アンブッシュ・オペレーション
「オーナーさん、北村刑事さんにメールして欲しいの」
ミントと一緒にオーナーの部屋に入ると、ミントは浮き足立つような口調でオーナーにそう頼み始める。
「なぁ、俺達がモズの居場所を分かっても、カツシマは分からないよな?」
部屋の入口辺りで究がそう口を開くと、オーナーの隣に居るミントがふとした表情で振り返ってきて、そんなミントに何故か焦りを覚えてしまう。
「じゃあ、いっそ偽情報で誘き寄せれば?」
お、鳥井さん、ナイスかも。
「あ~、ね、いいなそれ。しかもそれを刑事さんに協力して貰ったらカツシマも疑わないよな」
「あ、ミントさん、ちょっと作戦が」
「うん大丈夫、聞いてた」
オーナーが巨大なモニターの中でちっちゃく本文を書いてメールを送信した後、ふと目の前にある、洗濯機ほどの大きさの見知らぬ機械の上に置いてある、誰かの忘れ物じゃないかと思ってしまうような巾着袋に目を留める。
「じゃあ返事が来たら呼んでね」
「はい」
ミントが戻ってくると同時に究達も部屋を出ていき始めたので、部屋を出る前に巾着袋を覗いてみると、中にはまるで川辺の石ころでも集めて持って帰ってきたのかというほど、能力者の鉱石が入っていた。
「えっ」
「え?」
「いっぱい入ってるよ」
「いっぱいあるからね、聖達も必要なら言ってくれたらあげるよ?」
まじか・・・。
「でも鉱石って1人3つまでじゃ」
あれ・・・。
すると僕のふとした疑問を同じように感じるようにミントがキョトンとした時、究も巾着袋を覗く。
「うほ、財宝かよ」
「鉱石って、回数制限あったの?」
凉蘭がそう聞くと、ミントは何やら上を向く。
「人によって副作用っていうのが出ちゃうけど、そう言えば制限って聞いた事ないね。多分副作用が恐いから試そうって人が居ないのかも」
3つまでは能力の方だった。・・・副作用、か。何か急に恐いな。そういうのあるんだ。
「業務連絡、ミントさん、こちらまでお願いします」
ホールに居てしばらくするとそんな館内放送が流れ、何故か笑顔を溢しながら立ち上がったミントについていくと、オーナーの部屋の巨大なモニターにこれまたちっちゃく表示された返信メールには、待ち合わせの時間と場所が書かれていた。
明日のお昼って、僕達学校・・・。
「じゃあミントさん、僕達学校なので刑事さんとの作戦会議お願いします」
「うん任せて」
何かミントさんも僕達のチームみたい。アマカゼ君みたいに異世界から来てるし。
シールキーがあるのに一旦家の外壁に扉を作り、家にはちゃんと玄関から入るという二度手間感にはもう慣れながら、そしてリビングのソファーに座り、ただテレビを見る。
「聖って指定自警団なの?」
「え、いや違うけど」
そう応えると姉ちゃんはただ頷き、スマホに目線を戻していく。
指定自警団か。指定自警団の中にもチームってあんのかな。もし指定自警団に入ったら、指定自警団レッドライトニング隊みたいな事になるのかな。
「でも、指定自警団とは深い仲なんでしょ?」
「んー、まぁ」
「じゃあさ、1個でいいから魔法のクリスタルくれない?」
え・・・。
「まぁそれはいいけど。別の力考えてるの?」
すると姉ちゃんは僕を見たと思った瞬間、何故かニヤつく。
「超いい感じの能力コンビネーション考えついた」
「へえ」
一瞬見たけど、知ってるのは見た目だけだしな。
「私の力はね、聖と同じ変身系なんだけどね」
おや、聞く前に勝手に話し出した。
「身体能力の超絶アップと魔法攻撃が今の力なんだけど、もしそれに回復の能力があったら無敵じゃない?」
「そうだね、回復はリアルに1番必要だし。じゃあ姉ちゃんも戦場で活躍したいの?」
「まぁそういうチームには入ってるけど、私は後方支援役だから」
姉ちゃんもチームでヒーロー・・・。いつか共同戦線とかなったら、気まずいかも。
「・・・へへ」
いつもの朝のホームルーム前、ベランダに居る僕の下にやって来た究は何やら途端に嬉しそうに笑みを溢した。
「俺さ、リュウナと付き合う事になった。ほらこの前助けた1年」
「え!そ、そっか、良かったね」
ていうか、小柄で可愛い見た目にしてはカッコイイ名前だな・・・。
「YouTubeとか見てて、カッコイイって」
「でも、魔王だけどね」
「へへ、まぁね」
彼女か・・・・・いいなぁ。
「聖だってボスモンスターだけどヒーローなんだからさ、その内告られるよ」
ボスモンスター・・・。その内・・・。
「だといいけど。さっき擦れ違い様に聞いたんだけど、何かこの学校の能力者がヒーロー部ってのを作るらしい」
「うわぁ。まいいんじゃないか?それで不良能力者達が大人しくなるなら」
「まあね」
ヒーロー部、か。トレンドじゃなきゃいいけど。いやトレンドでも、勢いがある事は確かだしな。
「でもそれ、もしかしたら不良能力者達が逆に結束しそうだな」
「昨日9時からやってた映画みたいに?」
「え、俺それ観てない。バラエティー観てた」
「何だぁ」
缶コーヒーを啜る中、究は最早当たり前かのようにベランダから投げ出した手から戦闘魔晶たちを出していく。
「覚えてるか?オーナーが、臨界覚醒したら何で能力者を作ったか教えるって」
「うん」
この世界自体を変えたようなもんだよな。
「やっぱり、どうせなら臨界覚醒目指したいよなぁ、オーナーの話は別にして」
「いや別にすんのかい」
「はは、だって何の為に作られたかなんて気にする余裕あるか?」
「そう言われると無いけどさ、気になるっちゃなるよ」
「まぁでも、教えてくれる時になったら教えてくれるんだから、それまで気にする事ないでしょ」
「そうだね」
学校も終わって組織のホールに入った時、ふと目に留まったのは私服姿の凉蘭だった。しかし妙に黒光りしているレザージャケットというロックテイストに初めて会った時の威圧感を思い出してしまう。
「鳥井さん」
しかし振り向いてきた瞬間、その眼差しに施された、目力を強調するような化粧にドキッとしてしまう中、見つめ合ったまま何故かそこには沈黙が流れた。
え、ど・・・。
「何?」
可愛い、ね・・・。
「着替えたんだね」
1人か・・・。
「うん」
鳥井さんの隣に座ると鳥井さんはスマホを見ていて、変な緊張感を勝手に感じながらふと鳥井さんの横顔を見ると、気配に気付いたのか、鳥井さんがふとした表情で僕を見てくる。
「ミントさんは?」
「まだ来てない」
「待ち合わせって昼だよね?時間かかり過ぎじゃないかな」
「うん。ねぇ聖って海外旅行とかした事ないの?」
「うん、旅行は1番遠くて沖縄かな」
「オーナーに頼めばすぐ行けるけど、行きたいとか思わないの?」
「んー、行きたい、と言えば行きたいけど、でも組織でとか関係なくその国の言葉が出来なきゃ不安だし」
「そんなの勉強すればいいのに」
う・・・鳥井さん、表情に出ないだけでホント行動的だよな。
「まさか、鳥井さん、フランス語出来るの?」
「日常会話なら。でもパリの友達、ハーフだから日本語で話してるけど」
「ふーん」
海外旅行か、海外だったら言葉が通じる異世界かなぁ。アマカゼ君の世界ってどういうとこなんだろ。
「あ、2人共ぉー」
舞台の方からの弾むような声に顔を向けるとミントとライムが居て、僕が来てから少し時間が経ったのにまだ究が来てない事が気になりながら、何となく期待感が伺えるような笑みを浮かべるミントを見つめる。
「究は?」
「まだ来てないです」
「そっか」
「北村刑事と話すだけなのに遅かったね」
「北村刑事さんは作戦に賛成してくれたけど、上司の人に説得するのに時間がかかっちゃったんだって。でも最後には許してくれたんだけど、1つ条件があるんだって」
え・・・ヤバイ感じ?じゃなさそうだけど。
「どんな?」
「一般人には捕まえたテロリストの居場所を教えられないけど、指定自警団には特別に教えてもいいって。だから聖達も指定自警団に入って欲しいって」
・・・うわお。
思わず凉蘭と顔を見合わせると、凉蘭は少し目を見開き、驚きと嬉しさを伺わせる。
「指定自警団レッドライトニング隊みたいな?」
「聖、それセンスあるじゃん」
・・・やった。
「究居ないけど──」
その瞬間に何やら凉蘭はスマホに目線を落とす。
「え、究からだ。彼女とちょっとデートするから遅れるって」
「じゃあとりあえず、指定自警団に入る事は伝えて置いてよ」
「うん」
指定自警団か・・・。
「指定自警団ってどうやって入るんですか?」
「リストに名前を加えるだけだよ。そしたら指定自警団の証である、名前入りのワッペンっていうの貰えるの」
そう言ってミントとライムは正に双子のように各々服に付いてある名前の入った紋章のワッペンを見せてくる。
おぉー。まさか、僕が、指定自警団に。本物の、ヒーローに。
「ねぇワッペンってどれくらいで出来るの?」
「すぐに頼めば明日には出来ると思うよ?」
業者に発注的な?・・・すぐ出来るもんなのか。
「じゃあ、発注、お願いします」
「うん」
「ねぇ聖、暇だし、闘技場行かない?」
・・・・・えっ。鳥井さん、と・・・。
「あ、うん」
ミントさんから貰った力、前はサポーターぐらいしかなかったしな。
広大過ぎる闘技場に2人きりで来た事に勝手に緊張してしまいながら、何となくやる気が伺えるその微笑みを見ていると、直後に凉蘭は大きく息を吐き、背筋を伸ばした。
「翼解放」
あの時と同じように凉蘭は生え広がった白い翼の光に包み込まれるが、前と違うのは白い翼はそのまま消える事なく留まり、溶岩が固まったかのような鎧もサポーターではなく、腕の方は手から肘まで覆われてたり、脚の方は足から膝上まで覆われていたりと、見るからに面積が広がっている事だった。
「すごくない?あれから毎晩ミントさんに教わった瞑想やってるの」
「うんすごい、まさか空、飛べるの?」
「どうだろ、翼が出来たの今が初めてだし」
しかしそう言って真剣な表情を見せた矢先、凉蘭の体は重力を無視するように宙に浮き出した。
「あ、出来た」
おー、でも僕と違って翼がはためかないのは、やっぱり動物的な翼じゃなくて魔法的な翼だからなのかな。
「魔法は?」
「うん、ていうか早く変身してよ」
「うん」
ワシゴリラ、そして黒炎の怪鳥を発動すると、宙に浮いたまま凉蘭は掌の上に小さな白い発光体を作り上げる。
・・・ちっさ。あ、そうだストック出来る数増えたし、また新しいDNA情報取らなきゃ。
それでもその白い発光体に凉蘭はほくそ笑むと、その可愛らしい笑みのまま、それを僕に向かって振りかぶった。
投げるの?魔法なのに。
そして白い発光体は投げ込まれたので、キャッチボールでもするような雰囲気でそれを受け取ると、直後に白い発光体は僕の手の中で風船でも割れるような衝撃と共に消滅した。
「瞑想ってどういうの?」
「そもそも翼を解放するのって力を目一杯沸き上がらせて翼解放って言う事なんだけど、瞑想は翼を解放しないで、力を目一杯沸き上がらせたのをキープする事なんだって。そうすると目一杯溜まった力の限界値が底上げされるって」
「へぇ、簡単なんだね」
「いやいや、翼の力に限らず瞑想って言うほど簡単じゃないんだよ?」
「そっか」
これくらいじゃ戦力にはならないし、翼の力の特訓って難しそうだな。
ホールに戻って何となく過ごしているとようやく究がやってきて、デート終わりだからなのか、その表情が妙にニヤついている事にふと目が留まる。
「ねぇ究の彼女ってどういう子?」
「えっ」
何故か僕まで究と一緒に声を上げてしまうが、椅子に座りながらも究は落ち着いたようにキョロキョロする。
「1年後輩の小柄で可愛い感じ」
静かに不審な挙動を見せているので僕がそう応えてあげると、凉蘭はまるで噂好きの友達かのように笑みを溢す。
「リュウナっていうんだけど、鉱石が欲しいって言うからさ、能力者になったら組織にも連れて来れるし、今度連れて来るよ」
「う、うん」
それって、まさかのメンバー追加か?
「お帰り」
「うん」
家に帰ると母さんはダイニングチェアに、姉ちゃんはリビングのソファーに居るといういつもの風景で、姉ちゃんが振り返ってくると、すぐにその表情から期待感をぶつけてくる。
「聖、学校終わった後いつも出かけてるけど、ただ遊んでるだけ?」
「え、いや、能力者達の、溜まり場っていうか、指定自警団の拠点にもなってるとこで、でも一緒にチーム組んでる友達と居るだけだよ」
そう応えると母さんは納得したように静かに頷いたので、ソファーに座って姉ちゃんに鉱石を渡す。
「おお、すごい、ホントに持ってこれたんだ」
「そういえば兄ちゃんってどんな力?」
「んー、何か、千里眼って言ってた」
「ふーん」
指定自警団になってもなんなくても、多分母さんも父さんも、姉ちゃん達も変わんないだろうな。
ここから第二章です。個人的なヒーロー活動から本物のヒーローに。王道ですね。
ありがとうございました




