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巻き添えカミングアウト

舞台上の部屋に入るとそこではマナミがテレビを見ていて、個人的な趣味を感じさせるデザインの本棚や小物のあるその雰囲気に、何となく人の部屋にお邪魔したかのような気がした。

「何か、マナミさんの部屋みたいだね」

「えへへ、よく言われるよ。私ここの留守番係だから、ちょっとくらい居心地良くしたくて」

「そうなんだ」

「それで、どうかしたの?」

「オーナーにシールキー貰おうと思って」

「そっか」

オーナーの部屋の扉を開けると、オーナーはどこかの景色だったり、意味不明な文章を表示したりしている巨大なモニターの前に座っていて、扉が開いた事に気が付いたのかオーナーが振り返ってくるが、その微笑みからふと感じたのは、人間っぽさの無さだった。

「先程の方々ですね、何かご用ですか?」

「シールキー、欲しいんですけど」

「良いですよ」

おっ・・・やった。

すると小太りの割りには軽やかに立ち上がったオーナーは何やら部屋の角に置いてある、ステンレスっぽい箱を開ける。

「無くさないで下さいね。これにはスペアは無く、無くせばその都度作らないといけませんから」

「あ、はい」

うわぁ・・・シールキー、これが。・・・ヘビ、だな。

手渡された3枚の掌ほどのシールキーを、究と凉蘭に手渡していく中、ふと凉蘭の微妙なリアクションに目が留まる。

「オーナー、何でヘビだけなの?」

そう問いかける凉蘭の眼差しの先に目を向けると、オーナーはすでに椅子に座って、貼り付いたような微笑みを浮かべていた。

「この組織ではそのデザインなんです」

「変えてくれないの?」

「もし気に入ったデザインのものがあれば、その組織のオーナーにご自分で仰って下さい。私はそのデザイン以外のものを把握していませんので」

「そっか。分かった」

「凉蘭、ヘビ、嫌いなのか?」

「ううん。好きでも嫌いでもない。だから、何か、他に無いのかなって」

「ああ。でも他の組織って。オーナー、組織ってどれくらいあんの?」

その瞬間、凉蘭や究のタメ口に1ミリも変わらないその微笑みに、ちょっとした恐怖を感じた。

「統合によって当初よりかは減少しましたが、日本では現在97の組織がありますね」

「え!?」

「ねぇ1つの組織に、能力者ってどれくらい?」

「それは組織によって異なりますが、1つの組織には最低でも100人の能力者が居るはずです」

・・・はず?

「え!?」

「ですが能力者の数に関しても頻繁に増減しているので、完全な把握は難しいんです」

え、100人以上の組織が、97個。なら地球上でなら・・・。いや、異世界にも組織はあるみたいだし。・・・一体、これはどういう意味なんだ。

「ていうか、何で、能力者がこんなに沢山居るの?組織のオーナーって事は、オーナー達が人々を能力者にしたんでしょ?何でそんな事したの?」

あ、そうだよな。

しかし凉蘭のそんな問いにも、オーナーの微笑みはまったく変わらない。

「それは──」

・・・それは?

「お答え出来ません」

「えー・・・何だよぉ」

「ですが、『臨界覚醒』出来たのなら、むしろ喜んでお話しますよ?」

・・・臨界?

「臨界覚醒というのは、その名の通り臨界点まで能力を覚醒させる事です。そうですね、まぁ分かりやすく言うとレベル5という事です」

臨界かぁ、何か強そう。

「でも、それって、結局戦争を起こさせる為に人々を能力者にしたって事じゃないの?」

「それは違いますよ。自分の能力をどう使うかはその人の自由です。少なくとも、私達は戦争を起こさせるという目的では動いていません。何故なら、地球上のすべての組織、いえ、1つの世界に限らずとも、組織間では連絡を取り合う事や、移動が自由に可能だからです」

すごく大事な事を言ってる気がするのに依然として表情の変わらないオーナーから無意識に目線を流し、究達と顔を見合わせる。

「ん・・・じゃあ、アマカゼがこっちに来たのって、組織を通ってきたのか・・・って、何か、まるで、組織自体がワープ装置みたいだ」

そういえば、ミントさんも、自由に異世界に行けるって言ってた。

「すごいな、ていうか、世間がこんなすごい事知らないって、ヤバくない?」

「うん」

「ねぇ、それって、今すぐ、例えば、フランスとか行けるって事?」

「えぇ、行けますよ」

「いやいや凉蘭、そこじゃないだろ問題は。ていうかパスポート無かったら密入国だぞ」

「究、世界旅行したくないの?」

「え・・・そりゃ、したいけど」

「それに私の友達、パリに住んでるから」

「おおえ、そ、そうなのか、ああ、それでか」

何か、ジェットコースターばりに話が逸れてるけど。

オーナーの最後までまったく変わらない微笑みが何となく脳裏に焼き付きながら、舞台上の角部屋に戻ると、そこにはアマカゼが居た。

「シールキー貰えた?」

「まあね、それにオーナーから組織の事聞いたんだ。アマカゼも、組織のワープ装置でここに来たって事だよな?」

「うん」

「ねぇアマカゼのシールキーどんなの?」

凉蘭の唐突な問いに驚きながらも、アマカゼはポケットからシールキーを取り出したので見せて貰うと、それは見たこともない動物のデザインだった。

「何それ、そっちの世界の動物?」

「ムカリスって言って、ここのシマリスに似てるやつ」

「はい、交換して」

「え?」

「ヘビ興味無いから」

「え、あ、うん、じゃあ」

可愛らしいリスのデザインのシールキーを手にした時の凉蘭の笑顔にドキッとしながら、そして舞台を下りていく。

「じゃあ俺、大阪に戻るから」

「うん、じゃあ明日10時頃な」

「アマカゼ君って、組織に住んでるって事だよね?」

「そうやけど」

「それも全部無料?」

「勿論」

「ああそういえばノブさんが言ってたっけ。どんな部屋?」

「普通にスイートルームっていうか、組織の部屋は基本スイートなんだって。でもどうせ異空間やから、問題無いみたいやけど」

「すごいな、スイートルームなんて、見たこともないよ俺」

「俺だってなかったよ。オーナーに言えば、普通に部屋のカードキー貰えるから、貰えば?」

「まじか。いやでもな、家あるし」

「みんな、組織の部屋と家の部屋を繋げてるみたいやけど」

「おおっ自分の部屋と組織の部屋を、そういうやり方もあんのか」

「でもそれ、二度手間じゃん」

テンションが上がった矢先の凉蘭のそんな一蹴に、究は目を泳がすと、何故か僕を見た。

「まぁ、そうだね」

あれ、でもいきなり部屋にワープしたら、家族に怪しまれるよな。

「んじゃ」

「うん」

自分のシールキーで作った扉にニヤつきが収まらないまま究が扉の向こうに去っていったので、自宅の外壁に繋げた扉を抜け、そしていきなり到着した自宅の庭を見回す。

おー。

「ただいまー」

リビングから聞こえてくる母さんの「お帰り」を聞き流しながら靴を脱ぎ、洗面所で手を洗う。

「聖」

洗面所から出た時に階段の上から兄ちゃんに声をかけられ、ふと見上げると、兄ちゃんはどこか怪しい笑みを浮かべているので仕方なく2階に上がっていく。

まさか、もう僕達が戦ったところ、YouTubeに出たとか。いやまさか。

「なぁお前・・・」

そう言いながら、兄ちゃんはポケットからスマホを取り出す。

まぁ、いいか。テロ鎮圧だもん。責められる事じゃない。

「知ってたか?」

「え?」

見せられたスマホを見てみると、再生された動画には“可愛らしい服装に変身”して戦う姉ちゃんが映っていた。

「が、画素数良いね」

「何でだよ。ったく、あいつ、魔法少女なんかやったら余計目立つだろ」

姉ちゃん、能力者、なのか。全然知らなかった。

「でも、テロ鎮圧なら責められる事じゃないし」

「そりゃあ、そうだけど。で、お前はいつから能力者だったんだよ」

「え・・・・・知ってるの」

「いや、さっき初めてYouTube見た」

「えっと、一昨日、なった」

「おいおいそんなんでテロ鎮圧で結果出すって、すげえな。お前に対するコメント、ボスモンスターみたいで強そうだってさ、ふっ」

わ・・・笑われた。

「何だよもー」

「でも指定自警団と知り合いになれるなんて、すげえよな」

「・・・まあね」

いつもの夕食卓、まだ帰って来ない姉ちゃんの動画をふと思い出しながら、しょうが焼きのお肉を頬張り、テレビを見る。放送されている音楽番組ではアイドルグループが曲を披露していて、その衣装がまた何となく姉ちゃんを連想させる中、突然脳裏に横入りしてきたのは、動かないコクエンの姿だった。

ホント、消化不良ってやつだよなぁ。

「なぁ、何で最近、瑠歌が妙に生き生きしてるか、知ってる?」

兄ちゃんのそんな問いかけに、父さんと母さんは手は止めずに顔だけ兄ちゃんに向けていく。

「何?彼氏でも出来た?」

母さんが真顔でそう応えると、兄ちゃんは勿体振るように眉を上げ、口角を緩ませる。

「それは分かんないけどさ、新しいグループでも作ったんじゃないかなぁって、例えば、能力者の」

言った・・・。僕もバラされるかも。

「え?」

「超能力だよ?そりゃ浮かれて朝帰りもするでしょ」

いやそれは関係ないでしょ・・・。

しかし父さんは何事も無いかのように食事を進め、母さんも冗談をあしらうように冷ややかに笑う。

「何言ってるの」

「でも、瑠歌が能力者なのは事実だよ?だってオレが能力者になる方法教えたんだから」

げ、ホントに言うんだ。ていうか・・・。

するとさすがに父さんも母さんも手を止め、半信半疑な難しい表情を見せる。

「え、何言ってるの?」

「オレ、能力者なんだよ」

な・・・んじゃ、そりゃ。

「まじで」

思わずそう声が漏れてしまうも、ふざけて嘘をつくような人間ではない兄ちゃんのその真顔に、食卓の空気は信用したからこその沈黙に包まれる。

兄弟全員能力者って、何だよ。何かのドラマじゃないんだから。

「そう・・・」

あれ、母さん、意外とリアクション薄い。

「どんな能力なんだ」

そう聞きながら、父さんも普通の家族の会話かのように食事の手を動かしていく。

「まさか危ない事に巻き込まれるようなものじゃないでしょうね」

「いやいや、オレは戦闘用じゃないよ。聖とは違って」

「んっ!」

思わず咳き込みそうになった直後の、母さんと父さんが揃って向けてくる眼差しが語るその驚きを前に、とっさに兄ちゃんの肩を軽く殴ってしまう。

「別に隠す必要ないだろ」

「だって・・・」

テロ鎮圧活動するなんて言ったら・・・。

「聖、まさかテロなんかやってないよな?」

「いや、そんな事しないよ」

「逆だよ。こいつ、今日だってテロ鎮圧したんだ、YouTubeで話題だぞ?」

まったく、兄ちゃん、すぐ言う・・・。

それでも自分の事のようにただ自慢げで、悪意の無い話し振りにそんなに怒る気にはなれない中、母さんと父さんからは当然のように緊張やら気まずさやらが醸し出されていく。

「1人でやってる訳じゃなくてさ、仲間も居るし、指定自警団の人にも手伝って貰えるから、危なくないよ」

「そもそも何で、能力者になんかなったんだ」

「いや、それは、まぁ、何となく」

「父さん、今の時代、超能力が欲しいって思わない方がおかしいって。こいつだって瑠歌だって、ただなりたいからなっただけで、そこに理由は無いよ。けどどうせ能力者になったなら正義のヒーローくらいやりたいって感じで、オレの周りだってそういうのばっかりだし」

結構勝手な事言ってるけど、何か言い返せない・・・。

すると父さんは唸りながらも頷き、兄ちゃんの話に納得してしまう。

「最近、能力者がチームを組んでテロとかテロ鎮圧とかして話題になってるけど、まさか聖がねぇ」

「学校行かなくなるとかないだろうな」

「さすがにないよ。学校はちゃんと行くよ」

「正義のヒーローなんて続くもんじゃないもんな、所詮ただのトレンドだ。それに金が稼げる訳じゃないんだろ?」

「そんなにヒーローを卑下しなくたっていいのに」

「卑下してるんじゃない。ヒーローは慈善事業だ。慈善事業をするなとは言ってない。いいか聖、慈善事業ってのは、本業で自分自身の生活を成り立たせられているから出来るんだ。ヒーローをするのはいいけど、ちゃんと将来の事も考えなきゃ駄目だぞ?」

「・・・うん」

長くは続かない、所詮はトレンド、か。そうかもなぁ。

「でもさ、こんな世の中だし、オレが思うに近い内に警察やら自衛隊やらからお金で雇われるようになるんじゃないかな。だって日本の警察とか、意地でも警察官を能力者にはしないって感じだしさ」

父親の威厳を、兄ちゃんの天然で容易く吹き飛ばされた父さんはいつものようにこめかみを掻き、そしてそんな父さんを、母さんは横目だけで慰める。

将来、ねぇ。確かにずっとテロ鎮圧するのかなんて聞かれたらなぁ・・・。

能力者組織が作られた理由の一端を告げられる、それすら、聖達にとってはスタートラインなのかも知れません。


ありがとうございました

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