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第12話 音痴なカラオケ

「今度、みんなでカラオケに行かないー?」


 ある日の夕暮れ時、唐突に真穂さんが提案してきた。とたんにこすずちゃんが不機嫌そうな顔になる。

「カラオケは苦手です。以前友だちと行ったら、あたしの歌は不愉快だと言われました」

「そんなことを言ってくる人を友だちなんて思わなくていいわよー」

 真穂さんがにこにこしながらそんなことを言ってくる。


 と、おたぬき様がぐいっと静夜を引き寄せてきた。

「なんだ?」

「のう、カラオケとはなんぞや?」

「なんだ、知らないのか?」

「いや、本当は知っておるが、あえて知らない振りをして世間知らずをアピールし、神様らしい威厳を出そうと思ったんだが」

「正直者か」


 真穂さんが下の方で何かごそごそしたかと思うと、何枚かの券らしきものを取り出して机の上に並べた。


「実はカラオケのクーポン券をもらったのよー。それでみんなで行きたいなと思って」

「あたしは行きませんから」

 ぷいっとこすずちゃんがそっぽを向く。

「わたしたちは、不愉快だなんて絶対に思わないから」

「たとえそうであっても、下手な歌を歌う自分が嫌なんです」

「歌に上手いも下手もないわよー。大丈夫だから」

 真穂さんが諭すように言うと、しばらく間を置いてからこすずちゃんがぽつりと言葉を漏らした。

「音痴なんですよ、あたし」

「安心してー、わたしも音痴だから」

「え、そうなんですか?」

「はいー」

「私も音痴だぞ!」

 おたぬき様が元気に声を出す。こすずちゃんの顔がぱっと明るくなった。

「おたぬき様もですか!」

「ああ! 安心するがいい!」

「じゃあ、静夜さんも実は!」

 期待を込めたまなざしを静夜ちゃんが向けてくる。静夜は空気を読み、ゆっくりとうなずきを返した。

 こすずちゃんが一段と嬉しそうな表情になる。

「みんな音痴なら、何も気兼ねする必要ないですね! ぜひ行きましょう!」

「いっそ今から行かない?」

「いいですね!」



          ◇  ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 というわけで四人して近くのカラオケ屋にやってきた。


 こすずちゃんは楽しそうにリラックスした様子だったが、一方で静夜は緊張していた。空気を読んで音痴だと言ってしまったが、実際はそんなことはない。だが言ってしまった手前、どうすればいいのか。


 さっそくおたぬき様が曲を入れ、すぐさま歌い出す。

 彼女の歌声を聞き、静夜は目を丸くさせる。

 どこが音痴なのかと。それどころか抜群に上手かった。声域も広く、ビブラートも完璧だ。


 続けて真穂さんとこすずちゃんがデュエット曲を入れ、二人して楽しそうに歌い出す。

 ――二人とも、驚くほどの美声だった。音程も完璧だ。

 不愉快だと言われたのは、きっと上手すぎるせいで嫉妬されたのだろうと静夜の中で合点がいく。


「次は静夜さんの番ですよ!」


 こすずちゃんが明るい笑顔でマイクを手渡しくる。受け取りながら、静夜は心の中で動揺を隠せなかった。

 この流れだと、自分も完璧に歌うべきだろうことは静夜も分かっていたが、そんな自信はみじんもなかった。

 だが真穂さんが言っていたように、歌に上手も下手もないというのなら。

 静夜は曲を入力する。

 やがてイントロが流れ出す。

 ゆっくりと一つ息を吐いてから、気合いを入れて歌い出す。

 出だしから音を間違えた。


「静夜さん、音痴ですね!」


 と言われるのを覚悟した。

 だが実際は違った。静夜がそれから何度音を間違えようが、みんなは何も言わずに、ノリノリで聞き入ってくれていた。


 歌い終わると、三人から拍手が飛んでくる。

 静夜は静かに頭を下げた。

 席に戻り、隣の真穂さんに話しかける。

「やっぱり俺、音痴みたいだ」

「そうね」

 真穂さんが笑顔で同意してくる。彼女たちの言う意味での音痴なのか、それとも実際に音痴なのかは、静夜は深く追及しないことにした。


 それからもカラオケは大いに盛り上がった。

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