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形なきスタートライン

「・・・くそ。くそおお!!」

コクエンの足元から、コンロの火力が上がるかのように吹き上がる黒炎。しかし直後にコクエンが放った黒炎の球は究が振り上げた炎の剣に斬り裂かれ、そして手を天に向かって伸ばした究が追い打ちの如く放った“周囲一帯の地面から天に向かって一気に放出する電撃”により、コクエンは轟く電撃音と共に浮き上がるように軽く吹き飛んだ。

おお、確か雷属性の戦闘魔晶の技ってカウンターとフィールド攻撃だよな。

それでもしぶとく立ち上がり、コクエンは怒りを具現させるかのように体に纏う黒炎を吹き荒れさせる。

「ガルジャン!もっとだ!」

ん・・・。

するとコクエンの頭上にやって来た怪鳥もコクエンと同様に体に纏う黒炎を吹き荒れさせ、その場には何か大技でも出すんじゃないかという緊迫感が張り詰めたが直後、怪鳥は一回り巨大化し、翼を2枚増やした。

「な、覚醒か」

「違うっつってんだろ・・・。この力は、覚醒なんかしない」

「え?」

「レベルなんて枷に縛られない、無限の力。思い知れ!」

無限の、力?・・・・・。

「グワァッ!」

そして直後、怪鳥は雄叫びと同時に黒炎を撒き散らし、内臓を殴る音楽ライブの爆音のようなその衝撃は一瞬地面が揺れたかと思わせるほどの迫力を見せつける。

来訪者?・・・レベルが、無い。まさか。

怪鳥が翼から迸らせた黒炎を一点に集めて黒炎の球を作り出したと同時に、究は手を振り上げて自身の目の前に氷の壁を作り上げる。そして黒炎の球は放たれ、球自体は氷の壁にぶつかり爆発するが、その爆風は氷の壁もろとも究を呑み込んだ。

究!・・・。

「まさか。その力って、異世界の力?」

すると素早く振り向いてきたコクエンは、まるでそれが答えかのように微笑んでみせた。

「何だ、知ってんのか。あぁそうだ。これは次元を越えた違う世界の力。その世界じゃ超能力が当たり前で、ガルジャンは自分の力を具現化させて戦わせる魔法。まぁ普通に召喚魔法だ。因みにガルジャンは守護者って意味らしい」

「くぅ・・・異世界、だと?」

そんな、せっかく覚醒したのに究があれじゃ、もう勝ち目は無い・・・。

究が膝を落とした瞬間、鎧でも脱げ落ちるかのように戦闘魔晶たちも究の体から離れ、究は全くの丸腰となってしまう。

うわ、マズイ、これはほんとにマズイ。

「聖、後は、頼む」

思わず生唾を飲んでしまったその時、戦闘魔晶たちが僕の下へとやって来て、究と同じように体にくっついてきた。

へ?・・・うおっ。

その瞬間、左手には冷気が纏い、右手には炎の剣が灯され、全身からは電気が迸った。

「まじすか。他の人も装着出来んの」

「へへっ」

元気なく究が笑った傍らで、コクエンはその微笑みに余裕と敵意を重ねる。

あ、体軽い。ダウンロード終わってた。

更にワシゴリラを発動させ、戦闘魔晶たちの力を纏ったその中で黒炎も纏っていく。

いける、これなら。

「行けガルジャン!」

・・・ん。

しかし沈黙が流れ、コクエンが怪鳥を見上げても、怪鳥はその場から動こうとはしない。

「グー・・・グー・・・フー」

何だ、どうした。鼻息が、荒い?



あれじゃ、ダメだ・・・・・。

「おい!何してんだよ!」

「グー・・・グゥーッ」

「命令してんだろうが!」

「グァアーッ!!」

正に主人に反旗を翻すが如く、鬱憤が弾けたような雄叫びを上げた直後、鳥型ガルジャンはその大きな足と鋭い爪でもって思いっきりコクエンにのしかかった。

ああ・・・。

コクエンを倒しに来たという3人組がそんな状況に呆気に取られている中、とっさにカードホルダーから「ガルジャンカード」を1枚取り出す。動かなくなったコクエンの上で、それから鳥型ガルジャンは3人組の内の変身する男性へとその狂気を向ける。

「あいつ、解放してやってよ」

しかし「炎の女神プロメテウス」は俺の呼び掛けに、この状況が分かってて渋るような表情を見せる。

「こんな時くらい頼むよ」

「頼むよですって?」

「・・・お、お願いします」

「しょうがないわね」

するとガルジャンカードは勝手に宙に浮き、静かに回って俺に裏を見せた。そして俺から少し離れた直後、タロットカードほどの大きさのそのガルジャンカードは一瞬の光に包まれ、“原寸大”のプロメテウスとなった。原寸大ではあるが宙に浮き、気配を消し、プロメテウスは今正に変身する男性に向かって黒炎の球を撃ち放った鳥型ガルジャンの背後に忍び寄る。

「主人を失った哀れな守護者よ」

黒炎の球の爆発に男性が呑み込まれる中、途端に振り返って鳥型ガルジャンはプロメテウスに向かって雄叫びを聞かせるが、そんな狂気には全く動じず素早くとも静かに、プロメテウスは鳥型ガルジャンに手をかざした。

「還りなさい」

「グワ・・・・・」

まるで金縛りにでも遭ったかのように、変な体勢で動かなくなったその瞬間、鳥型ガルジャンは自らの体の中から洩れ出すような淡い光に覆われていき、最後には光と共に跡形もなく霧散していった。

ふう、まったく、こんな時やないと言うこと聞いてくれないんやから。

「す、すげえ。ショウ、大丈夫か?」

3体のクリスタルを操る方の男性にふと目を向け、返事をしながら起き上がる、変身する男性へと目を移す。

仕方ない。借りは返すか。

「カーバンクル、2人に回復」



ふう、何とか耐えたけど、かなりの一撃だった。あの“女の人”が助けてくれなかったら、ほんとにヤバかった。

変身を解きながら、俯せで動かないコクエンに目を留めたその時、突如“ルビーのように綺麗な一本角を額から生やした、見るからにフッサフサな尻尾を持つ、キツネの骨格をしたドラゴンっぽい黄金の動物”がやって来て、究と僕に向かってものすごく微かに虹色な光を吹き掛けてきた。

ぬおぉ・・・な、何だこれ、怠さが一気に抜けていく。

「シンジ君」

あ・・・。

シンジが振り返ったその向こうからは北村と知らない女性がやって来て、シンジが北村達と共にコクエンの下に歩み寄り、その首筋に触るという刑事ドラマでよく見る雰囲気に、すぐさまとある思いが頭を過った。

「死んでますね」

まじか・・・。

「自分で召喚したモンスターにやられたんだから、事故って事で処理してくれない?」

「そう、ですね。モンスターも居なくなった様なので、ここはシンジ君に免じてそのように処理しますかね」

「うん、どうも」

すごいな。ヒーローだから、刑事さんにもタメ口なんだ。

「鑑識お願い」

「はい」

女性刑事がスマホを取り出すと同時に、立ち上がった北村は僕達に顔を向け、そして黄金の動物と男性、どこかのゲームからそのまま出てきたかのような“露出のある精霊系ファッションの艶やかな超絶美女”へと目を移していく。

「コクエンと戦ってたのは、聖君達と、君達かな?」



「あ、はい」

刑事ともシンジさんとも知り合いなら、あの人達もヒーローやってんのか。

男性刑事が歩み寄ってくると同時に「カーバンクル」が胸に飛び込んできたので、抱き抱えて背中を撫でる。

「特テロの北村です。君は、テロ鎮圧の為にコクエンに接触したの?」

「それもありますけど、大守(オオモリ)幸与(ユキト)の事聞こうと思って」

「じゃあ君も、その、復讐というかリベンジする為に?」

「いや、俺自身はあいつに恨みは無いです。あいつとは高校が同じで、有名な不良やから、こっちでも何かロクでもない事するんやないかって思って」

「そうなんだ」

「あの、刑事さん、シキさんとも顔見知りなんですか?」

するとそれが答えだと言わんばかりに、北村は知ってる名前を聞いて綻ぶような微笑みを浮かべる。

「そうだよ、シキ君は東京にもよく来てるからね。じゃあ君は、関西でテロ鎮圧活動をしてるんだね」

「そういう訳でもないです。ここにも、あいつを追い掛けてきただけやし、あいつ以外のテロは、別に興味は。シキさんにはただお世話になってるってだけやから」

「そっか」

「なあ、回復してくれたよな?助かったよ」

3体のクリスタルを操る男性が声をかけてくると、変身する男性も、後方支援の女性も俺の下へと歩み寄って来る。

「ええよ、加勢してくれなかったら俺もヤバかったし」

でも残念やな。オレを倒せたらあいつの居場所教えてやるって言ってたのに。ま、仕方ないか。未熟な奴がガルジャン使ったら、ああなるのは当たり前やし。

「チームで活動してるの?」

「いや、1人で来たけど」

「1人でテロリストに挑むの?無謀だろ、ここで会ったのもアレだしさ。協力しないか?」

アレって何やねん。

「いやぁ」

そりゃあ無謀は無謀やけど。テロ鎮圧活動したい訳じゃ・・・。

「ちょうど回復役も欲しいしさ」

「良いわよ?面白そう」

え?

口を開いたプロメテウスに、シンジや北村達、3人も一斉に顔を向けていく。

「ちょ、勝手に」

「何よ、坊やあたしに逆らえるの?」

くっ・・・。

「逆らえ、ません」

「そうよね?あたしは協力するって決めたんだからね?」

「分かったよ・・・。まぁ回復役って事でなら」

「おほ、俺、キュウってんだ。こっちはショウ、こっちはスズラン」

「俺は、四宮(しのみや)天風(あまかぜ)

まいっか、相手も複数やし。

「すごい名前だな」

「あら?あたしにはお礼言ってくれないのかしら」

「あ、いや、あ、ありがとうございました」

プロメテウスが目を瞑って頷くそんな時、突如カーバンクルは光と化し、ガルジャンカードへと“戻った”。

おっと、気が済んだのかな。

その瞬間、当然の如く、3人は動物がカードに変身する事に驚くという慣れきったリアクションを見せる。

「え、その、カードは?」

「これが俺の力。ガルジャンカード」



そう言うとアマカゼはそのガルジャンカードとやらを見せてきて、手に取ってみるとタロットカードほどの大きさのそれは先程の黄金の動物が描かれ、カーバンクルという名前が記載された、正にトレーディングカードゲームのカードのようだった。

「ガルジャン、って、異世界の力・・・」

「うん。俺は異世界から来た」

「へ?」

その時ふと気が留まったのは、当然の如く呆気に取られる究ではなく、全く驚きもしないシンジの無表情さだった。

異世界から来たのにイントネーションがそのまんま関西弁って、まるで大阪そのものが異世界みたい。

「ん、じゃあ、オオモリユキトも?」

シンジの問いに、アマカゼは相手が話を理解しているのを分かっているかのように、普通に頷く。

「でもコクエンとか、他の奴らは知らない。俺が知らないだけかも知れないけど。でもコクエンは明らかに違う、ガルジャンを暴走させるなんてアホやらかすの、普通はあり得ないし」

「な、なぁ、異世界って、ど、どういう、感じなんだ?」

「どういうて、俺にとったらここが異世界やし。まぁ、案外普通って感じかな。言葉も同じ、国の名前も日本やし、方言もあって、でもこっちの日本は長細くないよ。島国は同じやけど、北海道を基点に矢印みたいに三ツ又に割れてる」

「へ、へー」

リアクション薄っ・・・。

「何でこっちに来たの?」

誰もが思い付くその質問を、特に浮き足立ってる訳でもない口調で凉蘭が投げ掛けると、アマカゼは何やら表情を曇らせた。

「まぁ、何となく、かな。俺、親が居なくてさ、児童養護施設を兼務してるお寺で育ったんだ。だからあっちの世界に未練なんか無いし、違う世界で暮らしてみたいなぁって思ってオーナーに適当に探して貰ったんだよ」

「・・・ん?・・・・・オーナーって、何の?」

「え、ああ異世界に驚くんじゃ知らないか。俺の世界でも、普通に組織があって、能力者が居て、鉱石があって、能力者戦争が起こってる」

「シンジ君、皆さんも、鑑識が入るので離れて下さい」

北村の呼び掛けにふと我に返ったような気になりながら、シールキーの扉を作った公衆トイレまで戻ったが、途端に空気は舞い戻り、まるで囲み取材かのように視線がアマカゼに集まっていく。

「とりあえず戻るぞ?立ち話よりホールの方がいい」

・・・ですよね。

そう言い放ったシンジの先導でそして扉を抜けると、そのホールの景色がようやく“終わった感”を感じさせ、同時に焼き付いていたはずの動かなくなったコクエンの姿と呼び掛けてきた北村の表情がふと甦った。

「ねぇプロメテウス、戻らないの?」

「いつ戻るかなんてあたしの勝手よ」

ふう、案外、目の前で人が死ぬのって、実感無いんだなぁ。

「その人も、カードなんだよな?」

「あたしはプロメテウス。それに人じゃないわよ」

「あ、はい。俺は、究です」

これから、ドラマみたいに規制線敷かれて、鑑識が写真撮って・・・。まさか、死ぬなんて。これが現実か。ゲームみたいな達成感なんて、ありゃしない。

エネルゲイア×ディビエイトでは主人公たちが異世界へ行くというストーリーですが、レッドライトニングでは“異世界から来る”がポイントになってます。


ありがとうございました

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