芝公園クライシス
「ちゅうか思ったんやけど、天風お前、自分自身の力ちゃんと信用しとるか?」
そんな話をしながら、神妙な表情を見せたシキはそれらしく顎を擦る。
「・・・え?」
「動物達と一緒に戦うんが天風の戦い方やったら、今の天風に足らんのは力やのうてチームワークやな」
「チームワーク・・・」
「チームワークっちゅうんは、察し合いや。戦いの場ではのんびり指示したり聞いたり、そんな暇は無い。お互いの動きを見て、言葉で言うより速く動く。とは言えそれは信用あっての事やからな」
万渉術の強さやなく、信用・・・。シキさんの言う通りだ。俺がガルジャン達を信用してないから、それがガルジャンの動きに反映される・・・。
片足ずつ動かして普通に歩いてきたダークカンガルーとふと目が合った時、その円らな瞳は俺が自覚している不安と同じような不安を感じさせた。
「それを踏まえて、もっかい来てみい」
「うん」
さすが、指定自警団やな・・・。指示をしないで動きを合わせる、か・・・。
そう思った事を感じてか、ダークカンガルーは頷いてみせるとシキに向かって身構えたので、ダークカンガルーに気を向けつつ、冷気で槍を作り上げる。直後にダークカンガルーは走り出し、尻尾のリングからミサイルみたいに飛んでいく小さな闇の槍を連射していくが、案の定闇の槍は爆風ごと風に斬り裂かれていく。それでもタイミングを合わせるように、飛んでいった闇の槍が斬られて爆発した瞬間に冷気の槍を投げ込むと、斬られる事なく爆発した冷気はきれいにシキを包み込み、そしてシキの足元には何やら大小様々な氷の塊が転がった。
「風を凍らせたか、やるやないか」
やった・・・。
しかし直後、シキの足元から途端に吹き荒れた風に氷の塊は払い退けられるように斬り刻まれると、更にその風はそのままダークカンガルーと俺を襲った。
うっ・・・くう・・・。
とっさにダークカンガルーと同じように闇を纏ってダメージを無効化させ、シキを見ると、シキは見せつけるような笑みを浮かべながら、先程のように掌の上に小さく風を吹き回させる。
「分かっとるやろうが、俺はそもそも風を操れる。つまり俺が居る限り、自律機動の風は無尽蔵やで?」
午後の授業が終わって放課後、まるで待ってたのかと思ってしまうほどタイミング良く、下駄箱に差し掛かった途端に究は女子に声をかけられた。
あ、昨日の・・・。
「おー、また何かあった?」
究の問いに、見るからに大人しそうなその女子は黙って首を横に振った。
「先輩、メアド教えて?」
「え、あ、うん」
おや、意外と積極的?・・・。
それから校門を抜けても終始究はどこか嬉しそうで、ふとまたニヤついている究の横顔を見ていた時、スマホを見ていた究は突如その顔色を変えた。
「まじか」
「え?」
「凉蘭からだ。何か今、ウシクが芝公園の平和の灯辺りでテロリストと戦ってるって」
「またか、シノダさんが言ってたよ。一昨日も芝公園に縄張り荒しが出たって」
「シノダって・・・」
「ほら、前髪が真っ直ぐのフレンドリーな」
「あ~あの可愛い子か。縄張り荒しか、そんなのあるのか。大変だな、テロリストも」
「テロ鎮圧するテロリストだって居るし」
「だよなぁ。あ、この機に乗じて乱入ってのもありじゃないか?」
行けるかな?でも強くなったし。
「アマカゼ君どうやって連絡する?」
「えーと、いや無理だよな。携帯持ってても異世界のだし。どうしよ」
「鳥井さん今どこ?」
「聞いてみるか。とりあえず組織行こうぜ」
ホールに入ると、芝公園でテロリストが戦ってるからって別にいつもと変わらない雰囲気のそこには凉蘭が居て、凉蘭と一緒に居るミントとライムが僕達の方に手を振ってくるのを見ながら、凉蘭達に歩み寄る。
アマカゼ君居ないか。
「アマカゼは?」
「まだ」
「んー、どうするかな」
「どうするって?」
「え?この機に乗じて乱入するだろ?」
すると凉蘭は今その事を考えたかのように、驚きの表情をうっすらと浮かべる。
「行くの」
「行くでしょ。俺レベル3だし、聖も強くなったし。もうセンゴク達とも戦えるから」
「じゃあ、アマカゼが来たらそっちに合流するよ」
「あー、まぁそれしかないか」
「私も行くよ。指定自警団として」
力強さと優しさが混ざった笑顔でそう言ったミントに、究は何故か緊張したような照れた微笑みを溢す。
「あ、はい」
ミントの先導でオーナーの部屋に向かい始めた途端から緊張が込み上げてしまうが、舞台に上がったところで何となく振り返ると、凉蘭とライムは緊張感なく普通にしているように見え、ついでに周りを見るとホールも普通で、その普通さに少し緊張が和らいだ気がした。
ふう・・・。
「オーナーさん、芝公園の、平和の灯の近くまでお願い」
「はい」
するとオーナーは軽快にキーボードを叩き始める。
いやタクシーみたい・・・。
「どうぞ」
扉を抜けると真っ先に耳に入ってきたのは救急車のサイレンで、その緊迫感が和らいだ緊張をすんなりと逆撫でする中、芝公園の中でも見通しの良い広場の1つである平和の灯の手前ではウシクと3頭の雷光ヘビが、何やら剣身が自身の身長ほどある、まるで十字架そのもののような大剣を片手で持った20代っぽい男性、そして一見ごく普通の自動式拳銃を持った20代っぽい男性と戦いを繰り広げていた。
何か、ほんと見た目だけだったら、あの2人もウシクも、テロリストっぽくないよなぁ。
十字架の大剣と雷光の短剣がぶつかり合い、同時に拳銃が撃ち出した何かと雷光ヘビの雷光がぶつかり合うそんな時、指定自警団という言葉が聞こえるざわめきがちらほら沸き出し、そんな空気に戦っている3人は殺気立ちながらも小さくキョロキョロする。直後にウシクが僕達に目を留めると、ウシクの目線を追うようにテロリストの2人も僕達を見る。
「まさか、お前らじゃねえよな?こいつら」
究がミントを見ると、ミントはテロリストの2人を見てから驚くように素早く首を横に振った。
「俺達には縄張り荒しとか関係ないから、お前ら3人共まとめてやっつけてやる」
「チッ」
そんな舌打ちの直後、宙に浮く雷光の短剣は一瞬の閃光に包まれて、フェンシングに使うような普通の細剣ほどに大きくなり、ウシクの肩には雷光そのもののようなマントがかけられた。
「俺だって覚醒したんだからなっ。スランバー!ベーグ!シバー!」
「翼解放」
戦闘魔晶たちが究にくっつき、ミントが翼を生やし鎧を纏ったと同時に、ワシゴリラ、シロロン、そして黒炎の怪鳥を発動させる。
ふう・・・よし。
ウシクとその頭上の雷光ヘビに目を向けたとき、大きく振り上げられた十字架の大剣から溢れ出した、透明感のある煌めく漆黒の光がその場の視線を集める。何となくヤバイ感じがした直後、十字架の大剣が降り下ろされると、剣先が地面を叩いたと同時に轟音は土埃を突き上げ、漆黒の光は衝撃波の如く周囲の全てを襲った。漆黒の衝撃波は土埃も若干乗せていたので視界がかなり悪い中、尻餅を着いていた体を立ち上がらせ、一旦上空に飛び上がる。
うわ・・・何じゃ、こりゃ。
衝撃波の爪痕なのか、離れていたにも拘わらずやじ馬達の中には倒れている人達もいて、ベンチは吹き飛び、大木はへし折れ、平和の灯は無惨にも壊れてしまっていて、更にはその被害は管理事務所の方にも及んでいた。
あいつ、危険だ。
ミントは拳銃の男性と対峙し、究はウシクと雷光ヘビを相手にしているので、とりあえず僕を見上げる十字架の大剣の男性に上空から黒炎の球を撃ち落とす。黒炎の球が斬られて爆発したところで体を透明にして着地するが、着地するその足音が思いの外響いてしまったのか、男性は素早く僕の方に体を向けた。それでも姿は見えてないからか、男性は再び十字架の大剣に漆黒の光を煌めかせたのでとっさに飛び出し、十字架の大剣を殴り付ける。すると踏ん張り切れずに男性は倒れ込み、十字架の大剣は地面に転がったので透明の状態を解除して一息つく。
「くっ・・・邪魔すんな」
邪魔?縄張り荒しの事か。
「何だよテロリストのくせに」
「お前らに構ってる暇無いんだ」
男性が十字架の大剣に手を掲げた瞬間、それは男性の手に瞬間移動し、そして男性はすぐさま十字架の大剣を振り出したので翼をはためかせ、とっさに飛び退く。しかし十字架の大剣は風を切りながら漆黒の衝撃波を飛ばしてきて、腕で庇ったものの衝撃は強く、その間にも男性は片手で軽々と十字架の大剣を振り下ろし、漆黒の衝撃波を飛ばしてくる。
ぐう・・・。結構、手強い。もっと、黒炎を!
「・・・うぁっ!」
力を込めて全身に黒炎を纏い、また更に飛ばしてきた漆黒の衝撃波も弾き飛ばして黒炎の球を撃ち放つ。すると黒炎の球は斬られる事なく爆発し、男性を覆い尽くした。
やった?・・・。
しかし爆風が通り過ぎると姿が見えた男性は無傷で、盾にされた十字架の大剣には見せつけるように漆黒の光が纏っていた。
うーん、手強い。
「いやぁ、ええ修行になったわぁ」
シキと共にオーナーの部屋に戻った時、ユイと同じテーブルに居るプロメテウスはふと気になってしまうほど何故か微笑みながら俺を真っ直ぐ見ていた。
「2人共ええとこに。さっきのウイングネイル、今芝公園で乱闘しとるみたいやで?」
芝公園・・・。
「ほれ」
ユイが見せてきたタブレットを見ると、マスコミによって生中継されている芝公園にはウシクやセンゴク達に加えて知らないテロリスト達とウイングネイル、そしてショウとキュウ、ミントが居て、グループごとにお互いが攻撃し合うそれは正に、乱闘だった。
「いつから?」
呼んでくれれば・・・。
「私も今さっき知ったとこ。呼んだ方がええかなぁ思たらちょうど2人戻ってきたから」
「そっか」
いや、リインフォースとジョイニングに慣れてからの方が良かったか。
「ほらプロメテウス」
「しょうがないわねぇ」
「ん、ミントだけか。ほんならいっちょ俺も行ったるかな」
お、やった。シキさんが居れば。
「オーナーはん、芝公園まで頼むで」
「はい」
何となく小さな胸騒ぎを感じながら、シキと共に扉を抜けてそして現場に着くと、救急隊員達が忙しなくやじ馬達を診ているそんな悲惨な戦場で、ふと目に留まったのは知らないテロリスト達に攻撃を受けているウシクを、どこか傍観しているように見えるセンゴクと銀色のテロリストだった。そんな時、何やら大きな十字架を振り下ろして男性が放った漆黒の衝撃波がショウを通り過ぎ、その先のやじ馬達を襲った。
「カーバンクル、怪我人を助けて」
カーバンクルが走っていくのを見届けながら2枚のカードを取り出し、グラスウルフと、“レアカードプラス”となったダークカンガルーを原寸大にする。
「グラスウルフ、リインフォース行くよ?」
まるで返事かのように1回吠えたグラスウルフの頭に手を乗せ、目を瞑る。氷で出来たヘッドギアとブーツを身に着け、同じく氷で出来たブースターを背中に携えた姿に変化したグラスウルフ、そしてダークカンガルーとそれぞれ頷き合う。
信じて背中を預ける、それがガルジャン使いの、真髄・・・。
「おー天風」
キュウが俺に声をかけながら近付いてきた時、シキが飛び上がってミントの下に向かっていった。
「どこに居たんだよ」
「大阪で特訓してて」
「おうミント、戦況はどないなっとる」
シキがミントと話している間に滞空しているウイングネイルが“ダイヤモンド色の火球”を数発同時に出現させ、無差別に降り注がせてきたのでとりあえずかわしていく中、銀色のテロリストが残像を見せるほどの高速移動でウイングネイルに殴りかかるも、ダイヤモンドの鎧にダメージが無いのか、銀色のテロリストはすぐさま放たれたダイヤモンド色の火球に撃ち落とされてしまう。
うおぉ、ダイヤモンドの爆風が・・・。
すると今度は十字架を持つ男性がウイングネイルに漆黒の衝撃波を飛ばしていくが、まるでその存在感は畏怖の化身の如く、ウイングネイルは衝撃波を直に受けてもびくともせずにビームソードの羽をばらまくように飛ばしていく。
うわぁぁ!・・・。
「・・・く、そ・・・」
全身に黒炎を纏って何とか身を守った後、目を向けると十字架の大剣を持った男性は倒れていて、その左足の太ももと右肩からは何かに貫かれたかのように血が溢れていた。
ウイングネイルも、テロ鎮圧するテロリストなのかな・・・。
「どぉらあ!」
そこに指定自警団の1人である大阪の能力者シキがウイングネイルに飛び掛かり、変わった形の短剣で斬りつける。庇った腕からダイヤモンドの破片が散らばるという希望の灯が見えたその直後、ウイングネイルは瞬間的に全身を炎で包み、それを爆発させ、更にその爆風を竜巻にして全方位に広げていった。
「何ちゅうデタラメな力や・・・」
何だよ、一体どんな能力・・・。
全てを押し退ける炎のトルネードが消えていき、再びただ1人宙に浮くウイングネイルに全ての目線から畏怖が向けられた時、ふと視界にウイングネイルを見上げながら近付くアマカゼが入った。
「やっぱりお前、ユミヒロ高校のオオモリやな」
天風がダイヤモンドにいちいち反応するのには、ちゃんと理由があります。
ありがとうございました




