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ヒーローの指針

さすがに放課後からだと時間に余裕がないので、数日経って休日になってからそして究と凉蘭、ミントと共に東京拘置所を手前に待機していると、やがて東京拘置所から1台の輸送車が物々しくやってきた。

あれに、モズが・・・。

続いて輸送車についていく為のパトカーがやってきたので、母さんに縫い付けて貰った指定自警団のワッペンに何となく優越感を感じながら、パトカーの助手席に乗り込む。

うほ、パトカーの助手席・・・。

「ご協力ありがとうございます。いやぁあの時はまさか聖君達が指定自警団に入ってくれるようになるなんて夢にも思わなかったよ」

そしてパトカーは動き出し、北村刑事が相変わらず柔らかい物腰で喋り出すのを聞きながら、無意識に自分の中の緊張を抑えるように遠くを見ていく。

「いやそれは僕だってそうですよ。まだ全然実感無いです」

「指定自警団としての初めての仕事だしな、変に緊張するよな」

僕に応えるように究が口を開くも、その後に吹き込んだ沈黙は抑えていた緊張を一緒に連れてきてしまう。

・・・ふう。

「大丈夫だよ、これから沢山経験していけば緊張も感じないようになるからね?」

「あ、はい」

・・・いや、まぁそれはそうだろうけど。

名目上は近くの拘置所へ輸送されるという中、人気の無いような道に入って気持ちも何となく張り付いてきたような気がしてきたその時、目の前を走っている輸送車がどこか不自然そうに止まる。

ん・・・。

「降りて下さい、来たようです」

耳に着けている無線機を通して輸送車に乗っている森阪刑事から何かを聞いたのか、真っ直ぐ輸送車のバックドアを見つめながら北村刑事が口を開いたのですぐにドアを開けて車を降り、輸送車の前に向かうと、そこには正に立ちはだかるように立つ、写真で見た通りのカツシマが居た。

1度ミントさん達に負けたのに、ホントに1人で取り戻しにきたのかな。情報では仲間は居ないらしいけど。

「何だお前」

「・・・指定自警団」

能力を封じ込める力を持っているという自信の表れか、カツシマは吐き捨てるように笑いを吹き出す。

「オレの力知らないのか」

「ミントさんも居るけど?」

沈黙が流れたその一瞬の後、カツシマは途端に眼差しを鋭くさせ、ふとカツシマが目を向けた先に目を向けると、そこには変身したミントが居た。その直後、始めに気持ち悪さを感じると体は宙に浮き出し、振り返ってみると輸送車もゆっくりと宙に浮き出した。

動けない・・・。でもドラマでも何でも、みんな無重力でも泳いでるよな。

ワシゴリラを発動しても体は変化しなかったが、黒炎の怪鳥を発動すると変身出来たのでそのまま手に黒炎を灯すと、カツシマは目を見開き、優越感を感じるほど固まった。

「何だお前」

「・・・・・指定自警団」

黒炎を放つものの、無重力の影響を受けて黒炎は空に向かって煽られてしまい、更に黒炎を放ったその反動で体は飛んでいき、むしろカツシマは遠くなっていく。

えー、そんなぁ・・・・・。

「聖」

振り返るとそこには変身し、無重力のこの場でも普通に空を飛んでいる凉蘭が居て、凉蘭に背中を押されると体はゆっくりとカツシマの方へと戻っていく。

うーん。このゆっくり感、何とかならないか・・・。

そんな時ミントがいつものスピードでカツシマに突撃していき、殴りかかるが、カツシマが手から衝撃波のように歪みを放つとミントは吹き飛ばされてしまう。

重力で攻撃も出来るのか、手強そう・・・。

その瞬間、上空から一閃の稲光が落ちてきてカツシマを襲い、カツシマは勢いよく倒れ込む。

え?・・・まさか。

「やった、翼の力と自分の能力融合させたら出来た」

融合・・・さすが異世界の力。でも僕のは出来ないな、何が違うんだ。

しかしカツシマが立ち上がろうとしたと同時に体は急激に重くなり、地面には降りれたもののカツシマが立ち上がる頃には逆に地面にへばりつくように動けなくなってしまった。

うぅ・・・重力を操る・・・。

「危なかったぜ・・・」

何とか顔は上げられるのでカツシマを見ると、そう呟いたカツシマは空を見上げた後に攻撃してきた人を探すように周りを見渡していく。

すごく重たい、けど、まったく動けない訳じゃないみたい・・・。

地面に這ったまま手に黒炎を灯し、地面を這うように黒炎をカツシマに飛ばしていくがカツシマが歪みを放つと、まるで黒炎が歪んだのかと思うくらい黒炎は激しく靡かれて散っていった。更に散っていった黒炎を突き抜けるように歪みが襲ってきて、体は景色そのものに殴られるような感覚で吹き飛ばされてしまう。

・・・どうすれば。

その瞬間、再び一閃の稲光が空から落ちてきてカツシマを襲い、カツシマは転ぶように倒れ込む。

「クソッ誰だっ」

踏ん張るように立ち上がったカツシマが周りを見渡す態度に何となく違和感を感じてふと凉蘭に顔を向けるが、そこにはもうすで凉蘭の姿は無かった。

あれ・・・まさか。

「あ?お前か?」

ん?・・・。

カツシマが顔を向けた先は曲がり道の向こうなので、そこに誰が居るのかは分からないが直後、カツシマは押し退けるように思いっきり両手を広げ、全方位に向けて激しい歪みを放ってきた。

うわ・・・・・。

その一瞬で体は押し退かれて背中が建物の壁にぶつかるその一方、同じくその一瞬で輸送車とパトカーもフロントガラスやらを砕かれながら吹き飛んで倒れ込んだりしていき、更には建物のガラスなども割れて小さく悲鳴も聞こえてきた。その時目に留まったのは、倒れた輸送車の助手席で気絶している森阪刑事だった。

まったく、このテロリスト・・・。あれ体が軽い・・・。動ける。

その瞬間、カツシマの眼差しの先からレーザービームのように細く鋭い淡い紫の光線が放たれるが、一瞬の内に紫の光線はカツシマに当たる直前で歪み、逸れて消えていった。

誰だろう・・・。

カツシマはよろめいたものの、歪みを放って反撃を仕掛けるがどうやらその攻撃は決まらなかったらしく、直後にカツシマに向かって1本の日本刀を持った男性が走り込んでいった。

おや・・・。

「ディアブロハンド」

刀が振り上げられたと同時に刀身は何やら紫色の光を纏い、そして男性は紫の光で一回り大きくなった刀でカツシマに斬りかかった。しかしカツシマは瞬間的な歪みを放ち、男性の刀を弾くように受け流す。

割り込みか・・・。でも、何かヒーローって感じ、しないかも。勝手に割り込むし、背中がラメでキラキラしたドクロのジャケットだし。多分悪い奴だ。

紫の光の刀と瞬間的な歪みの衝突が何度か続いて、何となく互角感が漂い始めたその時、男性が急に後ろに飛び退いた。

「ファントムストライク」

そう言って、まったく刀が届かない距離から素早く刀が振り上げられた瞬間、刀は空を斬ったのにカツシマの胸元からは鮮血が舞い上がり、カツシマはそのまま力無く倒れ込んだ。

そんな・・・・・殺した。

「おいっ」

ワシゴリラとシロロンを発動しながら声をかけると、男性は倒れた輸送車を見てから僕を見た。

「テロリストか」

「違う」

即答ではあるが毅然とした口調でそう応えると男性は鞘に納めた刀を消し、サングラスをかけてから両手をポケットに突っ込んだ。

「でも、人殺しじゃん」

「指定自警団だって殺す時は殺すだろ」

それは・・・。

「でもそれは警察から許可が下りた時だけで、指定自警団の基本的な仕事は逮捕だから」

しかし男性は来た道を戻るように悠然と歩き出す。

「待てよ」

「甘いんだよ、日本は」

え・・・。ていうか何者・・・。

「俺はお前ら指定自警団と争うつもりはない──」

喋り出した矢先、男性はふと立ち止まると、半分だけ顔を向けてくる。

「俺は、テロ鎮圧専門の能力者だ」

・・・・・テロ鎮圧専門。

ふと思い出したのは、能力者になって初めてウシクと対峙した時の事だった。それから究と凉蘭がやってきて、3人でただ去っていく男性の背中を見つめる。

「思い出した、あいつ、アマカゼとライムさんと猿島行った時に割り込んできた奴だ」

「そうだったんだ」

ヒーロー、なのかな、いやそんな訳ないか。テロリストだからって簡単に人を殺しちゃうんだもん、背中ドクロだし。

僕が輸送車を、戦闘魔晶たちがパトカーをそれぞれ起き上がらせ、そしてミントがマナミを連れてきて警察の人達の怪我が治った頃、立てた作戦とはだいぶ違う結果に、北村刑事と森阪刑事は溜め息混じりにカツシマの遺体を見下ろす。

「モズを運ぶっていう情報源は記者クラブのマスコミだし、こういうのも想定しとくべきだったな」

「うん」

究のそんな言葉に凉蘭が相槌を打つ中、何となく振り返り、背中ドクロの男性が去っていった方を見る。

「もしかして、話題になってるテロ鎮圧するテロリストを襲ってる能力者って、あの背中ドクロかな」

「ぷっ、背中ドクロ、いい名前だな。でもさすがにグループくらい作ってるんじゃないか?」

「そうなのかな」

制圧対象が死んでしまったその場に北村刑事達も居たので事情聴取などは省かれ、鑑識が入るからと早々に組織に戻って来れたのでとりあえずコーヒーを持ち込んで適当にテーブルに着く。

「大丈夫?」

するとそう言いながらミントが隣に座ってきて、いつもの穏やかな微笑みを浮かべながら、でも心配そうな眼差しを向けてくる。

「落ち込んでそうだけど」

「まぁ、コクエンも、指定自警団の最初の仕事も相手が死んで終わったんで、ちょっと」

「そっか。でもそう悩めるからこそ、ヒーローなんじゃないかな」

純粋さが内から滲み出るような微笑みにちょっとドキッとしながら、コーヒーを一口飲み込む。

「カツシマを殺した人、去り際に、自分はテロ鎮圧専門だって言ったんです。何か、僕達も最初はそうだったから、正しい事をしていると言えばそうだし、間違ってると言えばそうだし、何だかなぁって」

「大丈夫だよ?答えはあるから」

「え?」

「みんな、答えが無い事だから迷うって言ってるけど、私はそうは思わないの。ちゃんと答えに向かって行けば迷わないし、無駄な争いをちゃんと無駄だって理解出来るから」

うわぁ、何だろな、ただピュアな人じゃなかった。

「その、答えって」

「こういう場合はね、罪じゃなくて人を見るの」

「人・・・」

「同じ罪でも、同情出来る人と本当に悪い人に分かれるでしょ?カツシマが本当に悪い人なら、カツシマを殺した人は間違ってなかったって事」

「でもそれって人に依って感じ方違うんじゃ」

「うん、だから判断材料は人の感情じゃなくて、状況と答えの為の指針なの」

「指針」

答えの為の・・・。

「すべての答えには、人の感情が関わらない指針が必要なの。例えば、人を傷付けるのはいけない事っていう指針をすべてにおいての指針にすれば、本当に悪い人だけを懲らしめられるでしょ?」

何か、改めて先生にして良かったって思う・・・。

「すごいですね、それってこの世界に来てから考えたんですか?」

「んー、ううん。私の故郷じゃ、そういうのが常識なの」

常識って・・・みんなピュアって、すごいな。人の感情に左右されない指針、か。

「珍しくない?2人きりなんて」

ヒカルコがやって来てミントの隣に座ると、ふとその知的でフレンドリーな眼差しから、何やら面白そうな情報でも持ってきたと言わんばかりの楽しさが伺えた。

「ミントさんは僕の特訓の先生だから」

「へぇ。さっきね、ミント達がカツシマと戦ってた時、デュナンズ・ナイツの1人がアリサカのグループの1人を襲ったみたい」

噂、じゃなかったんだ。

「え、誰を?」

「イセヤオトナリだよ。たまたまタツヒロが一緒に居て、さっき聞いたの。でもイセヤ君が圧勝で追い返したって」

圧勝・・・。イセヤ君の力、世間的には誰も知らないんだよな。まったくの丸腰の、“ただの超人”。

「あの、ミントさんは、アリサカのグループの事、どう思ってるんですか」

「前にアリサカと話した事あるけど、すごい悪い人達だとは思わないよ?アリサカ達、本当に悪いテロリストしか殺さないし」

ノブさん達が本物のヒーローなら、アリサカ達は本物のダークヒーローって感じだしな。

「そしたら、やっぱりデュナンズ・ナイツの人、イセヤ君にリベンジしに行くかな」

「そりゃ行くだろうね、デュナンズ・ナイツって世界中で活動してて、結構強くて結構しつこいらしいし」

世界中、まぁ組織とかシールキーで世界中なんてすぐ行けるだろうし。

「あ、タツヒロ、おーい」

コーヒーを啜りながら闘技場に居る究と凉蘭を見ていた時、ヒカルコがそう口を開いたので何となくその目線の先に目を向けると、タツヒロはどこか思い悩んだような顔色を浮かべていた。

「大丈夫?何か悩み事?」

ミントがそう聞くと、タツヒロは僕を見たのかミントを見たのか、一瞬パッと目を見開いた。

「ヒカルコ、話した?オトナリ君の事」

「うん。まさか、イセヤ君が心配とか?」

「世界で活躍する組織だよ?もし援軍なんて来たら、さすがに厳しいだろうし」

「そっか」

「それで指定自警団じゃなくて、協力してくれそうな人、探そうと思って」

確かに、指定自警団がテロリストと共同戦線やっちゃだめだよな。ていうか世界で活躍する組織に目をつけられるなんて、アリサカ達、ある意味すごいのかな。

カツシマを相手にしている時、究は北村刑事と一緒に隠れてたんでしょうね。


ありがとうございました

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