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母の愛

先生に対してなのか、反抗的な表情ではあるが黙り込んだその態度からは闘志など感じなくて、幸与が反抗して来ない事を見てか直後に榊宮先生は俺に体を向けた。

「四宮、お前だって住職が心配してるんやないのか?」

「俺は、置き手紙書いてきたから」

直後にヘデラは吹き出すように笑う。

「そういう問題?」

でも・・・俺がこっちに来たのは・・・。

「四宮、お前オレに散々言っといて何黙ってんだよ」

う・・・。

「友達居ないから逃げてきたってか?ハッ」

「何だよっ。・・・そんなんやない。その、ホントに何となく・・・組織に住めば一人暮らし出来るし、違う日本に来たかっただけで」

「ただの家出かよ」

小馬鹿にするように笑い混じりにそう言った幸与に何となく言い返せないでいると、何やら急に学級委員長の眼差しでヘデラが歩み寄ってくる。

「四宮君、気分転換ならもう良いでしょ?もうすぐ文化祭だしさ、帰って来なよ。退屈なら私が話聞くから、ね?」

「(ねー、気分転換に帰ってみたら?)」

お座りしながらそう問いかけてきたカーバンクルと見つめ合った瞬間、その何となく変な言い回しに思わず笑みを溢してしまう。するとそんな時にヘデラは目を丸くしてカーバンクルの目の前に屈み込んだ。

「え、喋れるって事はこのガルジャン、『野生化』してるの?」

「半分はね。能力者の能力としてアレンジしたガルジャンで、自我を与えたんだよ」

「(ボクねー、カーバンクルっていうの)」

「か、可愛すぎる・・・。ウチの子になる?」

「ちょっとっ。俺のガルジャン」

「えぇーだってすごい私のタイプ」

「いや知らんから」

しょうがないか、まさか先生に見つかるなんて思わなかったし、このまま放っといてくれる訳ないやろうし。

「先生、あの、帰る前に、この世界でお世話になった人に会っときたいんやけど」

「おう、ええよ?そういうのは人として大事やからなぁ」

住職のじいちゃん、元気かなぁ。

スズランと交換したヘビのシールキーで組織のオーナーの部屋に戻って来るとすぐにユイに目が留まるが、逆にシキが居ない事が気になりながら俺に気が付いたユイに歩み寄る。

「どしたん?」

「俺、自分の世界に帰るよ。担任の先生と同じクラスの学級委員長が大守君を追い掛けてきて、俺も偶然そこに居て、帰らなきゃいけない雰囲気になったから」

直後、ユイは何故か持ち前の明るさに品が混ざったような笑いを吹き出した。

「先生が追い掛けてきたて、どんだけ熱血やねん」

「体育教師やし、そんなもんなんやないかな」

「へぇー。それで、もう帰ってこうへんの?」

「いや、隙があったらまた来るよ。ていうかシキさんは?」

「こないだの教会」

「それで、この事をショウ達にも伝えて欲しいんやけど。ショウ達今学校やから。ミントさんに聞けばすぐ分かるよ」

「うん、分かったわ、元気でね」

「うん」

この組織から自分達の世界に戻れば良いのにという二度手間感を持ち、シールキーの扉で榊宮先生達の下に戻ると、相変わらず腕を組みながら榊宮先生はすぐにヘデラにアイコンタクトする。するとヘデラは手を前に出し、そこに何やら全身鏡ほどに大きいガラスっぽい板を出現させた。

「七雪さんの『テレポーテーション・デバイス』?まさかこれで俺達の世界まで?」

「ううん、さすがにイメージが繋がらないみたいだから、私が最初に来た場所、つまりは大守君を追って私達の世界の能力者組織のオーナーに繋げて貰った、こっちの世界の能力者組織ね」

まぁいいか、何でも。でも行ったことのある場所に瞬間移動出来る「テレポート」でも異次元は越えられないのか。あれ、じゃあ組織という異空間も・・・。

しかし榊宮先生はそのガラスっぽい板に触れた直後に姿を消したので、幸与と同じタイミングでそれに触れてテレポートすると、そこは初めて見る内装ではあるが、全身真っ白なスーツを来た20歳ちょっとの女性オーナーが居るという組織だった。

組織までは来れるのか・・・。

最後にヘデラがテレポートしてきてそしてガラスっぽい板が消えた後、ふと気になったのは椅子に座ったまま俺達に体を向けてきた、まったく驚いた表情を見せないオーナーの態度だった。

「お目当ての人は見つかったようですね」

「あぁ、そしたらまた俺らの世界まで頼むわ」

「はい」

するとどの組織でも同じなのかと思うくらいそのオーナーはテキパキとキーボードを叩き始める。

「どうぞ」

ふう、1ヶ月振りか。

巨大なモニターの右手にある普通の扉を抜けるとそこはまた組織なのだが、ロングヘアーを後ろで纏めた、何となく医者っぽいような老人男性オーナー、そして壁沿いの観葉植物という見慣れた景色にそれだけで“帰ってきた感”を感じる中、再びヘデラはテレポーテーション・デバイスを作り出したので榊宮先生達と共に触れてみると、学校と思いきやそこは学校には程遠いとある公園だった。

「ここは?」

最後に出てきたヘデラに聞くと、ガラスっぽい板を消しながらヘデラは何やら微笑みを向けてきた。

「教会の近くの公園や」

しかし応えたのは幸与で、何やら遠い眼差しでとある方を見ているその先に目線を移すと、やがてその住宅街の中で目立ち過ぎない感じで存在感を示している十字架に目が留まった。

「先生はもう学校戻っていいよ、後は私がやるから」

やるから?・・・何を?

「まぁ、ええか。じゃ大守、先生学校戻るから、逃げるなよ?まぁ七雪が逃がさんがな」

反抗心が貼り付いているからか幸与は返事をしないが、榊宮先生はヘデラにアイコンタクトをするとそのまま歩いて去っていく。

「別に逃げねぇから、お前らも帰れよ」

「あー、大丈夫大丈夫」

「チッ、何やねんその断り方。そうやなくて」

「良いから行こっ」

「ちょ触んなっ。ていうか、お前何でそこまでするんや。こんな事したって内申点にはならないやろ」

「バカじゃないの!?そんな事考える訳ないでしょうが、もー。私はただ、放っておけなくて。学級委員長としてじゃなくて、人として?」

「何やねん、お前も四宮も、お節介やろ」

「良いじゃんお節介。ほら四宮君も行こ」

「え」

「こいつ関係ないやないか」

「いいのいいの」

「別に俺はええけど」

それでも反抗心の無い、ただ呆れたような溜め息を吐くと幸与は歩き出した。

「あ、居なかったら解散やからな?」

「大丈夫、榊宮先生が大守君を連れていくからって大守君のお母さんに言ってあるから」

「何やねん」

たった何百メートルを歩く道すがら、ヘデラは学校でいつも見るような活発な笑みを浮かべながら幸与を見たり俺に振り返ってきたりする中、教会に近付くに連れてふと住職のじいちゃんの顔やら家でもある寺の事やらが脳裏に過ってきた。

「文化祭楽しみだなぁ、ウチのクラスどうしようかねぇ、やっぱり模擬店かなぁ。先輩から聞いたんだけど、たこ焼きの模擬店、倍率すごいんだって」

「オレ、文化祭とかいいし」

「何でよぉ。大人になったら出来ないんだよ?思い出作んなきゃ学校行く意味無いじゃん」

「ハッそれお前。いや、あれかどうせ自分は勉強出来るからって」

その瞬間ヘデラは幸与の耳を引っ張る。

「そんな訳ないでしょ」

「何や!お、いいのか?そんなんやったら行ってやんねぇぞ」

「私、そんな優等生じゃないよ?スポーツ推薦だもん」

「あ?・・・・・ハァ」

ヘデラの活発さに疲れたような溜め息を幸与が吐き下ろしたその時、ふと見えた人影に目を向けると、教会から出てきたその女性は幸与を真っ直ぐ見ながら何やら俺達の方に向かってきた。急に大人しくなった幸与もその女性を真っ直ぐ見ていて、その横顔の曇り具合に女性が誰なのか何となく分かる中、女性はそのまま幸与を優しく抱きしめた。

「幸与お帰り」

「いいって」

「指名手配、取り下げられたからね」

「聞いた」

居なくなった息子に対して、いかにも母親らしい態度と表情の女性を幸与は照れるように押し放すも、30代にしては若々しい女性は今にも泣きそうに表情を歪ませると、またすぐに幸与を抱きしめた。

・・・いいなぁ。

「いいって」

そんな状況を目の前で見せられてこっちが恥ずかしいやら、少し羨ましいやら、その中で見たこともない自分の母親の事を考えてしまっていると、再び押し放された幸与の母親はようやくヘデラと俺に顔を向けた。

「同じクラスの七雪です。そっちは四宮君」

「どうも」

「榊宮先生は」

「学校に戻りました」

「あれ、そっか、まぁええわ。幸与、今までどうしてたの、ご飯は?」

「能力者の組織に居れば飯食えるから。ていうか、オレの問題なんやから教会で懺悔なんて止めろよな」

「幸与の為だけやないよ・・・・・自分の後悔とか、色々。それにお母さんは子供の頃からの常連やから。教会が落ち着くの」

「教会に常連なんかあるか」

「それで、2人はお友達?」

「えぇまぁ

 そんな訳ないやろ。っておい」

「てへ」

大守君って、結構突っ込む人なんやなぁ。

何となく幸与が何かを言いたそうな表情を見せた途端、幸与の母親はとりあえず座ろうと教会へ誘ったので、ヘデラとカーバンクル、そして大人しい態度が気になるプロメテウスと一緒に2人についていく。教会だけあってそわそわしてしまうほどキレイな静寂の中、幸与と母親が座った長椅子から斜め後ろの長椅子に座りながら、ふと幸与の後頭部に目を留める。

「・・・母さん、オレ、分かってるから、オレが周りから煙たがられてるの、オレのせいやって。オレが自分の力をちゃんとコントロール出来てないだけで、言っとくけど、オレ、貰った創造遺伝の事、嫌いになった事ないから。やから、オレの事で懺悔する事なんてないからな」

「分かった。幸与の事で、もう教会には来ないよ。でも、ちゃんと言ってくれて嬉しい。ありがとね」

最後には涙声になりながらも母親がそう言って幸与を抱き寄せる中、おもむろにヘデラは立ち上がりながら、何やら一瞬俺を見た。

「じゃあ私達はこれで」

ああ、後は水入らず、か・・・。

静かな教会に響いた母親の涙声が妙に耳に残りながら席を立ち、何となく足早に教会を出た途端、外の空気とまとわり付くような日の光は何故か胸の奥底を詰まらせた。

何やろうな。今更母親って存在に羨ましいなんて思わないけど。でも俺だって人間だ。俺を産んだ母親が居た。どんな人やったのかな。妊娠中に自分の子供に“強い子になって欲しいという万渉術”をかける行為。それによって“自然的な成長過程では起こり得ない遺伝子”「創造遺伝」を持った「被授者(ギビナー)」。偏見もあるけど、創造遺伝はつまり“母の愛”。・・・・・母親、か。

「四宮君って、さ・・・連穂寺(れんすいじ)の子、なんだよね?」

「え、うん」

そんな遠慮がちに言われると余計変な感じになるんやけど。

「そっか、でもそれって、家族が沢山居て賑やかになっていいよね?」

「言うほど賑やかやないよ。基本的には捨て子とか虐待されてきた子供が来る場所やし」

だから嫌なんだよな、そんな風に急に態度をよそよそしくするの。

「ふーん。ま、事情はそれぞれだしね。それよりさ、私、ちょっと気になってたんだよね、四宮君の事」

それより・・・って、え?気になってた・・・って。

「な、な、何や──」

「何か、何となく私と同じ匂いっていうか」

「いや、そんな事はないやろ。七雪さん、いつも明るくて友達に囲まれてるし」

「転校してくる前、東京じゃ私、犬と猫と自分のガルジャンしか友達居なかったし。だから友達に囲まれてるっていうか、何か人間が珍しいっていうかね」

あれ、何か逆にある意味可哀想?

「でも、家、金持ちなんでしょ?」

「まぁね。だから逆に、本当の友達が出来なくて。分かっちゃうからさ、金持ちと関わってたいっていう目が」

そりゃ、人には人の事情があるよな。てことは、俺も可哀想って思われる方、か。

「それって、同じ匂いって、カーバンクル達が居るから?」

「うん。まるでペットみたいだし。ていうか、そっちはいかにも『コンシェルジャン』だし」

コン・・・コンシェルジュとガルジャンを合わせた造語。戦闘目的じゃなくて、使用人目的の──。

「あたしコンシェルジュなんかじゃないわよ」

あ、喋った。

「え、じゃあ何なの?」

「そもそもあたし、精霊なのよ」

思わず足を止めてしまいながら、同じように足を止めたヘデラの固まった表情に目を留める。

・・・え?

「精霊って、おとぎ話──」

「じゃないわよ。そりゃあ死後の世界と同じくらい証明が難しいけど──」

その時ふと気に留まったのは、プロメテウスの今まで見たことのないまるで人間のような真剣な表情だった。

「あたし、元々は、坊やの母親のガルジャンだったの」

な・・・まじか。

「へぇ、じゃあ、四宮君のお母さんが死んじゃったから野生化して、精霊に?」

そんな・・・プロメテウスって・・・。

「そう。坊やの母親が坊やを妊娠中に、坊やの為に作った御守り、それがあたし。って言っても形は無くて、思念だけ。だから坊やの母親は、坊やが産まれるまであたしを病室に飾ってあったパルシカの花に憑依させたの」

パルシカの花・・・。

「元々脳に腫瘍があって、出産まで生きてられるかギリギリだったんだけど、坊やの母親はちゃんと坊やを産んだわ。それで3日後に死んであたしもパルシカの花から離れたんだけど、あたしの使命はそこからで、生ける守護霊のように坊やを見守るってチャンネルだったんだけど、逆に思念が強くて野生化して、精霊になっちゃったの。それでチャンネルの事なんて忘れて普通に過ごしてたんだけど、ある日パッと坊やの事思い出して、この世界に来て、坊やの中に入って、その時ちょうどガルジャンカードの思念を作ってたから、プロメテウスに紛れ込んだの」

「へぇ、すごいねぇ。ドラマみたいだね。母親の愛にも色々あるんだね。知ってた?パルシカの花言葉、母の愛っていうんだよ」

母の愛・・・。俺も、ちゃんと愛されてた・・・。

アルティメットレアであるプロメテウスだとしても、人の意思が混ざってるなら他のカードと同じように戦うシーンは無いでしょうね。


ありがとうございました

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