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スモール・ミーティング

「何でだろうなぁ」

言葉では落胆していても、持ち前のあっけらかんとした雰囲気は失わないまま究がアマカゼと共に僕の居るテーブルに戻って来る。

「どうかした?」

「いくらやってもさ、全然出来ないんだよ、ガルジャン」

「やっぱり同じ人間でもその世界の人間にしかない遺伝子とかあるんじゃないかな」

「えー、そんなぁ。えでも凉蘭は使えてるじゃん」

「それは・・・ミントさんの世界の力は誰でも使えるやつなんじゃない?」

「なんじゃそりゃ」

究のツッコミに思わず笑いを吹き出してしまうが、それでも究は湿っぽく思い悩むような雰囲気は見せず、まいっかとでも言うような溜め息を1つ吐き下ろすとドリンクバーへと向かっていった。

「おい聞いたか?『デュナンズ・ナイツ』が日本に来てるって」

遠くのテーブルでとある男性が発したそんな言葉がふと耳に入って来ると、その特ダネでも持ってきたかのような声色になのか、ヒカルコ達もふとした表情を向けていく。

「どこで」

「神奈川だってよ。ツイッターには横浜って書いてあったが、ツガワ達は鎌倉方面に向かったってよ」

「会ったの?何で」

「テロ鎮圧してたら乱入してきたんだと」

「へぇ、どんな奴?」

「ハーフっぽい男だけど日本語喋ってたから、多分どこかと日本のハーフだろうってよ」

・・・デュナンズ・ナイツ?聞いた事無いな。乱入って、悪い人達かな。

「シノダさん、デュナンズ・ナイツって?」

するとその一瞬、ヒカルコは知らない人に対しての優越感をそのフレンドリーな微笑みに見せた。

「スイスを本拠地にしてる能力者ヒーローチームの名前だよ。組織間でしか共有されてない情報だから、ついこの間まで能力者じゃなかった聖は知らないのも当然だよ」

「へぇー。ヒーローなんだ。そんな国際的なら、大きいチームなのかな」

「正確な人数は分からないけど、精鋭って言ってるから多くはないんじゃない?」

「そうなんだ」

「いいなぁ、カッコイイチーム名だな」

飲み物を一口飲むと、究が呟く。

「じゃあ聖達もチーム名付けちゃえば?チームなんでしょ?」

するとヒカルコのその言葉に、顔を見合わせてきた究は嬉しそうに表情を綻ばせたが直後、同じような表情をヒカルコも見せた事にふと目が留まった。

「私考えてあげてもいいよ?」

「いやいや、それは俺らが自分でやるよ」

タイプは違えど明るい雰囲気の究とヒカルコが笑い合うそんな和やかさが過ぎた頃、凉蘭がホールに戻ってきて、その究とは対照的な満足げな表情に何となく目を奪われた。

「私そろそろ帰るから」

「おお。凉蘭って部活やってんの?」

「やってない。何で?」

「だって俺らヒーローチームだぞ?時間がある時はちょっとでも集まって、特訓したりパトロールしたりさ」

「うん。じゃあ明日」

割りと無愛想ではあるが、嫌な顔は見せずに凉蘭が去っていった雰囲気がきっかけとなり、そして今日は解散となったので自宅の庭に戻り、家の玄関の扉を開ける。リビングに入るとそこには姉ちゃんが居て、いつものように普通にソファーで寛いでスマホをいじくっている姉ちゃんに、何となく逆に変身する動画が気になってきた。

「お帰り」

「ただいま」

母さんに応えた時にふと姉ちゃんが僕と一瞬目を合わせたが、姉ちゃんは何も言わずスマホを見たまま柿ピーに手を伸ばす。

「姉ちゃん、ヒーローなの?それともただのノリで?」

「んー、ノリかな」

「そっか」

何となく、僕もそうだったけど、あれ、何でヒーローに。やっぱり、コクエンにやられたから、かな。

「聖、今日もテロリストと戦ったの?」

「うん」

母さんに応えると、ダイニングチェアに座って新聞の折り込みチラシを広げている母さんは心配そうに表情を曇らせる。

「大丈夫だよ僕結構強いから、それにほら、警察に協力するのは市民として当然っていうやつだし」

「無理はしないでよね?」

「うん」

それでも心配そうなままチラシに目線を戻していく母さんに応えながら冷蔵庫を開けて飲み物を取り出し、ソファーに座り、そしてただテレビを見ていく。

「──ニュースの後は、本日のキリコミです。先週に引き続き、超能力とテロリズムについて専門家を招いてお話を伺おうと思います。神林さん、宜しくお願い致します」

「お願いします」

「先ずは先程警察が情報を公開した『拳聖』というテロリストなんですが、主な活動パターンは壁や建造物に、拳聖という文字を残す、所謂マーキングという事なんですが、このマーキングにはどういった意味が込められているんでしょう」

「自分の、存在を誇示するといった一般的な印象は勿論なんでしょうけど、人に依ってはそれと同時に、本当に意味の無いイタズラの場合と、他のテロリストを寄せ付けないようにする魔除けのような意味があるんじゃないかと思いますね」

それからバラエティーを見て、夕食を食べながらドラマを見て、そして自分の部屋でベッドに横たわる。

明日から月曜だし普通に学校か。でもさすがに授業中じゃテロ鎮圧出来ないよな。アマカゼ君どうしてるんだろ。また1人で突っ走っちゃったらアレだよな。

翌日になって歯磨きし、制服に着替えてダイニングチェアに座りながら、ふと昨日の事を思い出していく。それでもまるで体にプログラムされているかのように支度を済ませて学生カバンを持ち、家を出て通学路を歩いていく。

あれ・・・何か、普通だな。

いつもの住宅街には特に怪しい人とかは別に居なくて、学校に近付くに連れて同じ制服の人達が見えるようになっても、変に期待外れな気分になってしまうくらい何も無く、そして校門を抜けていくそんな時、気になったのは周りからの視線だった。教室に入り、学生カバンを机の脇に置き、自販機に向かう。

「赤荻君」

ん?

自販機が吐き出した缶コーヒーを取り出す直前、かけられた声に振り返ると、そこにはクラスメイトの脇本(わきもと)凛々(りりね)加賀美(かがみ)乃愛(のあ)が居て、真っ先に理解したのは2人の妙な微笑みだった。

女子・・・。

「え」

「赤荻君、能力者なんでしょ?」

「・・・うん」

何だろ。

「YouTube見たよ?」

「そ、そっか」

どうせモンスターだし、ファンになりましたなんて・・・。

「カッコイイね」

「え・・・そ、そう?」

いや、ヒーローだし、ファンくらい・・・。

「赤荻君、シンジと知り合いなんでしょ?」

「え?うん」

するとその妙な微笑みは深くなり、2人は明らかにシンジというワードに反応するように顔を見合わせる。

「シンジって彼女居るのかな?」

はぁ・・・。そういう・・・。めんどくさ。

「多分居るんじゃないかな、すごく仲良さそうに話してた人居たし」

「・・・そっか」

まるで僕の事など見えていないかのように背中を向け、もう別の話をしながら去っていく2人を見ながら缶コーヒーを取り出し、蓋を開ける。

・・・ふう。何か、普通だな。

教室のベランダに居ると究がやって来て、缶コーヒーを飲みながら究と校庭を見下ろしていく。

「そういえばチーム名考えようよ」

「そうだねぇ」

「あそうだ凉蘭にもメールで考えといてって言っとくか」

友達で集まって、チームの名前作ってヒーロー。何か、青春っていうのかな、これ・・・。

身近なところでテロでも起きやしないかとハラハラする気持ちはあるものの、それでも現実は代わり映えする事なく授業が続き、そして放課後、下駄箱に向かう途中の1階、ふと目に入ったのは遠くの1年達の何やら穏やかじゃなさそうな雰囲気だった。

「究」

「ああ、いっちょやっちゃう?」

「いやいや違うかも知れないし」

「行くだけ行こうよ。自分達の学校くらい守んなきゃさ」

まるでそういう場に赴くのを待ってたかのように足取り軽やかに向かっていく究と共に、教室前の廊下のど真ん中で壁にもたれ掛かる1人の女子を囲む数人の男女という雰囲気に近付くと、僕達に気付いた数人の男女は正に部外者を威嚇するような眼差しを見せてくる。

「あ?」

「いじめか?」

1年の割りには背も高く、顔つきも大学生みたいに大人びた1人の男子に究がそう聞くと、その男子は自分よりも小さい究を見下すように睨んだ。

「消えろ」

「俺ら、2年だぞ?」

するとその男子以外の数人の男女は微かに警戒心を垣間見せるが、その男子はその事実を理解した上でまた見下すように鼻で笑った。

「で?」

「なあ、そいつら、YouTubeに出てるテロ鎮圧してる能力者じゃねえか?」

別の男子がその男子にそう言うと明らかに数人の男女の空気が変わり、後ずさる数人の男女の態度にその男子も遂に目を泳がせるが足は動かず、その男子は戸惑いながらも再び僕達を睨み付ける。

「・・・たかがいじめだろ、ヒーロー気取りが。オレは能力者でもねえのに、何したっていうんだよ」

「自意識過剰だな1年。お前が誰かとか関係無いよ。悪い奴を懲らしめるのは当たり前だよな?」

すると一瞬の沈黙の後、更に鋭く睨み付けてきたその男子は見せつけるように廊下に唾を吐くと何も言わずに去っていき始めた。

「お前の名前調べて先生に言っとくからなー」

立ち止まらず背中を向けたまま、その男子は中指を立ててみせるが、究を見るとその横顔は満足げで、いじめられそうだった女子を見ると、その女子は下を向いたまま小動物のように身を縮ませていた。

究、割りとヒーローの才能あるよなぁ。

「ねえ、あの1年の名前は?・・・・・大丈夫だってピンチになったら何度でも俺の所に来ればいいからさ。ああ先ずはとりあえず職員室行こう」

本当にあの男子の名前を先生に報告してからそして職員室を出た時、その女子は究を呼び止め、何とも可愛らしく上目遣いで究を見た。

「ほんとに、先輩のとこ、行っても、いい?」

「そりゃ勿論」

それでも終始小動物のように大人しいその女子はそして1年の下駄箱へと去っていったので、人目を忍んで適当な壁にシールキーを貼り、一瞬で家に帰る。

いやぁ、これ便利だ。

さっさと私服に着替えて組織に行くとそこには凉蘭が居たが、制服姿の凉蘭は僕の私服姿に明らかに私服で来たんだと言わんばかりの表情を見せた。

「鳥井さん、そのまま来たんだ」

「別に、いいじゃん」

「うん、全然、いいけど」

「お、凉蘭。チーム名考えた?」

「その前に、リーダーは?誰がリーダーかによって変わるでしょ?」

リーダーか、考えた事なかったな。

「そしたら、やっぱり魔王じゃない?」

「え、うーん・・・いやぁ、ここは、むしろリーダーは無しの方が良いと思うけど。リーダーが居ないの、何となくカッコ良くない?」

無し・・・か。

眉を潜めたものの凉蘭が納得したように黙り込んだそんな時、舞台の方からやって来るアマカゼにふと目が留まる。

「アマカゼ君」

「ん、おーアマカゼ良いとこに」

僕達が学校に行ってた間何してたんだろ。大阪かな。

究が陽気に手を振ってみせると、アマカゼは照れ臭そうに手を上げてみせながら小走りしてくる。

「アマカゼもチーム名何か考えてよ」

しかしプロメテウスはそんなアマカゼの事などまるで気にも留めず、家でリラックスしてるかのようにのんびりと歩いてくる。

「チーム名かぁ、みんなの名前から1文字ずつ取るとかは?」

「あ~、ね。えーと・・・“しきすあ”?」

「“あきしす”は?」

凉蘭がそう言うと究は閃いたような顔をするが同時にアマカゼは首を傾げ、そんな時にプロメテウスは静かにアマカゼの隣に座り、周りの雑音など耳に入ってないかのような力の抜けた微笑みを浮かべる。

「何か・・・」

しかしそこまで言うとアマカゼは急に黙り、みんながアマカゼを見るとアマカゼはみんなの顔を伺うような眼差しを伺わせる。

「何だよ」

それでも究の面倒見のいい声掛けに、アマカゼは垣間見せた遠慮をしまいこんだ。

「あいや、何か、もっと意味のある感じが、いいなって」

「え、どんな意味?」

「こういう風に敵を倒すチームだ、みたいな事をさ、要はどんなチームかを示したような感じ」

「えぇ?どんなって、まそりゃ、やっぱりヒーローであるからにはどんな敵も電光石火の如くスパッとやっつける無敵なチームを目指したいよなぁ」

おお、随分と大きく出たなぁ。

「電光石火って、英語なら、ライトニング」

凉蘭がそう言うと、今度は究と共にアマカゼも同意するような明るさをその表情に見せた。

でも、それだけじゃな。

「何か1つアクセント付けてさ、オリジナリティー出そうよ」

「だよな、さすがにライトニングだけじゃどっかと被るよな。そしたら、おっ、じゃあ、聖の赤から取って、レッドライトニングでどうかな」

「いや何で」

何で急に僕の・・・。

「聖を班長って事にして、電光石火の如く敵をやっつける無敵なチームって事で」

「いやだから何で。リーダーは無しなんじゃ」

「リーダーじゃないよ、連絡係的なやつ」

「え、それ雑用じゃなくて?」

「違うよー、班長って言えば班長だろ」

言えば・・・。

「えー・・・まじで?」

「いいよな?2人共。だって聖、1番YouTube映えするし」

「いや僕の力、そんなにフォトジェニックじゃないから」

すると直後、何のツボにハマったのか、究は笑いを吹き出した。

こうして、レッドライトニングはゆっくりと歩み始めるのだった。


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