ホームカミング
「どうしたの?大人しくなっちゃって」
「いや、別に」
母親は俺を産んですぐ後に死んじゃって、当時母親は看護婦に自分はシングルマザーだって言ってたと、住職のじいちゃんは看護婦から聞いたって言ってたからそもそも父親は居ない。でも、母親から愛されてたなんて聞いたら、気になっちゃう。今まで、気にして来なかったのに。
「良かったじゃん、愛されてて。言っとくけど、ギビナーじゃなくたって親から受けた愛には応えなくちゃダメだからね?」
「え、居ないのにどうやって」
「あら、あたしは坊やの母親の思念なんだから、母親みたいなものじゃないかしら」
「いや、そんな露出で母親やなんて言われても」
「な、何よこれは坊やのイメージじゃないのよ」
坊や、か。何でそんな呼び方なのか分からなかったけど、母の愛・・・そういう事やったのか。
「それやったら、プロメテウス自身の万渉術で変えてもええよ」
「あらそう?」
自我もあるし、ていうかそもそもその自我が俺の能力者としての能力由来やないなら、何かもう吹っ切れた感じやし。あれ、それじゃ能力がレベルアップしても、言うことを聞かない状況は変わらないんじゃ・・・。
「七雪さん、これから学校戻んの?」
「うん。でもその前に四宮君もちゃんと家なり保護者なりに届けないと」
「え、ええよ俺は、言ったじゃん。じいちゃんは俺が出てったのちゃんと知ってるし」
「え?でも、いいじゃん、里帰りって事で」
それに別に、じいちゃんとかに言う事とか無いし。
「ていうか、それじゃ私達が来なかったらずっと帰らないつもりだったの?」
「んー、帰りたくないって訳やないけど、何か別に、生きる場所とかどこでもいいかなって」
大守君に友達居ないって言われちゃったけど、事実やし。
「じゃあさ、友達になろうよ」
え・・・。
俺を真っ直ぐ見ているその眼差しには照れは無く、しかしむしろその活発な真っ直ぐさが何となく恥ずかしさを募らせた。
「・・・ええけど」
何するの?デートやないよな、友達やし。
まるで時代劇とかで見る寺子屋のような外見の、寺の建築様式で建てられた児童養護施設が見えてくるとヘデラはまるで観光地でも見るような声を漏らしたが、俺にとってはただの帰宅なので特に何も感じずに敷地内に足を踏み入れていく。
「へえー。でも家の建築様式がこれって、すごいよね」
「七雪さんの家も、豪邸なんでしょ?」
「東京の家はね。今はママと2人でマンション暮らし」
マンションかぁ。
「あっ」
振り返ると敷地の入口の方からやって来たのかそこにはサッカーボールを抱えた太鳳治郎が居て、弟みたいな存在として一緒に過ごしてきた太鳳治郎を前に途端に変な“見つかってしまった感”が沸き上がってくるが、同時に気に留まったのは太鳳治郎の神妙な表情だった。
「出てったんやなかったの?しかも彼女なんて連れて」
「違うし」
「私四宮君と同じクラスの七雪ヘデラだよ」
「ヘデ、ラ?ハーフ?しかも東京弁」
「うん。アメリカとのね、転校してきたから」
「へぇ。じいちゃんに会いに来たの?」
「そうやけど。ていうか、学校は?」
「ええやろ昨日行ったんやから」
え・・・またサボりか。まったく。
「1ヶ月サボってる天風に言われたくない」
う・・・痛い所・・・。
「留年しちゃうよ?そんなんやったら」
「勉強なんてどこでだって出来るやろ」
「こら四宮君、学級委員長の目の前でそんな事言わない」
はぁ・・・・・。
まるで幼稚園かのような広々とした玄関に入ろうとした矢先、犬の鳴き声が聞こえて思わず振り返る。
「天風やん」
物心付いた時から一緒に過ごしてきた赤茶色のラブラドールレトリバーのカンタのその円らな瞳に思わず笑みを溢してしまうと、カンタは遠慮など知らないように飛び付いてきて、カンタの頭や背中を撫でながら感じるその体重と温もりは何となく家を出た後ろめたさを自覚させた。
「お帰りー」
「うん・・・ただいま」
自立じゃなくて、ただの家出みたいになっちゃったな。まだ自立には早かったのかな。
「誰?その人」
「友達」
「私、四宮君と同じクラスの七雪ヘデラだよ」
「どうも。そっちは?」
「ガルジャンだよ。カーバンクルとプロメテウス」
「んー」
「(ボク、カーバンクル)」
「お、僕はカンタだよ」
目を見開いたり鼻をヒクつかせたりしながらも挨拶するカンタに心が和やかになりながらそして施設内に入っていくと、当然のようにカンタも隣についてきて何やら俺を見上げた。
「散歩行こうよ」
「じいちゃんに会ってからね」
「うん。じいちゃん今、じいちゃんの部屋だと思うよ」
「そっか」
いつも一緒に居るカンタが隣に居るからか、何となく緊張感が薄れてきたような気になりながら事務所に入る。しかし事務所にはじいちゃんの姿は見えず、事務所の奥のじいちゃんの部屋に目を向けた後、ふと事務のおばさんと目が合う。
「天風君」
「うん」
「お帰り」
「・・・うん、じいちゃんそっち?」
オープンな雰囲気を大事にしているからと部屋ごとに扉というものを設けていない施設で、そしてじいちゃんの部屋に入ると、いつも住職の服装でデスクに着いているじいちゃんは俺を見た途端、何故か笑いを吹き出した。
「何やねん」
「楽しかったか?」
「まぁ楽しかったは楽しかったよ」
「そら良かった」
居なくなった事にも、帰ってきた事にも特に何も言わない、じいちゃん、いつも通りやな。
「ちょっとカンタと散歩してくる」
「あぁ。で、彼女でも紹介しに来たんか?」
「友達やから」
「同じクラスの七雪ヘデラです。榊宮先生と異世界まで四宮君を迎えに行って、それで家に送り届けに」
ちょっとくらい否定してくれないと。
「おおそれはどうも。ウチの天風が世話になったと先生にもお伝え下さい」
「はい」
「・・・天風」
背中を向けた途端、じいちゃんが呼んできたので振り返ると、じいちゃんは小さく頷きながら、まるで何かに安堵したような穏やかな表情を見せた。
「お帰り」
「うん。・・・でも、また行きたいんだ。あっちでも、友達出来たから」
「おおそうか、良かったな」
別に、何も特別な事やないんやな、出ていく事も、帰る事も。生きる場所なんてどこでもいい。でもどこでも生きていけるって、悪くないよな。
学校も終わって家で着替えてから組織のホールに入ると、相変わらず制服のままホールに来ていた凉蘭の隣にはミントとシキの仲間である能力者ユイが居た。
何してるんだろ。
「あ、聖」
ミントが僕に気付いてそう言うと2人も振り向いてきて、3人もの眼差しに一瞬だけ立ち止まりそうになりながらも近付いた時、ふと何となく凉蘭の落ち着いた眼差しに変に胸がざわついた。
「アマカゼがね、自分の世界に帰ったって」
そう言いながらも凉蘭の妙に落ち着いているその表情に、不安よりも安堵感が沸き立った気がした。
急だな。でもいつかは帰らなきゃだしな。
「でも隙見てまた来るって」
隙見て?・・・そういう感じ?学校どうすんだろ。
「そっか」
でも逆に大変だよな、行ったり来たり。
「でもまぁオオモリユキトの事もあるし」
「オオモリユキトの事は解決みたいやで?」
え?・・・。
「オオモリユキトと一緒に自分の世界に帰ったんやし。何かアマカゼの世界から担任教師が追いかけてきたからって」
「え、じゃあ何でこっちに来るのかな」
「そら、本人に聞かんとねぇ」
オオモリユキトは、異世界に帰ったのか。じゃあ・・・。
「僕達、これからどうする?」
そう聞いても凉蘭は落ち着いた表情を変えず、むしろその落ち着きが焦りを募らせたがそんな時、声がした方に振り返るとそこには究が居た。
「聖、何かさっき、大坂でウイングネイルが出たって」
「え、何時頃」
「時間までは。でも朝方?」
んー。
「多分アマカゼ達が帰る前やないかな、アマカゼが帰るって言いに来てくれたんそれくらいやったし」
なるほど、朝方に担任が来て、それで帰ったのか。
「帰るって?」
「ああアマカゼ君、オオモリユキトと一緒に自分の世界に帰ったってさ」
「・・・え!まじか。えー、プロメさんに聞きたい事あったのに」
「でもまた来るって」
「え、オオモリユキト、帰ったのに?」
「うん。ていうか、今はオオモリユキトより僕達のこれからの活動じゃない?どうする?」
「そうだなぁ。まぁ指定自警団の手伝い、とか?」
んまぁ、無難だな。何か、南原さんに誘われたのってそもそもオオモリユキトが居たからだし。これで本当にチームのスタートって感じだな。
「ミントさん、何か話題になってる事無いの?」
究、タメ口過ぎないかな。
「そうだねぇ、ニュースになってないところだと、最近テロ鎮圧するテロリストが集中的に襲われてるみたい」
「あ、それ大坂でも聞くよ?」
集中的に?
「それって世間的にそういう傾向っていうんじゃなくて、特定の誰かかグループがそういう活動をしてるって事?」
何となく鋭いような質問をした究にミントとユイが顔を合わせた後、2人はすぐに頷く。
まぁテロリストだしな、倒すべきと言えばそうなのかな。
「それって誰がやってるか分からないの?」
おや、鳥井さんも興味あるのか。
「そうみたい、有名じゃない感じの能力みたいだからって」
「そうなんだ」
有名なヒーローでも、テロリストでもない、か。新勢力かな。
「噂なんやけど、次はアリサカのグループが狙われるんやないかって」
んー、アリサカのグループってテロ鎮圧するテロリストの元祖にしてトップクラスの戦力だしな。
「そういえばシンジ君達って、あれからずっと北海道なの?」
「うん。大きなテロ組織があってね、北海道の指定自警団の人達がシンジ達に応援を頼んだの」
そうだったのか。
「じゃあさ、とりあえずまたヒーローとしての特訓がてら、何か手伝おうよ、今度はチーム分けせずに」
明るい口調での究の提案に凉蘭はすぐに頷き、そんな2人にミントが優しく見守るような微笑みを浮かべたのをふと見てそれから舞台上の部屋に入る。
「あ、いらっしゃい」
「うん」
マグカップ片手にそう言って微笑むマナミに対してまるで友達かのように返事をしながら、ホワイトボードにびっしりと書かれた“やるべき事”に目を通していく。
基本的には討伐依頼だしな、長期に渡るような仕事じゃないんだろうけど。北海道のはいいとして。
「ミントさん、これは?日付、結構前だけど」
「やっつけなきゃいけない人、全然見つからなくて、そろそろリストから消そうと思ってたから、それはもう気にしないでいいよ」
「そうですか」
「じゃあこれは?カツシマとモズって2人組のテロリスト」
「縄張り争いでテロ鎮圧もしたりする2人でね、カツシマは相手の能力を封じ込める能力と重力を操る能力を持ってて、みんなが動けない中でモズが暴れるっていうすごい厄介な2人で、でもモズは私とライムとレンがやっつけたから、後はカツシマだけだよ」
「え、まさかミントさん達、異世界から来たから能力を封じ込められなかったとか?」
「うん」
「おお、それなら俺ら向けじゃん。凉蘭もミントさんの世界の力持ってるし、聖の力はガルジャンだし、俺だって後でプロメさんに特訓して貰うし」
後で、ね。まぁいいか。
「そうだね。それじゃあ先ず居場所突き止めないと。戦った場所って?」
「私達が戦ったのは羽田空港ってとこ。滑走路に強引に入って、みんなに迷惑かけたの」
重力を操る能力。空港に行ってどうするつもりだったんだろう。
「どうやって捜す?やっぱネットかな」
究の言葉にふと沈黙が流れた時にテレビを見ると画面には夕方のニュース番組が流れていて、北海道のニュースが流れるとアナウンサーから切り替わった画面には北海道の能力者達と共にシンジ達が映し出された。
「あシンジ君」
「北海道を拠点にしていた巨大能力者テロ組織『ノース・ブリンガー』の制圧作戦が終了した模様です。えー中継が繋がったので指定自警団の方に話を聞いてみたいと思います」
わぁ、テレビにシンジ君出てる。ホントにヒーローなんだなぁ。
「おおすげえなシンジ君。あ、なぁ、モズって奴、刑務所に入ってるって事だよな?もしかしたら助ける為に刑務所とか襲うんじゃないかな?それ待ち伏せ出来ないかな?」
お、いい提案。
「入ってる刑務所って、断定出来るものなの?」
しかし凉蘭が責めるようなものではない、真っ直ぐな眼差しでそう聞くと究は途端に遠い眼差しになってしまう。
「多分、北村刑事さんに聞いたら教えてくれるかも」
北村刑事“さん”って・・・まぁいいか。あの優しい刑事さんか。でも普通、そういうのって教えちゃだめだよな。
「それって、さすがにミントさんとか、指定自警団じゃないと教えて貰えないでしょ?」
凉蘭がそう聞くが、ミントはピュアな人らしくむしろ微笑みを深くした。
「じゃあ私聞いてあげるよ」
うお、さすがミントさん。
ゲスト主人公、四宮天風の心のモヤモヤが晴れたところで、第一章の終了です。
ありがとうございました




