純真に猛進
とっさに黒炎の怪鳥とワシゴリラを発動しながら凉蘭を少し離れさせ、オトナリがタックルで逆に跳ね返したワゴン車から出てきた男性を警戒していくと、ファイティングポーズも取らないで立っているオトナリだけを見るように、その男性は敵意を醸し出す。
「ツイッターでお前がここに居るって書いてあったからな、今日こそ覚悟しろ」
「1人で僕に勝てるの?まさかその車の事故をニュースにして仲間を呼ぼうって?」
えー、まどろっこしい。
「そんな訳ないだろ、まどろっこしい。能力なんて無くたって仲間は呼べる」
すると直後、その男性の斜め後ろやらワゴン車からちょっとだけ離れた中途半端な場所やらと、次々と男性の仲間と思われる人達が現れた。
・・・4人か。みんな、ワープするのか。手強そう。
「世の中にはな、GPSってのがあるんでな、ハッ」
「1人じゃねえのかよ・・・っておい、指定自警団じゃねえかよ、何でだよ」
ワゴン車の男性が得意げにそう語った直後、瞬間移動してやって来た内の1人が妙にテンション高く口を開き、その馴れ馴れしいやりとりは何となく勝手にチームワークを感じてしまう。
「みんな下がっててよ。こいつらこの前やっつけた奴らでさ──」
「いや大丈夫だって、俺らもやるよ」
「でも、僕達には僕達のルールがあるから」
究の持ち前である明るさと強引さにもオトナリは冷静に対応する中、赤いジャンパーを着た男性が瞬間移動して、頭上からオトナリの脳天を金属バットで殴りつけるが、鈍い音と共にへこんだのは頭ではなく、金属バットだった。
「がぁっ」
その衝撃がもろに返ってきたのか、赤いジャンパーの男性が勝手に痛がった直後、オトナリは素早く男性の腕と胸ぐらを掴み、殴るのではなく投げ飛ばした。ただそれだけで赤いジャンパーの男性が5、60メートルほど飛んでいったが、オトナリに敵意を見せる一味は気にする事なく、まるで戦国時代の合戦のように攻撃を仕掛けていく。しかしオトナリはまるで人間が決して敵わないSF映画のロボットのように次々と男性達を投げ飛ばし、盛大過ぎるほど地面を転がったりワゴン車にぶつかったりしてそして瞬く間に最後の1人になると、ワゴン車の男性は敵意は見せながらも途端に大人しくなる。
強い・・・。いやこいつらが弱いのかな。誰一人魔法的な攻撃してこないし、武器もそこら辺にあるものだし。ワープ出来るただの不良集団って感じだな。
「来ないの?」
オトナリが問いかけると、男性は周りを見たり腕時計を見たりと妙に不審な挙動を見せる。
こんなのにも相手にされるなんて、ちょっとある意味大変かも。
「あと1人来るはずなんだが」
「さっさと帰ってくれないかな」
「ハァ、仕方ねぇ」
そう言って男性がワゴン車に手をかけた直後、ワゴン車全体が淡い光に包まれたと思ったと瞬間、すでにワゴン車は傷ひとつ無い新車のように元通りになっていて、オトナリにも僕達にも目もくれずそしてワゴン車に乗り込むと、男性はなんと瞬間移動してきた仲間すら無視して走り去っていった。
「オトナリ君、あいつらの目的がちょっと分からないんだけど」
「僕も分からないけどさ、多分、本当に悪いテロリストしか殺さないっていう印象を壊させたいんじゃないかな」
「何それ、わざと殺されに来たの?バカじゃないの?」
珍しく怒ったように口を開いた凉蘭に思わず顔を向けると、オトナリは余裕の勝利の後だからこそのように笑い出す。
何で、イセヤオトナリと指定自警団が一緒に居るんだろ。しかもあの2人は最近になってYouTubeに出始めた人達、指定自警団だったのかな。でも動画じゃ指定自警団なんて紹介はなかった。・・・この女の子は知らないな。見た感じ高校生くらいだな。でも指定自警団だし、2人の仲間かな。アリサカのグループと指定自警団、か。報告した方がいいかな。
ペットボトルのお茶を一口飲んでから立ち上がり、吹き込む冷えた風を感じながら伸びをする。一旦地上に戻ってゴミをコンビニのゴミ箱に捨て、人気の無い路地でシールキーを使い、都内の高級な高層マンションの最上階の廊下に直接入っていく。そして最上階が丸ごと一室になっているという最高級なその一室のインターホンを鳴らす。それから扉を開けたのはリリコだったが、リリコは何故かエプロン姿で自分を招き入れた。
「料理してんの?」
リリコにそう聞くと、無言ではあるが振り返ると照れるように口元を緩ませ、小さく頷いた。
いつもカップラーメンなのに、珍しいな。
「お、珍しいな、人里に下りて来るなんて」
玄関から右手にあるキッチンカウンターの手前で丸椅子に座って寛ぎ、そう言って親しげにからかってくるジンイチロウに愛想笑いしてあげながら、ソファーやら1人用リクライニングチェアやらで各々寛いでいる仲間達を通り過ぎていく。隊長らしく玄関から1番遠い部屋で陣取ってるマサハルの下に向かうと、それらしく高級そうな革製のリクライニングチェアに座るマサハルは自分に気付くと表情の力を抜くような顔色を見せた。
「ちょっとした報告なんだけど、アリサカのグループのイセヤオトナリ、指定自警団の人達と行動を共にしてた。多分高校生くらいだと思う」
「どんな能力か分かるか?」
「あー、1人は変身系、ほら最近YouTubeに出てきたボスモンスターっぽい人、それと“セラファン”の魔王みたいに、戦闘魔晶を操る人。あと知らない女の子、指定自警団のミントとライムに少しだけ似てる」
「その2人、指定自警団だったのか」
「そうじゃなくて多分、“だった”んじゃなくて“なった”んだと思う。2人がメインの動画でも指定自警団の姿はあったし。前から交流があったんじゃないかな」
「なるほどな」
「それだけ。じゃ」
オトナリと別れて組織に帰ってくるとふとホールで過ごしているミントに目が留まり、そんな時に気配でも感じたのかミントも僕達の方に顔を向けてきて、するとミントは何やらすぐに表情を明るくさせ、待ち合わせでもしていたかのように手を挙げてみせた。
「待ってたよ」
何だろ・・・。
「そっちは何か収穫あった?」
収穫・・・。
「んー、デュナンズ・ナイツの人には会わなかったけど、アリサカのグループのナカオカって人からの情報だと、デュナンズ・ナイツはワールド・クロスの暗部組織じゃないかって」
「ワールド・クロス。その組織の人、会った事あるよ。世界中の紛争地帯に行って怪我人を助けてるんだって」
「えっ」
思わず上げたような声を聞かせた凉蘭に思わず顔を向けてしまうと、そのまま凉蘭は僕や究と目を合わせてくる。
「どこで?」
凉蘭の問いに、ミントは上を向く。
「空母戦争の戦いの時だよ。他には何かある?」
ん、やけに聞いてくるな。
「特には」
「そっか。あのね、さっきノブのとこに行って、デュナンズ・ナイツの事で3人をアリサカのグループに協力させさいって言ったら、ノブ、了解したって。そしたらその時ノブが、私が3人と仲が良いならチームに入ったらどうかって。その、私もね、そうしたいなって思うんだけど──」
うわ、まじか。
「いいかな?」
「うん!」
凉蘭が即答した事にはそこまで驚かないが、凉蘭がそう言うならという眼差しを究が僕に向けてきた事に、少しだけニヤけてしまう。
「全然良いですよ」
「アマカゼも居るしな、レッドライトニングはむしろ異世界の人歓迎って感じだよな」
「ライムさんは?」
どこか寂しがるような凉蘭の問いに、ミントは優しく微笑む。
「聖達のチームに入ったって言ったら、ライムもそうすると思うよ?」
おー。指定自警団の中でも名のある実力者の2人が、チームに。
「じゃあデュナンズ・ナイツと戦う事になったら一緒に戦うの?」
「うん。それでもし、デュナンズ・ナイツがワールド・クロスの別動隊かもっていうなら、確かめてみたらどうかな?」
「え、どうするんですか」
そう聞くと、ミントは一瞬舞台の方を見てから何やら笑みを浮かべる。
「組織同士は連絡出来るんだから、直接聞けばいいんじゃない?」
「直接って、スイスに?」
「うん」
それは・・・。
「ワールド・クロスって、能力者組織でやってるのかな」
「赤十字だし、そういう活動って金かかるし、組織に居れば食べ物とか無料だし、そうなんじゃないか?」
「早速行こうよ」
究の言葉の後にそう言うとミントは素早く立ち上がり、今にも歩き出しそうな勢いで僕を見る。
「あ、はい」
「ミントさん、ワールド・クロスの日本支部とか無いのかな。あればちょっとは楽に話せるかも知れないのに」
「どうだろうね、それも調べよっか」
まるでどこかのキャリアウーマンかのように、歩きながらスムーズに究に応え、僕にも笑顔を向けてきて、僕達を先導するというその背中に、何となくリーダーという言葉がふと浮かんでくる。
行動力、すごいなぁ。オトナリ君だって苦手意識を持つぐらいミントさんはキラキラしてるって事だもんな。
「そういえば、シンジ君とかノブさん北海道の仕事が終わって、ワッペンくれた時以来見てないけど、またどこか行ってるんですか?」
「実はね、この組織にはこのホールとは別に、同じくらいの広さの指定自警団専用のホールがあるの。気分転換でたまにこっちに来るけど、普段はそっちに居るんだよ。指定自警団は日本中に居るしね」
指定自警団専用、確かにそういうの必要か。
「そうなんですね、どうりでいつも静かだなぁって思ってた」
「聖達もいつでも来ていいからね?」
「はい」
オーナーの部屋に入るとオーナーは決して立ち上がらずに椅子を回して体を向けてきて、どこか人間味の無いような微笑みを浮かべる。
「オーナーさん、ワールド・クロスについて調べて欲しいんだけど、ワールド・クロスってそもそも能力者組織なの?」
「調べてみますね・・・・・そうですね、スイスのジュネーブにある能力者組織にワールド・クロスで登録されている組織はありますね」
「じゃあ、日本にはある?」
「ありますよ、場所は・・・ここですね──」
その瞬間、巨大なモニターに映る地図はスイスから日本に映り、そしてとある場所に赤い印が付けられる。
「以前は各地にありましたが、今は1つにまとまって、徳島に置かれています」
徳島・・・。
「じゃあそこにメールしてくれる?デュナンズ・ナイツについて聞きたいって」
「分かりました」
組織同士は連絡出来る・・・でも大丈夫かな。人間には縄張り意識ってのがあるし。返信が来るとは限らないしな。
舞台上の部屋でテレビを見ながら待っていると扉は開かれて、薄っぺらい微笑みのくせに可愛いと思っているのかオーナーは顔だけ出してミントを呼んだのでついていくと、歩くオーナーの背中を初めて見たような気がしながらそしてオーナーは椅子に座り、返信メールを表示した。
・・・聞きたい事は何ですか。そりゃ、聞きたいってだけメールした訳だしな。
ふとミントを見ると、考えるように上を向くその横顔からは、何となく異世界への不慣れ感みたいなものが伺えた。
「じゃあ、ワールド・クロスとデュナンズ・ナイツは同じ組織で、デュナンズ・ナイツは別のチームって本当なの?って」
タメ口だけどいいのかな。メールだからいいのか。
「分かりました」
返信が来たと再びオーナーに呼ばれたので再び巨大なモニターの前に行き、オーナーが表示したメールを見る。
・・・答えられません。そう来たか、赤十字って独立組織だしな、こういう冷たい感じも、馴れ馴れしくしませんよって事なのかな。
「答えられませんって事は、そうだって事だと思いますよ」
「え!そうなの?何で?」
「分かりませんだと分からないけど、答えられませんだと知ってるけど答えたくないって事で、それってそうだからこそそう言うってドラマでやってました」
ミントさん、ドラマとか見てるかな。
「んー、何で教えてくれないのかなぁ」
「いやいやミントさん、そりゃそうだよ、ワールド・クロスとは別に連携したりしてないんだから。仲間でもないのに教えてくれないよ」
吹き出すように笑ってそう言った究に振り返ったミントは少しだけ表情を曇らせるものの、まったく怒るような素振りなど微塵も見せず、正に温厚な人といった雰囲気を醸し出す。
「そしたら本人に聞くしかなさそうですね」
「うんそうだね。じゃあ直接組織に行っちゃおうか」
「え?」
「えっ」
「いやそういう意味じゃなくて。まさかミントさん、ワールド・クロスの日本支部に直接行こうとしてました?」
「え・・・・・だめかな」
「さすがに相手もビックリして警戒するんじゃないですかね。僕はデュナンズ・ナイツの人に聞けばと思ったんですけど」
「そ、そっか」
ミントさん、ちょっと大胆過ぎるよね。
物語は少しずつ世界に向かって展開していきます。
ありがとうございました




