幻の世、人の現
「あれ、聖君まさか指定自警団になったの?」
「うん」
「そっかぁ、聖君達なら協力して貰えるかなって思ったけど、やっぱり指定自警団じゃ、アリサカさん達に協力出来ないよね・・・」
え、うーん・・・。
「聖、協力してあげてよ」
「えっだって」
「大丈夫ノブには私から言っておくから。それにテロリストでも無差別に襲っちゃう人達なら指定自警団として調査する必要もあるんじゃないかな」
んー・・・調査か、名目上は協力じゃない的な?相手はヒーローだし、ちょっと強引かも。
「ミントさんがそう言うなら」
「うん」
「ミントさん、本当にいいんですか?」
話の流れにタツヒロでさえも驚くようにそう聞くが、ミントは優しさ溢れる満面の笑みで頷いてみせる。
さすが、ピュア。
「ありがとうございます。まぁ仲間集めは続けながらだけど、とりあえずオトナリ君のとこ行こう」
「あ、うん。実はさ僕、チームで指定自警団に入ったんだ。そっちの闘技場に居るから連れてってもいいでしょ?」
「うん」
「じゃあ私ノブのとこ行ってくるね」
「はい」
タツヒロを連れて闘技場に入ると凉蘭は変身して戦闘魔晶たちを相手に特訓していて、飛び交う戦闘魔晶たちを見据えるように立ち尽くしているだけにも見えるが、スランバーが4本の吹雪を放つと凉蘭は途端に飛び回ってそれをかわし、一閃の稲光をスランバーに返していく。
「あれ、ミントさん達と同じじゃない?」
「うん。ミントさんに分けて貰ったんだよ」
「へぇ、そういうの簡単に出来るのか。異世界の力ってそういうもんなのかな」
「ミントさん達が異世界から来てるって知ってるんだ」
「うん。ヒカルコから聞いてるよ」
シノダさん、結構お喋りだしな・・・。
「おお聖、どうした?」
究が僕に気が付くと戦闘魔晶たちも動きを止め、凉蘭も空中から僕に顔を向けてくる。
「鳥井さんと、究。でこっちはタツヒロ君。今はこの3人でチーム組んでるんだ。これから僕達、指定自警団としてデュナンズ・ナイツの調査する事になったから」
すると案の定、究は凉蘭と顔を見合わせ、そして2人にとっては勝手に決まった話に驚きと不満混じりの眼差しを向けてくる。
「呼んでくれれば良かったのに」
「ミントさんがさ、もう即決で」
「えぇ?んー、まぁいいけどさぁ、で何すんだよ」
「アリサカのグループのイセヤ君がね、デュナンズ・ナイツの人に襲われて、勝負はイセヤ君が勝ったんだけど、相手は世界的な組織だから援軍が来たらさすがにヤバイんじゃないかって、タツヒロ君がデュナンズ・ナイツに対抗する為の仲間を集めてるんだけど、そしたらミントさんが、僕に協力してあげてよって」
するとまた案の定、究は凉蘭と顔を見合わせる。
「いやいやいや、俺ら指定自警団じゃん、協力って相手アリサカ達じゃん」
「だから調査って事にするの?」
凉蘭に頷いてみせると、ミントが決めた事だからか凉蘭は納得したような顔色ですぐに頷き返し、そしてその物分かりがいい眼差しをそのまま究に向けていく。
「調査って言ったって、結局アリサカのグループと一緒に戦う事になるんだよな・・・・・」
「別にいいよ?だめなら他を当たるし」
優しく突き放すようにタツヒロがそう言うと、究は途端に驚くような表情を見せる。
「え、だめじゃないよ、別にいいと思うよ?アリサカ達、世間的にはヒーローみたいなもんだしさ。それに俺らはただの指定自警団じゃないから」
「え?」
思わずタツヒロと一緒に声を上げてしまうと、究は何故か僕にもこれから良い事を言ってやろうというニヤつきを見せた。
「指定自警団レッドライトニング隊だからね、俺らがどうするかは俺らが決めていくから」
「ふーん。分隊みたいなやつか。まぁ指定自警団はそもそも有志の集まりだし、それなら問題無さそうだね」
タツヒロのシールキーで組織の外に出ていくと扉が作られたのはとあるビルの壁で、適当なビルに扉を作ったのかと思いきや、タツヒロは迷わずにその小さなビルの中へと入っていった。
「ここが、アリサカ達のアジト?」
まったくの普通のビルだ。いやむしろ目立たなくていいのかな。
「うん。このビルの3階だよ」
そう言ってタツヒロは階ごとに会社名が記載された案内板に指を差すが、真っ先に理解したのは3階は会社名の無い空欄だという事だった。
「無いじゃん」
究のツッコミに動じるどころか、むしろタツヒロは自分の家にでも帰ってきたかのような落ち着きに満ちた眼差しを究に返す。
「そりゃ無いよ、会社じゃないんだから」
「あ、それもそうか」
しかもエレベーターじゃなく非常階段で3階に上がっていく事にそれらしさを感じながら、そしてタツヒロに続いて何とも質素で年季の入った扉を抜けると、そこは妙に清潔感を感じさせながらも、どこかの待ち合い室のようにソファーとテレビ、扉しかない質素なエントランスだった。
「オトナリ君」
タツヒロに頷いた直後、前に会った時には無かった事に気が付いたのか、オトナリは僕の服に付いた指定自警団のワッペンを見るように目線を固める。
「指定自警団、だけど、いいの?」
「うん。でもミントさんがさ、仲間を集めてるっていうタツヒロ君の話を聞いて、僕達に手伝ってあげてって。でも僕達3人でチーム組んでて活動してて、チームで成り行きで指定自警団に入ったから、多分指定自警団自体と連携する訳じゃないと思うよ?」
「そうなんだ、まぁ僕はいいけど。ミントさんか、ちょっと苦手なんだよね」
「え、何で?」
「だってミントさん、ピュア過ぎるんだもん。僕は表立ったアニメの主人公みたいなヒーローなんて柄じゃないし、自信も無いから、だからここに来たんだ。でもミントさんは、人を助ける事を迷わない。そんなの見せられたら、余計自信無くすよ」
しかしそう言うと最後にオトナリは照れ臭そうに微笑みを溢し、ふとミントを脳裏に過らすと同時にそのダークヒーロー感の無い雰囲気に何となくつられて僕まで口元が緩んでしまう。
「でもそれなら、3人ってちょっと少ないかもね」
「大丈夫、仲間集めは続けるから」
「そっか」
「援軍ってそんなに多いの?」
「まぁ念の為だよ。逃げていく時、デュナンズ・ナイツの人が、デュナンズ・ナイツは目的を決して諦めない組織だってすごい剣幕で言ってたから」
すごい剣幕・・・。
「デュナンズ・ナイツってヒーローって聞いてるけど、どんなヒーロー?」
「何ていうか、指定自警団とは逆な感じかな、人を助ける為のヒーローじゃなくて、敵を倒す為のヒーローって感じ」
そりゃ、ヒーローの定義は人に依って違うけど。
「それって、アリサカのグループみたいじゃない?」
いつもの無愛想で凉蘭がそう聞くと、オトナリはその真っ直ぐな眼差しに応えようと真剣に考え込むようにただ黙って目線を落とした。
「どうだろう。デュナンズ・ナイツは少なくとも、人を殺す事を何とも思ってないみたいだよ?相手がどんな人間か関係なく、自分達の判断で罪深いと思えば殺すって」
「んー、私それヒーローって言わないと思う」
「うん、だから僕、デュナンズ・ナイツが売ってきたケンカ買おうと思ってさ、タツヒロ君にもちょっと協力を頼んだんだ」
売ってきたケンカ、か。随分とスケールのでかいケンカだけど。
そんな時に最初からある扉とはまた別に新しく壁に扉が出現すると、そこから出てきたのはナカオカリアだった。
「あれ、何してんの?」
「さっきデュナンズ・ナイツの人が襲ってきて、追い返したんですけど、また来るらしいんで仲間集めに」
「仲間って、指定自警団じゃん」
「僕のというか、タツヒロ君の協力者です」
「ふーん。デュナンズ・ナイツ来たんだ。ちょっと調べた限りじゃただの“反テロ”組織っぽいけど」
「反テロ・・・。基本理念がですか?」
「ウチらもそうでしょ?指定自警団は反テロより“キュウカツ”。まぁでもデュナンズ・ナイツはその為に作られたから、そうして当然って感じだけどね」
「キュウカツって」
何となくそう口を開いてしまうが、リアは指定自警団とは言え協力者とあってか、敵意は無くとも警戒の含まれた一定の距離感は決して拭わないといったような眼差しを僕やら究やらに向けてくる。
「救済活動、だから救活。一般的にヒーローって事。知ってると思うけど、デュナンズ・ナイツはスイスの能力者組織で、そもそもスイスにはスイス政府公認の能力者組織『ワールド・クロス』があって、表立って接点は無いって事になってるけど、噂じゃデュナンズ・ナイツはどうやらワールド・クロスの暗部組織らしいよ」
ワールド・クロス・・・。
「ワールド・クロスって、赤十字社が作った、治療能力専門の巨大能力者組織ですよね」
オトナリの言葉にリアは相槌を打ちながら、何やら最初からある扉を開けていく。
「治療能力専門だけど、やっぱり戦場で活躍するから盾とか鎧とか、そういう力だって無い訳じゃない。2人ともまだ帰ってないの?」
「はい」
暗部組織・・・。ワールド・クロスは1回だけ聞いた事あるけど。赤十字が作った中立的な治療能力者組織に、暗部組織か。何か危なそう・・・。
「僕のとこに来たんだし、その内リアさんも襲われると思いますよ?」
「んー、ま、来たら来たで容赦しないけど。ぶっちゃけ、私は相手が誰だろうと関係ないよ。基本理念が同じなら、デュナンズ・ナイツはヒーローじゃないし」
反テロでも沢山人を殺すならそれはテロだよな。ならデュナンズ・ナイツも所詮はテロ鎮圧するテロリストか。
「あ、あの、リアさん──」
そんな時に凉蘭が前に出ていき、ふとした表情を見せたリアに何やら歩み寄っていく。
「私、リアさんが空手やってた時、ファンだった」
え?・・・。
そんな一言に場の空気も変わる中、リアは照れ臭そうにも、戸惑ってるようにも見える何とも言えない微笑みを浮かべるが、オトナリが親しみの籠ったような笑いを小さく吹き出すと、リアは反射的に反応するようにオトナリを見る。
「リアさんのそういう笑い方初めて見ました」
「やめてよそんなニヤつくの」
ファンだったって、過去形でいいのかな。
端から見れば自分自身が1番怪しいのだが、誰も居ない事を確認するようにキョロキョロしながらちょうどいい具合にちょっとだけ高層なビジネスビルの外付け非常階段を上がっていく。何でこんなに響くのかというほど、鈍く軽い足音を響かせる非常階段を上りきり、そして20階くらいはあろうかというビルの屋上から、東京の街並みを望んでいく。
いつも思うけど、変わらないもんだなぁ。能力者が生まれてテロばっかりになっても、高いとこから見たら街並みってどこでも案外変わんないんだよな・・・。
息をするようにふっと意識すれば“視界はズームされ、人工物である建物は透けて見え、蟻くらいにしか見えない通行人がまるで目の前に居るかのように顔のシワまで見える”というそんな中、何か変わった事や、怪しい人でも居ないかと、いつものように世の中を観察していく。
あ・・・・・チョウチョ。モンシロチョウかな。・・・・・あ、カラス。普通のカラスか。・・・・・もうここら辺には居ないかな、イセヤオトナリと戦ってた、デュナンズ・ナイツの人。さっさとシールキーでスイスに帰ったかな。負けてたし。
パトロールがてら、オトナリがデュナンズ・ナイツの人と戦った場所へと行こうとビルを出ていき、そして究と凉蘭、タツヒロとオトナリとの5人で現場である高尾山のミュージアムの手前にやって来る。
「そもそも、高尾山付近の森に潜んでるテロリストを倒す為に来たんだよ。高尾山には能力者のタヌキとか野鳥が居て、ちょうどタツヒロ君も行きたいっていうから一緒に行ったんだ。そしたらその帰り、声をかけられてさ」
まるで戦いに向いているかのようなミュージアム前の広場を何となく見渡すが、際立って不穏な感じは見当たらない。
「その目的のテロリストは倒したの?」
「うん、倒したっていうか、追い返した」
凉蘭の問いにオトナリは当然だと言わんばかりの返事をし、僕と同じように遠くを見ていく。
「何も無さそうだし、もういいんじゃない?」
そこまで時間も経ってないのに凉蘭がそう口を開くと、何だか5人の雰囲気全体もそんな怠さが漂い始めてしまったので、気持ち的にはもう帰る感じになったがそんな時、ふと究が戦闘魔晶たちを肩や頭に乗せているのに目が留まる。
ペットかよ。・・・・・いいなぁ。
コンビニで買ったおにぎりを食べながら、ここからだとギリギリズーム出来る距離である高尾山辺りを何となく望んでいた時、その近くで何やら穏やかじゃなさそうな人の動きを感じたのでピントを合わせていくとその直後、何やら1台の黒いワゴン車が一般道ではあり得ない速度でイセヤオトナリに突っ込んでいった。
すごいねぇ・・・世の中って・・・。人間が、車を跳ね返しちゃうんだもん。
案の定、ワゴン車はアルミ缶でも握り潰すように原形を失い、イセヤオトナリから跳ね返ったが、まるで事故でも起きたかのように潰れたワゴン車から20歳そこそこと思われる男性もなんと無傷で出てきて、明らかに敵意をイセヤオトナリへと向けていく。
あいつは確か、ちょっと名のあるテロリストグループの一員か・・・。
新しい主人公が出てきましたね。どんな人物かはお楽しみに。
ありがとうございました




