謎のジュースと艶やかな守護者
「坊や、何か飲みたいわ」
「ああ何がいい?どこでも組織は同じやから、何でもあるよ」
「いつものでいいわよ」
我ながら思わず首を傾げてしまうほど、プロメテウスが椅子に座ってアマカゼが飲み物を取りに行くというその当たり前感に、ふと頭に疑問が過る。
「あ、あのプロメテウスさん」
「プロメでいいわよ?」
そう言って、プロメテウスは艶やかに微笑む。
何だろう、うまく言えないけど、本当に人間じゃないような変な雰囲気があるなぁ。
「あのぉ、コクエンは、ガルジャンは自分の力を具現化したものって言ってたんですけど」
「そうよ?ガルジャンはサマナーの思念そのもの。忠実だけど、その分感情次第では暴走するから扱いには注意が必要なの」
「でもその割りには、何かアマカゼ君の方が手下っぽいんですけど」
「実はさ、俺のガルジャンは普通のとは違うんだよ」
戻ってきたアマカゼはどこか自慢げにそう言いながら、飲み物をプロメテウスの目の前に置く。そのマグカップをふと見てみると、中にはオレンジジュースと思われるものと、何かしらのティーバッグが入っていた。
んー、そもそも普通のもよく分かってないんだけど。
「普通のがまだ分かんないんだけど」
究がそう言うも、アマカゼはそう言われるのを分かっていたかのように落ち着いた笑みを浮かべる。
「そうやな。先ず、そもそも俺の世界には、超能力っていう言葉が無い。こっちの世界で言ってる超能力って、要は解明出来てない人知を超えたものって事でしょ?でも俺の世界じゃ、昔から当たり前で、科学的にもある程度は解明されてるんだ。だから、訳が分からないすごいものっていう感覚ですらないんだよ」
「科学的にって、どんな感じに」
「人間の脳は3パーセントしか使われてないって話、知ってる?」
「うん」
真っ先にそう応えた凉蘭に、思わず究と共に振り返る。
「まぁ単純に残りの97パーセントの内の一部の力って事なんやけど、原理的には、人間が常に発してる電磁波にはチャンネルがあって、触れずに物を動かしたり、俗に言う千里眼だったり、発火させたり、そういうものは全てチャンネルの違う波動的なもので起こしてるって事なんだって。因みに俺の世界の日本じゃ昔っから『万渉術』って呼んでる。そのチャンネルで万物に干渉するって事やから。まぁ今の時代じゃオシャレに『ネイチャリング』とか言ったりするけど」
「良いなぁ。それってさ、普通に生まれた時から能力者みたいなもんじゃん」
「それはそうなんやけど、アニメみたいなカッコ良さは全然無いよ。得意不得意はあるけど、その人にしか出来ない特別な力とかやないからね。で、その中にガルジャンっていうチャンネルがあって、日本語で言うと『偶像召喚』。記憶の中にある、例えばアニメで見たドラゴンとか、旅行先で見た印象に残った動物とか、そういう思念を、念写って言ったらええのかな。確かにガルジャンの姿や性能は十人十色で、1番個性が出るものやけど、それで別に大きな戦争とかは起きないよ。あるのは“ガルジャン・ファイト”っていうスポーツ。しかもオリンピック種目」
「おおっ良いなぁ。聞いただけでもう面白そう。で、アマカゼのは、どう違うの?」
「ガルジャンは、基本的には1人1体が原則なんだ。才能のある人や、達人なんかは複数出せるけど、それでも最高記録は3体。そこで俺は、能力者になる時、ガルジャンの媒体を作ったんだ。それがこのガルジャンカード。つまり俺のガルジャンは、能力者の能力としてアレンジされたガルジャンって事」
頷く究の横顔から、ようやく謎が解けたスッキリ感が伺えたところで、アマカゼはおもむろにカードを扇形に広げて見せた。
「カードは全部で10枚」
「まじで!?コクエンの鳥みたいなやつが10体も居たら、無敵じゃん」
「まぁ全員使えればね。今の俺じゃまだレアカードまでしか使えないんだ。スーパーレアの4枚は召喚すら出来ないし、アルティメットレアのプロメテウスはこれやし」
「プ、プロメさん、最強カードだったんだ」
そう口走ると、飲み物を一口飲んだプロメテウスは艶やかに微笑んだ。
「なぁ、コクエンにも出来たんだから、俺にも出来るよな?」
「出来るんやないかな、練習すれば」
「すぐ出来る?」
「それは人に依るよ」
「え、究、まさかガルジャンやるの?」
「へへ、魔王には手下が付き物だろ?」
「いや戦闘魔晶は」
「異世界の力だぞ?聖興味無いのかよ」
「いや興味はあるけど」
「魔王って?」
「俺の能力だよ」
アマカゼに応えながら、究はおもむろに歩き出す。
「ちょっと闘技場行ってくる」
「さっきシンジが、センゴク調べる為にノブさんのところ行くって」
「おーう」
手を挙げて凉蘭にそう応えると究はアマカゼを連れて闘技場に去っていったので、とりあえずコーヒーを持ち、プロメテウスと凉蘭が居るテーブルの椅子に腰掛ける。
ふう・・・あれ、このままシンジ君に情報収集のお使い頼んでいいのかな。あれ、南原さんは?・・・。
「あなた達、坊やの友達になってくれるかしら」
え・・・。
その瞬間のプロメテウスのまるで母親のような眼差しに、何となく人間っぽさを感じた。
「今は、成り行きで一緒に居るけど、でも一緒にテロ鎮圧していく中で仲良くなれたら、僕は嬉しいかな」
「あの子とは、あの子のガルジャンになってからの付き合いだけど、あの子ね、いつも独りなのよね」
ふとプロメテウスの眼差しの先に目を向けると、その闘技場のモニターには必死そうに力んでいる究とそんな究を見守っているアマカゼが映っていた。
そういえばこっちの世界に来て、学校とかどうしてるんだろ。
「学校でも全然友達居なかったし、こっちに来てからもちょっと周りと距離を取ってる感じだし」
「いつからこっちに?」
そんな質問をした凉蘭を見たプロメテウスをふと見ると、その表情にはどこか旅行者かのような気楽さが伺えた。
「もう2ヶ月そこそこかしらね。最初は行ったり来たりだったけど、帰らなくなって1ヶ月になるかしら」
「じゃあ学校行ってないんだ」
「そうね、でも別にいいんじゃないかしら、もう16だし」
「でも大学とかあるし」
「ダイガク?何かしらそれ」
「基本的には18から行く学校だよ。頭が良い人は早く行くけど」
「それって行かなきゃいけないの?」
「そういう訳じゃないよ」
「ふーん」
異世界に行くって、どういう感じなのかな。
「あ、そうそう、坊やには言わないで欲しいんだけど、あたし、ホントはガルジャンじゃないのよね」
そう言うとプロメテウスは飲み物を一口飲んだが、そのふと訪れた沈黙に、思わず凉蘭と顔を見合わせる。
「・・・え?」
「半分はそうなんだけど、半分は違うのよ、うふっ。でもどうせ坊やは“そういうキャラ”としか思わないんでしょうけど」
そういうキャラ、じゃないキャラ、って訳でもなさそうだな。何か、ホントに普通の人と喋ってるみたいだし。
「そういえば、人じゃないって」
「ええ、あたし、精霊なのよ。それに本名はパルシカっていうの。プロメテウスはあくまでガルジャンでの名前よ」
「・・・どういう、事?だってガルジャンって人の思念なんじゃ」
「うふっ、世界っていうのはそんな単純なものじゃないのよ?世界はね、常に交わって、常に巡っているのよ」
んー、詩的で抽象的で、よく分からないけど。異世界か、行ってはみたいけど、普通に学校あるし、学校に行ってないなんて知れたらめんどくさいし。別に、この世界、嫌いじゃないし。
「聖」
そんな声にふと舞台の方へ顔を向けると、舞台からはミントとシンジがやって来て、2人の本当に仲間かのようなその距離感は、シンジから醸し出されるヒーロー感を隣を歩くミントからも感じさせた。
「良かったね、強くなれて」
「はい。でも何か、目の前で人が死ぬの見ちゃったら、普通に勝って良かったって感じじゃなくて」
「そっか。でもこれから人が傷付いたりする場面は沢山見なくちゃいけないよ?」
「そうですね」
だよな、これから、テロ鎮圧してい・・・あれ、僕達のゴールって、コクエンだったんじゃ。
「聖、オレ別の案件でしばらく北海道行くから、サポートが必要ならミントさんに頼んでよ」
「そうなんだ・・・分かった」
いや、究は回復役が欲しかっただけなんだろうけど、せっかく仲間になったし、これからは僕達がアマカゼ君に協力するって事でもいいかな。
「じゃあちょっと頼むよ」
「うん、行ってらっしゃい」
去っていくシンジから闘技場のモニターにふと目線を移すと究はカーバンクルと戯れていて、それから飲み物を持ってきたミントは僕の隣の椅子に腰を掛けた。
「あら、可愛らしいお嬢さんね」
するとプロメテウスがミントにそう声をかけ、その言葉から知り合いでない事が分かったが、それでもミントは巷じゃ先ずあり得ないような風貌のプロメテウスにも、照れるような優しい笑顔を浮かべてみせる。
「あ、あなたがアマカゼさんですか?」
「あたしはプロメテウスよ。アマカゼはあそこの坊や。あたしは坊やの連れよ」
「あ、ごめんなさい。私ミントっていいます。シンジから聖達に1人仲間が加わった事聞きました。私も聖達をサポートするので、何でも言って下さいね?」
「えぇ」
「それで、聖達はこれからどうするの?コクエンへのリベンジは終わったでしょ?」
「あ、はい。一応目的は達成しましたけど、せっかくアマカゼ君が仲間になってくれたので、とりあえずアマカゼ君を手伝おうかなと、良いよね?」
そう応えて凉蘭を見ると、凉蘭は一瞬闘技場のモニターを見た後に素早く頷いた。
「私もそう思ってた」
「そっか。じゃあ、アマカゼ君の目的って?」
「コクエンが居たテログループのリーダーで、アマカゼ君と同じ世界から来たオオモリユキトっていう人を捜してるんだって」
「へぇ、アマカゼ君も異世界から来たんだね」
「あのぉ、ミントさんは、何でこっちに来たんですか」
するとその一瞬、目を丸くした後の神妙な表情に、初めてミントに普通の人間っぽさを感じた。
「実はここに来たのは私1人じゃなくてね、双子の妹のライムと一緒に来たの。私達は兵士として働いてたんだけど、訓練中のある日、異世界から来た人間達に襲われて、操られて、知らない間に力を与えられちゃって、反乱軍として働かされちゃったの。その時たまたま、この世界からヒョウガっていう人間が私達の世界に来てて、私達を正気に戻す為に戦ってくれたの。それで正気には戻れたんだけど、やっぱり国に対して申し訳ない気持ちでいっぱいで、国を出ていこうとした時に、ヒョウガがこの世界に連れてきてくれたの。私達、それからこの世界で暮らしてるの」
・・・な、何だ、この現実感も、作り話感も無い、親近感ゼロの話。変に深くて、すごく遠い世界の本当の話みたい。
「ヒョウガ、ニュースでも結構見た事ありますよ。でも最近全然見ないですけど。死亡説まであるし」
「反乱軍はね、色んな異世界に散らばってるの。だからヒョウガは今も異世界を巡って、反乱軍を捜してくれてるんだよ」
異世界を巡って、すごいな。まぁあんなに強い能力者なら、1つの世界に留まらないのも当然なのかな。
「ねぇでも、ミントさん達は何も悪くないでしょ?」
しかし凉蘭のそんな言葉に、何故かミントは無邪気な子供の質問に優しく微笑むかのような穏やかさを見せる。
「私の国はね、サンゴクって言って、3つの種族が一緒に暮らしてる国なの。それで種族によって力の種類が違うんだけど、操られる時に与えられた力は、サンゴクの隣の国の力で、力が混ざってる事なんて気にしないってみんな言うけど、それでも何となく、居づらくて」
「そっか」
何だろ、単に居づらいってだけなら、何とかしてあげられないかな。
「聖」
あ、究戻ってきた。
「出来た?」
すごいよなぁ、力を4つも持ったら、究もゆくゆくはヒョウガくらい有名になれるんじゃないかな。
「ガルジャンそのものは出来なかった。けど基礎は出来てるから、後は練習あるのみってところだな」
「そっか」
鉱石を使わないで力を手に入れるんだもんな。そうそう簡単じゃないか。
「とりあえずさ、今日は帰ろうぜ?コクエンは倒せたし、次はセンゴク辺りを狙って、また調査から始めるって事で」
「そうだね」
もうちょうど夜の手前だしな。次は、センゴク、か。
「じゃあミントさん、また明日来ます」
「うん、また明日ね」
「はい。あれ、でも究、どうやって戻るの?ていうか、ここにはシールキーが無いと来れないんじゃ」
「頼んだらくれるよ?私も貰えたから」
「おおっ早く行こうぜ」
天風の関西弁はイントネーションが関西弁なので、そこは脳内再生をお願いします。
ありがとうございました




