妖精と精霊
キレイに元通りに直ったバイクで去っていく中年男性達にミントは嬉しそうに大きく手を振っていて、そんな時にふとミントが紹介したイシハラノンカという、バイクを直した大学生くらいの女性と、凉蘭が作った壁にシールキーを貼って作った扉を見ていく。
最初から鳥井さんの力使えば良かったんじゃ・・・。
「それじゃ帰ろっか」
「はい」
究達終わってるかな。
「さっきミントに呼ばれる前ね、舞浜に『ウイングネイル』が出たって聞いたんだよね」
組織のホールに戻り、究達はまだ帰って来てない事を確認しながら、ふとノンカがし始めたそんな話に耳を傾ける。
「その人って、この前テロリストにやられて死んじゃったんじゃなかったっけ?」
「うん。憧れのヒーローの能力を真似したデザインの力なんてよくある話だけど、ポイントはね、そのウイングネイル、テロリストなんだって」
「えっ」
ウイングネイルか、聞いた事あるな。
「しかもまるで本物みたいに再現性が高くて、だからヒーローの力でテロだなんてって、ちょっと話題になってるみたいだよ」
「そうなんだぁ」
ニュースで1回聞いたな。いや1回しか聞いた事ないけど。
「そうなったらもしかしたら真似してデザインしたっていうより、コピー系の能力なのかも。じゃあ私一旦帰るから、また何かあったら呼んでよ」
「うん。じゃあね」
そこまで有名になってないのは、テロリストにやられたからだったのか。そういう時、ニュースなんて良い事しか報じないし。
「鳥井さん知ってた?ウイングネイル」
「うん。フルフェイスして戦う人でしょ?」
「うん」
「能力の見た目も割りとカッコ良かったのにね」
「じゃあ2人共、ライム達が帰って来るまで寛いでよっか」
フェリー乗り場との連絡橋もようやく直し、氷漬けになっている蜘蛛脚の戦車以外、島の雰囲気が何事もなかったかのような様相に戻った時、ふと遠くに先程の何となく印象の悪い男性を見つける。するとその直後観光客達がざわめき出すと、氷漬けになっている蜘蛛脚の戦車が何やら霧のように細かく消え始めた。
あ、本物の機械じゃなかったのか。
そびえ立った氷の塊はそのままで、そして蜘蛛脚の戦車が完全に消滅したところでふと遠くの男性を見ると、男性は俺やキュウの事など見向きもせず、テラスの柵に寄っ掛かり、まるでのんびりと過ごす観光客のようにレストランの方を眺め始めた。
・・・・関係、ある訳ないか。
「ライムさんどうする?結局ロボットを作ったテロリスト本人はまだ見てない訳だし」
キュウのそんな問いかけに、島を見渡し始めたライムは微笑みのまま困ったような印象を感じさせる。ふとプロメテウスを捜すと、プロメテウスはグラスウルフと更には雷色の毛並みが映える「カミナリペリカン」と共に波打ち際で揃って海を眺めていた。
・・・何してんだか。
とりあえず氷の塊を空気中に溶かしていく最中、騒がしくまた観光客達がざわめき出すと、今度は島の中心部へ続く小道から5メートルはあろうかという戦闘スーツ姿の巨人が出てきて、その足音と存在自体から醸される恐怖と緊迫に、レストランやテラス付近に居る観光客達は一斉に逃げ出してくる。
ヤバいの来た・・・。
しかも直後、巨人の周囲に3機の小さな潜水艦が現れ、1機は胸元、1機は2つになって両腕、最後の1機は2つになって両足にとそれぞれ合体し、そして巨人はカッコ良く武装した。
でかい・・・どうやって戦えば。
「来たな本体、天風」
「うん」
「オレの偵察機殺ったのどいつだ!」
お、じゃああの人が戦車を作ったテロリスト。
するとその時、何となく印象の悪い男性が物陰から出てきて、機械武装の巨人と独り対峙した。
・・・え。
「ん、お前か?」
「違う」
「消えろよ。雑魚に興味は無い。オレはな、最低でもオレの偵察機を落とせるくらいの実力がある奴としか戦わない」
・・・そうなのか。
「俺も、雑魚はあまり好きじゃない」
「あ?」
つい先程まで無かったのに、すでに男性の腰元には刀が挿されていて、その直後、男性は居合の姿勢を取った。
「チッ邪魔だ消えろ」
「・・・ディアブロタスク」
巨人の割りに素早く拳が振り下ろされたその直後、同じく素早く抜かれた刀が振り上げられると、その空を斬った軌道そのものが光線となるように、淡い紫の光線は巨大な拳を跳ね返しながら天の彼方に消えていった。
うお・・・。
「がぁっ」
弾かれた腕に装着された機械が無惨に砕け飛んでいく最中、印象の悪い男性は振り上げられたままの刀の柄を両手で持ち直し、間髪入れず刀を振り下ろした。そして刀の軌道に沿うように天から降り注いだ1本の光線が巨人の胸元を貫くと、消え行く紫の光と逆行するようにそこから鮮血が吹き出した。
「く、そぉっ」
すると血が流れる右腕を力無くぶら下げ、片膝を地に落としながらも巨人は左手を伸ばし、装着した機械から小さなミサイルを数発撃ち放ってきて、印象の悪い男性は刀を振り払い、紫の光線で迎撃していくも1機のミサイルは軌道を狂わせ、テラスのど真ん中で爆炎を立ち上らせる。その時ふと目に留まったのはそれでもテラスの方に見向きもしない印象の悪い男性の態度で、男性は直後に先制を仕掛けるように刀を振り上げ、紫の光線で巨人の左肩を貫いた。胸元の穴が効いたのか、砕け散る機械片と共にそして遂に巨人は倒れ込んで動かなくなると、印象の悪い男性は刀を消し、ゆっくりとポケットに両手を突っ込んだ。
「強ぇ・・・」
「天風、直してあげてよ」
呟くキュウと同時に声をかけてきたライムに催促され、テラスに上がると、同時に呆気なく瞬殺された巨人が小さくなっていく様子に背を向けて印象の悪い男性がこちらの方にやってくるが、ロックテイストの服装の上、取り出したサングラスを掛けた男性は足取りを全く緩める事なくテラスを通り過ぎた。
・・・素通りかよ。それに、テロリスト、そのままでいいのかな。誰かが警察呼ぶんだろうけど。
フェリー乗り場との連絡橋に向かっていく印象の悪い男性に背を向け、無惨に吹き飛んで壊されたテラスの椅子たちに手をかざす。
「何か、手柄取られちゃったな」
「でも何か、ヒーローって感じ、しなくない?あれ」
「まぁ、そういうキャラなんじゃない?」
それからレストランの窓ガラスも直し、テロリストの遺体が醸すそわそわ感が少しだけ気になる程度になるまで時間が経過した頃、専用のボートに乗って警察がやって来るとそこに親しげにライムが駆け寄っていって、その場には本当の安堵感みたいなものが降りかかった気がした。そんな時にプロメテウスが歩み寄ってきて、グラスウルフとカミナリペリカンのガルジャンカードをホルダーに戻しながら、観光に満足したかのような笑みを浮かべてみせる。
「よくやったんじゃないかしら。どう?誰かを守る為に戦った気持ちは」
「どうって、夢中やったから。でも、そりゃ悪くはないよ」
「戦う理由は何でも良いけど、信念が無いと人は戦えないって事、覚えておきなさい」
信念・・・。
「だから、ただ幸与が何となく気になるってだけじゃそもそも幸与には辿り着けないって事よ。そんなんじゃセンゴクとかには勝てないわよ?」
「それは・・・」
その一瞬、ふとライムやキュウに目が留まる。
「分かってるよ。やらなきゃいけない時が来たら、ちゃんとやるよ」
プロメテウスに手を差し出すと、プロメテウスはただ首を傾げた。
「ホルダー」
「何よ、これからも特訓は続くわよ?それに使えないのに持つ必要無いじゃない」
そんな・・・。
「だ、だったら、せめてレアカードだけでも」
「んー、しょうがないわねぇ」
すると渋々プロメテウスはホルダーからカードを取り出す。
「ていうか、プロメテウスだって俺のガルジャンやし」
しかしそんな言葉を無視し、まるで俺が独りで呟いたかのような雰囲気になったまま、プロメテウスは微笑みながらカーバンクル以外の4枚のレアカードを差し出してきた。
まったくもう・・・。まぁ最強カードらしいけど。
とある闘技場の目の前付近の椅子に適当に座り、闘技場で翼の力を練習している凉蘭をモニター越しに眺めていると、同じテーブルにヒカルコと知らない女性がやって来て、しれっと椅子に座った。
「ミントから聞いたけど、アマカゼって異世界から来たんだってね」
そう言って、ヒカルコはどこか何でも知りたがる現代人っぽい生き生きとした微笑みを見せる。その瞬間ふと、コクエンの言葉が脳裏に過った。
この世界は、来訪者だらけ・・・。
「異世界から来てる人ってどれくらいなのかな?」
「んー少なくともこの組織に住んでるのは・・・5人かな。来ただけのを入れるともうちょっと」
「え!?」
「レベッカもそうだよ?」
するとそう言って、ヒカルコは隣の知らない女性に微笑みを向ける。
ミントさん達と、あと3人!?・・・。
「正確にはレベッカは人間じゃないけどね」
「あたしレベッカだよ」
「あ、うん。僕、聖。どう見ても人間っぽいけど」
「ほら見て?」
見た目は成人してそうなのに、まるで小学生みたいな話し方でそう応えながらレベッカは背中を見せてきて、背中から生えたいかにも妖精っぽい羽を小さく羽ばたかせると、屈託の無い笑顔でヒカルコと顔を見合わせる。
「レベッカはね、カズマっていう仲間が能力で異世界から召喚した妖精なの」
「妖精・・・」
ガルジャンみたいに自分で作るものじゃなく、実在の何かを召喚、か。
「そういえば、芝公園で新しい動きがあったみたいだよ?」
「・・・え、動きって」
「縄張り荒しって感じで、テロリストがウシクに挑んで、追い返されたって。呆気なかったからそんなに話題にはなってないけどね」
「縄張り荒しって、よくあるの?」
「そりゃあね、単にテロリストだけじゃなくてテロ鎮圧するテロリストだっているし」
「そっか。シノダさんはそういう情報収集担当なの?」
「ううん。私は戦わないし、指定自警団でもないよ。でもせっかく能力者だし、趣味で友達の輪を広げたり、情報収集したりしてるの」
趣味で・・・。すごいオープンな子だな。
「聖はどう思う?オーナー達の事。人類の敵だとか思ったりする?」
え、フレンドリーな雰囲気で結構鋭い質問するんだな。
「実は僕の兄ちゃんオリジナルでね、兄ちゃんは敵じゃないとは思うって言ってたし、僕も、謎だけど何となく危ない感じはしないかな」
「そっか」
「お、聖居るじゃん」
そんな時究達が帰って来て、ヒカルコとレベッカがライムに小さく手を振る中、ふと何となく究とアマカゼの神妙な表情が気にかかった。
「究、何かテンション低くない?」
「それがさ、肝心のテロリスト、知らない男に横取りされてさ。しかも瞬殺で」
「有名じゃないヒーローって事?」
「実際にテロリストは倒したけど、ヒーローって感じはしなかったよ。倒したらさっさと帰ったし。そっちは?」
「瞬間移動する奴でさ、こっちが優勢になったら逃げたよ」
「まじか。いやぁでも、何か良い感じにヒーローに慣れてきたかも。あれ凉蘭は?」
「ミントさんと闘技場だよ。鳥井さん、ミントさんからミントさんの世界の力分けて貰ったからさ」
「おお!?凉蘭、異世界の力、まじか。じゃあ俺もいっちょ練習するか。アマカゼ付き合ってよ」
「うん」
「あ、ついでにさ、アマカゼのガルジャン達で特訓させてよ」
「ああ、まぁええよ」
そんな会話を弾ませながら闘技場に向かっていく2人を目で追っていた時、ふと同じテーブルの椅子に座ったプロメテウスに目が留まる。
プロメさんも、来訪者って事になるのかな。
「あら、あなた、人間じゃないわね」
「うん、あたし妖精なの。レベッカだよ」
「そう、あたしの事はプロメでいいわ」
「私ヒカルコ、よろしくね」
「えぇ」
妖精と精霊って、どう違うんだ?
プロメテウス達が談笑している傍らでふと闘技場のモニターを見ると究は何やら悶々としていて、凉蘭は少しだけ鎧の面積を大きく出来るようになっていて、特訓を終えた一息を自覚するそんな中、何となくホールで過ごす能力者達を見渡していく。そこで真っ先に理解したのは、指定自警団かそうじゃないか、更には異世界から来てるかそうじゃないかさえ分からないという事だった。
みんな、何の為に戦うのかな。
「聖は闘技場行かないの?」
究達が練習やら特訓やらしているという話になると、まるで子供が聞いてくるかのような笑顔でレベッカがそう聞いてきて、ちょっとした焦りが募るが、黒炎の怪鳥の上に別の力を重ねた時の優越感もまた同時に思い出した。
「大丈夫かな。僕、結構強いから」
「へぇーそうなんだぁ」
いや、そんな純粋な感じで相槌打たれると、逆に不安になってきた。あ、銀色のテロリストにやられたんだった。でも僕の場合は強さより、力の制御だよな。今持ってるDNA情報全部重ねられたら確実に勝てるんだろうけど。
目の前の人達が、地球人かどうか分からない。けどそこには緊張や恐怖は無い。不思議な感覚でしょうね。
ありがとうございました




