これはひと波乱ありそうな匂いがし始めましたよ!
「トウジョーって意外と勉強熱心なんだな」
「どうして?」
あたしは基礎魔導方程式というタイトルの本を片手に、フューリーの言葉に対し疑問で返す。
日は沈み始め、徐々に夕焼け色に空が染まっていく中、あたし達は列車の席を向かい合うように座っていた。
ルヴィとキリュウ先輩が今回の実地演習の情報を確認している中、持ってきた菓子パンを片手にフューリーはあたしに感心する。
「だってお前、すっげー魔導方程式解けるってのにわざわざ基礎の教本を読んでいるからよ」
「あー、まあ、基礎は大事って先輩からも言われているし」
「そうか、確かに基礎は大事だよな」
本当は基礎を知らずに応用から入った口ですなんて、言えるはずがないよねー。
「……そろそろ到着する。荷物を片付け、支度を済ませておくように」
キリュウ先輩はささっと荷物をしまっていつでも動けるように準備を整えている。
「ルヴィ、そこにおいているリュックとってくれない?」
「これですね、はい」
「それそれ、サンキュー」
「? それはどこの国の言葉ですか?」
「えっ?」
あっ、日本語は通じるけど英語はアウトなのか。それにしても“オッケー”は通じるのにこっちは通じない……ていうか、そもそも魔導方程式の言語は英語に近いんだけどにゃー。
言語基準がいまいち分からない。
「なんでもないよ、あたしがいた地方でのありがとうって意味の言葉だから」
「なるほど……面白いですね……さ、さんきゅー……これでいいですか?」
照れながらもそういうルヴィだったけど、良家のお嬢様がこう言うのはすごくいいと思います!
「っ!? う、うん! それ可愛いし超いいと思う!」
「あ、ありがとうございます! じゃなかった、さんきゅーです!」
うんうん、いいことだにゃー。
「そろそろ降りるってよ」
「あっ、忘れてた! ルヴィ、降りよう」
「はい!」
汽車から降りて一歩踏み出すと、石畳で整地された中世の街並みが広がっていた。
「ここが、シュラスタ……」
「人口約二万人という比較的規模の大きな街になる」
「ちなみに、七陽学院周辺はどれくらいになるんですか?」
「ざっと十万は下らないだろう」
キリュウ先輩から街の規模を聞きだすと共に、あたしは周りを見渡す。
それなりに街は賑わっているようで、出店から商人の元気な掛け声などがちらほらと聞こえてきたりと、街の喧騒を目にしたり耳にすることができる。
「ここからまっすぐと大通りを通っていけば、軍のシュラスタ支部につくだろう。まず先にそちらへと向かうとしよう」
「了解しましたー!」
あたし達は街の風景に目を奪われながらも、先を行くキリュウ先輩の後を追って行く。
「……ふーん、この世界ってこんなふうになっているんだ」
あたしは小声で感想を呟きながら、眼鏡を布で拭いてかけなおす。街ゆく人々の表情に曇りなどなく、陽気な雰囲気が街を包んでいる。
「……そういえばフューリーの村ってどこにあるの?」
「俺の村か……ここからさらに東にある。さっき乗った汽車を降りずに行けば、村の少し前で止まる」
「へぇー……てことは、フューリーはこの街を知っているの?」
「ああ、まあ……一回だけ、そこらにいる商人に混じって商売していたことがある」
「ふーん……」
じゃあ、あんまりこの街のことは知らないのかにゃー?
「ルヴィは何か知っていることはない?」
「私は、もともとどちらかというと北の方出身ですので……よく分からないです」
「そっか、ちなみに北の方と何か違ったりする?」
「そうですね……私がもともと住んでいたところは今の時期でも寒いので厚着をしなければならないのですけど、ここは暖かいですね」
うーん、北の方でも結構遠くの方なんだろうか。それとも、近くに山があったりとかで気候の問題で寒いのだろうか。
「……無駄口はそこまでにしておくように。そろそろ軍部につく」
キリュウ先輩がそういった後、あたしの視線の先には大きな建物が見え始める。
「……基地みたい」
「軍事基地だ。もうすぐ――」
「どいたどいた! そこの四人! 邪魔だからどけ! ひき殺されたいか!」
スピーカーの割れた音声が後ろから響き、あたしたち一同は後ろを振り向く。
するとそこには軍のトラックが街のど真ん中を走っており、辺りの住民はそれから逃げるようにして道の両端へと散っていく。
「……あれが軍?」
「……随分と傲慢な支部のようだな」
キリュウ先輩ですら悪態をついたが、相手は軍のトラックであるからか素直に道を開けてその横暴な姿を見送る。
「……キリュウ先輩、軍ってあんな感じなんですか?」
「少なくとも、今まで関わってきたなかで一番横暴と言えるだろうな」




