第13話 受験生からの依頼その七 うるさい
今回の依頼はシンプルなものだった。
『私語がうるさいのでなんとかして』というものだ。
おたぬき様が大きく頷く。
「よし、わかった。クラス担任に私から話を付けておこう」
依頼書が解決済みボックスの中に仕舞われる。
今日の議題は終わった。
「いやいやいや」
静夜は迷ったが、苦言を呈することにする。
「なんだ、静夜?」
「確かにとてもいい対応だとは思うが、神様だからこそできる何かもあるんじゃないか?」
「というとなんだ?」
「……いや、それは思い浮かばないが。何かあるだろ」
静夜が視線を周りに向けると、真穂さんと目が合う。彼女はにこにこ笑みを浮かべたまま何も言おうとしない。特に思い浮かばないらしい。
ならばと、こすずちゃんに視線を向ける。彼女は携帯ゲームに熱中していた。最初から聞いていなかったらしい。
静夜が困っていると、おたぬき様がゆっくりと口を開いた。
「だが、静夜の言うとおりかもしれん。何か考えようではないか」
「おお、その意気だ」
「私の妖術を使い、私語をした生徒を死なせるとかはどうだろうか」
「おまえは生徒を死なせる案しか思いつかないのか」
「インパクト重視だ」
「もっと穏便にいけ」
「そうですよ。身体に危害を与えるより、精神面を攻めましょう」
こすずちゃんがゲームをしながらそんなことを言ってくるが、聞かなかったことにする。
ごほん、と静夜はせき払いをする。
「ともかくあれだ、罰を与える方式以外でいこう」
「ふむ。ならば逆に、私語をしない者たちに報償を与えてはどうだろうか」
「おお、いいじゃないか。ただその報償をどうするかが問題だな」
「私の妖術で死なない権利とかはどうだろうか」
「死なせる前提か」
「うーむ。ならば参考にしたいんだが、静夜はいま何か欲しいものはあるか?」
「俺か? そうだなぁ」
「静夜さん、苦痛とかいりませんか?」
何かこすずちゃんが言ってきたが、聞こえない。
「俺はそうだな、自転車が欲しい。ここまでいつも歩いてきてるんだが、結構時間かかるんだよな」
「ならば私のようにここに住めばいいものを。住めば都だぞ?」
「都が予備校か。なんて夢のない」
「たわけ、予備校は夢をかなえるための場所だ」
おたぬき様が扇子で静夜の手をぺちっとはたいてくる。その音を聞きこすずちゃんが何か嬉しそうな表情を浮かべていたが、見なかったことにする。
「あのー」
おそるおそるといった感じで真穂さんが発言してくる。
「なんだ、真穂?」
「ひょっとしてなんだけど、わたしたちがこうやって話しているのがうるさい、なんてことはないのかなーと」
「それはない!」
おたぬき様が断言する。
「なんでそう言えるんだ?」
「ちゃんとそのあたりは考えてある。私が妖術を使った気になり、設備的に防音はだいたい万全だ。ここではいくらでも騒いでくれ!」
「じゃあ、パーティーしましょう!」
ぱっと真穂さんは笑みを浮かべる。彼女はすぐに下の方でごそごそしたかと思うと、大きな鍋を取り出してきた。
「いいですね、鍋パーティー。具材なら買ってきますよ」
こすずちゃんがゲームを置いて勢いよく立ち上がる。
「わたしも行くわー」
それから真穂さんと相談したかと思うと、二人は買い出しのため外へ出て行った。
取り残されたおたぬき様が、今回の依頼書を解決済みボックスに仕舞い、静夜に声をかけてくる。
「のう、静夜」
「なんだ?」
「私は、真穂やこすずのことがひどく心配だ」
「まあ、気持ちは分かる」
「あやつらは、ちゃんと締めのうどんを買ってきてくれるんだろうか」
「……俺が買ってくればいいんだろ」
静夜がそう答えると、おたぬき様はとても嬉しそうに頷いた。




