第6話
もうおしまいだと覚悟を決めた瞬間、
「伏せて!」
突然声が響いた。
その言葉に従い慌てて身を屈める。
直後、眩い光が頭上を通り過ぎた。
「ぐあっ!」
光をまともに受けたエリオットの身体は吹き飛び、床を転がっていく。
いったい何が起きたのかと振り返った私は、廊下の向こうに立つ人物を見て目を見開いた。
白い神官服に銀色の髪。穏やかな緑の瞳。
「セシル!」
思わず名を呼んだ。
「大丈夫? 怪我はない?」
彼は心配そうに私を見ながら近づいて来た。
神官セシル。
四人いる攻略対象の最後の一人で、神殿から学院へ派遣されている高位神官だ。
エステルに神聖力があると発覚した直後、神殿で詳しく検査を受けている。
二人はそこで知り合っていた。
「セシル!」
今度こそ、私は攻略対象の胸に飛び込んだ。
「えっ!?」
セシルは驚きながらも私を受け止めてくれた。
「生きてる!」
「う、うん……?」
「噛まれてない!?」
「噛まれてないよ」
「感染してない!?」
「してないと思うけど……」
「最高!」
「いったい何があったの……?」
困惑するセシルに、私はここまでに起きたことを一気に説明した。
アルベルトが花壇で猫を食べていたこと。学院中で生徒たちがゾンビ化していること。
クラウスが感染し、私を逃がすために残ったこと。
そして、原因らしきものを研究していたエリオットまでゾンビになったこと。
ついでに、この世界そのものが別のゲームと混ざっているらしいことも話した。
「別の……ゲーム?」
「そこは今は気にしないで!」
「……分かった」
分かってはいないだろうけれど、セシルはそれ以上追及しなかった。
やっぱり優しい。
ゲームでもそうだった。
しかも、セシルの神聖力は主人公の比ではない。
私にできるのは傷を癒す程度だけれど、高位神官である彼は浄化術や結界まで扱える。
たった今も、その力だけでゾンビ化したエリオットを吹き飛ばしてみせた。
「助かった……」
今度こそ、本気でそう思った。
神官。
治癒に浄化。
おまけにゾンビを近づけない結界まで使える。
こんなのもう、ゾンビだらけの世界では最強職ではないだろうか。
(決めた)
私はセシルを見上げた。
「私、セシル攻略する」
「え?」
「何でもない」
乙女ゲームを遊んでいた頃は、正直なところ一番地味なルートだと思っていた。
まさか転生してから、神官というだけでこれほど頼もしく見える日が来るとは。
「ここにいると、さっきの人がまた追ってくる。出口へ行こう」
「うん!」
セシルと一緒なら大丈夫。
今度こそ、この学院から逃げられる。
――この時の私は、本気でそう思っていた。




