海風と特訓と2
ライムさんは複数って言ってたし、でも海から来てるし・・・。こっちから仕掛けた方がいいのかな。
ふとプロメテウスを見ると、空飛ぶ小さな潜水艦などまるで目もくれず、プロメテウスはグラスウルフと散歩していた。あそこだけに流れる長閑さに思わず小さな溜め息が漏れたところで、空飛ぶ小さな潜水艦は沈黙を破るように小さなミサイルを発射し、フェリー乗り場との連絡橋を破壊した。
うわまずい。
「天風っ」
「うん」
キュウと走り出しながら、少し離れていたライムとアイコンタクトを交わしていく。
素早く飛び上がり、テロリストの男性に向かって黒炎の球を放つと、渦巻くように燃え盛る球状の黒い炎は呆気なく男性の立つ場所に落ち、爆発するように弾けて消えた。
あれ・・・。
しかしそこには男性の姿は無く、男性はすでに頂上から1段降りた展望台に立って僕を見上げていた。
何だ?いやまさか・・・。
今度は直接殴り掛かろうと急降下していき、そして拳を振り下ろすがその瞬間、拳は空を切り、男性はすでに視界から消えていた。
やっぱり、瞬間移──。
うなじ辺りに叩きつけられた突然の衝撃に思わず倒れ込んでしまいながらもとっさに振り返ると、背後にはテロリストの男性が居て、純粋な殺気や敵意というより、何となく変なものを不思議そうに見下すような眼差しと同時に、ふと目に留まったのは右手に握られた“白と黄色の2色使いで作られた、まるでインドの仏具のような見た目のハンマー”だった。
「お前、ヒーロー気取りにしちゃモンスターだな。それともマジで縄張り荒しのテロリストか?」
「そんな訳ないだろ。僕は、テロ鎮圧専門の能力者だ」
「ふんっ。だったら潰してや──」
その瞬間、突然の一閃の稲光を後頭部に受けるとまるで僕のように男性は倒れ込み、同時にハンマーが転がる。直後に男性は顔を上げ、僕を睨み付けるが、その沈黙に何かを判断したのかハンマーを拾い上げると振り返り、凉蘭達の居る方を見た。
させるか・・・。
とっさに動き出し、男性を捕まえようと手を伸ばしたものの男性は一瞬で姿を消してしまい、展望台から見下ろすと、男性はすでにミントにハンマーで殴りかかっていた。そしてミントの腕に纏った黒い光と、衝撃と同時にハンマーから迸った白い雷光が魅せる何とも美しい衝突が何度か続いていく中、再び一閃の稲光が男性を襲う。すると大きくよろめいて転んだ男性は直後にミントではなく凉蘭に顔を向け、その瞬間に焦りが募るもすでに男性は瞬間移動し、背後から凉蘭に向けてハンマーで殴りかかった。
・・・あれ?
明らかに殴られてしまったように見えた瞬間、まるで通り抜けるかのような感じで男性が凉蘭から離れた場所に瞬間移動すると、その止まった空気の中で振り返った男性は立ち尽くすように凉蘭を見つめる。
何だ?・・・。
余裕に満ちた佇まいで男性を見つめる凉蘭に向かって、直後に男性は再び一瞬で距離を詰め、ハンマーで殴りかかるも、また再び男性は空振りするように、凉蘭から離れた場所に瞬間移動する。
え、確か、作った壁同士をワープ装置に出来るって・・・。
すると今度はその場でハンマーを大きく振り、男性は白い雷光を広範囲に撒き散らしていったが、白い雷光が地面を跳ねたりして火花を散らす中、凉蘭に向かっていった雷光だけはまるで空間の出口が違うかのように男性の足下に吐き出された。
うわ、自分の周りに壁を張って、敵や攻撃そのものをワープさせるなんて、頭いいなー。隠れてなくてもスナイパー、か。ていうか、僕、要るかな。
男性が舌打ちを打ったところでミントが向かっていき、再び撒き散らされた白い雷光と放たれた黒い光が音を立てて弾き合う。
よーし僕もスナイパーやってみよう。
掌に黒炎を集めながらミントと戦っている男性に狙いを定め、人差し指を男性に向ける。そしてミントが守りに入った瞬間、細くまとめた黒炎を撃ち放つとそれは見事に命中し、男性は盛大に吹き飛んだ。
魔法攻撃、やっぱりいいな。
しかし倒れ込んだまま男性が消えた直後、重たい衝撃と電撃に襲われ、思わず展望台の手すりに顔から突っ込んでしまった。
つう・・・。
歪んだ手すりに手をかけ、まるで僕の事なんか眼中に無いかのように地上に立つ男性を見下ろす。
・・・何だかな。
爆発と悲鳴、飛び散る瓦礫、浅瀬ではあるが海に落ちていく数人の観光客達という悲惨な状況の中、スランバーが4本の吹雪を放っていくと潜水艦は赤い光線でそれを迎撃していき、更には潜水艦のくせに戦闘機ばりの推進力で吹雪をかわしていった。
うわこっち来た。
吹雪から逃げる勢いでそのまま砂浜上空を飛び抜けながら、潜水艦は再びミサイルを発射し、ミサイルではあるがどことなく手榴弾くらいの威力で砂浜を爆撃する。ふとプロメテウスを捜すと、プロメテウスはグラスウルフと共にテラスに避難していたので、とりあえず間欠泉のように吹き上がった砂を風で飛ばしていく。
あ、これ使えるかも。
飛ばしていく砂を風と共に操っていき、大きく旋回してきた潜水艦に向かって砂の膜をかけていくと、砂の膜にかかった潜水艦は少ししてバランスを崩したような体勢で抜けてきて、そのまま砂を巻き上げて砂浜に墜落した。
「ベーグ!」
キュウの声と共にすかさずベーグが炎を纏い、自ら突撃していくと潜水艦は更に砂浜をえぐり、その機体に窪みを残すが、途端にアームのようなものを出すとベーグを払い退け、更には蜘蛛のように脚を出して立ち上がり、諸々変形しながら潜水艦ではなくなった機体はそしてベーグに向かって鼻先から衝撃波を撃ち放った。
一体、どういう能力なんだ。弱点は?肝心の能力者は?
衝撃波によって砂が突き上がるそんな間にもその機体は周囲に向かって手当たり次第に小さな衝撃波を乱れ撃ちしていき、その広範囲に渡っての攻撃はまた観光客達を襲っていく。
近付けない・・・どうすれば。機械を止めるには。
何となくグラスウルフに目線を流し、それから自分の手を見下ろし、海を見る。
水気は十分だ・・・。
横殴りの吹雪を放ったスランバーが赤い光線に吹き飛ばされ、撃ち出されたミサイルをベーグが迎撃し、シバーが周囲の地面から放出する電撃で機体の動きを牽制するその間に海に走っていく。そして波打ち際で意識を集中し、何リットルかの海水を宙に浮かしていくと、まるで持ち上げた鉄球でも投げつけるかのように海水の塊を機体に飛ばしていった。しかしそんな動きを察知したのか機体は横にジャンプして機敏さを見せるが、素早く海水を操って追いかけ、機体に海水を浴びせかけ、そして海水に更なる念をかけていく。
・・・・・凍れ!・・・。
急速に温度が下がっていく海水に機体の動きが鈍っていく中、機体は抵抗するようにミサイルを撃ち出してきて、シバーが自らミサイルに突撃するもその爆風は砂を巻き上げ、思わず尻餅を着いてしまう。
「天風っ」
・・・ふう、危なかった。・・・おや。
それでも脚の節々から軋むような音を聞かせるその機体は明らかに動きを鈍らせていて、このまま追い討ちをかけられると思った矢先、観光客達がざわめき出すと、沖の方から猛スピードで2機目の小さな潜水艦がやってきて、更に島の中心部の方からは3機目の小さな潜水艦が姿を現した。
そんな、いきなり3体・・・。
一閃の稲光の直撃を受けても体に纏った白い雷光に守られてよろめく事もなくなってしまった男性に向け、黒炎を纏った拳を振るうもハンマーで当て受けられ、更にはハンマーから作られた白い雷球の爆発に吹き飛ばされてしまう。
くう・・・、瞬間移動だけじゃなくこの電気も厄介だな。こうなったら。
カメレオン付きのシロロンを発動させ、姿を消す。そして男性の背後に忍び寄り、思いっきり殴りつけると、能力のレベルを足したからなのか、バリアのように張り巡らされた白い雷光の抵抗をそこまで感じなくなり、しかも男性は先程よりも増して軽々と吹き飛んだ。
よし・・・・・あれ。
その直後、急に襲ってきたのは頭がのぼせるような症状で、視界が狭くなり、まるで夢の中にでも居るかのような感覚を自覚した中、我に返らせたのは白い雷光の噛み付くような光と熱だった。
ふう、黒炎の怪鳥にオッシーを重ねた時と同じ、変な感じ。シロロンだからなのかオッシーの時よりかはそうでもないけど、一体、これは・・・。でも、また時間が経てば治るかな。
「聖、大丈夫?」
「あ、はい」
お、力を重ねてるからダメージあんまり感じないや。
するとそんな僕に危機感を感じたのか、ミントにだけ敵意を向けていた男性は僕とも距離を取るように瞬間移動で適当に離れた直後、睨み付けてきながら再び瞬間移動し、視界から姿を消す。それから振り返ってみても展望台には男性の姿は無く、1秒毎に焦りが募っても一向に男性が攻めてくる事はなかった。
・・・んー。
「あの」
するとそんな時、ミントはどことなく遠慮がちに、でも優しく中年男性達に声をかけた。
「お怪我はありませんか?」
「あぁ、まぁ。でもバイクがあれじゃ、無事だとは言えないさ。ったくよぉ」
「大丈夫ですよ?」
「え?」
「仲間の能力者の中には壊れたものを直せる人も居るので」
「おお!本当か!」
希望を抱くように表情を明るくした中年男性、そしてそんな男性を見て嬉しそうに浮かべた笑顔をふとこちらに向けてくるミントに、僕はただ目を奪われた。
そうだった、ただ戦う為に、特訓してる訳じゃないんだよな。逃げられたなら、それでいいか。
「今から呼んで来ますね」
ミサイルを撃って牽制してきた後、3体の機体はなんと合体し、何ともカッコ良い蜘蛛脚の戦車となって砂浜に降り立った。しかしふと目に付いた蜘蛛脚は少しでも凍ったせいか動きが鈍く、そこにスランバーが突撃していくと蜘蛛脚の戦車は抵抗する間もなく大きくよろめく。
いけそうだ・・・。
しかし直後、怒ったようにミサイルと小さな衝撃波、そして赤い光線を周囲に向かって乱射してくると、あるミサイルはフェリー乗り場の連絡橋を破壊したり、ある衝撃波はテラスを破壊したりと、その横暴さは無意識に正義感を沸き立たせる。
「くそぉ、こうなったら」
舞い上がる悲鳴と砂の中、そう呟くとキュウは戦闘魔晶たちを体に装着し、腰を落とし、おもむろに手首を合わせた両手を蜘蛛脚の戦車に向けて突き出した。
お・・・。
「必殺!リリース・ブラスト!」
その瞬間蜘蛛脚の戦車からミサイルが発射されたが、同時にキュウの両手から放たれた赤、青、黄の3色がオーロラのように混ざり合う光の球は爆風ごとミサイルを蹴散らし、そのまま蜘蛛脚の戦車に盛大な3色の爆発をお見舞いした。
そんな技もあったのか。
するとそのダメージは凄いらしく、蜘蛛脚の戦車は節々から軋むような音を鳴らし、機械なのに疲労感が伝わってくるような錯覚を覚えるほど今にも倒れそうなくらいぐらついていく。
「天風、この技、1度使ったらしばらく魔法攻撃出来なくなるから、トドメ頼んだ」
「そっか、うん」
手を伸ばして強く念じ、海から水気を大量に引き込んでいく。まるで凄く薄い霧でも立ち込めたかのように蜘蛛脚の戦車の周辺が冷え込んだ直後、鋭さをイメージしながらその空気中の水分と寒気を足下から爆発的に凍結させていく。1本の巨大な氷塊に貫かれてそして完全に蜘蛛脚の戦車が動かなくなると、その様子の派手さになのか、直後に観光客達からまばらに拍手が涌いた。
ふう、出来るもんだな。
「すげえな。ホントに何でも出来るんだな」
何でも、か。
ふとプロメテウスを見ると、無関心なのか安心したようなのか褒めてるつもりなのか全く分からない微笑みを浮かべながら、プロメテウスはえぐれたテラスからグラスウルフと共に静かに俺を見下ろしていた。
「すごいね天風」
プロメテウスとは全く違う、純粋にそう思ってるかのようなライムのその微笑みに、何となく我に返るかのように気分が晴れた気がした中、そのまま何となくえぐれたテラスに目が留まる。
「なぁ天風、人じゃなくても、壊れたものとか直せるのか?」
「要は理屈がちゃんと頭で理解出来れば、それが現実になるって事やから。ていうか、物の修理に関してはもう常識みたいなものだよ、小学校でも習うし。ものづくりは、物理的に人の思念を形にする事。つまり物にも人の思念が宿ってる。で、物が壊れて粉々になっても思念は残ってて、バラバラでも思念が一致するもの同士を近付ければ、万渉術というスイッチで思念そのものが形状記憶復元装置みたいな役割をして、勝手に元通りにくっついてくれる」
手をかざし意識を集中させるだけで、まるで見えない糸で繋がっているかのように、テラスのえぐれた部分は瓦礫を吸い寄せ、勝手に復元されていく。すると直後、再び観光客達からまばらに歓声と拍手が涌いた。
今のところ、凉蘭の戦闘スタイルがある意味1番強くてクレバーですね。
ありがとうございました




