魔王の目覚め2
お風呂も入って後は寝るだけ、そんな時にノックされた扉を開けると、そこには兄ちゃんが居た。
「あ、ていうか兄ちゃんこそ、今まで何で言わなかったの」
「だってさ、オレの力は戦闘用じゃないし、正直、能力者って事、特に嬉しくもないっていうか。今日話したのは、お前らもそうだって分かったからだよ。そうじゃなきゃ話さなかった」
「いつから?鉱石、どこで手に入れたの」
「いや、オレ、オリジナルだから」
「え・・・」
ていうか、ホントに自慢げな感じがない。でも嫌って感じもないな。
「オリジナルって、要はオーナーに能力者にして貰ったって事?」
「それがさ、して貰ったんじゃなくて、させられたんだよ、強制的に」
・・・え。
「そう、なの」
「だって組織を作ったって、そういう事だろ。最初は、夢の中に居るような感じでさ、小部屋で、知らないおばさんがデスクを構えててさ、好きなように能力をデザインして下さいって。まあ夢だし、適当に能力をデザインして、そしたら組織のホールに案内されてさ、あれ夢じゃなかったのか、って感じ。まあ・・・集団催眠的な感じなんだろうね」
そ、それって・・・。
ふとオーナーの貼り付いたような微笑みを思い出すと、同時に感じたちょっとした恐怖もまた込み上がった。
「じゃ、じゃあ、ホントは、オーナーって、悪い人達なんじゃないの」
「それは分からない。でもさ、本当に戦争させたいなら、集団催眠までして戦闘用じゃない力を持たせるメリットは無いよな」
「あー、まぁそう言われれば、うん・・・。でも戦闘用じゃなくても戦闘に役に立つ能力者も居るけど」
「じゃあ、組織間で連絡出来るのは?」
「それは・・・」
「多分なんだけどさ、オレが思うに、オーナー達はホントに敵じゃないと思うよ?」
「え?」
何故そのタイミングなのかと言いたくなる気持ちをぐっと抑えながら、兄ちゃんが差し出してきた、兄ちゃんに貸していたマンガを受け取る。
「オレの推測だと、将来、この地球は地球外生命体から侵略されるんだろうな。そんでオーナー達は、その未来からやって来て、今の内に能力者を作って戦えるようにしてるって事だ」
「んー・・・」
未来って、何か、絶対に反論出来ない魔法の言葉みたいな。
「ワープ装置とかさ、現代の技術じゃない事は確かだろ?」
「それはそうなんだけどさ。何か、パッとしない。だったらわざわざ異世界にまでワープ装置を繋げる必要無いじゃん」
「・・・何だよ異世界って」
あ、れ・・・。まいっか、知ってる人いっぱい居るし。
「兄ちゃん知らなかったんだ。異世界ってホントにあるよ?僕、異世界から来た人、もう2人知ってるし」
「マジか・・・・・何だよ・・・」
ああでも、常識的には知らない方が当たり前か。
「じゃあ、地球外生命体じゃなくて、宇宙外生命体か」
頑固かよ。
「えへ、何それ、宇宙外って、無いよそんなの」
「おいおい、異世界ってのはレイヤーの違う宇宙だぞ」
「レイヤー・・・って?」
「階層だよ」
ありゃ、何か開けちゃいけない引き出し、開けちゃった感じ?
「ああ、多元宇宙論ってのがあってさ。ていうか、異世界から来た人と知り合いなら、もう証明されてるようなもんだな。要は、実は宇宙っていっぱいあんじゃないかって話。・・・マジか」
最後にそう呟くと、兄ちゃんは雑音の入らなくなったどこかの博士ばりに去っていったので、とりあえず返して貰ったマンガを本棚に戻し、ベッドに座る。
難しい理論は分かんないけど、実際に会ってるからなぁ。でもいっぱいって、どれくらいなのかな?あ、兄ちゃんの能力、聞くの忘れた。どんなのだろ。
翌朝、組織に行く前にテレビを見ていた時、突如鳴り出したスマホを見てみると、画面には究からの着信が表示されていた。
おお、何だ何だ。
「どうしたの?」
「『テロチャン』に出てるぞ!芝公園のもみじ谷だって。1番最初にさ、動物園で戦った奴」
1番最初・・・って。
「ナイトウィスプ的なやつの?」
「そうだよ、すぐ来いよ。てか俺、シールキーでもう来てるから」
「え!?組織はどうすんの」
「いやだからテロチャンに出てるんだって、アマカゼが。テロリストと戦ってるから、加勢すんだよ」
「うえ!?あ、うん、分かった」
シールキーとはいえ、やっぱり一応は玄関から家を出るという冷静さの中、ふと動物園で究が戦った、雷光のヘビが頭に過る。
確か、究が南原さんと知り合いだって話したら急に顔色を変えたんだよな。オオモリユキトを追ってる南原さんに敵意を持ってて、しかもオオモリユキト以外のテロリストに興味が無いアマカゼ君が戦ってるって事は、やっぱりあの男の人は、オオモリユキトの仲間、かな?まだ会ってない奴の名前は確か、ウシク?だっけ。
スマホで地図アプリを開き、もみじ谷を検索していく。
あ、そういえば、芝公園ってオオモリユキトの縄張りだっけ。何か、ちょうどいい壁、無いかな。んー、ん、公衆トイレある。
そして芝公園のもみじ谷にある公衆トイレに作った扉を抜けると、真っ先に耳を突いたのは、人々のざわめきだった。まるで何かのお祭りでもやってるのかと思うほどの熱気と、決してお祭りにはない緊張感が妙に広がってるそこで、人々のざわめきの方へと何となく足を運ばせていく。時折打ち寄せる波のように悲鳴が上がる中、そしてベンチがある開けた場所に着くと、そこでは正にアマカゼのガルジャンと雷光のヘビが戦っていた。
「聖」
振り向くと隣に究が居て、スマホのレンズを向けてくる人だかりの中に凉蘭を捜しながらアマカゼに歩み寄ると、僕達を見た雷光のヘビを従える男性はすぐに顔色を変えた。
「まさかお前ら、そいつの仲間かよ」
「そうだっ」
「分かってんのか!お前ら人殺しだぞ!」
「違うっ。お前こそ、オオモリユキトの仲間ならガルジャンの事知ってんだろ?ガルジャンを暴走させたらヤバイって分かってんだろ?」
究の反論に男性が舌打ちを鳴らすと、そんなやるせない怒りを表すように、雷光のヘビはバチバチと雷光を散らす。
「ていうか、何でこうなってるの?」
「俺はたまたまテロチャン見てただけだから」
「ここってオオモリユキトの縄張りやから、何か分かるかと思って何度も来てるんやけど、今まで仲間のテロリストと会うことはなくてさ。でも今日、ウシクを見掛けたから、オオモリユキトの事聞こうと思って」
「ハッ話す訳ねえだろ」
「で、こうなった」
アマカゼ君、行動的だなぁ。
「それに、こういう時は力づくがセオリーだろ」
「言っとくけど、俺ら、一昨日よりも強くなったぞ?いいのか?」
しかし究のそんな言葉にウシクは逆に自信と敵意の笑みを見せつけてきて、直後にウシクは何やら握り締めた右手を胸元に当てた。
するとウシクの髪の毛が突如雷光色に輝き、若干逆立ちながら正に雷光のヘビのように迸り出すと、同時にその右手には針のように細い剣身が特徴的な“雷光の短剣”が握られた。
あれが、ウシクの主戦力か。
「まさか、お前も新しい力を」
戦闘魔晶たちを出現させながらキュウがそう聞くと、ウシクはまるで見当違いの言葉を嘲笑うかのような態度をその微笑みに見せ、雷光の短剣を宙に浮かせる。
「一昨日はな、めんどくさかったんだよ」
「え?」
「こいつの特訓に専念してたから、あえて自分の力を使わなかっただけだ。だから、一昨日は、俺がお前らを逃がしてやったんだ。自分で勝った気になりやがって、ホント、普通にバカ野郎だな」
そう言ってウシクが笑うと、ふと目に留まったのは怒りで表情を凍らせるキュウの後ろに居る、悲しげな顔色のショウだった。
「天風、下がっていいよ。俺がやってやるから」
「でも、大守幸与の情報聞かないと」
「分かってるって、何も殺す訳じゃないから」
「・・・うん」
大丈夫かなぁ。まいっか、ヤバくなったら助ければ。
氷を操る、美しいほど真っ青なオオカミ「グラスウルフ」をカードに戻し、いつでもカーバンクルを出せるように手に持ちながら、ショウに歩み寄る。
「キュウ、ヤバくなったら加勢するからね」
「あぁ」
「粋がってんじゃねえぞガキ共。コクエンより俺はガルジャン慣れしてるからな?」
「だったら、さっさと出せよ!」
その一瞬、ウシクは素の表情になり、戸惑うように自身のガルジャンを見上げる。
「え・・・・・さっきから出してんだけど、まさか、見えてない、のか?」
「・・・え、そいつ、ガルジャンだったの?お前の能力じゃ、なかったのか」
「違ぇよ。あーびっくりした。一瞬俺がちゃんとガルジャン作れてないのかと思ったじゃねえか、ったく」
そう言って落ち着いた表情を見せたと思った矢先、ウシクが真剣なものへとその顔色を引き締めると、雷光のヘビは強く迸り、三ツ又に分かれ、3頭のヘビとなった。
ガルジャンを、強化した。どうやら口だけじゃなさそうだ・・・。
「ガルジャンってのは、力の具現化だ。何もしてない状態より、能力を使ってる時の方がより強く、より安定させ易い。一昨日の事、忘れた方が良いぜ?バカ高校生」
「上等だっ。スランバーは後方とシールド、ベーグとシバーは突撃」
スランバーが4本の吹雪を放ち、ベーグが炎の弾丸を連射していくも、3頭の雷光ヘビから迸る雷光に吹雪と炎は尽く打ち消されていく。その瞬間、シバーが向かっていって周囲の地面から放出する電撃を放ったが、シバーの電撃と雷光ヘビの電撃が激しく喚き合い、反発すると、まるでマズイ化学反応でも起こしたかのようにそこには凄まじく眩しい雷鳴が散り広がった。気が付くと俺は尻餅を着いていたが、そんな事を自覚するより前に、視界には倒れている数人のやじ馬と、自然豊かな公園の所々から立ち上る小火が広がっていた。焦げ臭いという名の恐怖に、悲鳴がそれこそ小火騒ぎのようにあちこちから立ち上っていく中、辺りを見渡しながらも、キュウとウシクは力をぶつけ合っていく。
どうしよう、公園が・・・。いや、とりあえず怪我人を。
「カーバンクル、怪我人を助けて」
ガルジャンカードから原寸大となったカーバンクルが体から回復の光を溢しながら走っていった直後、突如地面から一筋の水柱が上がり、小火の1つに向かって音を立ててのしかかった。
ん、誰だ。ショウも、スズランも水の力なんて持ってないはず。
何となくやじ馬のざわめきの中で1人の知らない男性に目が留まると、その男性は手を上げると同時に地面から水柱を噴き出させ、また1つ小火を消し去った。更にその男性の向こうにふと目が留まると、1人の知らない女性が青白く光る何かを操り、怪我人と思われる人を介抱していた。
やじ馬の中にも、能力者が・・・。
「おいっ。ヒーローならさっさとやっつけろよ!」
どこからかそんな声が聞こえてくると、一瞬2人の動きが止まる。
「うぜえなぁ!」
しかしそんな声に呼応して雷光ヘビが振り返り、やじ馬に向かって雷光をばらまく。
「やめろっ」
炎の剣を纏ったベーグ、そしてシバーが向かっていくが、2体はそれぞれ雷光ヘビに牽制され、キュウが4本の吹雪を放っていくがそれらも雷光ヘビが吐き出した雷光に打ち消され、その中でウシクが雷光の短剣を飛ばしていくも、それはスランバーによって受け止められる。
雷光ヘビと短剣、戦闘魔晶にキュウ、これって、互角かな。それなら、俺が加勢すれば。
しかしその時、雷光の短剣がやじ馬の方へと飛んでいくと、それは厄介なほど距離のある1人の男性の目の前で止まった。
え・・・。
「ほら、これならどうだ。動いたら死ぬぜ?」
息を飲んでしまう静寂が訪れたのも束の間、突如一閃の稲光がウシクに落ち、ウシクはつんのめる。
「おらぁ!」
その戦場はそもそも能力者に囲まれているという事を知っているからか、その隙を待っていたかのようにキュウはすぐさま横殴りの吹雪を放った。しかし油断していたのはウシクだけで、雷光ヘビによってその吹雪は難無く防がれてしまったがそうかと思いきや、キュウは更に自ら消え行く吹雪の中へと飛び込んだ。
キュウ・・・。
モヤに覆われた一瞬の眩さの後、まるで霧が晴れるかのように吹雪と雷光が風に消えると、見えたのは立っているキュウと、体に噛み付く炎にもがく、倒れているウシクだった。
おお!やった!
戦闘魔晶たちに反撃が牽制されていく雷光ヘビの下で、じたばたして炎を消したウシクはようやく立ち上がり、再びそこに摩擦する闘志が張り詰める。
「そろそろ終わりにしてやる」
「何だと?ガキが」
「分かってるのか?今、俺とお前、互角だぞ?でも俺はチームでテロ鎮圧してる。テロリスト相手に律儀に1対1でなんか勝負しない」
「・・・・・チッ」
「テロチャンネル」
通称テロチャン。動画投稿サイトの1つ。一般人にとっては即効性のある通報手段であり、能力者ヒーロー達にとってはリアルタイムで得られる情報源。
ありがとうございました




