。
「はい」
ミントが般若のグリフォンに向かっていったと同時に漆黒の炎の壁を飛び越えた直後、漆黒を散らしながら、なんと目の前に前足を振り上げた姿勢で般若のグリフォンが瞬間移動してきて、何も出来ずにそのまま殴り飛ばされてしまう。
ぐへっ・・・。
しかも衝撃は凄まじく、何とか持ち堪えた時には鉄柵にぶつからなかったら東京湾に落っこちていたというところだった。
まったくもー。
起き上がって見上げれば般若のグリフォンは無数の漆黒の羽根を舞い上がらせ、それを漆黒の炎で包み、ロケット花火のように広範囲に飛ばしてきて、ミントとライムは素早く離れていくが、他のみんなは一様に小さな漆黒の爆発に巻き込まれていく。
何だ、あの攻撃、巨大生物なのに、動物なのに複雑な魔法攻撃なんて・・・。
ライムが黒い閃光を放って気を逸らした時にミントがいびつな籠手で殴りかかり、般若のグリフォンが背後に瞬間移動して殴りかかってもミントはそれを翼で受け流す。それから般若のグリフォンが尻尾から漆黒の炎の刃を作りあげて斬りかかってもライムは黒い閃光でそれを弾き、更には上空に瞬間移動して、翼から漆黒の電撃を放ってきてもミントとライムは各々素早く防御していく。
何だあの、動物、いやていうか2人共すごすぎる。
オッシーを発動して翼と拳に黒炎を灯し、ミントが般若のグリフォンの顔を殴ったところでロケットのように飛び上がり、般若のグリフォンを思いっきりぶん殴る。空中で2回転したものの般若のグリフォンは軽く頭を振っただけで、直後に翼をはためかせて漆黒の吹雪を放ってきた。
こ、いつ、本物の、モンスターか・・・。
「離れろ!」
振り返ると、地上では姉ちゃんの仲間が豪華な剣に溜め込んだ黄色い輝きと赤い陽炎を今にも解き放とうとしていた。
「ブリッツプロミネンス!」
漆黒の吹雪に体の動きが鈍くなってしまう中、姉ちゃんの仲間は黄と赤の輝く陽炎を解き放ったので全身を黒炎で包み、何とかその軌道から離れたものの、前を見れば輝く陽炎は真っ直ぐ空の彼方へと消えていき、その瞬間目に留まったのは、僕と同じように体をくねらせ、間一髪で輝く陽炎をかわしていた般若のグリフォンだった。
「くそっ」
直後に瞬間移動し、地上に降り立った般若のグリフォンはまるで犬のように体をブルブルさせ、その時に何となく手を伸ばし、DNAラーニングをしたが手には何も振動は伝わってこず、頭の中にもDNA情報がストックされたような感覚はなかった。再び姉ちゃんの仲間が豪華な剣に輝きと陽炎を纏わせるがその瞬間に般若のグリフォンは瞬間移動するように姿を消した。
・・・・・・・あれ、どこだ・・・。DNAラーニングが出来ないって事は動物じゃなくて・・・何だ?
「逃げたか」
姉ちゃんの仲間のそんな呟きに次第に緊張感も風に流れ始めたので、とりあえずミントと頷き合ってから駅に向かって飛んでいく。そしてモノレールの駅なので開けた地上を見渡し、人間に戻って駅の中に入って姉ちゃんを捜していく。
「聖、私も捜すよ」
「え、でも顔分からないですよね」
「大丈夫、名前呼べば応えるでしょ?」
「あ、はい」
ミントさんって、天然に見えてちゃんと考えてるよな。大丈夫って言ったらほんとに大丈夫だし。
「・・・瑠歌さーん!」
か、声でかっ。こっちが恥ずかしい。
「ミントさん?」
お、姉ちゃん来た。
「あ聖、やっと来た。とりあえずあっちの広場でノゾミが戦ってるの、般若のモンスターと」
「そいつなら居なくなったよ、だから来たんだ」
ノゾミって、男なのに?まぁいいか。
「じゃあそっちにテロリストが居るから」
人使い荒いな。
「うん」
「大丈夫?」
「あ、はい」
ミントが聞くと、姉ちゃんは有名人を前にしてなのか、恥ずかしそうに表情を緩ませて応え、そんな姉ちゃんにさっさと背中を向けて駅を出ていくと、そこにはライムと究と凉蘭が居た。
「姉ちゃん居た。テロリストのとこ行ってってさ。さっきの人は?」
「もう行ってるよ?」
そう言って凉蘭は、夏休み恒例の大型イベントが片付けられた広大な平地の方に指を差したので、ワシゴリラと黒炎の怪鳥を発動して飛んでいくと、イベントなんかやってないのにやじ馬が居るその平地ではノゾミと呼ばれた男性と、変身したり武器を持ったりはしていない普通の格好で氷を操る男性、そして両手に個性的なデザインの拳銃を持った女性が、お互い身を寄せながら3人に詰め寄る数え切れないほどのそのまんま西洋甲冑の騎士と戦っていた。
何じゃこりゃ。でも動きがぎこちない。まるで人形みたい。てことは、召喚してる能力者が居るはず・・・。
黒炎を放って騎士を5、6体一気に吹き飛ばしながら3人に駆け寄る。
「あのっ、こいつらを出してる能力者は」
「3人じゃそれどころじゃなかったんだよ、指定自警団は甲冑を頼む」
「あはい」
ノゾミの指示で他の2人もノゾミから離れないように移動し始めたので、とりあえずミント達や究達と共に手当たり次第に騎士達をやっつけていく。少しして僕を呼んだ声に振り向くとそこには姉ちゃんが居て、世間で話題のボスモンスターの姿になのか姉ちゃんは何となく引き気味な態度を見せるが、僕の方もコスプレみたいな格好の姉ちゃんに何となく気まずくなってしまう。
「姉ちゃんの仲間ならあっち行ったよ」
「うん」
特に会話もなく姉ちゃんは駆け出し、杖から水色の光を放って騎士を吹き飛ばしながら去っていったので、それからまた少し無限に湧いてくる騎士達を軽く蹴散らしていた頃、突如騎士達が空気に溶けて消滅していった。
お、やったかな。
僕達の方に姉ちゃん達がやってくるとノゾミは何やらぐったりした男性を引きずっていて、そしてノゾミが僕達の前にぐったりした男性を少し乱暴に寝かすが、その雰囲気は正に厄介者をようやく捕まえたといった安堵感だった。
「処理は頼んだ」
「うん」
ノゾミの言葉にミントが返事をすると、ノゾミ達はさっさと背中を向けていく。
「さっきのモンスター召喚した能力者は?」
僕の問いにノゾミは振り返るが、何やら返答に迷うようにノゾミはモンスターと戦った方面を見た。
「あれは関係ない。そいつと戦ってたら割り込んできた」
関係ない?・・・。
「でも巨大生物じゃないでしょ?」
すると直後、ノゾミはほんの小さく首を傾げながら困ったように一瞬だけニヤつく。
「いや、あいつは『ヌシ』だ」
ヌシ・・・って?
「アメリカ発祥の情報で、絶対に倒せない裏ボス、突然変異の最強生物、バグモンスター、後は単なる能力者の召喚獣だとか、ま色々言われてる。ネットの中ですら誰からも信じられてない存在だが、あいつは、多分本物のヌシだろうな」
裏ボス?バグ?・・・。
東京タワーの大展望台にあるカフェ席からのんびりと、必ずではないが休日になるとほぼテロが起こる街になってしまった東京の街を望んでいき、そして今もまた東京スカイツリー辺りで1つの小さなテロが鎮圧されたのでズームを戻し、半透明の視界も解き、コーヒーを一口飲み込む。
普通に夕焼け見るか。
「やっぱりどこでも夕焼けってキレイだよね。色だけじゃない、何か、心を穏やかにするものがある」
「うん。夕焼けの色って、惑星によって違うの?」
「んー、違うとは思うけど、私の世界はここと同じだし」
「ふーん」
「・・・料理って意外と難しいね、奥が深いっていうか」
「今までやって来なかったの?」
「必要なかったからね、そもそも15歳まで料理っていう概念がある事すら知らなかった」
「え、そんな事ある?」
「それはお互い様でしょ?異世界の常識なんて」
「・・・そうだね」
異世界人であるリリコ。彼女の存在が今後の世界に凄まじく影響していきます。
ありがとうございました




